EBM

By , 2012年9月26日 12:42 AM

Evidence Based Medicine (EBM)」は、現代医療を象徴する言葉の一つです。日本語では「根拠に基づいた医療」と訳します。

一方で、「EBM」という言葉を誤解して振りかざす人を時々みかけます。

先日、知り合いの先生のサイトを覗いたら、「EBMに対する誤解」について、凄く面白いことが書いてあったので、紹介します。こうした誤解に陥らないように気をつけないといけませんね。

EBMに対する誤解
誤解1:「EBMに基づいた医療」なる医療がある という誤解
誤解2:研究結果に統計学的有意差があれば,治療効果はあり,患者にその治療をすべきである という誤解
誤解3:EBMを実践することと,エビデンスを患者に当てはめることは同じことである という誤解
誤解4:EBMとは,エビデンスを偏重する行動様式であり,医療者の臨床経験を否定するものである という誤解
誤解5:最強のエビデンスはRCTである(RCTがなければエビデンスはない) という誤解
誤解6:エビデンスがなければ,EBMは実践できない という誤解

上記リンク先で詳しい説明がされています。是非様々な医療従事者に読んで欲しいです。

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ベストの出来

By , 2012年9月22日 7:34 AM

ベートーヴェンの交響曲第九番 (第九) で、私が最も感動したのは、東京・春・音楽祭2011で「東北関東大震災 被災者支援チャリティー・コンサート」として、2011年4月10日に行われた演奏会です。生演奏で聴けなかったのは残念ですが、東京・春・音楽祭のサイトにアップされた動画を何度も見ました。

しかし、残念ながら、東京・春・音楽祭のサイトでの配信は終了し、その後削除されてしまいました。この演奏会は 2011年4月17日の N響アワー (NHK Eテレ) でも放送されましたが、オンデマンド配信にはならず、現在では見ることができません。貴重な演奏なので、何とか DVDで販売してほしいと願っている次第です。

さて、実際に演奏された永峰さんが、「ベストの出来」と評していたのを最近知りました。

楽員インタビュー

黒崎

N響で印象に残っている演奏はありますか?

永峰

今年 (※2011年) 4月のメータさんとの震災チャリティー・コンサート。30年間N響に在籍して、《第9》もずっと弾いていますが、私にとってはベストの出来でした。被災地の方に直接聴いていただくことはできなかったですけれど、私たちにできることは演奏することですし、思いは通じたと思います。

彼らが使命感を胸に強い気持ちで演奏に臨んだことが名演奏につながった訳で、音楽にとって、演奏者のモチベーションが如何に大切かというのを強く感じました。

(参考)

ズービン・メータ N響 第九 チャリティー2011.4.10 神々しいメータ

実際に生で聴かれた方の感想。

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Google Scholar

By , 2012年9月21日 12:40 PM

Googleが “Google Scholar” という論文検索システムを提供しています。 その “My Citations” 機能を使うと、自分の論文を誰が引用したかがわかるのでやってみました。

Google Schalorの機能を使って自分の論文の引用状況を調べる

すると、私の書いた日本語論文 (abstractは英語) が、ロシア語や中国語の論文に引用されていてびっくりしました。「本当に読んで引用したのかな???」と思って引用論文を読もうとしたら、当然意味不明でした。中国語は漢字でニュアンスが通じるけれど、ロシア語難しすぎますね。

励みになるので、被引用状況は今後ちょこちょこチェックしていこうと思います。

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セレンディップの三人の王子

By , 2012年9月20日 7:53 AM

セレンディップの三人の王子 (エリザベス・ジャミソン・ホッジズ著、真由子 V. ブレシニャック、中野泰子、中野武重訳、パトリシア・デモリ画、バベル・プレス)」を読み終えました。

