Category: クラシック音楽

アルテミス・カルテット

By , 2014年5月30日 10:30 PM

アルテミス・カルテットのコンサートに行ってきました。アルテミス弦楽四重奏団は、現在非常に評価の高いカルテットです。知り合いの集中治療医から声をかけていただき、当日券で聴くことが出来ました。

クァルテットの饗宴 2014

アルテミス・カルテット (ヴィネタ・サレイカ, グレゴール・ジーグル, フリーデマン・ヴァイグレ, エッカート・ルンゲ)

2014年5月27日 (火) 午後 7時 紀尾井ホール

ブラームス:弦楽四重奏曲第1番 ハ短調 Op.51-1

クルターグ:小オフィチウム アンドレーエ・セルヴァーンスキーを追悼して Op.28

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第 14番 嬰ハ短調 Op.131

まず一曲目はブラームス。洗練されていて、一つのスタイルとして完成されていました。しかし表現がやや抑制的であり、もう少し情熱的に盛り上がる方が、ブラームスの演奏としては私の好みでした。

クルターグは 15の短い部分から出来上がっていて、色々と音楽的な仕掛けのある曲です。あまり演奏が素晴らしかったので、うっとりと聴き入ってしまい、分析的に聴くことができませんでした。楽譜を見ながら何度か聴きたいと思いました。

ベートーヴェンは、私が最も好きな作曲家で、弦楽四重奏曲は普段から好んで聴くので楽しみにしていました。アルテミス・カルテットの演奏は、細部まで疎かにせず、練りに練っているのがよくわかりました。工夫が見えて楽しい演奏でした。また、この弦楽四重奏団はセカンドヴァイオリンのレベルがすごく高くて、表現力はファーストヴァイオリンと比べて遜色がありません。そのため、掛け合いなどでは、眼を閉じるとどちらが弾いているかわからないくらいバランスが良いのが、印象に残りました。

「完璧すぎるのが欠点」とまで言われたアルバン・ベルク弦楽四重奏団の後継者と目されているのが理解できる、素晴らしい弦楽四重奏団でした。

コンサートを終えて、いつもの如く Tizianoで軽く飲んで帰宅しました。

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Soloist evaluations of six Old Italian and six new violins

By , 2014年4月9日 6:59 AM

2012年4月19日のブログで、ヴァイオリンの新作楽器と “オールド” の弾き比べについての論文をお伝えしました。目隠しをしたプロのヴァイオリニストには、どれがストラディヴァリウスか当てることができないばかりか、新作楽器の方を名器として認識してしまうというものです。

2014年4月3日の PNASに、その研究の追試の結果が掲載されました。

Soloist evaluations of six Old Italian and six new violins

前回の研究より楽器の数を増やして研究していますが、トップ 2位まで新作楽器でした (第 3位は黄金期のストラディヴァリウス)。やはり、トップヴァイオリニストでもストラディヴァリウスの評価は低く、モダン楽器の評価の方が高いようです。そして、楽器が製作されてからの年数、価格と楽器から感じる品質に関連は乏しいと・・・。

別のニュースに、今回の研究に参加したヴァイオリニストの名前が載っています。成田達輝さんが入ってる (゚д゚)!

Blind-tested soloists unable to tell Stradivarius violins from modern instruments

The soloists taking part in the study were: Olivier Charlier (France), Pierre Fouchenneret (France), Yi-Jia Susanne Hou (Canada), Ilya Kaler (pictured, Russia), Elmar Oliveira (US), Tatsuki Narita (France), Solenne Païdassi (France), Annick Roussin (France), Giora Schmidt (US), and Stéphane Tran Ngoc (France).

