風邪の治療

By , 2008年4月6日 1:22 PM

風邪というのは、軽い上気道炎の便宜上の用語で、鼻閉やくしゃみや咽頭痛、咳などの症状が見られます。実際には、いろんなウイルスによる色々な病気を含んでいます。基本的には、勝手に良くなりますが、他の臓器に波及したり、細菌感染を起こしやすくしたりすることがあります。

引用文献に挙げた論文に良くまとまっていたので、これらを下敷きにしながら、簡単に解説してみます。内容は、ほぼ引用文献そのままです。

・原因
どんなウイルスが風邪を引き起こすのか、Lancetの表から引用です。ただし、これらのデータは、少し古いデータなので、現在ではもう少し変わっている可能性があります。

Virus Estimated annual proportion of cases
Rhinoviruses 30-50%
Coronaviruses 10-15
Influenza viruses 5-15%
Respiratory syncytial virus (RS virus) 5%
Parainfluenza viruses 5%
Adenoviruses 5%未満
Enteroviruses 5%未満
Metapneumovirus Unknown
Unknown 20-30%

このように、ライノウイルスやコロナウイルスが多いことがわかるのですが、年齢や季節などによって、ばらつきがあります。例えば、ライノウイルスは年間を通すと 30-50%の割合ですが、秋に限れば上気道感染の 80%以上を占めます。また、ライノウイルスには、100以上のセロタイプが知られており、それらには地域差があります。

インフルエンザは風邪とは違う物だと考えられていますが、臨床的には風邪とオーバーラップするものだと考えられます。

・疫学
1人あたり平均すると、小児で年 6-8回、成人で年 2-4回風邪を引きます。1歳未満では、女の子より男の子の方が多く風邪を引きます。しかし、成長と共にこの関係は逆転します。また、風邪も引きにくくなっていきます。病は気からと良くいったもので、精神的ストレスは程度依存的に風邪を引きやすくするとの研究があります。きつい肉体トレーニングは風邪を引きやすくし、適度な運動はリスクを減少させるとの研究があります。

上記の表のように、風邪の原因としてはライノウイルスが多いですから、風邪の疫学は、ライノウイルスの疫学と大きく関係します。ライノウイルスは一年を通じて検出されますが、感染のピークは秋にあり、続いて春になります。生まれて最初の 1年間はライノウイルスに感染する頻度が高く、6ヶ月までに 20%の小児が感染します。2歳までに、79%の小児かライノウイルスが検出され、91%の小児がライノウイルスに対する抗体を持っています。

上気道感染を引き起こすウイルスの感染経路には 3つのメカニズムがあります。

①接触感染
②長時間空気中にさまよっている小粒子エアゾル
③感染者からの大粒子エアゾルの直撃

どのウイルスも、上記全ての感染経路をとるのかもしれませんが、主とした感染経路は決まっています。例えば、インフルエンザウイルスは主として小粒子エアゾルを介して感染します。

・病因論
風邪の病因論は、ウイルスの複製と宿主の炎症応答との相互作用を含んでいます。細かなメカニズムは、ウイルス毎にとても異なっています。例えば、インフルエンザウイルスが最初に複製を開始するのは、気管気管支の上皮です。一方、ライノウイルスは主として鼻咽頭です。

ライノウイルスの感染は、涙管から鼻に達し前方鼻粘膜ないし眼に沈着することで始まります。ウイルスは粘膜繊毛の作用で、後部鼻咽頭に運ばれます。アデノイドで細胞の特異的受容体に結合し、上皮細胞に進入することが出来るようになります。ライノウイルスの 90%ものセロタイプは、Intercellular adhesion molecule-1 (ICAM-1) というレセプターを使用します。上皮細胞中に進入すると、ウイルスは猛烈な勢いで複製を開始します。

鼻粘膜へのウイルス感染は血管拡張や血管透過性の亢進を引き起こします。それは鼻閉や鼻漏の原因となり、それらは風邪の主症状です。コリン作動性の刺激は、粘液腺の分泌やくしゃみを引き起こします。

インフルエンザウイルスやアデノウイルスは、気道上皮に広範囲の障害を引き起こしますが、ライノウイルスに感染した鼻粘膜を生検しても、組織病理学的な破壊は見られません。このように、ライノウイルスが上皮の破壊を伴わないことを考えると、風邪の症状はウイルスによる直接の細胞障害が原因では無いのかもしれず、宿主の炎症応答の最初の原因であると言えます。

炎症のメディエーター (仲介物質) の研究がなされ、いくつも発見されました。キニン、インターロイキン1、インターロイキン6、インターロイキン8、tumor necrosis factor (TNF)、regulated by activation normal T cell expressed and secreted (RANTES)などです。鼻粘膜のインターロイキン6、インターロイキン8の濃度は、症状の強さと比例します。しかし、ウイルス感染によって起こる宿主の免疫応答については、複雑で、まだよくわかっていません。

風邪の影響は鼻腔内のみに留まらなくて、副鼻腔にも波及します。成人の風邪の初期に、CT検査や単純レントゲンで、副鼻腔に異常が見られることがありますが、これらは通常抗生剤を使用しなくても改善します。従って、これらの副鼻腔炎は細菌感染ではなく、風邪の一部と考えられます。実際に副鼻腔からの吸引で細菌は存在しないもののライノウイルスのRNAが検出されたりしています。

インフルエンザや RSVは下気管支にも感染しますが、ライノウイルスが下気道で複製されるかは、議論されてきました。ライノウイルスは気管支鏡で下気道の分泌液から検出されますが、最近まで、上気道からのコンタミネーションの可能性が否定出来ませんでした。しかし、気管支生検に in-situ hybridisationを行った研究の結果、ライノウイルスも下気道で複製出来ると考えられるようになりました。

