アルファベットの歴史
今月号の雑誌「Newton」では、「アルファベット 4000年のルーツ」という特集が組まれていました。
ヨーロッパのアルファベットについて考えると、イギリス 26字、フィンランド 29字、ドイツ 30字、スペイン 33字、フランス 40字ですが、A~Zの 26字は共通していることがわかります。この 26字はローマ字ないしラテン文字と呼ばれ、ローマ帝国を築いたラテン人の言語です。
ラテン文字より古く、ラテン文字に良く似た文字が知られており、これがラテン文字のルーツと考えられています。それはローマ帝国誕生の 500年以上前、紀元前 8~6世紀にイタリア半島北部を治めていたエルトリア民族の文字です。エルトリア以前の文字は、左から右に読んだり、右から左に読んだり、鏡に見たように反転していたり、表記についてもおもしろい特徴が見られます。
エルトリア文字より古いのが紀元前 8~5世紀のギリシアの文字です。ギリシアの文字から直接ラテン文字が作られた説もありますが、例えば「C」「F」はギリシア文字にはなく、エルトリア文字がラテン語に対して重要な役割を与えたことは明白です。
ギリシア文字について、ヘロドトスは、フェニキア文字がギリシア文字のルーツであるとしています。フェニキア人は紀元前8世紀頃、地中海を中心に活躍していた商人です。フェニキア文字 22字とギリシア文字 24字を抜き出して比較すると、音が似ているものは形もほぼ対応していることがわかります。
さて、本書では、フェニキア文字以前の文字を探します。フェニキアと交流があった地域の文字を検討しています。
それは紀元前 16世紀頃のシナイ半島のシナイ文字です。シナイ半島はパレスチナ地方とエジプトの間に位置します。フェニキア文字と原シナイ文字には共通しているともとれる記号がいくつもあります。
原シナイ文字のルーツは、エジプト南部で発見されたワディ・エル・ホル碑文にみることができます。碑文は紀元前 20世紀くらいのものと考えられていますが、ダーネル教授によれば、記されているのは最古のアルファベットです。
比較すると興味深いことに、ワディ・エル・ホル碑文の文字から、古代エジプトのヒエログリフの特徴が見て取れます。文字を並べてみると、ほとんど同一にみえるくらいのものが多くあります。古代エジプトには、ヒエラティック、デモティックという文字もありましたが、それぞれヒエログリフを崩した文字で、ヒエラティックは行書体、デモティックは草書体に相当するそうです。古代エジプト文字の最も古いものは、紀元前 32世紀まで遡るそうです。
ヒエログリフをどのように判読するかは長い間謎でしたが、それを解く鍵は「ロゼッタ・ストーン」にありました。ロゼッタ・ストーンには、ヒエログリフ、デモティック、ギリシア文字の3種類の文字が書かれていました。物理学者として有名なヤングや、言語学者シャンポリオンが解読に乗り出しました。
解読方法としては、固有名詞を解読し、それを応用するものです。最初に検討された固有名詞が、「プトレマイオス」で、ほかに「クレオパトラ」という固有名詞が同定されました。さらに、古代エジプト語に近いコプト語の特徴を合わせ、シャンポリオンが解読に成功しました。
ヒエログリフには、絵文字と表語文字の両方の要素が含まれています。本書にはヒエログリフでのアルファベット表も掲載されていて、それを使えば自分の名前をヒエログリフで書くことが可能です。
更に本書では、「ヒエログリフ→ワディ・エル・ホル碑文の文字→原シナイ文字→フェニキア文字→ギリシア文字→ラテン文字」のそれぞれのアルファベットを対応させた表があり、眺めているだけでワクワクしてきます。それを見ていると、ヒエログリフではアルファベットの文字それぞれが絵になっていて、更に表音文字や表語文字など、複雑に混在しているのですが、それを元にワディ・エル・ホル碑文にあるような純粋なアルファベットが作られ、徐々に形が変わって現在のアルファベットになっていることがわかります。感動しますので、是非本書を手にとって眺めてみて頂きたいと思います。
エピローグですが、1900年以降、クレタ島から「線文字A」「線文字B」「ファイストスの円盤文字」が発見されたそうですが、2種類は解読されておらず、線文字Bのみ解読されています。線文字Bを解読したエヴァンズ (1922-1956) は中学生であった 1936年に解読を始め、1952年に解読に成功しています。こうした文字の解読には、ロマンがあると感じます。
字が汚い私にとって、以前書いたメモが読めないことがあるのが悩みで、誰か解読してくれないかなと思います。ロクな内容が書いてはないのですが。