上記のニュースには、ホールでの演奏や、演奏者と聴衆の評価の違いなど、さらに 2本の論文を発表する予定だと書かれていました。続報が楽しみです。

(参考)

YAKINIKU

調整

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東京シティフィル 第277回定期演奏会

By , 2014年2月21日 5:43 AM

2014年2月14日、成田達揮さんのコンサートを聴きに行きました。

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

第 277回定期演奏会

2014年2月14日金曜日 7:00 pm 東京オペラシティコンサートホール

1. ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト

歌劇「イドメネオ」のためのバレエ音楽 K. 367

2. ニコロ・パガニーニ

ヴァイオリン協奏曲 第 1番 ニ長調 作品 6

3. ロベルト・シューマン

交響曲 第 2番 ハ長調 作品 61

指揮:ロッセン・ミラノフ ヴァイオリン:成田達揮 コンサートマスター:戸澤哲夫

この日は大雪。都内の交通が麻痺していました。

東京地方に大雪警報、ひと冬に2回発表は16年ぶり

2014年2月14日 23時15分

14日午後10時半過ぎに、東京23区に大雪警報が発表された。先週の8日に続き、東京地方に大雪警報が発表されるのは今季で2回目。ひと冬で2回大雪警報が発表されるのは、1998年以来で16年ぶりのことだ。関東は15日の明け方にかけて大雪に警戒が必要で、気象庁は大雪による交通障害に警戒を呼びかけている。(日本気象協会)

横浜は16年ぶりに積雪20センチ以上の大雪

14日午後11時の積雪は、東京都心は13センチ、千葉市は13センチ、熊谷市は32センチ。横浜市は22センチと、1998年以来16年ぶりに積雪が20センチを超えた。記録的な大雪となっている甲府は積雪76センチ。関東甲信は15日の明け方にかけて大雪に警戒が必要だ。

(2014年2月14日 23時15分)

コンサート 30分前に会場に着けるように病院を出たのですが、雪で電車が遅れまくり、着いたのは 1曲目の終わりでした。しかし、成田達輝さんのソロ曲には何とか間に合いました。

パガニーニは、成田さんの十八番。この難曲を余裕を持って演奏していたのはさすがでした。でも、指揮者との相性はあまり良くなかったようで・・。しかし、どうやってでも聴かせる演奏にできるところが、ソリストの力量でしょう。第一楽章のカデンツァは、特に美しかったです。アンコールは、パガニーニのカプリス第 1番、そして浜辺の歌 (成田為三作曲)でした。パガニーニのカプリスは成田さんの得意曲です。浜辺の歌は派手な曲の後にシンミリときました。

演奏会の半分が終わって休憩の時に、成田達輝さんのお父様に挨拶をされて、「いつもブログを見ています」と言われて恐縮しました。

パガニーニのプログラムで指揮者の力量を少し疑ったのですが、後半のシューマンは、素晴らしい出来でした。この指揮者、パガニーニはイケてなかったけど、シューマンの演奏を聴くと実力はあるのでしょうね。

演奏会が終わってから、某病院集中治療部の H先生らと楽屋に遊びに行きました。まず、コンサートマスターの戸澤さんに挨拶。H先生と同じ中学校・高校の 1学年違いで、意気投合していました。その後、シティ・フィル事務局長の新井さんと挨拶しましたが、H先生と新井さんは一緒に食事をしたことがあるようでした。

その後、成田さんの楽屋に入って、準備が終わってから食事会に行きました。タクシーがつかまらず、電車での移動。新宿駅に着いて、何とかタクシーを捕まえました。かなり雪が積もっていて、成田さんが楽器を持って転ばないかヒヤヒヤしました。持っているのが高価な楽器ですし、そして手を怪我したら、演奏活動にも影響しますしね。

食事会は、新宿ワシントンホテルの六角。数人で、すき焼きを楽しみました。成田さんが中学生の頃、パガニーニのカプリスの楽譜を手に入れて、あまりの嬉しさに 1日で全曲通して弾いてみたと聞いた時はビックリしました。天才は違いますね。

パリで一緒に食事したときは、シゲティ著の「ベートーヴェンのヴァイオリン作品―演奏家と聴衆のために」という本を差し上げたのですが、今回は Mx Rostal著の “Beethoven: The Sonatas for Piano and Violin”  という本を差し上げたら、喜んで頂けました。Rostalは、以前私がお貸しした CDに収録されていた演奏家です。

食事中、私が one bow staccatoが苦手だと話をしたら、あまりの雪で他に客が居なくて、さらに個室だったので、サイレンサーをつけて、軽く弾いてみてくださいました。彼がうまく弾けなかった頃、師匠の藤原浜雄先生から、きちんと弓で弦を捕まえるように、”bite!” と指導されたそうです。

