物理屋になりたかったんだよ

By , 2006年5月5日 9:29 PM

正月以来、帰省することが出来、友人には会うことが出来なかったものの、家族で楽器を合わせたり、家庭料理を食べたりすることが出来ました。岡山はとても暑く、郡山よりは気候が温暖だと実感しました。

岡山から郡山の新幹線の中で、「物理屋になりたかったんだよ(小柴昌俊著)」という本を買い、あまりの面白さに新幹線の中で一気に読んでしまいました。物理学の本は、高校生時代に、「ホーキング宇宙を語る」と「神と新しい物理学(ポール・デイヴィス著)」という本を読んで以来ですが、初心者にもわかりやすく読むことが出来ました。彼はノーベル物理学賞を受賞していますが、若い頃音楽家を目指したことがあったり、後年、音楽家との親交もあるようです。

一冊を通じて面白かったのですが、特に興味深かった部分を引用します。

たしかに、わたしたちは幸運だった。でも、あまり幸運だ、幸運だ、とばかり言われると、それはちがうだろう、と言いたくなる。幸運はみんなのところに同じように降り注いでいたではないか、それを捕まえられるか捕まえられないかは、ちゃんと準備していたかいなかったかの差ではないか、と。

また、こんなことも書いてありました。

わたしは、モーツァルトとアインシュタインをくらべたとき、モーツァルトのほうがほんとうの意味での天才だと思っている。なぜなら、たとえアインシュタインが相対性理論を思いつかなかったとしても、ほかの人が論理をたどっていって同じ真理にたどりつくことは可能だ。ところが、モーツァルトがつくったあのすばらしい曲は、彼以外のほかのだれにもつくれないではないか。

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By , 2006年4月26日 11:10 PM

病院の周りもやっと桜が満開となりました。一方で、病院近くの山にはまだ雪が残っており、4月一杯は近くのスキー場も営業しています。雪中梅というのは聞きますが、雪と桜というのは最高に贅沢ですね。

昨日は部活の勧誘で、池袋で飲んできました。今の病院は、月に1日好きな日を休ませて貰えるので、昨日の午後と、今日の午前で計1日の休みを取って、参加することが出来ました。ふと考えると、相手は自分より11歳も年下。知らないうちに歳をとっていくものだと感じました。彼らが医師になるころには、日本の医療はどうなっているのでしょうか?

医局の人事異動は特に4月に多く、私の身の回りにもいろいろと動きがありました。大学の医師というのは、一所にとどまることのない仕事だとつくづく思います。外来の患者さんから「先生にずっと見て欲しいのに」などと言われると、心が痛みます。

嬉しかったことといえば、知り合いに私が書いた論文を読んだといわれたことです。特に書いたことを誰にも伝えていなかったのですが、たまたま読む機会があったようです。

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炭坑のカナリア

By , 2006年4月2日 6:08 PM

3月29日から3月31日までは猛吹雪が続き、さすがに4月も近いというので、ノーマルタイアに換えていた人達は大変だったようです。一方で、テレビでは東京の桜の風景が報道されていて、地域の差というものを感じさせられました。新幹線だと1時間半くらいなのですが・・・。

さて、今日は少し深刻な話。先日、「極めて稀な症例」に、「最善を尽くしたにせよ救命できなかった」、ある産科医が逮捕されました。産科医療の崩壊しつつある僻地(日本の9割以上の地域では既に崩壊が始まっていますが)において、地域の医療を支え、年間200件以上の出産(24時間いつ産まれるかわからない)を一人でとりあげていた医師でした。症例自体は極めて稀で、同様の症例を経験した医師達も、救命できるかどうか自信はないと言います。学会や各地の医師会は、医療行為自体に過誤はなかったと声明を出していますが、加藤医師は刑事事件として逮捕されました。

通常通り病院に勤務している医師が、ましてや身重の妻がいて、逃亡の危険も何もありませんが、逃亡を防ぐという名分のもと逮捕されるというのも、ある意味見せしめな気がします。マスコミでは、「医療事故」として扱っていますが、加藤医師の過失が証明できなさそうであるという雰囲気になると、急にトーンダウンしています。これから刑事事件として審議が始まるでしょう。無罪となる可能性が高いとは思いますが、無罪になったとしても、彼は医師生命を社会的に絶たれます。そのことで誰も責任をとりません。報道でのタイトルも、「医療事故」「医療ミス」と既に過失を認めたかのようなタイトルをつけられています。