セレンディピティ- Wikipedia

セレンディピティserendipity)は、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値あるものを見つける能力・才能を指す言葉である。何かを発見したという「現象」ではなく、何かを発見をする「能力」を指す。平たく言えば、ふとした偶然をきっかけに閃きを得、幸運を掴み取る能力のことである。

私が初めて「セレンディピティ」という言葉を知ったのは、「医学を変えた発見の物語」という本の一節からでした。「セレンディップの三人の王子」は、この「セレンディピティ」の語源となった物語です。セレンディップ (セイロン) の三人の王子が、竜を倒す強力な魔法が書かれた巻物を求めて旅をするのですが、その道中に起こるイベントに知恵と勇気を持って立ち向かい、予期しない幸運を得ることが出来ました。

子供向けに書かれた童話とはいえ、大人が読んでも楽しめる本でした。

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ボツリヌス毒素の対側への拡散

By , 2012年9月19日 12:40 AM

不定期チェックしている “Muscle & Nerve” という医学雑誌の 2012年 9月号に、面白い論文が出ていました。

Contralateral weakness following botulinum toxin for poststroke spasticity

脳卒中後の痙縮に対して、ボツリヌス毒素は有効とされています (※ 2010年10月から日本でも保険適応となっています)。ところが、ボツリヌス治療後に対側上肢の麻痺を生じた症例が 2例ありました。

Case. 1

43歳女性。2009年2月発症の出血性脳卒中により右痙性片麻痺が後遺症として残りました。そこで同年 6月からボツリヌス治療を開始しました。2011年1月に第 6回目の治療 (①Triceps (lateral head) 50 U, triceps (long head) 50 U, gastrocnemius 100 U, soleus 100 U, posterior tibial 100 U (400 U/4ml溶解), ②Flexor digitorum sublimis 75 U, flexor digitorum profndus 50 U, lumbricals 25 U, opponens pollicis 25 U, flexor pollicis brevis 25 U, flexor pollicis longus 25 U, extensor hallucis longus 75 U (300 U/2 ml溶解), Total 700 U) を行いました。上腕の筋には Botox 100単位を注射しました (斜体部分)。3週間後に再受診した際、正確な時期はわからないものの、彼女は対側の左上肢に麻痺が出現していたことを告げました。神経伝導検査は正常でした。低頻度反復刺激で 23%の振幅低下 (いわゆる Waning) がありましたが、その 2ヶ月後の再検では正常でした。ボツリヌス治療は、症状が完全に改善するまで延期することにしました。

Case. 2

21歳女性。先天性心疾患のため、2歳時に脳卒中を起こしました。脳卒中による痙性とジストニアがあり、12歳時からボツリヌス毒素による治療を開始しました。当初はボツリヌス 600単位を 3ヶ月ごとに注射していましたが、2009年に著者らのセンターで治療することになりました。2010年9月に 4回目の治療 (①Deltoid 50 U, triceps (long head) 50 U, triceps (lateral head) 75 U, trapezius 50 U, gastrocnemius 150 U, soleus 150 U (525 U/4ml溶解), ②Flexor carpi ulnaris 50 U, lumbricals 50 U, flexor longus 25 U, flexor digitorum brevis 50 U (175/2 ml溶解), Total 600 U) を行いました。左上腕の筋には Botox 225単位を注射しました (斜体部分)。その数日後、彼女は右手の筋力低下を自覚しました。(後になって振り返ると、2010年6月の注射の時にも同様の筋力低下があったようですが、1-2ヶ月で改善していたようです)。神経伝導検査は正常でしたが、低頻度反復刺激では 16%の振幅低下がありました。2ヶ月後くらいから筋力は改善してきたようです。2011年1月にボツリヌス治療をした際は、上腕の筋へは Triceps 50単位にとどめましたが、それでも対側の右上肢の筋力低下が出現しました。そこで、次からは左肘より中枢への注射はやめたところ、筋力低下は見られなくなりました。