その後、Bazziniの「妖精の踊り」のボウイングの話になりました。下記動画で 55秒くらいからのボウイングがうまくいかないと私が話したら、「アップボウでは腕自体を引き上げる感じ」「特に上腕の筋肉に力は入れていない」と実際に弾いてみせてくれました。こちらはアドヴァイスを聞いて自宅で練習したら、ある程度弾けるようになりました。何と贅沢な指導・・・。

そして、成田さんに Bazziniの曲を演奏会でアンコールとして弾いてくださるようにリクエストしたら、検討して頂けるとのことでした。楽しみです。成田さんの華麗なボウイングとの相性が良いと思うのですよね。

・Bazzini – La ronde des lutins (bazzini)

その食事会では、話しませんでしたが、アンコール・ピースとして個人的に期待したいのは下記のような曲達・・・ (^^;

・Gil Shaham – Sarasate, Zapateado

・Scherzo-Tarantelle

・Nathan Milstein plays Kreisler Praeludium and Allegro in the Style of Pugnani

・Scott Joplin – Easy Winners (Itzhak Perlman / Andre Previn)

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アンドレアス・シュタイアー

By , 2013年12月24日 6:19 AM

2013年12月11日にアンドレアス・シュタイアーと佐藤俊介のコンサートに行って来ました。

アンドレアス・シュタイアー プロジェクト8

12月11日 (水) 19:00 トッパンホール

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト

フォルテピアノとヴァイオリンのためのソナタ ハ長調 K303 (293c)

フォルテピアノ・ソナタ第8番 イ短調 K310 (300d)

フォルテピアノとヴァイオリンのためのソナタ ホ短調 K304 (300c)

「ああ、私は恋人を失った」の主題による6つの変奏曲 ト短調 K360 (374b)

フォルテピアノとヴァイオリンのためのソナタ ニ長調 K306 (300l)

使用楽器:アントン・ワルター (1800年頃・ウィーン) の複製

アンドレアス・シュタイアー:フォルテピアノ、佐藤俊介:ヴァイオリン

佐藤俊介氏は、過去にブログでも紹介したことのある演奏家です。2009年からメアリー・ウティガーのもとでピリオド奏法を勉強しているということで期待して聴きに行きました。

ところが、前半は期待はずれ。演奏者が硬くなっていたためか、音に伸びやかさがなく、ピリオド奏法の良さが発揮されていませんでした。シュタイアーが演奏するフォルテピアノ・ソナタも、綺麗ではありましたが、均一に演奏されるべきパッセージで変なアクセントがついてしまっているところが気になりました。

ところが、後半に入ってから一変。「これぞピリオド奏法」という演奏で、聴いていて脳内に快楽物質がたくさん出てくるのを実感しました。特に、「『ああ、私は恋人を失った』の主題による6つの変奏曲」は初めてじっくりと聴きましたが、素晴らしい曲ですね。K306の装飾の入れ方もとても綺麗でした。後半だけで、行ったことに満足できる演奏会でした。

(参考)

アンドレアス・シュタイアー&佐藤俊介 (朝日新聞による批評)

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ウィーン・フィル

By , 2013年11月14日 7:32 AM

ウィーン・フィルのリハーサルを聴いてきました。知り合いの医師がチケットを取っていたのですが、大阪で講演があるため行けなくなり、頂いたのです。席はホール前方真ん中の 1階 9列 20番と、贅沢な場所でした。

リハーサルは午前 10時開始。私は午前 9時まで西東京市で当直をしていて、ダッシュでコンサートホールに向かい、着いたのは扉が閉まる数十秒前でした。ギリギリセーフ!

ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン 2103

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

クリスティアン・ティーレマン指揮

無料公開リハサール

サントリーホール 大ホール 2013.11.10 (日) 10:00AM開始

最初の音から感動。久しぶりに聴いたウィーン・フィルの、甘い独特の音です。オーケストラは対向配置で、さらに客席側に経験豊かな奏者を並べていました。

一曲目はベートーヴェンの交響曲第 6番「田園」。1楽章はテンポを 1~2割落として、抑揚を付けずに演奏していました。おそらく、指揮者とオーケストラが互いを探り合っていたのでしょう。楽譜通りで何も表現しない演奏で、正直つまらなかったです。しかし、ウィーン・フィルの団員がそんな演奏に耐えられるはずがありません。徐々に抑揚をつけ始め、パート間がバラバラになるのをお構いなくテンポを前に引っ張始めました。そして、2楽章以降は通常のテンポ。終楽章は終わりの部分のハーモニーの音程が非常に悪くて (弦楽器の音程が高くて、管楽器が低い)、指揮者が何度もやり直していました。ウィーン・フィルでもこういうことがあるんですね。

