あまり触れたくはない話題ですが、触れないわけにはいけないでしょう。
今日は、クリスマスというのだそうです。スパークリングワインを片手に、一人で七面鳥の足を囓っています。まぁ、飲めれば何でも良いのですが・・・。
そんなこんなしながら、「マタイ受難曲(J.S.Bach)」のDVDを鑑賞し、たった今、第一部を見終わりました。「たけしの誰でもピカソ」というTV番組で、N響の長峰氏が感動的な演奏を披露して以来、いつか見たいと思っていた音楽作品です。キリスト教を信じている訳ではありませんが、バッハを演奏をしていく上では、一度内容を把握する必要があるし、今日は良い機会と思っていました。
実際に見てみて、それほど感動するストーリーではありませんが、音楽は綺麗です。以前、バッハの全集のCDでは聴いていましたが、内容まで知って聴いたのは今日は初めてです。なかなか新鮮でした。
数日前にCD、DVDを大量に買い込みましたので、良いクリスマスが過ごせそうです。書くべき論文の存在は、頭の片隅に追いやられました。
・Bach: Erbarme dich, mein Gott (Matthäuspassion) – Galou (Roth)
知人から頂いたチケットで、オペラシティの演奏会に行ってきました。貰い物のチケットばかりで恐縮です。チケットが2枚あったので、先輩医師と一緒に聴きに行きました。先輩医師は学問上の良いディスカッション相手で、医療問題についてもしばしば議論します。非常にインテリジェンスの高い方です。私が以前勤務していた郡山の病院で働いていたことがあります。
12月13日 オペラシティ
第204回定期演奏会
・ピアノ協奏曲第25番ハ長調K.503 (W.A.Mozart)
・交響曲第6番イ短調「悲劇的」(G.Mahler)
指揮:飯守泰次郎指揮、ピアノ:高橋アキ
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
ピアニストの高橋アキさんは、とても音が綺麗でした。しかし、オケとの練習が少なかったのか、しばしば両者の演奏にズレがありました。特に、少し間を置きたい場所などの打ち合わせが十分でなかったような印象でした。多くの場合、オーケストラとソリストの事前練習は十分とれないので、仕方のない気もします。
マーラーは、先輩医師が「初めて聴いた」音楽。新鮮な感動を味わい、「是非、また聴きたい」とのことでした。すごく迫力のある演奏でした。バロック、古典派を聞き慣れた耳には違和感がありますが、それまでの音楽から脱却し、より新しい音楽をというのは、時代の要請でもあります。1903年に作曲されたこの曲は、そのような聴衆の要望に応えるものです。一方で、曲の長さに疲れます。
演奏が終わって、オペラシティのレストランで先輩医師と食事をし、音楽史や和声、曲の構造についての講釈を垂れてみたのですが、先輩医師は浮かない顔。何度もメール、電話をしています。「かみさんが出ない。家にいるはずなのに。怒っているのかなぁ・・・。」前日は忘年会の後、私と深夜まで飲んでいて、その日は私とまた飲みに行ったことが妻の逆鱗に触れたそうで、帰宅後こってりしぼられたと後日聞きました。
12月11日は当直でした。翌日は当直明けに症例検討会で発表。世界的に珍しい疾患を発表しました。こうした症例検討会で発表するために、前日英語の論文 30本くらい読んで準備してきたのですが、教授、助教授クラスの質問はやはり厳しいものでした。とはいえ、私のみならず、世界の誰もがわかっていないことなので、いずれにせよ仮説でしか答えられませんが。
症例検討会が終わると、医局の忘年会に行くために駅に向かいました。駅のホームで、愛読紙の東京スポーツを読んでいると、後ろから「いやー、一緒になっちゃったねぇ」との声が。無視して新聞に集中していると、もう一度「いやー、一緒になっちゃったねぇ」。人違いかと思って後ろを向くと、楽器を抱えた教授でした。
電車で一緒に話せるといううれしさと、気付かなかった後ろめたさ。東京スポーツはそそくさと鞄にしまいました。
電車の中では、いろいろな話をしました。
