認知症診療のこれまでとこれから

By , 2009年7月3日 7:51 AM

「認知症診療のこれまでとこれから(長谷川和夫著、永井書店)」を読みました。

長谷川先生は、長谷川式簡易知能評価スケール (HDS) を作られたことで有名です。現在は改訂された HDS-Rが用いられますね。

この本は、介護職の方にお勧めします。医学的な内容は医師にはやや物足りないですが、わかりやすく書いてあるので、基本が理解しやすと思います。

一方で、医師にとって勉強になったのが介護サービス。普段読む医学書や論文には、このような内容が書いてありません。でも、日常臨床ではよく相談されます。実際にどんなサービスがどのくらいの費用で利用できるかが具体的に知っておくために、一度読んでおくと良いですね。

また、巻末に関連サイトが掲載されていたので、リンク先だけ紹介しておきます。患者本人のみならず、介護で悩んでいる方にも参考になりそうです。

認知症の関連サイト・e-65.net
痴呆ネット
DCnet
東京都老人総合研究所
日本老年精神学会
日本認知症学会
日本認知症ケア学会
ぼけ予防協会
呆け老人をかかえる家族の会
全国高齢者総合相談センター
WAM NET (福祉保健医療情報ネット)
だいじょうぶネット

一点、誤解を招きかねない部分があったので、書いておきます。

ドネペジル(アリセプト)に約 10ヶ月の進行抑制効果があるとした点です。「アルツハイマー病の自然経過を遅らせることができる」と書いているのですが、断定できるほどコンセンサスが得られた意見ではありません。多くの神経内科医が首をかしげると思います。

アルツハイマー病は、神経細胞(蛋白質)が変性するいわゆる変性疾患の一つで、神経細胞の変性を止める方法はまだ確立されていません。つまり、ドネペジルを使用しようがしまいが、脳蛋白の変性は進むとされています。ドネペジルが直接蛋白の変性を抑制している訳ではありません。

一方で、ドネペジルは脳内伝達物質であるアセチルコリンの分解を防ぐことで、認知機能を高めることができると考えらています。

従って、「進行を抑制するとは言えないけれど、認知に関する残存機能を高めてくれる」と理解すべきです。実際患者に投与していると、認知機能が改善したように感じることがあります。これはアセチルコリンが関与した、残存神経細胞の機能が高められたためです。そのため内服するメリットはあると思うのですが、残存細胞がほとんどなくなってしまうと効果に乏しくなります。

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