次はベートーヴェンの交響曲第 5番「運命」。1楽章の冒頭、柔らかい音色に定評があるウィーン・フィルにここまで硬質な音が出せるのかとびっくりしました。続いて、2, 3楽章の出だしと、4楽章のフィナーレを練習。

最後はベートーヴェンの交響曲第 4番。1楽章の提示部と展開部などを練習していました。指揮者の指示は、声が客席まで届かず、よくわかりませんでした。

練習は 11時に終了。各パートがばらつく部分が結構あったのが気になりましたが、ウィーン・フィルならその辺は本番うまくやるのでしょう。日程的、金銭的事情 (プレミアムチケット全6公演 S席 200000円!, 1回券 S席 35000円!) で本番を聴くことができないのは残念でした。

サントリーホールの 2階で、ウィーン楽友協会アルヒーフ所蔵「人間、ベートーヴェン展」をしていたので、見てから帰りました。

 

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成田達輝&萩原麻未デュオ・リサイタル

By , 2013年11月11日 7:53 AM

2013年11月6日に「成田達輝&萩原麻未デュオ・リサイタル」を聴きに行きました。

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5番 ヘ長調 Op.24 「春」

ストラヴィンスキー:協奏的二重奏曲

酒井健治:カスム

グリーグ:ヴァイオリン・ソナタ第3番 ハ短調 Op.45

成田達輝 (ヴァイオリン), 萩原麻未 (ピアノ)

2013年11月6日(水) 浜離宮朝日ホール

成田達輝さんと 7月7日に焼肉を食べた時に、是非聴きに欲しいとチラシを頂いたコンサートです。成田達輝さんとパリ (それも、ポリーニ行きつけのイタリア料理の店) でスプリング・ソナタについて語り合ったり、酒井健治さんにブリュッセルでカスムの話を伺ったりして、準備段階から楽しみにしていました。萩原麻未さんとは、何人かで食事をしたことはありますが、演奏を聴くのは初めてでした。

まず一曲目、ベートーヴェンのスプリング・ソナタは、斬新な解釈をしていて、聴き慣れた曲がすごく新鮮でした。しかし特に一楽章で、やりたいことを少し盛り込みすぎな感がありました。あと、調律が高めに設定されていて、この時期の作品ならもう少し低めの方が好みでした。とはいえ、ヴァイオリンとピアノのバランスが良く、3楽章の細かいパッセージの歯切れ良さ、4楽章展開部の高揚感など素晴らしかったです。

二曲目、ストラヴィンスキーのこの曲は初めて聴きました。綺麗な曲で、特に第5楽章のデュオニソス (酒神バッカス) への賛歌の美しさは、この世のものとは思えませんでした。

三曲目は、一番楽しみにしていた「カスム」です。パンフレットの曲目解説は酒井健治氏御自身がなさっています。

 ヴァイオリンとピアノのための短い作品「カスム」は、成田達輝さんからオーロラを題材とした作品を、と依頼を受けて書かれました。

カスム (英:Chasm) は現在では亀裂を意味しますが、古代ローマではオーロラを意味し、アリストテレスは空の裂け目と表現しました。古代中国や中世のヨーロッパでは、オーロラの発生は不吉な事の前触れだと信じられてきたそうですが、この意味に触発され、美しいビロードのような音楽、というよりも静寂を劈く短いパッセージをモチーフに書かれております。

今回、成田達輝さんと萩原麻未さんという素晴らしいヴィルトゥオーゾのお二人が初演するという事で、楽曲は完全にユニゾンで始まりますが、次第に乖離し、ソリストとしての彼らの魅力が伝わる様にそれぞれ短いカデンツァを配置しました。演奏者達にお互いの音楽性を同調させる事を求めつつ、同時に独自の音楽性を発揮しなければいけないこの作品は、成田達輝さんと萩原麻未さんに献呈されました。