私が、ルツェルンのピカソ美術館で「3人の楽師達」という絵を見たと話すと、教授は「ルツェルンは思い出の街でね。パリでお金がなかったときに、バーゼルで会議があって、『よしっ』と思ってルツェルンに時計を買いに行ったんだ。鳩が出てくるやつ。ラヴェルの家にあったような時計が欲しくてね。パベル橋が燃える前の話だけど・・・」
また、ハンブルクの話、ドイツの綺麗な街の話、演奏家の話など話題は尽きませんでした。
ホテルに着くと、早速練習を始めました。最初は全く呼吸が合わない箇所もありましたが、3回くらい練習して合うようになったのでそのまま本番に挑むことにしました。
練習後、教授は夜景を指さし、「あそこが僕の母校で、池辺晋一郎とか坂本龍一が出身なんだよ」と教えてくださいました。
忘年会は、私が2人の幹事の内1人でしたが、ほとんど仕事せず、同僚に仕事して貰っていました。どうも幹事というのは苦手です。
そして、いよいよ演奏の時間が来ました。曲は「DUO in B, KV 424 (W.A.Mozart)」。
練習ではゆっくりめのテンポで演奏しようと話していたのですが、アルコールが手伝ったこともあり、CD同様のテンポで始まりました。リズム感のある部分の多い曲なので、速いテンポが生きたと思います。教授が「この部分綺麗だね」とおっしゃったころは、お互いの呼吸が一致して、美しく演奏出来たと思います。
直前に 3回合わせただけで本番なので不安はありましたが、大きなミスもなく演奏することが出来ました。教授からも、終了後「楽しかった」と言って頂けて万感の思いでした。
2次会は親しいものだけで飲みに行き、そのうち 3人で 3次会へ。午前 1時過ぎまで飲んで乱れていましたが、さすがに徹夜明けなので睡魔に襲われ帰宅しました。
演奏を聴いていた先輩医師から後日メールを頂きました。嬉しかったので、許可を得て転載させて頂きます。
先生のバイオリンはなかなかのものだと風の便りに耳にしておりましたが、こんなに素晴しいものいだとは予想していませんでした。
いままで聴いた医者の演奏のなかで、初めて「医者の余技だから」と自分を無理に納得をさせる必要なく、楽しんで聴くことができました。もっとも、上杉先生の生の演奏を知らないものだから、バイオリン以外の演奏についてはあまりいいかげんなことはいえないけれど。先生の演奏を聞いただけでも、あまり良くない体調をおして夜の新宿に出かけた甲斐があったというものです。J.S.Bachの無伴奏バイオリンパルティータのあの有名なシャコンヌは、先生弾けるかな?もしできたら、なにかの機会に聴きたいものです。
それにしても、良い演奏を、ありがとう。
プロの音楽家になるには、毎日数時間の練習が不可欠です。その上で、一流として食べていけるのは一握り。
医師でありながら音楽家として活躍している日本人を2人知っています。面識はありませんが。
米沢傑氏は、郡山の病院のボスに自宅に招待された際、CDを聴かせて頂きました。氏は鹿児島大学の病理学の教授でありながら、一流の声楽家として活躍されています。
上杉春雄氏は、神経内科医でピアニストです。先日教授に教えて頂きました。今日、CDを買って聴いたのですが、滅茶苦茶上手でした。私がこれまで聴いたプロの演奏家の中でも、最上位に入るレベルです。是非一度お会いしたいものです。
医師が音楽家であることは、時間的な制約などから非常に難しいことと思います。声楽に関しては、ある程度の年齢になってから始めること、喉を痛めるので練習量が他の楽器より少ないため、才能の要素が強くなります。そのため、才能さえあれば可能なように思えます。一方、ピアノについては、上杉氏がそうであるように、小さい頃どこまで極められるかにかかっています。ヴァイオリンにしろ、ピアノにしろ、基礎となる部分は小さいうちに築く必要があるからです。もちろん、トッププロの話であって、アマチュアは別です。
この2人にビルロート作曲の歌曲を演奏して頂けたら、どんなに幸せかと思います。
12月7日、頂いたチケットで、サントリーホールに聴きに行ってきました。サントリーホールに着いて、少し時間があったので、まず一杯。クリスマスツリーが飾られていましたが、クリスマスを忘れ去りたい私に対して、何かの嫌がらせでしょうか?