・臨床症状
潜伏期間は、ウイルスにより異なります。実験によると、ライノウイルスは鼻粘膜への感染から 10-12時間と考えられています。一方で、インフルエンザウイルスの潜伏期間は 1-7日とされています。症状のピークは、感染後平均 2-3日です。症状は 7-10日続きますが、3週間経ってもまだ続くこともあります。

ライノウイルスの感染は、咽頭痛から始まり、鼻閉や鼻汁、くしゃみや咳がすぐに伴うようになります。咽頭痛は通常すぐに消失し、当初の水様の鼻漏は濃く膿性になります。膿性であっても、鼻粘膜の細菌叢に変化はなく、細菌感染ではないと考えられています。発熱は大人ではあまり見られませんが、小児では普通に見られます。嗄声や頭痛、倦怠感、虚脱感を伴うこともあります。筋肉痛は風邪の患者で見られる症状ですが、インフルエンザでより典型的です。

風邪は短期間で自然に良くなりますが、時々細菌感染を合併します。小児で最も多いのが中耳炎です。小児のウイルス性気道感染の 20%に、急性中耳炎を合併します。他の細菌性合併症は、副鼻腔炎と肺炎です。副鼻腔炎は風邪の 0.5-2%に見られます。しかし、前述のように風邪で副鼻腔に異常所見が出ることを考えると、細菌感染を合併したかの判別は困難です。肺炎に関しては、ウイルス感染と細菌感染の合併によるものが多いのですが、純粋にウイルス感染が肺まで広がったものもあります。

いくつかの研究で、ウイルス感染と喘息の急性増悪の関連が指摘されています。例えば、喘息持ちの成人の場合、風邪の症状の 80%は、喘鳴や呼吸苦です。喘息のウイルスによる急性増悪の約 60%でライノウイルスが検出されています。子供でも、喘息の急性増悪を引き起こすことが知られています。

高齢者では、インフルエンザ以外のウイルスによる風邪の罹患率は低く見られがちですが、サーベイランス研究によると、高齢者の 3分の 2は下気道疾患を起こしうるとされています。慢性閉塞性肺疾患 (COPD) も、別の意味でウイルス感染の重要なリスク群です。風邪への罹患率は COPDがあってもなくてもそれほど変わりませんが、COPDがある方が、風邪にかかったとき救急治療室を受診する割合が多くなります。つまり、風邪が重篤化しやすいということです。免疫不全患者では、RSVが通常重篤な呼吸不全を引き起こしますが、ライノウイルスも致命的な下気道感染を起こします。

・診断
多くの場合、患者が自分で診断しています。しかし、症状を自分で表現できない小児で発熱のみ先行したときなどは、特に診断が困難です。アレルギー性や血管運動性鼻炎もしばしば風邪と紛らわしいことがありますが、通常は容易に鑑別できます。溶連菌による咽頭痛はしばしば風邪の初発症状と似ています。しかし、鼻症状は、典型的には溶連菌の咽頭痛では起こりません。ちなみに、咽頭を視診しても、ウイルス性か細菌性かは鑑別できません

それぞれのウイルスで典型的な臨床症状は異なりますが、それぞれ症状には個人差もあるので、症状から原因ウイルスを同定することはできません。ウイルス性呼吸器感染症の中で異なった存在だと見なされているインフルエンザでさえ、臨床症状による陽性的中率は 27-79%にすぎません。

ウイルスの同定には、培養、抗原の検出、PCR法があります。培養は時間がかかるので、臨床的な有用性はほとんどありません。モノクローナル抗原による免疫染色 (Immunoperoxidase staining of the cultures with monoclonal antigens) だと、48時間以内に結果が得られます。しかし、前述のようにライノウイルスには多くのセロタイプがあることを考えると、ルーチンの検査としては行えません。抗原の迅速検査キットがインフルエンザと RSVで開発され、15-30分で結果が出ます。PCR法はウイルスの同定に有用ですが、臨床で使用するには大がかり過ぎます。

・治療
風邪は、病原性メカニズムの異なった多くのウイルスが原因となるので、有効とされる治療法はありません。そのため対症療法が主体となります。症状を緩和するために 100種類を超える薬剤が利用可能です。

特定のウイルスに対する治療薬としては、インフルエンザウイルスに対するものだけが利用可能です。新しいインフルエンザ特異的抗ウイルス薬である zanamivir (商品名:リレンザ) と oseltamivir (商品名:タミフル) が知られています。いずれも副作用が少なく、インフルエンザ Aとインフルエンザ B両者に有効です。症状出現 48時間以内に開始すれば、症状を1-2日早く治せます。これらの薬が細菌感染の合併を予防できるかについては根拠が乏しいのですが、oseltamivirによる早期治療が小児の中耳炎を 40%以上減らすという研究結果があります。

風邪に関してライノウイルスの果たす役割は大きいので、ライノウイルスに対して有効な治療薬には大きな期待が寄せられてきました。1980年代にインターフェロンの使用が期待されましたが、残念なことに効果がありませんでした。ライノウイルスにとって主要な細胞受容体である ICAM-1が発見され、ウイルスの接着を防ぐ試みがなされました。ライノウイルスの感染実験では重症度を軽くしましたが、効果はそれほど強くありませんでした。

最近のライノウイルスに対する薬剤には、capsid binderである pleconarilやヒトライノウイルス 3C protease inhibitorである ruprintrivirなどがあります。pleconarilは、海外では Phase Ⅱ試験まで終了しているようです。Pleconarilは経口投与で幅広くライノウイルスやエンテロウイルスに作用します。症状発現 24-36時間に投与された場合、1-1.5日風邪の期間を短縮しました。

