Foot drop

By , 2008年12月11日 5:43 AM

Foot dropは神経内科では時々みかけます。日本語では「下垂足」と言いますが、言いにくいので「垂れ足」と呼ぶことが多いです。Polyneuropathyの一症状としてみられることもあれば、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の症状としてみられることもあります。しかし、まとまって記載した教科書はあまりないように思います。今回、非常によく纏まった論文があったので紹介します。論文は「Stewart JD. Foot drop: where, why and what to do. Pract Neurol. 8: 158-169, 2008」です。イギリス英語なので少し読みにくいところがありますが、平易に書かれています。

まずはAbstractを示しておきます。

Pract Neurol. 2008 Jun;8(3):158-69. Foot drop: where, why and what to do?

Stewart JD.
Lions Gate Hospital, North Vancouver, British Columbia, Canada. john.stewart@telus.net

Foot drop is a common and distressing problem that can lead to falls and injury. Although the most frequent cause is a (common) peroneal neuropathy at the neck of the fibula, other causes include anterior horn cell disease, lumbar plexopathies, L5 radiculopathy and partial sciatic neuropathy. And even when the nerve lesion is clearly at the fibular neck there are a variety of causes that may not be immediately obvious; habitual leg crossing may well be the most frequent cause and most patients improve when they stop this habit. A meticulous neurological evaluation goes a long way to ascertain the site of the lesion. Nerve conduction and electromyographic studies are useful adjuncts in localising the site of injury, establishing the degree of damage and predicting the degree of recovery. Imaging is important in establishing the cause of foot drop be it at the level of the spine, along the course of the sciatic nerve or in the popliteal fossa; ultrasonography, CT and MR imaging are all useful. For patients with a severe foot drop of any cause, an ankle foot orthosis is a helpful device that enables them to walk better and more safely.
PMID: 18502948 [PubMed – indexed for MEDLINE]

それでは、早速論文の紹介です。

☆解剖
前脛骨筋 (Tibialis anterior) は、足を背屈させるのに中心的役割を示す筋肉で、腓骨神経 (peroneal nerve) の支配を受けています。それは下部脊髄の前角細胞に由来します。これらの軸索は、L4とL5の神経根を通り、それらが合わさって、腰髄神経叢と仙髄神経叢をつなぐ腰仙骨神経幹 (lumbosacral trunk) を形成します。これらの神経線維は、丁度膝の上で分枝するときに腓骨神経 (peroneal nerve) となる、坐骨神経 (sciatic nerve) の外側神経幹 (lateral trunk) に入ります。外側神経幹は、大腿のところで、大腿二頭筋短頭に向かう神経を一回分枝します。他の膝屈筋群 (hamstring muscle) は全て坐骨神経の内側神経幹 (medial trunk) から神経支配され、この神経幹が脛骨神経 (tibial nerve) となります。

腓骨神経は、膝窩 (popliteal fossa) を通り、腓骨頭と腓骨頚周辺に巻き付くように走向します。6cmくらいの間は、その骨膜に密着しており、そのほとんどの部分は皮膚と皮下組織に覆われているにすぎません。

それから、長腓骨筋 (peroneus longus) を貫いて、下肢の前区画 (anterior compartment) に達します。そこでは、筋線維が神経の上に腱弓を形成しており、腓骨管 (fibular tunnel: ※適当な訳語がなかったので直訳しました) と呼ばれます。腓骨神経は、前脛骨筋、足指伸筋群、(腓骨) 外転筋を支配します。また、膝と踵の中間くらいの下腿の前外側と、足とつま先の背側のほとんどの皮膚も支配しています。

これらの解剖学的特徴を踏まえて、前角細胞、L4ないしL5神経根、腰仙髄神経叢、坐骨神経、そして腓骨神経といった病変部位を含む、foot dropの鑑別診断を行います。実際は、多くの場合原因は明らかです。患者が転落して膝の外側を打撲しただとか、急に腰痛がするだとか、典型的な腰部神経根症状があるなどです。しかし、原因がはっきりしない患者もいます。