Discussion

今回、脳卒中後の痙性に対するボツリヌス治療で、対側の筋力低下をきたした報告は過去に 1例あり、それぞれ 800単位、500単位を Botox注射したことによるものでした。

(※続いて、電気生理学的な検討 (needle EMG, 反復刺激, 過去の single-fiber EMGの報告など) がなされていますが、ちょっとマニアックなので割愛します)

対側上肢の筋力低下をきたした原因は「ボツリヌス毒素の拡散」が最も考えやすいようです。つまり、ボツリヌス毒素が正中を超えて直接浸潤していったものと推測されます。過去には血行性や神経行性とした報告はあるようですが、説得力に欠けます。

今回の症例で使用したボツリヌス毒素の量は、過去の randomized controlled trials (RCT) で用いられた量より多いのですが、これには理由があります。”We Move revised guideline” での成人へのボツリヌスの量は、特に熟練したエキスパートが行った場合、total 600単位以上が推奨されています。きちんと多い量を使うのが最近の流れです。

ボツリヌス毒素の対側への拡散で留意すべきは次の点です。

①高容量を用いた方が、対側への拡散が起こりやすい。

②大量の溶解液に少量のボツリヌス製剤を溶解 (20 U/ml) する方が、少量の溶解液に大量のボツリヌス製剤を溶解 (100 U/ml) するより終板まで拡散させやすい。特に大きな筋肉で終板が同定しづらい場合、効果的である。しかし、その分、対側への拡散のリスクがある。

③身体の正中に近い筋肉の方が、対側への拡散が起こりやすい。

上記を踏まえて、ボツリヌス毒素の投与計画を設計する必要があります。

これらの症例は、日本で一般的に使用するよりかなりの高投与量ですが、上腕の筋に 100単位注射するのは日本の保険適応の範囲内で出来てしまうので、稀な副作用ではありますが注意しておかないといけません。

対側への拡散については、2011年 5月に参加した角館の研究会で既に坂本崇先生が講演されており、改めて研究会のレベルの高さを感じました。

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Hassyチャンネル

By , 2012年9月18日 7:45 AM

将棋棋士の橋本載崇八段が、ニコニコ生放送でチャンネルを開設しました。月額 525円の有料チャンネルです。

 HASSYチャンネル

サイトの掲示板に寄せられた視聴者からの質問に答える企画もあるようです。対羽生戦を自戦解説した動画は無料で見られるので、将棋のルールを知っている方は是非見てみてください。プロ棋士の深い読みに感嘆します。

チャンネルでは一ヶ月に数回生放送することになっていて、直近の放送は 9月18日18時からです。ニコニコプレミアム会員は、タイムシフトで 1週間後まで鑑賞することができます。

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結婚式

By , 2012年9月17日 11:03 AM

9月22日に、小学生時代の同級生、池Pの結婚式があります。

楽器演奏を頼まれているのですが、今回はピアノ伴奏なし。どの曲を演奏するか思案しています。

とりあえず、第一候補はコレ。

・J. S. Bach – Sonata No. 3 in C major, BWV 1005 – Largo

ただ、酔っ払って演奏出来る曲ではないため、酔いが進んだら、チェロ組曲に変更しようと思います (結構易しいヴァイオリンへの編曲あり)。

・Bach – Cello Suite No.3 v-Bourree

この 1年で 3回くらいしか楽器を触っていなかったため、衰れが隠せないかもしれませんが、メデタイ席なので、気持ちで演奏します☆

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ALSの治療ターゲット候補 EPHA4

By , 2012年9月16日 8:40 AM

2012年 9月 1日に筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の新規遺伝子 profilin1についての論文をお伝えしました。その論文が発表されたのは 7月15日でしたが、約 1ヶ月後の 8月 26日に、Epha4というタンパク質が ALSの予後と関係していて治療ターゲットになりうることが Nature Medicineに発表されました。