成人のライノウイルスに対する治療では、経鼻的インターフェロンと経口 クロルフェニラミンとイブプロフェンの併用で、鼻症状のみならず他の症状にも効果があるのではないかという研究結果があります。

いずれにしても、抗菌薬の有用性は証明されておらず、副作用のことを考えるとメリットはありません。

さて、対症療法については、いくつかのエビデンスが得られており、それを紹介します。American Family Phisicianという雑誌に掲載された論文からです。

A. 咳
店で売っている風邪薬に、咳を減らすための良質なエビデンスのあるものはありません。「The American College of Chest Physicians guideline」は、上気道感染に対して中枢作用性鎮咳薬 (コデイン、dextromethorphan) を使用することを推奨していません。わかりやすいように商品名で言うと、コデインはリン酸コデイン (通称 リンコデ)、Dextromethorphanは臭化水素酸デキストロメトルファンでメジコンです。

これらの結論にもかかわらず、3つのスタディのうち 2つでは、dextromethorphanを使うことが有益だとして推奨されています。そのうち 1つの研究 (meta-analysis) では、18歳~高齢者に対して dextromethorphanを投与し、咳の頻度や重症度を軽減し、副作用はありませんでした。 1つのスタディは、抗ヒスタミン薬と消炎剤の併用で、やや効果がありましたが、有意に副作用が見られました。対照的に鎮静効果のない新世代の抗ヒスタミン薬は咳を減らしませんでした。

小児においては、dextromethorphanの有効性は証明されておらず、咳の治療に効果がある薬剤はありません。

論文の表では、Mucolytic (ビソルボンなど) がbenefitになっていますが、論文の本文では触れられていません。

これらを総合すると、何か使うとすれば、dextromethorphan、つまりメジコンというところでしょうか。

B. 鼻閉と鼻漏
第一世代の抗ヒスタミン薬はあるエンドポイントでは有用でしたが、風邪に関連したくしゃみや鼻症状を緩和しないとの結論になりました。例えわずかに有効だったとしても、第一世代抗ヒスタミン薬では副作用が上回ります。それ故、抗ヒスタミン薬の単独投与は推奨されません。

第一世代抗ヒスタミン薬と消炎剤の併用は、鼻閉、鼻漏、くしゃみにある程度有効でしたが、スタディの質が低く、効果も小さいものでした。また、小児には有効ではありませんでした。

消炎剤の局所投与ないし経口投与は、有効と考えられます。

最近では、気管支拡張剤である ipratropium (商品名:Atrovent)の局所投与が、鼻炎や風邪による鼻漏に有効であるとされています。

C. 代替の治療について
Echinaceaは有効性が証明されていません。ビタミンCも、風邪の症状や重症度を軽減しません。Zincはウイルスの増殖を抑え、風邪の期間を短くするという研究はありますが、その他の研究ではいずれも無効だったり副作用が見られたりしていますので、推奨しません

咳と鼻症状について、論文の表がわかりやすいので紹介しておきます。いくつか表があるのですが、成人の表のみ紹介します。

Therapy Study findings
Couch
Antihistamine/decongestant combination Two studies: one showed benefit with unfavorable side effect; one showed no benefit
Antihistamines Three studies: no benefit
Codeine (Robitussin AC) Two studies: no benefit
Dextromethorphan (Delsym) Three studies: two showed benefit; one
showed no benefit
Dextromethorphan plus salbutamol One study; limited benefit with unfavorable side effect
Guaifenesin (Mucinex) Two studies: one showed benefit; one showed no benefit
Moguisteine One study: very limited benefit
Mucolytic (e.g., Bisolvon Linctus) One study: benefit
Congestion and rhinorrhea
Antihistamine/decongestant combination Seven studies: five showed some benefit for nasal obstruction; five showed no benefit for nasal obstruction; two showed no benefit,
Six studies: five showed some benefit for rhinorrhea; one showed no benefit
Antihistamines Five studies: no benefit for nasal obstruction,
Seven studies; benefit for rhinorrhea (first generation antihistamines only)
Intranasal ipratropium (Atrovent) One study: benefit
Oral or tropical decongestants (single dose) Four studies: benefit for nasal obstruction
Oral decongestants (repeated doses) Two studies: one showed benefit for nasal obstruction; one showed no benefit

・予防
風邪の原因ウイルスの多様性が、予防を難しくしています。多くのセロタイプに共通する抗原がないため、ライノウイルスのワクチンの開発は困難です。インフルエンザが唯一、呼吸器感染で商用のワクチンを利用可能です。筋肉注射で行う現在の不活化インフルエンザワクチンに加えて、経鼻投与可能なワクチンが開発中です。また、RSVやパラインフルエンザウイルスに対するワクチンも開発中で、臨床試験に入っています。

抗ウイルス薬による感染予防は、インフルエンザで行われています。反対に、ライノウイルスではインターフェロン経鼻投与での予防効果は知られていますが、副作用が強く受け入れられていません。

Echinaceaという植物から抽出されたビタミン Cは、風邪予防に広く用いられているにもかかわらず、根拠を欠きます。今のところ、完璧な風邪の予防は、社会から長期間隔離されることによってのみ可能だと思われます。しかし、論文の言葉を借りるなら、多くの人々は(長期間隔離されるために) 南極大陸への次の船を待つ一方で、ワイン、特に赤ワインに風邪の予防効果があるかもしれないという論文に慰めを見いだすのでしょう。

(参考文献)
1. Heikkinen T, et al. The common cold. Lancet 361: 51-59, 2003
2. Simasek M, et al. Treatment of the common cold. Am Fam Phisician 75: 515-520, 2007