☆腓骨神経障害

Causes of peroneal neuropathy
External compression
 During anaesthesia, coma, sleep, bed rest
 Plaster casts, braces
 Habitual leg crossing
 Sitting cross-legged
 Prolonged squatting, kneeling
Direct trauma
 Blunt injuries, lacerations
 Fractures of the fibula
 Adduction injuries and dislocations of the knee
 Surgery and arthroscopy
Traction injuries
 Acute ankle injuries
Masses
 Ganglia, Baker’s cyst, callus, fibular tumors, osteomas, haematomas
Tumors
 Nerve sheath tumors
 Nerve sheath ganglia
 Lipomas
Entrapment
 In the fibular tunnel
 Anterior (tibial) compartment syndrome
Vascular
 Vasculitis, local vascular disease
Diabetes mellitus: susceptibility to compression, ischaemic damage
Leprosy
Idiopathic

・急性外傷はしばしばfoot dropの原因となり、直接打撃、裂傷、重度の内転損傷、膝の脱臼、腓骨頭ないし腓骨頚骨折、射創を含みます。総腓骨神経は膝の手術中にも障害されることがあります。特殊なタイプでは、急激な足底の屈曲 (flexon) と内反 (inversion) による足関節部での損傷があり、通常は重度の捻挫か、脛骨と腓骨遠位部の骨折です。普通は即座にfoot dropを生じますが、数日して起こるかもしれません。急激な足関節の内反は、神経鞘が入る神経脈管 (vasa nervorum) を断裂させ、膝窩部で腓骨神経を牽引するのに十分な力となるようです。

・外部からの圧迫はおそらく最も一般的な腓骨神経障害の原因であり、いくつかの原因で起こります。腓骨神経障害の症状はしばしば普通の夜の睡眠から起きたときに最初に気付かれ、おそらく神経を圧迫するような姿勢で寝ていたからなのでしょう。長時間の飛行機、電車、車の旅行の間、旅行者は神経が圧迫されるような姿勢で寝たり座ったりするかもしれません。寝たきりの患者は、しばしば神経障害をおこします。おそらく体重減少や、病院の固いマットレス、ベッド柵などの複合的な要因によるものでしょう。昏睡状態の患者も、神経の圧迫を受けるような方法で寝かされていることがあります。石膏のギブスも不幸にも腓骨神経障害の一般的な原因の一つです。上縁が固い、膝から下のギプスは、腓骨神経が腓骨頚を横切るところで神経を圧迫し、膝上部のギプスでもそうです。膝下までの下肢装具や膝周囲にきつく巻かれた包帯も、腓骨頚での神経圧迫の原因となります。

・足を組むことで、腓骨頭と膝蓋骨ないし対側の大腿骨外顆の間で圧迫され、腓骨神経障害を起こすことが長い間云われきました。誰もがやっていることなので、異論もあるようですが、著者達は、最も一般的な原因であると信じているようです。足を組むことが原因だと考えられる患者達は、足を組むのをやめると、必ず回復します。時々、稀な圧迫のエピソードもあります。例えば、下肢を交叉して、テーブル面の下に足を挟んだまま長時間座ったり(眠りに落ちたり)、足を組んだまま膝の上に別の人を乗せたりです。足を組んだときに、感覚障害 (paresthesia) が出たのを放っておいたり、アルコールや薬物、病気や睡眠で気付かない人もいるかもしれません。おそらく、感覚障害の警告がなかったり、目が覚めるのに不十分だったりした人もいるでしょう。最近の体重減少が時々明らかに腓骨神経障害 (痩身麻痺;slimmer’s palsy) と関係しています。代謝の変化が原因ではないかという議論がありますが、神経を覆って保護する結合織が減少したり、(太っていれば足を組めなかったのが) 痩せて再び足を組めるようになったのが原因です。