これまでの ALS研究の経緯について簡単に触れると、1993年に家族性 ALSの原因遺伝子として SOD1が同定されて以降、活性酸素除去システムの障害が注目されてきましたが、TDP-43発見が孤発性 ALSを考える上で一つのターニングポイントになりました 。生化学的、あるいは病理学的に大きなブームとして研究される一方で、 FUS/TLS, Optineurin, DAOVCP, Ubiquilin2などの ALS原因遺伝子が立て続けに見つかり、TDP-43との関連が議論されています。2012年にはフィンランドの孤発性 ALSの約 2割に C9orf72の異常が見つかり、非常に大きなインパクトを与えました (日本人には少ないとされています)。また、孤発性 ALSに対して、ADAR2活性低下と RNA編集異常といった切り口での研究も説得力を持って行われています。しかし、残念なことに、まだこれらは治療に結びつく段階ではなく、「どうやったら病気が良くなるのか、進行を遅らせられるか」についての情報は非常に少ないのが現状です。挙げるとすれば、HGF (2012年 6月に臨床試験への参加条件が変更になっています) や Dexpramipexioleなどが、現時点で注目されるところでしょう。

こうした中、「治療」という観点で、Epha4は今後注目されてくることが予想されるので、前述の Nature medicine論文を紹介しておきたいと思います。

EPHA4 is a disease modifier of amyotrophic lateral sclerosis in animal models and in humans

ALSは症例によって予後がかなり違います。家系内での同じ遺伝子変異であってさえ、ばらつきがあります。また、発症年齢も 20~90歳代と幅広く分布しており、遺伝的修飾因子が関係しているものと推測されています。その修飾経路が同定できれば、治療介入のターゲットになるかもしれません。

著者らは、まず SOD1変異遺伝子を発現したゼブラフィッシュで、 morpholinoというアンチセンスオリゴを用いて、ライブラリーに含まれる 303個の遺伝子の翻訳をブロックする実験を行いました。その結果、 SOD1変異による軸索変性をレスキューする遺伝子が 13個見つかりました。最も効果の強かったのが Rtk2でした。Rtk2は ヒトの EPHA4と 67%の相同性があります。Molpholinoで Rtk2のスプライスをブロックする実験でも、SOD1変異による軸索変性レスキューには再現性がありました。また、ヒト EPHA4と 83%の相同性があるサカナ Rtk1パラログを morpholinoにより抑制すると、変異 SOD-1による軸索変性をレスキューしました。

次に、G93A変異を入れたヒト SOD1をマウスに過剰発現させ、Epha4を欠損による効果を調べました。作製した Epha4ヘテロ及びホモ欠損マウスは、脊髄前角細胞数や神経筋接合部の神経支配、筋構造などは正常でした。ただ、Epha4ホモ欠損マウスは、出生第 1週の体重が少なく、出生してくる数も少なかった (※胎生期に問題を起こしている可能性がある) ので、ヘテロ欠損マウスを解析することにしました。その結果、SOD1 G93A+Epha4ヘテロ欠損マウスでは、ただの SOD G93Aマウスと比べ、ALS発症時期や運動機能は変わらなかったものの、生存期間は延長しました。前角細胞や神経筋接合部の正常な神経支配の割合の評価から、 Epha4のヘテロ欠損は、SOD1 G93Aマウスの運動ニューロン変性を遅らせることが示されました。全生存期間の延長はわずかでしたが、発症後の生存期間は 57%延長し、運動能力の増悪は緩やかでした。

実際に遺伝子ノックダウンをしなくても、2,5-dimethylpyrrolyl benzoic acid という薬剤は、morpholinoを用いたゼブラフィッシュでの Rtk1ノックダウンと同等の効果があり、SOD-1変異による軸索変性をレスキューしました。また、SOD1 G93A変異 ALSラットモデルに Epha4阻害ペプチドを脳室内投与すると、疾患の発症が遅くなり、生存期間も延長しました。