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ザハール・ブロンのレッスン

By , 2008年4月5日 10:21 AM

「ザハール・ブロンのレッスン アントニオ・ヴィヴァルディー (AMA VERLAG GmbH 企画制作、ヤマハミュージックメディア販売)」を見ました。

ザハール・ブロンの略歴は下記。

Wikipedia-ザハール・ブロン-

ザハール・ブロン(Zakhar Bron, 1947年 – )は、カザフスタン、ウラリスク出身のヴァイオリン奏者。

オデッサの音楽学校に学んだ後、1960年~1966年、グネーシン音楽院でボリス・ゴールドシュタインに、1966年~1971年、モスクワ音楽院でイーゴリ・オイストラフに師事し、1971年~1974年、同音楽院でオイストラフの助手を務めた後、ノヴォシビルスク音楽院、1989年、リューベック音楽院の教授、以後、ロンドン王立音楽アカデミー、ロッテルダム音楽院、ソフィア王妃音楽大学(マドリード)などでもヴァイオリンを教えた。現在はケルン音楽院、チューリッヒ音楽院教授。

主な門下には、ヴァディム・レーピン、マキシム・ヴェンゲーロフ、樫本大進、庄司紗矢香、川久保賜紀、神尾真由子などがいる。

1971年、エリザベート王妃国際音楽コンクール第12位、1977年、ヴィエニアフスキ国際ヴァイオリン・コンクールに入賞した。

2002年、チャイコフスキー国際コンクール、2004年、ジュネーヴ国際音楽コンクールの審査員も務めた。

収録されている曲は、「ヴァイオリン協奏曲イ短調、作品 3の 6」。ヴァイオリン学習者であれば、ほとんど誰でもさらう、メジャーな曲です。でも、実は Tuttiが結構綺麗な曲でもあります。Tuttiで第 2ヴァイオリンを弾いていると、第 1楽章の冒頭は

ほぼ同じリズムで純粋に和声を与えているのですが、和声とともに変化する下行系と上行系の音型の違いが曲調に変化を与えます。演奏していて、雰囲気をコントロールしている気分にさせられます。

さて、今回レッスンを受ける演奏者は音の綺麗な、若い女性。正確には弾けているのですが、伝わるものがあまりない演奏でした。私だったらどうアドバイスするか、考えながら聴きました。音のアタックが厳しすぎるのが一番気になった点です。

演奏後、ブロンの指示によって、みるみる曲が色づいてきます。技術的な指導で表現が鮮やかに変わるのが見物です。「伝わるものがない」という批評があったとき、よく精神面に言及されますが、純粋に技術的な要素が占める部分も大きいのだと痛感します。

時々ブロンがお手本として演奏するのですが、これが非常に上手。音に独特の色合いがあります。

一度ブロンの演奏を生で聴いたことがあります。チャイコフスキーコンクールで 2位であった演奏家とのジョイントだったのですが、その演奏家が子供に見えました。そのくらい、ブロンの演奏は素晴らしかったです。

このシリーズはいくつか作品があるみたいなので、早速 Amazonで注文しました。

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ジョーク

By , 2008年4月4日 8:42 PM

アメリカンジョークをいくつか記したサイトがあります。サイト名は、アメリカンジョークです。

ある程度の予備知識は蓄えておく。

長くても一息に読む。

登場人物や書き手を馬鹿だと思う。

どこが面白いのかは考えない。

のが楽しむポイントらしいのですけれど、実際に見ていくと、クスクス笑いがこみ上げるジョークが多いです。今、これを書いている私は泥酔状態なので、何を見ても笑い上戸状態になってますけど。

毒が少ないという意味で、理系ジョークをいくつか挙げておきます。同サイトからの引用です。

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佐藤&佐藤

By , 2008年4月1日 8:06 PM

最近「GRIEG Complete sonatas for violin and piano」というCDを買いました。演奏者はヴァイオリン佐藤俊介、ピアノ佐藤卓史です。

グリーグのヴァイオリンソナタ第3番は、私が現在のヴァイオリンの師のコンサートで聴いて感動し、止めていたヴァイオリンをもう一度練習するきっかけになった、思い出の曲です。特に第2楽章の白石光隆氏のピアノが非常に綺麗だったことを覚えています。

ヴァイオリン演奏の佐藤俊介氏は、1984年生まれ。バンドエイドのCMで、手にバンドエイドを巻いてパガニーニの難曲を演奏していた逸話を何かの本で読んだことがあります。日本人なのですが、非常に面白い演奏をします。これまでの日本人にはない感性の持ち主です。

ピアノの佐藤卓史氏は 1983年生まれ。秋田県秋田市生まれ。ベートーヴェン国際やショパン国際ピアノコンクールでディプロマを受賞し、東京芸大を首席で卒業しています。私が好きなグリーグの緩徐楽章も納得いく演奏です。

オーソドックスな演奏ですが、主張するところは主張していて、型を破るところは破っていて、多くの人が楽しめる一枚だと思います。

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アルファベットの歴史

By , 2008年3月30日 3:46 PM

今月号の雑誌「Newton」では、「アルファベット 4000年のルーツ」という特集が組まれていました。

ヨーロッパのアルファベットについて考えると、イギリス 26字、フィンランド 29字、ドイツ 30字、スペイン 33字、フランス 40字ですが、A~Zの 26字は共通していることがわかります。この 26字はローマ字ないしラテン文字と呼ばれ、ローマ帝国を築いたラテン人の言語です。