一度聴いただけでは把握しきれませんでしたが、冒頭のユニゾンでのトリルのような速いパッセージから、細かい動きが突然止まってカスムを演出したりしながら、いつの間にか乖離してそれぞれのカデンツァに移行。今まで聴いた現代曲の中で最も素晴らしい作品でした。コンサートが終わってから、会場にいた酒井健治さんに「過去に 2度聴きたいと思った現代曲はないけれど、この曲は何度でも聴きたいです」と伝えたところ、「そうでしょう。現代曲も良いものは良いんです。」と仰っていました。演奏テクニック的には凄まじく難易度が高い曲で、成田達輝さんと萩原麻未さんの組み合わせくらいでなければ、この曲をここまで完璧に演奏することはできなかったでしょう。裏話ですが、ブリュッセルで酒井健治さんと飲んだ時に、「成田達輝さんとパリで会うのだけど、伝えることありますか?」と聞いたら、ニヤリと笑って「難しく書いておいたから、練習頑張ってね」と仰っていたのです。酒井健治さんのドSな芸術に妥協しない一面を見た気がしました(^^;

四曲目のグリーグはカスムに負けず劣らず完璧な演奏でした。ヴァイオリンとピアノのヴィルトゥオージティーがバランスよく融け合って、この曲から迸るような情熱を引き出していました。

グリーグのこのソナタは、私が中学生時代に一度やめていたヴァイオリンを再開しようと思ったきっかけの曲です。ヴァイオリンの緒方恵先生がピアニストの白石光隆氏とこの曲を演奏しているのを演奏会で聴いて、あまりの美しさにもう一度ヴァイオリンをさらおうと思ったのです。私が最も好きな 2楽章冒頭のピアノソロは、洞窟の中を歩くような神秘的な煌きがありながら、慈愛に満ちた優しさも感じさせます。萩原麻未さんは、この部分をとても綺麗に弾いていました (下記動画は別の演奏家によるグリーグのヴァイオリン・ソナタ第3番第2楽章)。

・Duo Birringer – Grieg Sonata c minor op.45/3 – 2nd mov.

アンコールは、グリーグとストラヴィンスキーから、それぞれ一曲ずつでした。

会場では、2枚の CDを買いました。一枚目は「成田達輝 デビュー!」です。成田さんが十八番にしているフランスの作曲家やパガニーニのカプリスが収録されています。もう一枚は「HAGIWARA PAREDES -EL SISTEMA YOUTH ORCHESTRA OF CARACAS- (KJ26201)」で、東日本復興支援チャリティCDです。エル・システマ・ユース・オーケストラ・オブ・カラカスとの演奏で、グリーグのピアノ協奏曲イ短調作品16と、ショスタコーヴィチの交響曲第5番ニ短調作品47が収録されています。帯に「演奏者は録音の印税収入を放棄し、収益を被災地の復興支援のために寄付します」と書かれていました。ライナーノーツの冒頭に演奏者たちのメッセージがあります。

東日本大震災で命を落とされた方を悼み、傷ついた方、近しい人を亡くした方、大切な地を壊された方の痛みと哀しみを想像しております。「エル・システマ」のモットーは「トカール・イ・リチャール」、つまり、平和のために楽器を奏で、物事に立ち向かうことです。このたび音楽によって、世界中が敬意を表すべき地・福島の復興に寄与できることは光栄です。

ホセ・アントニオ・アブレウ

今年8月6日「原爆の日」に、故郷の広島で演奏しました。原子爆弾が投下され、向こう数十年は草さえ茂らないだろうと言われていた広島が、時を経た今、緑あふれる美しい街に変貌したことに思いを馳せました。このたび、ベネズエラの仲間たちと行った演奏を通じて、福島の復興に微力ながら携われることになり、広島の長い復興の歩みをふたたび思い起こしています。福島が以前の姿をとり戻すことができるよう、祈り続けていきたいと思います。