そこで、Epha4欠損が運動ニューロンの変性を抑制するメカニズムを調べました。 Epha4は、SOD1を過剰発現したマウスの脊髄運動ニューロンでは検出されますが、アストロサイトやミクログリアでは検出されません。著者らは、マウスの脊髄運動ニューロンでの Epha4を mRNAレベルで定量しました。すると、SOD1 G93A変異で末期まで残存するような傷害されにくい運動ニューロンでは、Epha4の mRNAレベルが通常の運動ニューロンより低いことがわかりました。また、大きな運動ニューロンは小さな運動ニューロンより傷害されやすいとされますが、大きな運動ニューロンは小さな運動ニューロンより Epha4の発現レベルが高いことがわかりました。マウスでの軸索切断実験では、神経再支配は Epha4の発現量依存的に抑制されました。どうやら Epha4は ALSの神経に対して傷害性に働いているようです。

今度は、ヒトの患者ベースで調べることにしました。2925名の ALSの患者と 9605名の正常コントロールを用いた SNP解析では、EPHA locus周囲 900 kbにある 654の SNPsと ALSの感受性に関係は見い出せませんでした。また、生存率、発症年齢に関連した SNPも見つけることはできませんでした。患者血液の解析では、EPHA4の発現が低いほど発症年齢は高かった一方で、 正常コントロールでは EPHA4のmRNAレベルと年齢に相関はありませんでした。重回帰解析では、EPHA4の発現量が低いほうが罹病期間が長そうだということがわかりました。このことから、EPHA4の発現量が低いと、発症年齢や疾患の進行に影響を与えるようです。

家族性 ALS 96名、孤発性 ALS 96名の Direct sequencingでの解析では、21個の変異がみつかり、9個は既知のもので、12個は新規に見つかったものでした。このうち、種によって保存されている R514X (C1540T), R571Q (G1712A) の 2つを更に調べると、これらは正常コントロールには存在しないものだとわかりました。そして興味深いことに、これらの変異は ALSでの例外的な長期生存に関係しているとわかりました (症例1: 56歳で発症して 89ヶ月生存した孤発性 ALS患者は R514X変異あり, 症例2: 43歳で発症して 149ヶ月生存した家族性 ALS患者は R571Q変異あり)。NSC-43という運動ニューロンの不死化培養細胞に 変異EPHA4を遺伝子導入して解析した結果では、nonsense mutationである R514Xは nonsense mutationのため発現がみられず、missense mutationである R571Qではシグナル伝達機能に異常があり、自己リン酸化の障害がありました。

ここまでの知見から、魚、マウス、ラット、ヒト、全てにおいて EPHA4の発現低下は疾患の重篤性を軽減することが示唆されます。著者らは、疾患修飾因子の SNP解析でこの変異が見つからなかったのは、発現がさまざまな要因で制御されているからだと考えています。

TAR DNA-binding protein 43 (TDP-43) をコードする TARDBPは、まれではありますが家族性 ALSの原因遺伝子であり、TDP-43が神経変性に果たす役割には関心が集まるところです。そこで、Epha4とTDP-43の関連を調べました。ゼブラフィッシュの TDP-43 A315T変異による軸索変性に対する実験で、Epha4ノックダウンあるいは Epha4阻害薬は、軸索の伸長障害や異常な枝分かれをレスキューしました。

最後に、ゼブラフィッシュを用いて、Smn1遺伝子ノックダウンでの運動ニューロン軸索異常に対する Epha4の効果について調べました。Smn1ノックダウンは、下位運動ニューロンを侵す脊髄性筋萎縮症 (spinal muscular atrophy; SMA) のモデルとされています。Epha4欠損および Epha4阻害薬は、Smn1ノックダウンによる軸索の表現型をレスキューしました。これらの知見から、Epha4の阻害による保護効果は神経変性の原因によらないものと推測されます。