曲目は、ハイドンのオラトリオ「四季」。広上淳一指揮、日本フィルハーモニー交響楽団、ソプラノ野田ヒロ子、テノール福井敬、バス高橋啓三。東京音楽大学合唱団。
ハイドンはヘンデルの影響を受け、オラトリオ(管弦楽+合唱)を4曲作曲しました。うち、「天地創造」と「四季」が有名です。当日のプログラムの曲紹介からの引用です。
「ロンドンからウィーンに戻ったハイドンは、名高い音楽愛好家であり、ヘンデルの熱心な紹介者だったスヴィーテン男爵の協力を得る。男爵は、ハイドンのオラトリオ誕生に向けて、自ら筆をとって歌詞を書き、上演実現のために陰になり日向になって働いた。」
演奏が始まり、まずコンサートマスター、木野雅之さんの姿を発見して感動。日本人バイオリニストの中では、私が尊敬する方の一人です。私が大好きなミルシタインの弟子であるそうです。
やがて合唱が始まりましたが、非常にまとまりがあって綺麗でした。侵しがたい美しさがありました。歌詞の対訳も配布されていたため、内容を理解しながら聴くことが出来ました。
「春」第4曲の管弦楽は、交響曲「驚愕」の旋律。しかし、このオラトリオの中に用いられていたにも関わらず、違和感はありませんでした。
その時、バーンスタインの「音楽は何も意味しない」という言葉を思い出しました。本当に音楽がただ一つの意味を持つとすれば、多くのシチュエーションに当てはまることはないはずです。音楽は、音符の集まりに過ぎず、意味を持たない「曖昧」なものであるが故に、逆に強い表現力を持ちます。「曖昧さ」のない法律の文面に表現力がないこと、詩のように「曖昧な」文章は表現豊かであることを考えると理解しやすいと思います。といっても、限度がありますが・・・。
一曲を通じて、神への感謝を歌い上げていますが、自然の描写や、その素晴らしさを表現している点で、ベートーヴェンの交響曲「田園」と似た雰囲気を感じました。作曲手法としては、かなりフーガが多用されています。
ハイドンの時代のドイツ語の歌詞ですが、医学用語もいくつか登場していました。夏、第15曲、アリアから一例を挙げます。
感覚(Sinne)にはこよない蘇生
心(Herz)にはこよない回復
すべての欠陥をくまなく貫通し、
神経(Nerve)のすみずみにまで
爽やかな気持ちが行きわたる
こよない蘇生(Labung)・・・
魂(Seele)は目覚めて
歓喜を満喫する
新たな力が湧き、
穏やかな衝動で若者は
胸をときめかす・・・
最後の盛り上げ方は、指揮者が上手だと感じた瞬間です。演奏が終わった後、いつまでも拍手が鳴りやみませんでした。東京音大の学生による合唱だったためか、オケの団員達も観客と一緒に舞台の上から祝福の拍手をしていました。
19時開演で、演奏終了は21時40分。大作でした。席は半分くらい空席で、もったいないことだと思いました。
マレイ・ペライア演奏のゴールドベルク変奏曲(バッハ)のCDを聴きました。もともと、グレン・グールドのこの曲の演奏に感動して、ピアノを買ってしまったくらいなのですが、マレイ・ペライアの演奏も素晴らしかったです。グールドの演奏は、優しさに満ちあふれていますが、ペライアの演奏には荘厳さを感じます。
またまた、頂いたチケットでサントリーホールに行ってきました。
日本フィルハーモニー交響楽団
第585回定期演奏会
1.ヴァイオリン協奏曲(エルガー)
2.組曲<惑星>(ホルスト)
指揮:ジェームズ・ロッホラン、ヴァイオリン:川久保賜紀
川久保さんは、彼女がチャイコフスキーコンクールで2位受賞する前に、みなとみらいホールで演奏を聴き、「師のザハール・ブロンに表現力では及ぶべくもないが、ミスが少なくコンクール向け」と評した記憶があります。コンクールでは、予想通りとなりました。しかし、エルガーのコンチェルトが難曲だったためか、かなり傷のある演奏でした。まだまだ上達の余地がありそうです。
