宇宙は何でできているのか

By , 2010年12月9日 6:38 AM

「宇宙は何でできているのか 素粒子物理学で解く宇宙の謎 (村山斉著、幻冬舎)」を読み終えました。

本書は宇宙論についての話です。私の宇宙論との出会いは高校生時代の「神と新しい物理学 (ポール・デイヴィス著、同時代ライブラリー)」だったと思います。思春期に宇宙の行く末という難しい課題を考えさせられ、随分考えこんだのを覚えています。「神はさいころ遊びをする」なんていう言葉もカルチャーショックでしたね。

その後、いくつかの本を読み、流行の「統一理論」などという言葉と出会ったりしましたが、なかなか全体像が見えませんでした。それがこの本のおかげで、物理学者が何を追い求めて難しい理論を議論しているのか理解できました。

著者は東京大学数物連携宇宙研究機構 (IPMU) 機構長の方です。難しいことを研究している一方で、説明が凄くわかりやすいです。本書に難しい数式は一切出てきません。複雑な事象を平易に説明するのは才能ですね。本書の最初には「宇宙はどうやって始まったのだろう? 遠くに見える星は何でできているのだろう? どうして、自分たちはこの宇宙にいるのだろう? 宇宙は、これからどうなっていくのだろう? 私たちは、そんな素朴な疑問に答えたいと思って研究活動をしています」とありますが、簡単な話から始まり、最後はニュートリノ振動だとか、ヒッグス粒子、自発的対称性の議論にまで展開します。話が複雑になるにつれて、途中で脱落した本もこれまでにはありましたが、本書はそのようなこともなく、引き込まれるように読むことが出来ました。著者が「いま起きている宇宙論の変化は『天動説』から『地動説』への転換に匹敵するほどのインパクトがあると言っても、決して過言ではありません」という意味が感覚としてわかりました。

本書で知った理論の一つ一つを順次紹介していくのがこのブログの意図ではないので、印象に残った話をいくつかかいつまんで紹介します。

・1987年にカミオカンデでニュートリノが11個観測され、その功績により小柴氏がノーベル物理学賞を受賞した。裏話として小柴氏の強運もあった(①小柴氏退官1ヶ月前の出来事だった、②発見の数ヶ月前にカミオカンデに蓄えた水を綺麗にする作業をしていた、③「あいつがいるとなぜか実験がうまくいかない」と非科学的な中傷を受ける大学院生がたまたま不在だったらしい(笑))。このカミオカンデの奇跡的な発見により、スーパーカミオカンデが建築されたが、すでにスーパーカミオカンデはニュートリノに質量があることを発見しており、今後はニュートリノが突然来なくなること、即ちブラックホール誕生の瞬間の発見などに注目が集まっている。また、スーパーカミオカンデは陽子の崩壊を観測しようとしており、これまでの結果から陽子の寿命は 1034年以上であることがわかった。ちなみに宇宙の年齢は137億年で 1010のオーダーなので、陽子の寿命が如何に長いかということ。

・天の川銀河は隣のアンドロメダ銀河と45億年後に衝突する予定である。太陽が水素を使い果たして、ヘリウムを燃やし始めて地球を飲み込むくらいまで膨張するのも45億年後と推測されており、どちらが先かは微妙な勝負とされている。

・宇宙空間に存在する原子は、光の吸収線スペクトルを用いて測定される。光を分光すると原子に吸収されて「光がない」バンドがみられ、それを元に分析する。

・小惑星「イトカワ」にたどり着いた小惑星探査機「ハヤブサ」までは光速で20分。つまり地球から指令を送ると、返事が戻ってくるまで40分かかっていた。別の探査機ボイジャーは現在、地球から光速で4時間離れた所にいる(小学生のころボインジャーと勘違いして恥をかいたのを思い出しました)。

・マイクロ波宇宙背景放射の異方性によりビッグバンを証明したスムート・マザーは、ノーベル賞受賞の電話のため夜中2時に起こされ、「なぜ私の電話番号を知っているんだ!」と、ひどくご機嫌斜めであった。科学アカデミーは隣の住人の番号を突き止めて、そこに電話して聞き出したらしい。スムート氏は嬉しくてバークレー大学の「ノーベル賞受賞者専用」の駐車スペースに車を止めたが、授賞式前だったので反則切符を切られた(後で泣きついてキャンセルしてもらったらしい)。

・アメリカのバークレー国立研究所にある電子顕微鏡が電子にかける電圧は、30万ボルト。「ポケモン」で出てくるピカチュウの攻撃力の3倍である。

・クォークが日本語に訳せないのは、発見した物理学者がジェイムズ・ジョイスの「フィネガンズ・ウェイク」という小説に出てくる鳥の鳴き声から取ったからである。

・南部陽一郎氏は、ノーベル賞の研究以外にも多くのアイデアを生み出したことで有名。数十年前に誕生した「ひも理論」の生みの親であり、クォークの「色荷」を提唱し、さらにノーベル賞を授かった「自発的対称性の破れ」とくると驚くより他にない。

・タイトルにある「宇宙は何でできているのか?」の答えとして、現在宇宙のエネルギー分布は、星と銀河 0.5%, ニュートリノ 0.1~0.5%, 普通の物質 (原子) 4.4%, 暗黒物質 23%, 暗黒エネルギー 73%, 反物質 0%, 暗黒場 (ヒグス) 1062% ?? と推測されている。
最後に、著者らの機構のサイトとブログを紹介しておきます。
http://www.ipmu.jp/ja
http://ipmu.exblog.jp/

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