・長時間しゃがんだり跪いて仕事をする、農場の労働者やカーペットを敷くような職業は特に腓骨神経麻痺 (苺摘み麻痺;strawberrt picker’s palsy) を起こすリスクとなります。完全に屈曲した膝が全体重に耐えているとき、腓骨神経はおそらく上方の大腿二頭筋腱と腓腹筋 (gastrocnemius) の外側頭と下方の腓骨頭から圧迫され、ともすれば、腓骨管内で、この部位で神経がねじれたり圧迫されます。他の姿勢としては、膝を屈曲させて地面に押しつけている時、直接神経に圧がかかるかもしれません。直接手術により傷害されるのではない術中の腓骨神経麻痺は、数十年間認識されてきました。しかし、尺骨神経麻痺や腕神経叢障害ほど頻度は多くありません。足から離れた場所の手術に関連した腓骨神経麻痺の頻度は、421例の心臓バイパス手術から判断すると8例つまり2%となります。下肢の位置やレッグサポートからの圧迫が原因かも知れませんが、神経の圧迫は術前術後にも起こります。術中の腓骨神経麻痺には砕石位に関係しているものもあります。全身麻酔による砕石位での手術を受けた991名の成人によるプロスペクティブスタディでは、15名 (1.5%) で下腿の神経障害が出現しました。腓骨神経は3例 (0.3%) でした。症状は感覚障害のみで、2例では両側でした。それらは全て回復しました。

・分娩後のfoot dropは、通常総腓骨神経障害によるものです。しかし、L5神経根障害や腰仙髄神経幹損傷のこともあります。膝サポートによる腓骨頭での圧迫が一つのありそうな原因です。長引く自然分娩が一般的な国では、そのような神経障害がしばしば両側性で、長期にしゃがんでいることが原因かもしれません。他の報告では、しゃがむことは原因の一つですが、陣痛の間、臀部や膝の屈曲が長時間保持される最中に患者の手が神経を圧迫することも指摘されています。

・腫瘤についてです。もっとも多いのは上部脛骨関節から生じるガングリオンです。良性ですが、浸潤性で、神経を圧迫したり神経に浸潤したりします。Baker嚢腫 (Baker’s cyst) は、総腓骨神経を圧迫するかもしれませんし、時には脛骨神経を圧迫するかもしれません。神経鞘腫 (Schuwannoma) と神経線維腫 (neurofibroma) は、総腓骨神経や二つの太い枝の周囲のどこからでも生じますが、もっとも一般的なのは膝窩です。他の稀な腫瘍はcallus, fibular tumors, osteomas, haematomas, nerve sheath tumors, nerve sheath ganglia, lipomasなどです。

・総腓骨神経の腓骨管での「真の圧迫 (true entrapment)」の原因は、外科的に確認されてきました。特徴的な手術所見は「tight crescentic band at the orgin of the peroneus longus … constricting the nerve which was swollen proximally. (長腓骨筋起始部でのtightな半月靱帯・・・近位に腫脹した神経を圧迫している)」と記載されています。半月靱帯の切開は症状の軽減に効果があります。そのような真の圧迫は稀です。Sideyは23人の患者の26の総腓骨神経を調べましたが、8つの神経では神経障害の明らかな原因が見つからず、圧迫が証明されたのは1つの神経だけでした。Cadaverによる解剖のスタディでは、腓骨管にしっかりした線維性のアーチを持つ人は殆どいないことがわかりました。これはこの部位での神経の圧迫が稀であることを説明するのかもしれません。腓骨神経が自然に圧迫されると言えるのは、はっきりと確認できる原因がなく、より中枢性の病巣が除外され、症状や所見が徐々に悪化し、画像所見が正常であるときとすべきです。

・多発単神経炎 (Mononeuropathy multiplex) は、総腓骨神経を侵すかもしれません。この疾患には、糖尿病、血管炎、遺伝性圧脆弱性ニューロパチーがあります。類結核やB型ハンセン病 (borderline leprosy) では、腓骨神経は最も侵されやすい主要な神経の一つです。

・特発性腓骨神経麻痺は、原因不明の場合につけられるいらだたしい名称です。著者は、原因として下肢を組んでいること (最近痩せた場合を含む) の理解が広がったり、画像技術の改善などによって、この群が減ることを信じています。