萩原麻未

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ISABELLE FAUST

By , 2013年11月2日 11:19 PM

2013年10月29日、フィリアホールでイザベル・ファウストの演奏を聴いてきました。”JUST ONE WORLD SERIES (ただ一つの世界)” と銘打たれた企画の一つで、全て無伴奏ヴァイオリン曲です。私がファウストの演奏を聴くのは、2000年10月7日にサントリーホールでバッハの無伴奏パルティータ第2&3番、バルトークの無伴奏ヴァイオリンソナタを聴いて以来です。フィリアホールは狭いホールで、まさに無伴奏曲を聴くにはうってつけでした。

(余談ですが、コンサート開始前に飲んだ、ハチミツを発酵させたハニーワインも美味しかったです。Wikipediaで見ると、ハネムーンは、ハニーワインが語源なんですね)

ISABELLE FAUST VIOLIN

J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番

ヤニス・クセナキス ミッカ (1972)

J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第3番

シャチント・シェルシ 開かれた魂 (1973)

J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番

2013.10.29 (火) 19:00

(インタビュー)

一曲目のパルティータ第3番は、それが舞曲であることが強く伝わってきました。音の一つ一つに意図がはっきりしていたし、繰り返しの部分では弾き方をガラリと変えるなど、配慮が行き届いていました。素晴らしい演奏で、一気に引きこまれました。ボウイングや、装飾の付け方を見ると、古楽器での演奏をかなり意識していることがわかりました。

三曲目のソナタ第3番は、一転して重厚な演奏。舞曲であるパルティータとの対比が際立っていました。第2楽章フーガの主題を呈示する最も大事な部分で、近くの聴衆が音を立てて現実に引き戻された時以外は、世俗的なことから完全に離れて楽しむことができました。第3楽章は Largoで、私が失恋直後に好んで弾いていた曲です (^^; 私は感情を込めてベッタリと演奏していたのですが、ヴァイオリンの師から「重い」と言われました。前の楽章フーガは、バッハの3つの無伴奏ヴァイオリンソナタのなかでも最も長大なものです。そのため、Largoはフーガの余韻の中で演奏されることが意識されなければいけません。壮大な曲の後に胃もたれを起こすような演奏ではいけないのです。ファウストの演奏は、フーガの余韻を楽しませてくれるものでした。

・Isabelle Faust Plays Bach’s Sonata No. 3 in C Major, BWV 1005, Largo

コンサート後半ではパルティータ第2番が演奏されました。第1楽章はかなりゆっくりとしたテンポ。私自身が演奏するよりもかなりテンポが遅かったことについて、コンサート中にはファウストの意図がわからなかったのですが、後日、増田良介氏が書いたファウストの CDのライナーノーツを見て、その理由がわかりました。

この曲が、緩-急-緩-急-緩という対称的な構成を持つ楽曲であったことを、ファウストの演奏は思い出させてくれる。

パルティータ第2番の最終楽章のシャコンヌはあまりにも有名です。素晴らしい出来栄えで、ファウスト自身も満足だったのか、演奏後に会心の表情を浮かべていました。

ここまでバッハの感想ばかりを書きましたが、「ミッカ」「開かれた魂」も完璧な演奏でした。どちらもグリッサンドが多用された曲で、音の周波数変化と独特の音色が印象的でした。10月にブリュッセルで作曲家の酒井健治氏と飲んだ時に、「最近の現代音楽ではグリッサンドという技法がかなり高く評価されている」と聞いたのを思い出しました。

アンコールはバッハの無伴奏ヴァイオリンソナタの第1番の第1楽章と第3楽章。どちらも素晴らしかったのですが、第1楽章の最初の方では音を外したのかと思ってドキッとしました。ミの音にフラットを付け忘れたように聞こえたのです。帰宅してファウストの CDで確認すると、やはりミの音にフラットをつけていません (下図赤丸部分)。何かファウストなりの意図があるのでしょう。よくわかりませんが、ひょっとすると、バッハ以前の時代にしばしば用いられた旋法の影響を解釈に加えた結果なのかもしれません (この曲は綺麗な自筆譜が残っているので、楽譜の版が違うとは考えにくい)。

Sonata No.1 1st movement

Sonata No.1 1st movement

(※楽譜は IMSLPより加工。http://imslp.org/wiki/6_Violin_Sonatas_and_Partitas,_BWV_1001-1006_(Bach,_Johann_Sebastian))

