C9orf72とアルツハイマー病、そしてグアムALS

By , 2013年4月21日 11:17 PM

2013年 4月 15 日の Archives of Neurology誌 (Published online) に、臨床的にアルツハイマー病と診断された患者におけるC9orf72 6塩基反復伸長についての論文が掲載されました。

C9orf72 Hexanucleotide Repeat Expansions in Clinical Alzheimer Disease

家族性アルツハイマー病は amyloid precursor protein (APP), presenilin2 (PSEN2) 遺伝子の変異が原因となりうるが、一方で前頭側頭型認知症 (Frontotemporal dementia; FTD) の原因遺伝子 microtubule-associated protein tau (MAPT), granulin (GRN) の変異もまた臨床的アルツハイマー病患者で検出されることがあるため、アルツハイマー病と健忘型 FTD (amnesic FTD) の表現型はオーバーラップしているのではないかと言われている。

近年注目されている FTDおよび ALSの原因遺伝子 C9orf72を臨床的アルツハイマー病患者で調べた研究は過去に 2報存在する。最初の報告は C9orf72の 6塩基反復伸長が家族性アルツハイマー病 342例中 3例、孤発性アルツハイマー病 711例中 6例に見られたとするものである。うち 2例の剖検報告ではアルツハイマー病というより FTD病理だった。次の報告では、臨床的にアルツハイマー病とされた患者 568例中、C9orf72 6塩基反復伸長のある患者はいなかった。

今回著者らは、872家系の家族性アルツハイマー病患者と、888例の正常コントロールを調べた。その結果、家族性アルツハイマー病患者群の 5例 (0.57%, いずれも白人)、正常コントロール群の 1例で 6塩基反復の伸長 (30リピート以上) を認めた。家族性アルツハイマー病の患者 5例はいずれも APP, PSEN1, PSEN2, GRN, MAPTにおいて、よく見られるような変異はなかった。5家系のうち 3家系では C9orf72反復は 1000リピート以上だったが、2例では 30~100リピートであり、後者ではどの程度の関連があるかは不明である。

家系 1の患者はこの家系における変異の創始者で、 C9orf72の 6塩基反復は 1200-1300リピートだった。73歳でアルツハイマー病と診断された。12年後に死亡し、剖検がなされた。病理学的には neurofibrillary tangleや plaqueが、新皮質、海馬、扁桃体、マイネルト基底核に豊富にみられた (>40 plaques/100 x field)。またレヴィー小体が散在していた。レヴィー小体を伴った黒質緻密部の神経細胞も見られた。残念なことに、検体は (tau, ubiquitin, TDP-43, p62など) の追加検査には使用不能だった ( 家系 2~5の患者は簡単な臨床症状の記載のみで病理の記載なし)。

正常範囲内の反復であれば、反復回数が多くなるからアルツハイマー病のリスクになるということはなかった。

また、著者らが PSEN1 A79V変異の有無を調べた所、872家系のうち 4例 (0.46%) で変異を認めた。今回のコホート研究では、C9orf72の 6塩基の著明な反復伸長 (3/872) は、PSEN A79V (4/872) に次ぐアルツハイマー病のリスクと言える。興味深いことに、アルツハイマー病に関連した変異 (APP, PSEN1, PSEN2) は 1.82%に見られたのに対し、FTDに関連した変異 (MAPT, GRN, C9orf72) は1.94%に見られた。アルツハイマー病において、FTD関連遺伝子変異はアルツハイマー病遺伝子変異と同じくらい一般的に見られるものだった。

どうやら、C9orf72の 6塩基反復伸長の表現型は、筋萎縮性側索硬化症 (ALS)、前頭側頭葉変性症 (FTLD), FTLD-ALS, 臨床的アルツハイマー病と多彩であるらしい。

C9orf72がアルツハイマー病にも関係しているとなると、この遺伝子が何者なのか、ますます訳がわからなくなってきました。また、遺伝子変異と病理所見との整合性をどうつけるのかも悩ましいです。続報を待ちたいと思います。

さて、上記以外にも、C9orf72に関する興味深い論文が同じ日の Archives of Neurology誌に掲載されていました。

C9orf72 Hexanucleotide Repeat Expansion and Guam Amyotrophic Lateral Sclerosis–Parkinsonism-Dementia Complex

日本の紀井半島や、グアムのチャモロ族では、筋萎縮性側索硬化症とパーキンソン認知症複合 (amyotrophic lateral screlosis and parkinsonism-dementia complex; ALS-PDC) が高い頻度で見られることが知られている。C9orf72の 6塩基反復伸長が ALSのみならずパーキンソニズムを起こすことが報告されていることや、紀伊半島 ALSの約 20%で C9orf72の 6塩基反復伸長が見られることが報告されていることから、著者らはグアムのチャモロ族で C9orf72の 6塩基反復伸長がみられるかどうか調べた。対象は 24例の ALSと 22例の PDC患者で、1例を除いて全てチャモロ族だった。チャモロ族で C9orf72の 6塩基反復伸長がみられた患者はいなかった。1例のみ C9orf72 6塩基反復伸長がみられたが、アメリカで生まれた白人であり、チャモロ族とは無関係であった。また、Parkinson病の原因遺伝子である LRRK2変異を伴った患者はいなかった。

グアム ALS, ALS-PDCは日本人の平野先生が精力的に研究していた疾患です。今回の論文を読むと、紀伊半島とグアムの ALS-PDCは、遺伝学的なバックグラウンドが異なるのかもしれないのですね。C9orf72以外の遺伝子がどうなっているか、今後注目です。

話はがらりと変わりますが、アメリカのインディアンやアラスカの先住民では、白人より ALSの発症率が低そうだというのが 2013年 4月号の Archives of Neurology誌 (Published onlineは 2月 25日) に載っていました。こうした疫学的な調査結果も、将来は遺伝子で説明される時代がくるのでしょうか。

(追記)
アルツハイマー病の治療薬開発が何故難しいのか、ワイリー・ヘルスサイエンスカフェに岩田淳先生のわかりやすい解説があります。併せてどうぞ。

アルツハイマー病の病態修飾治療 課題と希望

  1. ADを自然発症するマウスは存在しないため,モデルマウスは遺伝子導入マウスであり,アミロイドカスケード仮説に沿って作成されている.そして現在開発されている多くの病態修飾薬はアミロイドβ(Aβ)に対するものである.今までの様々な知見からAβの蓄積がAD発症に密接に関与している事は恐らく確かであるが,それでも臨床試験が行われてきた薬剤が正しい標的へと向いているかどうかは常に検証すべきである.
  2. ADの診断は従来NINCDS-ADRDA基準で行われてきた.この基準ではレビー小体型認知症,前頭側頭葉萎縮症などのAD以外の認知症の混入が避けられないため、分子標的薬の効果が元々ない症例が存在していた可能性がある.
  3. 例え標的が正しくても,その効果の評価方法に問題がある可能性がある.AD治療薬の有効性を示すために必要な事は『認知機能の改善』であるが,いかに優秀なサイコメトリーのバッテリーでも体調や検者によるばらつきが多いため,統計学的有意差を持った有効性を見いだすために必要な被験者数は膨大となる.
  4. ADの自然経過を追うことでAβ蓄積は認知症発症の15年近く以前より生じている事が判明してきた.現在臨床試験が行われてきたAβ標的薬は認知症を発症してしまった段階では既に遅きに失している可能性がある.これは,心筋梗塞を発症してICUに入室した患者に対して禁煙を勧めたり,スタチンを投与したりすることと同等であろう.

Leave a Reply

Panorama Theme by Themocracy