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將進酒

By , 2008年3月28日 11:55 PM

昨日、さいたまの料亭に行ってきました。私の前任者のお別れ会です。そこの座敷に、下記のような書が掛かっていました。

古來聖賢皆寂寞
惟有飮者留其名

木堂と署名がありましたので、犬養毅の書です。

女将さんに訊いたところ、李白の詩の一節なのだそうです。「聖人、賢者と呼ばれた人は古来いるけれど、名を残した者は、すべて酒飲みである」というような意なのだとか。そして酒を勧めることになるのですな。

さっそく、ネットで探すと、詩が見つかりました。

將進酒

李白

君不見黄河之水天上來
奔流到海不復回
君不見高堂明鏡悲白髮
朝如青絲暮成雪
人生得意須盡歡
莫使金尊空對月
天生我材必有用
千金散盡還復來
烹羊宰牛且爲樂
會須一飮三百杯
岑夫子,丹丘生
將進酒,杯莫停
與君歌一曲
請君爲我傾耳聽
鐘鼓饌玉不足貴
但願長醉不用醒
古來聖賢皆寂寞
惟有飮者留其名
陳王昔時宴平樂
斗酒十千恣歡謔
主人何爲言少錢
徑須沽取對君酌
五花馬,千金裘
呼兒將出換美酒
與爾同銷萬古愁

日本語訳も紹介します。

將進酒

君 見ずや  黄河の水 天上より來たるを,
奔流 海に到りて  復(ま)た 回(かへ)らず。
君 見ずや  高堂の明鏡 白髮を 悲しむを,
朝には 青絲の如きも  暮には 雪と 成る。
人生 意を得(え)ば  須(すべか)らく 歡を 盡くすべく,
金尊をして  空しく 月に對せしむる 莫(なか)れ。
天 我が材を生ずる  必ず用 有り,
千金 散じ盡くして  還(ま)た復(ま)た 來たらん。
羊を 烹(に) 牛を 宰(ほふ)りて  且(しばし)らく 樂を爲(な)せ,
會(かなら)ず須(すべか)らく 一飮  三百杯なるべし。
岑夫子(しんふうし), 丹丘生(たんきうせい)。
將に酒を進めんとす, 杯 停(とど)むること莫(なか)れ。
君が 與(ため)に  一曲を 歌はん,
請ふ 君 我が爲に  耳を傾けて 聽け。
鐘鼓 饌玉  貴ぶに 足らず,
但だ 長醉を 願ひて  醒(さ)むるを 用ゐず。
古來 聖賢  皆 寂寞,
惟(た)だ 飮者の 其の名を 留むる 有るのみ。
陳王 昔時  平樂に宴し,
斗酒十千  歡謔(くゎんぎゃく)を 恣(ほしいまま)にす。
主人 何爲(なんす)れぞ 錢 少しと 言ふや,
徑(ただ)ちに 須(すべか)らく 沽(か)ひ取りて  君に對して酌(く)むべし。
五花の馬, 千金の裘(かはごろも)。
兒(じ)を 呼び  將(も)ち出(いだ)して  美酒に 換(か)へしめ,
爾(なんぢ)と 同(とも)に 銷(け)さん  萬古の愁(うれ)ひ。

酒飲みの心に響く、すてきな詩です。昔、漢詩が好きで、NHKの漢詩の番組を良く見ていました。漢詩って、中国語で朗読を聞くとまた味わいがあるのですよね。

明日は、大学での私の送別会で、花見をかねて屋形船に乗ります。女医さんから「何か希望はないですか?」と訊かれたので、「(みぐのすけ) 良いではないか、もそっと近う寄れ」「(女医さん) お代官さま、困ります。あ~れ~、(くるくるくる) きゃ~」というのがやってみたいと言ったら、思いっきり無視されました。

何はともあれ、楽しみです。

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舞台裏の神々

By , 2008年3月28日 7:25 AM

今日紹介するのは、「舞台裏の神々 (Rupert Scottle著、喜多尾道冬訳、音楽之友社)」です。余りにも面白くて、最初から最後まで2回読みました。

1回目は新幹線の中で一人でゲタゲタ笑いながら読んでいて、周囲から腫れ物をみるような視線を浴びてしまいました。笑いのツボを突く話が多すぎます。

話の多くは、オーケストラや指揮者のこぼれ話です。それもユーモアたっぷりです。

ウィーン・フィルハーモニーのコンサートマスターだった、ヴィリー・ボスコフスキーのような腕の立つヴァイオリニストですら、シュトラウスの作品の多さにひどくてこずったことがある。あるとき、≪影のない女≫の上演後、彼はいつもとちがって、劇場内のドリンク・コーナーに直行し、大量のワインを一気飲みしたことがある。だれもがおどろいて、そのわけを訊いた。彼はただこう答えた、「これが飲まずにいられるか。今日はじめてこのオペラの音符をぜーんぶ完璧に弾けたんだから!」。

このようなことが、いつもうまくいくと思ったら大間違い。ヨーゼフ・クリップスが、一九七〇年代のはじめに、≪ばらの騎士≫をウィーン国立歌劇場で指揮したときに、こんなことが起こった。第二幕でオクタヴィアンが剣を引き抜いて、オックス男爵に切りかかるシーンがある。ここでズボン役で名高かったアグネス・バルツァが、四小節早く出てしまった。クリップスはまごついて、懸命に追いつこうと努力した。だが奮闘も空しく、全体のアンサンブルを回復できなかった。

共演者の一部は先行するオクタヴィアンについて行き、他の一部は楽譜通りの進行にきちんと従い、残りの大部分は両派のあいだを右往左往するありさまとなった。その結果ほんらいなら愉快なシーンが、不快なひびきに終始することになったのである