Epha4阻害薬については更なる研究が必要です。副作用として現在のところ懸念されるのは、Epha4ホモ欠損マウスで見られたような、長期記憶の障害です。

Ephという受容体型チロシン型キナーゼには、A typeとして Epha 1~10, B typeとして Ephb 1~6が存在することが知られています。ここで紹介した Epha4は Eph A typeのうちの一つです。Eph受容体ファミリーには様々な役割がありますが、今回の論文では、どうやら「軸索反発因子」としての作用を抑制することがキーになってくるようです。

Scientists identify new gene that influences survival in ALS

In an exciting, related development, a new ALS gene (profilin-1) identified last month by UMMS scientists works in conjunction with EphA4 in neurons to control outgrowth of motor nerve terminals. In effect, gene variants at both the top and the bottom of the same signaling pathway are shown to effect ALS progression. Together these discoveries highlight a new molecular pathway in neurons that is directly related to ALS susceptibility and severity and suggests that other components of the pathway may be implicated in ALS.

そして、驚くべきことに、Epha4は先日お伝えした profilin1と協力して働くそうです。今後、Epha4-profilinの系は、目が話せませんね。

今回は内容が難解だったので、専門外の方にもわかるように、まとめをしておきます。

①Epha4というタンパク質が、ALSにおいて悪影響を及ぼしているらしく、ALSでの様々な動物モデル (SOD1, TDP-43異常) で Epha4を働かなくすると神経保護作用が見られた。ALS以外の神経変性疾患モデル (Smn1異常) でも、Epha4をノックダウンすると同様の神経保護効果が見られた。

②ALSで進行の遅い患者を調べたら、Epha4に変異が入って、機能しなくなっていた。

③Epha4は、最近新たに見つかった ALSの原因遺伝子 Profilin1と同じ系で働いているらしい。

④Epha4を抑制する作用のある薬剤 (2,5-dimethylpyrrolyl benzoic acid) は既に知られていて、動物実験にも用いられている。

⑤ただし、Epha4を抑制した場合、長期記憶の障害などが問題になるかもしれない。

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バンコマイシン誘発振戦

By , 2012年9月11日 8:22 AM

手足が震える病気というと、一般の方は Parkinson病を思い浮かべるかもしれません。他にも、本態性振戦や甲状腺機能亢進症といった病気が知られています。

しかし、意外と見落とされやすく、忘れてはいけないのが薬剤性です。食思不振などで時折処方されるスルピリド (ドグマチール) や、喘息で処方される β刺激薬など、比較的よく見かけます。

International Journal of Infectious Diseaseという雑誌の 2012年8月号に、抗菌薬 バンコマイシンで、重篤な振戦が出現した症例が掲載されていました。

Severe tremor due to vancomycin therapy: a case report and literature review

Vancomycin is a popular antimicrobial used to treat a variety of Gram-positive infections. Its side effect profile has been well defined due to its high global utilization as a result of the emergence of antimicrobial-resistant organisms in recent decades. Despite its widespread use, however, various idiosyncratic reactions may occur without adequate or universal reporting. We present a case of severe tremor due to vancomycin that has not been previously reported in the literature. Our patient might have been prone to this adverse effect given an underlying essential tremor. Causality is presumed based on the temporal association, while the pathophysiological link remains elusive.

この患者さんは、ベースに本態性振戦があったようです。バンコマイシン点滴で心内膜炎/膿瘍を治療していたところ、2週間くらいして急に全身に激しい振戦を発症しました。その際、リファンピシン、セフトリアキソンが併用されており、バンコマイシン血中濃度は治療域でした。バンコマイシンを中止し、30分ほどで振戦はよくなりました。その後もバンコマイシンを継続しましたが、2回とも同様のイベントが起こりました。

ジフェンヒドラミンを前投薬とし、症状に対してロラゼパムを用いてみましたが、無効でした。イベント 3回とも、バンコマイシンを中止すると症状は改善しました。バンコマイシンをダプトマイシンに変えると、このようなイベントはなくなりました。