今回はなんといっても、<惑星>の中の、「金星」でのコン・マス木野雅之氏のソロですね。痺れました。<惑星>は全曲聴くのは初めてですが、素晴らしかったです。
コンサート会場で「山本直純フォーエヴァー~パロディーコンサート~」のCDを買いました。二度は聴かないと思いますが、最初聴いたときは笑わせて頂きました。1曲目の、交響曲第45番「宿命」(ベートーヴェン/山本直純変曲)は、おそらくベートーヴェンの第1-9交響曲を足し算して45を導いたのでしょう。交響曲全曲+他曲含めたパロディです。
また知人から頂いた招待券でコンサートに行ってきました。
新日本フィルハーモニー交響楽団
10,11月演奏会
1.歌劇『運命の力』序曲(ヴェルディ)
2.チェロ協奏曲 イ短調 作品129(シューマン)
3.メフィスト・ワルツ(リスト)
4.4つの管弦楽曲 作品12(バルトーク)
指揮:ジョルト・ナジ、チェロ:スティーブン・イッサーリス
序曲は、これから始まるオペラがわくわくするような、盛り上がりのある音楽となっています。ヴェルディもオペラの大家としてご多分にもれず、聴きやすい曲でした。
チェロのイッサーリスは、非常に妖艶な音で弾き出しましたが、早いパッセージでの響きが足りず、弦と弓の当たる衝撃音でかき消されていました。雨の日の日本のホールだということもあって、響きが自分の思い通りではなかったかもしれません。アンコールでは無伴奏の小品を弾いてくれました。曲名はわからなかったのですが、おそらくロマン派の小三部形式。鳥肌が立つくらい感動しました。会場がしんと静まりかえって、みんな息をするのさえ忘れて聴き入っていました。囁くような趣の演奏においては比肩する者がありません。
指揮者のナジはハンガリー人でリスト音楽院出身とのこと。このプログラムはよい趣向だったと思います。リストを聴きながら、以前訪れた、ブダペストのリストハウスを思い出しました。
全体を通して、オーケストラの音はとてもクリアでした。コンサート中、何度か各パートのソロがあったのですが、コンサートマスターの豊嶋泰嗣さんの音が非常に綺麗だったのが印象的でした。また、フルートの演奏が非常に上手でした。
知人から頂いた招待券でコンサートに行ってきました。
日本フィルハーモニー交響楽団
第222回横浜定期演奏会
1.オペラ<フィガロの結婚>序曲(モーツァルト)
2.オン・ブラマイフ(ヘンデル)
3.アヴェ・マリア(バッハ、グノー)
4.5つのコントルダンスより第1曲(モーツァルト)
5.オペラ<フィガロの結婚>より「やっとその時が来た~早く来て、愛しい人よ」(モーツァルト)
6.モテット<踊れ、喜べ、汝幸いなる魂よ>(モーツァルト)
7.交響曲第3番<英雄>(ベートーヴェン)
指揮:外山雄三、ソプラノ:森摩季
前半は非常に聴きやすい曲。歌手の歌唱力があったために、心地よく聴けました。オケの音も柔らかく、モーツァルトの雰囲気を作り出せていました。
ベートーヴェンも圧巻でした。第2楽章は非常にテンポがゆっくりでしたが、あっさり演奏されていたために、変にいやらしくならずに済んだと思います。特にコントラバスが良い雰囲気を作り出していました。
アンコールは、「フィデリオ(ベートーヴェン)」でした。指揮者が「尊敬する先輩の朝比奈隆先生は、偉大なるベートーヴェンの交響曲を演奏した後はアンコールは不要であると言いましたが・・・」と挨拶し聴衆爆笑。「(朝比奈先生のお叱りで)帰り道で落雷にあうかもしれませんが、アンコールは、フィデリオから行進曲です。」
帰り道は、みなとみらいだけあって、カップルが多く、クリスマスのイルミネーションを尻目に、逃げるように帰りました。