その日のオックス役は、リーダーブッシュで、彼はプロンプターに助言を求めた。彼はリーダーブッシュに、楽譜通りにオクタヴィアンの剣に当たって、大声で「やられた!」と叫べばよいと教えた。リーダーブッシュは言われた通りに叫んだ。少なくとも十回も。そんな大げさな叫び声にすっかり度肝を抜かれ、だれもが自分勝手に態勢を立て直そうとした。その混乱のなかで、この高名な指揮者は途方に暮れて腕を空しく漕いでいた。

結局、手のほどこしようのなくなった指揮者は、激しく両手をふり、聴衆にも聞こえるような甲高い声で、「中止、中止!」と叫ぶほかはなかった。そんなどうしようもない混乱のなかでも、クリップスは、オーケストラはもうとっくにアンサンブルを回復し、楽譜通りにきちんと演奏していることに気づくべきではなかったか。ウィーン・フィルハーモニーの楽員たちは、しかるべき時点で自分たちの自主権を思い出し、混乱した事態の回復を自分たちの力で成し遂げたのだ。それに気づいたクリップスは驚愕し、すっかり意気阻喪して、その後指揮活動をやめてしまった。かなり長い謹慎生活ののち、やっと気を取り直して、いつもの実入りのよい仕事に復帰したのである。

ヨーゼフ・クリップスは、本書ではあまり良い印象で書かれてません。 楽団員から好かれていなかったのでしょうか。他に、カール・ベームも、格好のネタとして書かれています。

私の好きなバーンスタインの逸話もあり、人間くささが伝わってきます。

バーンスタインは親密さとやさしさを求めるあまり、常識の限度を超える態度を見せてはばからなかった。彼はだれかれなく情熱的なキス(演出家のジョナサン・ミラーの言葉を借りれば、紙やすりでこすられ、いそぎんちゃくに吸い付かれるようなキス)をふりまく、自分の指揮台にいちばん近い席に座っているというだけで、その楽員にもキスするありさまだった。ウィーン・フィルハーモニーのあるヴィオラ奏者は、このキス責めから逃れようと、二列目にいる仲間に席を替わってもらったほどである。そんなことでかんたんに引き下がるレニーではない。キスの儀式がはじまり、席を譲って前列にやってきた奏者が巧みにそれを避けると、彼は二列目に進み、やっとキスを逃れたと思った当のヴィオラ奏者にブチューとやるのだった。

バーンスタインはとくに親密な演奏に成功したあとは、オーケストラ全体に舌による愛情表現を示そうとし、そのためにひとりひとりの楽員を舞台の袖で待ちかまえていた。もしキスの洗礼を避けたければ、楽員は聴衆にまぎれてホールを出なければならなかった。バーンスタインは自分のまったく知らない人にも、濃厚をキスを見舞うこともまれではなかった。彼はもともと男性的な魅力にあふれていたから、大勢の女性から憧れの目で見られていた。そんなひとりがウィーン・フィルハーモニーのヴィオラ奏者ハインツ・コルの義姉。彼女はマエストロに一度会わせてくれと義弟にしつこく頼んでいた。彼は彼女にいいよと気安く約束したものの、バーンスタインはいつも崇拝者の群れに取り囲まれているので、そうかんたんに思い通りにならなかった。マエストロがちょうどサラダをぱくついていたとき、コルはやっと話しかけるチャンスをつかんだ。指揮者と義姉がたがいに自己紹介したあと、指揮者は舞い上がっている若い女性をすぐさま抱き寄せ、マヨネーズだらけの口で彼女にブチューとキスをして、相手の唇をマヨネーズだらけにしてしまった。それまで遠くから憧れの眼差しで見ていたのが、あっというまに現実の悲惨さを味わわされることになったわけだ。

私が指揮者だったら、相手を選んでキスするかもしれませんが(^^;)、バーンスタインは手当たり次第です。女性のマヨネーズだらけの唇を想像して笑ってしまいました。今度、相手がいれば、真似したいものです。

あと、笑えるのが、オーケストラの楽員たちの悪戯です。

ウィーン・フィルハーモニーの楽員たちは、イギリス系のひどくいけ好かない指揮者に対して、ひどく巧妙な復讐を企てたことがあった。ザルツブルク音楽祭で、シューベルトの交響曲第九番≪グレート≫のプローベをしていたときのこと、この指揮者は祝祭大劇場の音響効果を調べるために、指揮台から離れ、その間オーケストラは指揮者なしのまま演奏することになっていた。彼が指揮棒を置くや、オーケストラはもっともすぐれた指揮者に導かれているかのように、すばらしいひびきで演奏しはじめた。この予期せぬ変化がくだんの指揮者の耳に聴きとれなかったはずはない。指揮台にもどった彼は、不安そうに自分の指揮棒を見つめ、それを取り上げるのにしばらく躊躇した。しかし楽員たちは容赦しなかった。彼がふたたび指揮をはじめると、この指揮者ならではの凡庸なひびきになり下がってしまった

この有名な指揮者は、メンデルスゾーンの交響曲≪イタリア≫のような作品を録音するのに、四百箇所にも継ぎはぎを必要とした。ドイツ・グラモフォンの録音技師によると、移行句がほとんどうまくいっていないので、その箇所は編集技術を最高度に駆使してやっと切り抜けることができたという。事情通にとっては不思議でもなんでもないことだが、このイギリス人はテンポ感覚に欠けていたわけだ。彼は最後の楽章で、四時間のテイクのうち三時間もこんなテンポでやってゆくことに費やすものだから、音楽のこまかなニュアンスなど消し飛んでしまわざるを得なかった。オーケストラと録音技師たちの絶えざる抗議に出会って、彼ははじめて自分の誤りを認めた。