最後に、コンサートホールで購入したファウストの CDを紹介しておきます。全て聴きましたが、どれも御薦めです。

J.S. バッハ:無伴奏ソナタ&パルティータ集 [輸入盤・日本語解説書付] (J.S.Bach: Sonatas & Partitas BWV 1004-1006 / Isabelle Faust (Vn))

J.S.バッハ: 無伴奏ソナタ&パルティータ集 VOL.2 (J.S.Bach : Sonatas & Partitas BWV 1001-1003 / Isabelle Faust)

ベルク&ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 (Berg & Beethoven : Violin Concertos / Orchestra Mozart, Isabelle Faust, Claudio Abbado)

ベートーヴェン: ヴァイオリン・ソナタ集(全曲) (Beethoven: Complete Sonatas for Piano & Violin) (4CD) 

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ショパン、そしてイザイ

By , 2013年10月20日 12:43 AM

ショパンが作曲して、イザイが編曲した作品が校正され、このたび演奏されました。演奏したのは成田達輝さんです。リンク先動画で、一部演奏を聴くことが出来ます。

ショパンの名曲 日本人音楽家の手で復活

10月19日 5時29分

ショパンが作曲し、世界的に有名なバイオリニスト、イザイが編曲した作品が、楽譜の校正を手がけた日本人の音楽家によってよみがえり、18日、イザイが生まれたベルギーで関係者らを招いて演奏会が行われました。

ショパンの作曲で、ベルギーのバイオリニスト、ウジューヌ・イザイが1919年に編曲した「バラード第1番」は、イザイ直筆の楽譜がアメリカ議会の国立図書館に保管されていますが、判読が難しいこともあって世に出されていませんでした。
これを知った福岡県出身のピアニスト、永田郁代さんが数年がかりで楽譜の校正作業に取り組んでいたもので、18日、ベルギーの首都ブリュッセルにある日本大使公邸で、関係者を招いて演奏会が開かれました。
この日は、イザイの名前がついた音楽祭を継承した「エリザベート王妃国際音楽コンクール」で去年2位に輝いたバイオリニストの成田達輝さんが演奏し、イザイの出身地でおよそ1世紀ぶりによみがえった名曲に、会場からは惜しみない拍手が送られました。
演奏会に出席したイザイの孫のミシェルさんは「私たちも知らなかった祖父が編曲したショパンの名作を聞くことができて感動しています」と話していました。
また永田さんは「直筆の楽譜を見て世に出したいという気持ちで校正を行いましたが、イザイの出身国で演奏会ができて、ことばに言い表せないくらいうれしいです」と話していました。

ちなみに 2~3週間前にパリで成田さんと食事をした時は、この話題は出ませんでした (^^; 是非全曲聴いてみたいですね。

短期間のうちにイザイの無伴奏曲全曲とか、リサイタルの準備とか、オーケストラとのソロとかさらわなくちゃいけなくて、忙しいとは聞きましたが、こんな演奏会もされていたんですね。頭が下がります。

成田達輝さんのオフィシャル・サイトでは、今後のコンサート情報が紹介されています

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ハーゲン弦楽四重奏団

By , 2013年9月29日 10:07 PM

ハーゲン弦楽四重奏団のベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会後編の初日を聴いてきました。

2013年9月29日 (日) 17:00~ TOPPAN HALL

1. 弦楽四重奏曲第 3番 ニ長調 Op. 18-3 (L.v.Beethoven)

2. 弦楽四重奏曲第 5番 イ長調 Op. 18-5 (L.v.Beethoven)

3. 弦楽四重奏曲第 12番 変ホ長調 Op.127 (L.v.Beethoven)

Hagen Quartett

ハーゲン弦楽四重奏団を生で聴くのは 12年ぶりでした。12年前は髪の毛が黒々としていた彼らも、今回はほぼ全員白髪になっていて、第二ヴァイオリンにいたっては、頭頂部に素肌が (ry

演奏はちょっと違和感のある始まりでした。過剰ともいえるアゴーギクが気になったからです。しかし、演奏が進むにつれてそれが自然に思えてきて、やがて「Beethovenの初期弦楽四重奏曲はこんなに幅広く解釈できるんだ」という驚きが生まれました。