考察では、最初にバンコマイシンの副作用がまとめられています。

Common reactions due to vancomycin include ‘red man syndrome’ (an erythematous rash on the face and upper body with or without associated hypotension; a result of histamine release due to rapid drug administration), eosinophilia, reversible neutropenia, and phlebitis. Less common reactions include DRESS syndrome (drug rash with eosinophilia and systemic symptoms), drug fever, Stevens–Johnson syndrome, thrombocytopenia, and vasculitis. Vancomycin-associated nephrotoxicity appears to be dose-related, with increased incidence occurring with high trough levels,2 or when combined with other nephrotoxic agents (e.g., aminoglycosides).

そして、バンコマイシンが原因と推測される振戦について、過去の知見をまとめています。何故振戦がみられるのか、機序については不明とされています。

A subsequent search of the Health Canada adverse events database (Canada Vigilance Summary of Reported Adverse Reactions) searched September 1, 2011, yielded six cases of tremor potentially related to vancomycin therapy. The Summary is a spontaneous voluntary reporting system aimed at detecting signals of potential health product safety issues during the post-market period. Of the six cases identified, the median patient age was 73 years, 67% were female, 33% were documented as serious reactions, and all but one case suspected vancomycin as the sole drug responsible for the adverse event. Associated symptoms included chills, pyrexia, rash, flushing, vomiting, dizziness, and abdominal pain. Doses ranged from 0.5 to 2g every 6–24h, and the duration of therapy ranged from 1 to 14 days. Data on prevalence of renal dysfunction/failure and trough levels were not available.

A similar search of the Federal Drug Administration (FDA) Adverse Drug Events Database (AERS/Medwatch) from 1997 to 2011 yielded a total of 34 reports of tremor in which vancomycin was the primary suspect drug. Thirty-one (91%) cases were in adults, of which 26 (76%) were male. The highest incidence (26%) was observed in those aged 80–89 years. Seventeen (50%) patients required hospitalization, and five (15%) cases were considered to be life-threatening. The most common associated symptoms included chills, pyrexia, dyspnea, and rigors.

また、バンコマイシン同様 MRSAまでカバーするスペクトラムを持つ抗菌薬テイコプラニンでも、軽いものの振戦が出現した報告があるそうです。

One case of tremor was reported in an open efficacy and safety study of teicoplanin – a related glycopeptide.5 Although the tremor was described as mild, therapy was discontinued.

バンコマイシンは、MRSAをカバーしないといけないシチュエーションなどでしばしば使用される抗菌薬ですから、診療科にかかわらず、このような副作用情報は知っておいた方が良いと思います。

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President

By , 2012年9月9日 1:38 PM

オバマ大統領の検診結果が whitehouseのサイトで公開されているのを知りました。2010年2月28日付のレポートです。結果が正常だったので、強い大統領をアピールしたかったのでしょうか。「アメリカの大統領って、こうした結果が公開になるんだなぁ・・・」と思いました

Release of the President’s Medical Exam (実際のレポートはPDF参照)

検診に必要なのか科学的に疑問視される項目もいくつかありますが、金の心配がなければ、色々測ってしまって文句は出ないのでしょう (でも、PSAはもし異常値を示した場合、必要のない検査/治療がなされる危険性が指摘されていますが・・・)。下部消化管の検査は、内視鏡ではなく、CTによるバーチャル内視鏡で行ったようです (参考:医療ガバナンス学会:オバマ大統領はなぜ内視鏡ではなくCTで大腸検査を受けたのか?)。

上記リリースでは、

Dr. Kulhman recommends his next physical take place when he turns 50 in August 2011.

となっていますが、whitehouseのサイトを探しても、現時点では 2010年2月28日より新しいレポートは見つかりませんでした。忙しいのか、強い大統領をアピールする必要がなくなったのか、何か公表できない事情があるのか・・・ちょっと勘ぐってしまいます (^^;

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