☆深腓骨神経 (Deep peroneal nerve)
患者が深腓骨神経に限局した障害があるとき、深腓骨神経 (※原文はmajour terminal branch of the common peroneal nerveだが、総腓骨神経は大きく深腓骨神経、浅腓骨神経に分枝するので、文脈からは深腓骨神経でよいと思われる) に病巣があるかもしれませんし、深腓骨神経を形成する神経束のみを傷害する総腓骨神経の限局性病変があるかもしれません。コンパートメント症候群 (anterior (tibial) compartment syndrome;前脛骨区画症候群) は、深腓骨神経とそれが支配する筋肉を含む筋膜区画 (fascial compartment) の中の圧が高まった結果起こります。原因には、度を過ぎた運動、軟部組織損傷、骨折、血腫、前脛骨動脈やその中枢の動脈閉塞、下肢の急性循環不全後の血流再開などがあります。重度の下腿痛、浮腫や発赤は深腓骨動脈の運動感覚障害と関係があります。神経障害は腫脹した筋肉による圧迫が原因であり、緊急前脛骨区画減圧術により急速に改善します。
慢性深腓骨神経障害は、ガングリオン、骨軟骨腫、動脈瘤による圧迫で起こります。慢性コンパートメント症候群はこれまで記載されてきましたが、脛骨神経の関与についてはわかっていません。

☆Foot dropの検査
総腓骨神経に完全な病巣がある患者は、足の背屈、外転や足趾の伸展の麻痺といった古典的な臨床症状を呈し、その結果foot dropとなり、特徴的なslapping gait (パタパタと地面を打つ音を立てる歩行) となります。筋力低下は、足と足趾の背屈筋群と、足の回外筋群に見られますが、他の筋にはありません。他に検査すべき主要な筋は、L4-S1神経根、腰仙髄神経叢、坐骨神経から支配される筋、すなわち殿筋群 (gluteal muscles)、膝屈筋群 (hamstring muscles)、腓腹筋、後脛骨筋 (tibial posterior) です。後脛骨筋は足を曲げる筋肉で、同じL4-5神経根から支配されますが、脛骨神経を経由して支配されます (※L4-5→腓骨神経→前脛骨筋とL4-5→脛骨神経→後脛骨筋の違いは、局在診断に重要)。

腓骨神経障害による感覚消失は、古典的には下肢の前外側表面と、足とつま先の背側に及びます。しかし、神経が完全に障害さればければ、感覚障害はしばしば教科書に載っている範囲より狭くなり、通常、足と何本かの指のつま先の背側に限局します。時々、感覚障害がない場合があります。膝蓋腱反射とアキレス腱反射は腓骨神経麻痺では正常です。もしアキレス腱反射が低下していれば、隣のS1神経根を巻き込んだL5神経根障害や、神経叢や坐骨神経の病変を考えるべきです。

総腓骨神経の走向は注意深く検査されるべきです。あった場合、神経の限局した圧痛や、腓骨頭と腓骨頚でのTinel徴候が障害部位を決めるのに役立ちます。しかしながら、時々L5神経根障害で脛骨神経の圧痛がある患者を見かけることがあります。異常があれば根障害ないし近位での神経障害を示唆するため、下肢を伸展して挙上する試験が常に有用です。膝窩や膝外側の嚢胞ないし腫瘍は、入念に触知すればわかるかもしれません。神経の肥厚はハンセン病で起こります。

Foot dropの患者は、時々、二つの理由で診断が難しい事があります。第一は総腓骨神経の部分的障害が様々な程度の筋力低下や感覚障害を引き起こし、第二には障害が総腓骨神経よりも中枢にあるからです。

☆部分的腓骨神経障害
完全に神経が断裂した場合を除き、総腓骨神経に支配される筋と皮膚は様々に傷害されることが頻繁にあります。患者はしばしば感覚のみとか、運動のみの症状、症候を呈します。前者は浅ないし深感覚枝のみが関与しているのかもしれません。同様に、筋力低下は浅腓骨神経ないし深腓骨神経により支配される筋に限局しているのかもしれません。運動と感覚が様々に傷害されることは、顕微解剖学的に説明されます。膝の部位で、深腓骨神経と浅腓骨神経を形成する線維は、はっきりと分離した束にあります。どんな原因であれ、総腓骨神経の損傷は、橈骨神経の「Saturday night palsy」や、尺骨神経の「肘部管症候群」で見られるような部分的障害に似て、個々の神経束によって異なった障害を引き起こすのです。