如何にエキサイティングなベートーヴェンかというと、プログラムノートにもこう書いてあります。

しかし私は初期作品の演奏に、これほどの衝撃を受けることは予想だにしていなかった。彼らの演奏から浮かび上がった作品の姿は、これまでの考え方を根本から覆すものだったからだ。我々はこれまで「作品18」についてベートーヴェンならではの様々な工夫が随所になされているものの、基本的にはまだ先輩ハイドンやモーツァルトの作法を踏襲している部分が多いという見方をすることが多かった。しかしハーゲン・クァルテットの演奏から浮かび上がった「作品18」の姿は、どれもが、これまで聴いたことがないような斬新さにあふれ、こんなにも新しい考えが、こんなにも新しい語り口によって、衝撃的に語られていたものだったのかという驚きの連続だったのだ。

斬新な解釈に加えて、美しい音、有機的に絡み合う各パート、まさに世界最高峰の弦楽四重奏団の一つというにふさわしかったです。

気になった点としては、前半、特に第一ヴァイオリンにテクニック的な傷が少しあったこと (技術的難所で音が上ずる、弓速が速すぎて時々音がかすれる) 。しかし、硬さがとれるとともにあまり気にならなくなりました。

コンサートが終わってからはサイン会があり、プログラムと購入した DVDに 4人のサインを頂きました。宝物になりそうです。

さて、最後に私が 12年前に聴いたハーゲン弦楽四重奏団の演奏会のプログラムも記しておきます。今回のシリーズで大フーガを 12年前と聴き比べ出来ると良かったのですけれど、日程的に叶いませんでした。

2001年10月3日 (水) 19:00~ 紀尾井ホール

1. 抒情組曲 (A. Berg)

2. 弦楽四重奏曲第 13番 変ロ長調 Op. 130/大フーガ 変ロ長調 Op. 133 (L.v.Beethoven)

Hagen Quartett

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シューマンのヴァイオリン・ソナタ

By , 2013年9月26日 7:36 AM

ロベルト・シューマンはヴァイオリン・ソナタを3曲書いています。その中でも、第3番は精神疾患を増悪させて亡くなる数年前に書かれた作品で、F.A.E.ソナタが下敷きになっています。

F.A.E.ソナタは、おそらくシューマンの発案で、第一楽章をディートリヒ、第三楽章をブラームス、第二・第四楽章をシューマンが作曲して、一つの曲として完成しています。シューマンはこの出来が気に入って、第二・四楽章を下敷きにヴァイオリン・ソナタ第3番を作曲しました。下記のような対応になっています。

シューマンのヴァイオリンソナタ第3番
1. Allegro→書きおろし
2. Scherzo→書きおろし
3. Intermezzo→F.A.E.ソナタ第2楽章
4. Finale→F.A.E.ソナタ第4楽章

是非聴きたいと思って CDを探していたら、カントロフが録音していました。

ヴァイオリン・ソナタ第1番、第2番、第3番 カントロフ、ヴォロンダット

素晴らしい演奏です。

しかし疑問点が一点。CDのジャケットは下記のようになっています。

1. Allegro
2. Scherzo
3. Intermezzo
4. Finale

ところが実際の演奏は次のようになっています。

1. Allegro
2. Intermezzo
3. Scherzo
4. Finale

何故かと思ってネットで調べてみると、ウルフ・ヴァーリン/ローランド・ペンティネンの演奏でも同じ楽章配置にされているようで、慣習的にそうされているのかもしれません。

シューマンの「ヴァイオリン・ソナタ第1番 – 第3番」

ただし、このディスクの演奏では、「F.A.E.ソナタ」の第2楽章と第4楽章をそのままにして、新たに作曲された“Ziemlich langsam”を第1楽章に、“Scherzo”を第3楽章に配置している。「第1番」だけが3楽章様式で、その他は4楽章様式であるが、いずれも燃え尽きる前の炎の輝きに似た情念が、暗鬱な抒情性の中に凝縮されている。

カントロフの録音はお薦めなので、シューマンに興味がある方は聴いてみてください。ちなみに、カントロフは成田達輝さんの師匠でもあります。奇遇なことに、eぶらあぼ 10月号37ページに成田達輝さんのインタビューが載っているのを今朝知りました。併せてどうぞ。

eぶらあぼ2013.10月号

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