それでも彼の録音したCDのほとんど、すぐれた内容を示しているというから、それは編集技術の絶大な威力と言わざるを得ない。ともあれ、ドイツ・グラモフォンが、もうこれ以上彼を起用する気にならなくなったのは当然のなりゆきだ。ドイツ・グラモフォンは、二〇〇一年一月に彼とのレコード録音の契約を打ち切った。彼の言によれば、それを新聞ではじめて知ったということだ。

無能な独裁者よりもさらに困った存在が、音楽の講釈を楽員に延々と垂れることが大好きな指揮者である。そんなひとりがヨーゼフ・クリップスである。彼はプローベを時間通りに終えることはまずなかった。予定された時間にプローベが終わっても、もう一度といってまたやり直す。というのも、「楽員というものはしごけばしごくほどよくなる!」、と頑なに信じているからだが、これほど楽員をばかにした言い草もない。このような無意味な時間の浪費は、楽員の復讐心を掻き立てる。それはある絶好の機会に実行に移された。クリップスは絶対音感に恵まれていないことにひどく悩んでいた。だから楽員たちはいつもそのことを当てこすっては彼にいやがらせをした。ウィーン・フィルハーモニーの楽員たちが、ブルックナーの交響曲第四番をプローベしていたときのこと、半音低く演奏した。それがわかったのは、チェロ奏者たちが三和音に似た主要主題を弾き出し、明るい高音に移ったときだった。

クリップスは泣き声で自分のミスをくどくどと弁解しはじめた。この勝利は正当なものだったが、これがなんども繰り返されることになる。たとえば、シューベルトの≪未完成≫交響曲の第一楽章の出だしは、コントラバスとチェロだけではじまる。この楽器の奏者たちはたがいにこの箇所を半音高く演奏しようと陰謀を企てた。それに気づかないヴァイオリン奏者が、楽譜通りに入ってきたとたん、一瞬ひどい耳障りな音になった。怒ったクリップスはヴァイオリン奏者たちの間違いを注意した。彼らはちゃんと楽譜通りに弾いていますと抗議する。しばらく考えたあと、彼はその張本人たちはだれかに気づいてひどく傷ついた。そして休憩時間に彼らをきびしく叱責した。

指揮者に腹を立てたとき、正面衝突するのではなく、こうした方法を取ることに、文化を感じます。抗議するのも楽しんでいるのですね。私はオーケストラで弾くのが嫌いなので、こうした悪戯をする機会はなさそうですが、一回やってみたい気もします。指揮者にしてみたら、最高にキツイでしょうね。

本書は、最初から最後までこうした逸話で構成されています。読みやすいですし、是非お薦めです。

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脳とことば

By , 2008年3月24日 9:43 PM

「脳とことば (岩田誠著、共立出版)」を読み終えました。

本書は、失語症研究の歴史から始まります。紆余曲折を経て、現在の失語症の分類体系があり、これまでの研究の過程を知っておくことは、非常に有用です。また、自分が同時代の人になったような感覚を覚え、次の興味が引き起こされ、引き込まれます。

失語には、全失語、ウェルニッケ失語、ブローカ失語、超皮質性感覚失語、超皮質性運動失語、皮質下性感覚失語、皮質下性運動失語、伝導失語、失名辞失語など多くのタイプがあることが知られていますが、それぞれの責任病巣がどこにあるのかは、議論の余地があります。一般的な教科書的には、○○の部位で△△の失語が起こると書いてあるのですが、例外も列挙されており、それらを総合すると、結局「どこででも起こりうるんじゃないか?」と感じさせられます。でも、本書を読むと、何故そこで起こるのか、例外があるとすれば、どう扱われるべきものか、詳細に検討されており、知識を整理することが出来ました。本書の優れた点は、「○○という報告がある」ことを列挙するのではなく、一つ一つ検討し、それらを全て説明出来る体系を築いていることです。

一つは著者の優れた洞察力があるでしょうし、さらには形態学者として、臨床医としてなど、様々な方向のアプローチが挙げられるでしょう。著者の業績として特筆すべきは、”漢字” と ”かな” の二重回路仮説です。著者は、さまざまな脳血管障害症例を検討し、漢字とかなは別の回路で認識していることを提唱し、証明しました。これは、失語症研究に新たなる方向性を与えました。

医学的な素養が読むのに必要かもしれませんが、高次機能学の勉強をするのに、本書は最も薦めたい本の中の一冊です。

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麻疹

By , 2008年3月23日 2:13 PM

呼吸器内科のmethyl先生から、e-mailを頂きました。本人の了解を戴いたので、転載します。

先日、フジテレビで木村 太郎氏がこんなこと言ってました。You tubeからです。

【遅れる日本の対策 日本の「はしか」米国へ 】

要旨としては麻疹感染による死亡より麻疹ワクチン接種による死亡が多いが、国際的にみて接種は行ったほうが良いだろう。ということです。何を見て、こんなこと言ったんでしょうか?