☆Foot dropの鑑別診断
Foot dropを引き起こし、総腓骨神経障害と紛らわしい、より中枢の限局性神経障害は下記です。

・L5神経根障害
・腰髄神経叢障害
・腰仙髄神経叢の腰仙骨幹の障害
・坐骨神経障害

原因は病歴から明らかになることもあります。例えば、腰椎神経根障害や股関節骨折、、鉗子の使用を伴った難産、圧迫の明確なエピソード、坐骨神経や腓骨神経への外傷のある患者です。しかしながら、他の場合ではそれほど明白ではありません。腰椎神経根障害はしばしば下肢に放散する腰痛を欠きます。股関節形成術後のfoot dropは、腓骨頭での総腓骨神経圧迫より坐骨神経損傷のため起こりやすいようです。分娩後のfoot dropは、椎間板ヘルニアやL5神経根障害、腰仙骨幹の圧迫、膝サポートによる圧力などによるものかもしれません。

L5神経根障害、腰髄神経叢及び腰仙骨幹病変は、総腓骨神経によって支配されない殿筋群、膝屈筋群、後脛骨筋の筋力低下を引き起こします。しかしながら、坐骨神経の外側神経幹の損傷は、まさに総腓骨神経に似ています。何故なら、外側神経幹は腓骨神経になるからです。神経幹病変は大腿二頭筋短頭の神経支配に関与していますが、この筋は臨床的には他の膝屈筋群から分離して検査できないので、診断には電気生理学的検査が必要です。幸運にも、外側神経幹障害の多くの症例では内側神経幹の軽い障害を示す徴候がしばしばあり、これらは注意深く臨床的・電気生理学的に検査すれば明らかになる可能性があります。

時々、全身性の末梢神経障害が表面上両側の腓骨神経障害のようにみえることがあります。なぜならfoot dropが足底屈の筋力低下よりも目立ちやすいからです。筋萎縮性側索硬化症 (amyotrophic lateral sclerosis; ALS) の初期の特徴はfoot dropかもしれません。筋疾患 (myopathy) 、特に稀な遠位が侵されるものでは、しばしばdrop footとなります。下肢の上位運動ニューロン障害のある患者は、一般的に足底屈よりも足背屈の筋力の方が優位に低下します。注意深く検査すれば、これらすべてにおいて、総腓骨神経の支配領域を越えた徴候があることがわかるでしょう。最後に、足の局所ジストニアでは足背屈の見かけ上の筋力低下があるかもしれません。

☆検査
・電気生理学的検査 (Nerve conduction and electromyographic studies)
電気生理学的検査は、foot dropの患者を評価するとき、臨床検査の価値のある延長線上にあります。注意深く観察し、腓骨神経麻痺以外の可能性があるかもしれないと少しでもあると思ったら、行われるべきです。腓骨頭 / 腓骨頚の部位での伝導異常がしばしば見られ、筋電図 (electromyography; EMG) での異常は腓骨神経に支配される筋に限局します。もっと中枢性の病変が疑われるときにとても有用なのが、腰部傍脊柱筋、殿筋群、膝屈筋群の針筋電図検査 (needle EMG) です。多くの場合、最も検査すべき二つの筋は、大腿二頭筋短頭と後脛骨筋で、理由は前述の通りです (※(a) 大腿二頭筋短頭を支配する神経は、外側神経幹から分枝するため、この筋の障害は坐骨神経より近位の障害を意味する, (b) 後脛骨筋は脛骨神経支配なので、この筋の障害は脛骨神経ないし坐骨神経より中枢での障害を意味する)。外側神経幹優位の坐骨神経障害が疑われたとき、もし坐骨神経内側幹損傷の根拠を得たければ、腓腹神経と脛骨神経の伝導検査 (nerve conduction study; NCS) が役立ちます。

電気生理学的所見は予後を予想するのにも有用です。伝導ブロックがあり、前脛骨筋の筋電図で軸索損傷がほとんどない場合、更なる神経への圧迫が避けられれば、多くの場合数週間で回復します。重度の軸索型神経障害はゆっくり回復し、一部は数ヶ月以上かかります。軸索障害と伝導ブロックが合併している場合は、しばしば二相性の回復を示します。すなわち数週間以内の脱髄病巣の回復と、数ヶ月から1年くらいでの軸索障害のゆっくりとした回復です。