あまりにも腹がたったので調べてみました。いくつかのサイトからの引用を並べてみます。

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疫学
感染症発生動向調査では国内約3,000の小児科定点から麻疹患者数は年間 11,000人から 22,000人の報告があり、実際にはこの 10倍以上の患者が発生していると考えられる。この中で 2歳以下の罹患が 60%以上を占めており、罹患者の 95%以上が予防接種未接種である。

麻疹による合併症重症例の例数の統計はないので不明確だが、1998年から 1999年における沖縄での流行から推定すると、肺炎の合併が年間 4800例、脳炎は年間 55例、死亡例は年間 88例程度と考えられる。ワクチン接種率発症予防には麻疹ワクチンが有効だが、国内での麻疹ワクチン接種率は 80%程度にとどまっていると推定される。

麻疹の合併症について
合併症は 5歳以下あるいは 20歳以上で多い。下痢が患者の8%、中耳炎が 7%、肺炎が 6%におこると報告されており、肺炎はウイルス性のことも重複感染による細菌性のこともある。脳炎が 1,000例に 1例程度報告されており、死亡率は約 15%で、後遺症が 25%に残るとされている。肺炎・脳炎の合併は年少であるほど死に至る危険性が高いので注意が必要であり、感染を予防することがもっとも重要である。
また、麻疹ウイルスの持続感染によると考えられている亜急性硬化性全脳炎(SSPE)が麻疹患者の 100万例に 5~10例おこると言われている。進行性の神経症状、痴呆症状を示し、最終的には死に至る予後不良の疾患であるが、米国では麻疹ワクチンの普及により激減した。

麻疹ワクチンの有効性・副作用
ワクチンによる免疫獲得率は 95%以上と報告されており、有効性は明らかである。1997年度厚生省感染症流行予測調査事業による麻疹 PA抗体保有状況によると、各年齢層での麻疹抗体保有率は、ワクチン接種を受けていないものは 10才頃までに麻疹抗体を獲得し、維持するようになる。これに対して、ワクチン接種を受けている者は、20~29才の年齢層で低い抗体価を示しているものの、今のところ免疫の持続は良好である。
副反応に関しては、1998年度の厚生省の予防接種後健康状況調査報告書によると、接種後 28日までに初発した発熱は22.7%にみられ、そのうち 38.5℃以上であったものは 13.2%であった。このうち接種後 6日までの発熱は 7.4%、38.5℃以上は 4.1%であった。最も頻度の高い 7~13 日目の発熱は 11.4%であり、うち 38.5℃以上は 6.3%であった。発疹は 8.8%(うち 6日以内は 2.8%、7~13日目は 4.7%)に認められる。いずれも軽症でありほとんどは自然に消失するが、けいれんが 0.4%の頻度で認められ、このうち 85%は熱性けいれんであった。対策としては熱性けいれん既往者に対しては、予防としてあらかじめ抗けいれん剤(例:ジアゼパム坐剤)を処方しておき発熱性疾患罹患時に行う方法と同じ方法で予防することが可能である。ゼラチン含有ワクチンを使用していた頃はゼラチンによるアナフィラキシーショックなどの症状を呈することがあった。このゼラチンアレルギーが問題となって以降、武田薬品は 1996年12月(lot H701)から、阪大微研は 1998年 11月(lot ME-15)から、千葉血清は 1998年6月 (lot C4-1) からゼラチン・フリーとなった。北里研究所は 1998年 7月 (lot M19-1) から低アレルゲン性ゼラチン (プリオネクス) に変更した。また蕁麻疹、接種部位の発赤、クインケ浮腫等のアレルギー反応も認められ、最近では接種後数時間から翌日に出現する発熱あるいは発疹などの遅延型のアレルギー反応の報告が散見される。蕁麻疹の発症は 3.0%に認められ、即時型アレルギー反応と考えられる1日以内の蕁麻疹を認めたものは 0.4%であった。ごく稀に (100~150万接種に 1例程度) 脳炎を伴うことが報告されているが、麻疹に罹患したときの脳炎の発症率に比べると遙かに低い。SSPEの発生も米国の追跡調査ではワクチン既往のない自然麻疹患者では 100万人あたり 5~10人であるのに対し、ワクチン接種者では 0.5~1人と 1/10の低さである (国立感染症研究所感染症情報センター)

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厚労省の調査によると、はしかワクチンによる副反応としては、軽い発熱や発疹など以外に、けいれんを起こす人が300人に1人程度(0.34%)、うち9割は熱性けいれんで、脳炎・脳症は94~01年度の8年間に3人報告、副反応が原因と疑われる死者は、2002年までの過去8年間に3人報告されているそうです。
(朝日新聞2003年3月11日)

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また、日本のMRワクチンおよび単抗原ワクチンはゼラチンを含まず、欧米で使われている安定剤としてゼラチンを含んでいるMMRワクチンよりもアナフィラキシーなどのアレルギー症状の出現頻度はより少ないことが推測される。この点からも、麻疹、風疹単抗原ワクチン、及びMRワクチンの2回接種は、海外において広く使用
されているMMRワクチンの2回接種と同等あるいはそれ以上の安全性があると考えられる。
(日本小児科学会 )
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客観的に考えると、明らかにメリットの方がデメリットを上回ると言えそうです。

 

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今どこ?

By , 2008年3月15日 11:31 PM

今、クラシカという音楽チャンネルを見ています。丁度登場するのは、ヴァイオリニストのヴェンゲーロフ。ヴェンゲーロフが演奏するのは、「パガニーニの主題による狂詩曲 (ラフマニノフ/クライスラー)」他です。

、「パガニーニの主題による狂詩曲 (ラフマニノフ/クライスラー)」について、ヴェンゲーロフが舞台上でユーモラスに紹介しています。だいたいの内容は下記。

クライスラーとラフマニノフが、カーネギーホールでこの曲を弾いた。

リハーサルなしで、ぶっつけ本番。でも、クライスラーは何処を弾いているかわからなくなって、

「今どこだ?」

とラフマニノフに聞いたんだ。するとラフマニノフは

「カーネギーホール」

思わず吹いてしまいました。

ヴェンゲーロフの演奏を、私は大好きです。直感的に音楽のエッセンスを抽出してくれて、テクニックも申し分ありません。ただ、古典派の音楽については、自己主張が強すぎてあまり好みではありませんが、ロマンは以降の演奏ではその独特な演奏姿勢と相まって、パガニーニに見えることすらあります。

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