・画像
明確な腓骨神経の原因のない患者が良くならない、もしくは悪化する場合、膝の画像検査を行うべきです。単純レントゲンで時々軟部組織の腫瘍や骨病変がわかります。超音波はBaker嚢腫、動脈瘤、ガングリオンの輪郭を見るのに役立ちます。CT検査はこの領域の大きな軟部腫瘍を検出するのに優れています。MRIは腓骨神経を巻き込む内在性及び外在性腫瘍病変の範囲を示すのにもっと秀でています。

☆管理
腓骨神経障害の患者は、以下の3つの主群に分類されます。
a) 急性外傷
b) はっきりとした圧迫性のエピソード、ないし再発性のエピソード
c) 原因不明の進行性神経障害

もし、外傷タイプなら、裂傷では神経離断が推測され、すぐに神経修復が必要です。不全型の外傷性神経障害では、臨床的に経過観察され、自然に良くなることが期待されます。数ヶ月で良くならない時は、神経の外科的な検査が正当化されるかもしれません。なぜなら、瘢痕組織や神経腫 (neuroma) の形成が軸索の再生を妨げている可能性があるからです。ケーブルグラフト術を組み合わせ、注意深く外科的にこれを切除することで、多くの場合ある程度の回復する可能性があります。鈍的外傷を数ヶ月、自然に治癒するのを待つのはおそらく最上の選択です。腓骨神経の伸展損傷は、しばしば長い範囲の損傷と関係しています。神経グラフトで修復してさえ、予後は不良です。下肢の急性コンパートメント症候群は、外科的救急です。速やかな筋膜切開術が神経筋の良好な回復のため重要です。

確実な圧迫性のエピソードがあれば、著者は2ヶ月間患者を再評価します。反復して神経を圧迫するかもしれないような、足を組んだり、他の姿勢をとる習慣が疑われた時、著者は患者にそれらを避け2ヶ月間再評価するように指示します。手を広げて調べる必要は通常ありません。もし患者にこの時点で改善の徴候がなければ、もしくは悪化するようなら、進行性神経障害群に分類します。

進行性腓骨神経障害は、画像検査を行われるべきです。超音波、CT、MRIの選択は、現場の利用環境、技術、費用によります。著者は通常最初に超音波検査を行い、それでわからなければCT検査を行い、必要ならMRIを行います。もし腫瘤が発見された場合、骨転移がなければ外科的切除をすべきです。もし腫瘤がみつからなかった場合、それでも外科的検索は正当化されます。軟部病変の中には、画像に写らないものがあるかもしれません。もし腓骨管の中で真の神経絞扼がある患者なら、外科的方法でのみ確認することができます。

初めてfoot dropを呈したとき、膝窩部の腫瘤を触知できる患者は、画像検査に送るべきです。根障害を疑った患者のためには、CTやMRIを施行し、さらなる管理を行うべきです。もし腰仙髄神経叢病変が疑われたら、腰下部後腹膜領域と骨盤のCTやMRIが行われるべきです。例えば臀部術後の患者のような、坐骨神経の病巣に対しては、画像検査は必要ないかもしれません。しかしながら、もしはっきりとした原因がなければ、坐骨切痕から膝窩までの間の坐骨神経本幹に対して、神経腫瘍ないしそれを侵す他の病巣を検索するため造影MRI検査を行うべきです。

腓骨神経麻痺の原因にかかわらず、足をサポートし歩行を支え、躓くのを予防する装具は患者に大きな利益を及ぼします。靴の内側に取り付け、ふくらはぎの裏側まで達するプラスチック製の軽量型短下肢装具は最も満足のいくものです。寒い気候では、ブーツがいいでしょう。もしfoot dropが永続すれば、腱移行術が検討されるべきです。

個人的には、坐骨神経~脊髄レベルの病変の検出には、tibial SEP (Sensory Evoked Potential) がかなり有用だと思っているのですが、論文には紹介されていませんでした。でも、良くまとまっていますね。

奇しくも、この論文を読んでいるときに来た後輩が、「先生、僕は30分くらい足を組むと足先が痺れて力が入りにくくなるんです」と言ってきました。

早速、NCSを行うと、足を組んで圧迫される部位に綺麗な伝導ブロックが見つかりました。足をできるだけ組まないように指示をしましたが、こんなに身近なものかと驚きました。

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