「産科に進まなくて良かった」と思う反面、今後は誰が(世界一優秀な治療成績を残しているとされる)日本の産科を救うのか、無責任ながら感じます。せめて、このサイトを見ている人達には客観的な目で見て欲しいと思うし、「患者」対「医師」の構図を作り上げ、大衆である「患者」の耳に心地よい報道を繰り返すマスコミに少しでも疑問を持ってもらわないと、日本の医療は知らないうちにむしばまれていくのではないかと思っています。

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学会

By , 2006年3月19日 4:42 PM

ここ数日続いた春の雪もやみました。風は強いものの以前よりは暖かくなってきています。・・・と文章を書き始めたところで、外が吹雪であることに気付きました。

昨日は、仙台で学会発表をしてきました。仙台駅で降りたのは初めてで、もう少しいろいろと巡りたかったと思っています。郡山から新幹線で1時間くらいなので、今度は時間がもっとある時に行きたいものです。

最近、「モーツァルトの音符たち」という本を買いました。非常に読みやすい本です。読んでみて、何故モーツァルトの音楽が心地よいか、そして彼がどれだけ新たな試みをしているか良くわかりました。多少の音楽の基本知識があった方が、読んでいて面白い本です。音楽というのは、勉強した分だけ新たな事実が見えてきて、同じ曲も違って聞こえることがあり、また面白いものです。もちろん、ただ聴いていても楽しいものですが。

それから、旅路のモーツァルトというDVDを購入。モーツァルトの旅した土地を、音楽にのせて紹介するといったもの。モーツァルトがイギリスで競馬をしていたりといったエピソードを見ると、思わず微笑んでしまいます。

春は人事異動の時期で、同僚の医師達も数人入れ替わります。寂しい気もしますが、その分また新しい人との出会いもあり、人生とはその繰り返しかなと考えてみたりします。

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音楽館

By , 2006年3月5日 9:24 AM

昨日、いわき市に楽器の練習に行ってきました。驚くべきは、いわき市にある、音楽館という施設です。ピアノとの合わせの場所がなかったため探していて見つけた施設なのですが、音楽愛好家にはたまりません。税金の無駄遣いという指摘を受けかねない施設ですが、芸術というのは、他の何かを我慢しても守るべき人間の財産だという思いを強くしました。

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頭痛フォーラム

By , 2006年2月26日 9:38 PM

昨日に品川プリンスホテルに宿泊し、友人達と飲み会をして、今日は新高輪プリンスホテル。頭痛フォーラムに参加してきました。集まった医師の数は1000人くらいと、なかなか規模の大きなものでした。

会場には国際頭痛分類の翻訳委員や、慢性頭痛診療ガイドライン作成委員の先生がたくさんいらしゃいました。日本の頭痛診療の権威である座長の先生から、「頭痛を治療する能力は医師の力量を測るのに最も良い」という医聖ウィリアム・オスラーの言葉が引用され、活発な議論が繰り広げられました。

また、University Duisburg-Essen HufelandstrのHans-Christoph Diener教授も参加し、特別講演を聞くことができました。ドイツと日本の医療の違いなども垣間見え、興味深かったです。

会場では、医師達にリモコンが渡され、選択式の問題を解かされました。そして、何%の医師がどの答えを選んだか、前のパネルに表示されました。わざわざ紛らわしい症例を出題した割には、全体的にほぼ8割くらいの正答率がありましたが、中には正答率が思わしくない問題もあり、頭痛を専門としている医師達と、専門にしていない医師との力量の差が見られました。私は、昨年頭痛に関する論文を2本ばかり書き、その際かなり勉強したこともあり、だいたい正答することが出来ました。どの医師を受診しても、高いレベルの頭痛診療を受けられるようになるために、一般の医師への啓蒙も必要です(本日参加した医師は、それでも積極的に学ぶ姿勢を持った人が多かったと思います)。

(参考)http://homepage2.nifty.com/uoh/ (座長の先生による、頭痛に関するサイト)

話は変わりますが、先日福島市である研究会に参加して、面白い話が聞けました。福島県立医科大学の教授の体験ですが、以前オーストラリアの学会に参加した際、各国の神経内科医代表が、神経内科のあらゆる分野について討論し、勝ち負けをつけるゲームを行ったそうです。その時、優勝したのは、伝統あるフランスでもアメリカでもなく、イギリス。また上位は軒並みイギリス式医学教育を受けた国だったそうです。日本は惨敗だったとのことでした。このままではいけないと感じさせられた話です。

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伊福部昭

By , 2006年2月26日 8:21 PM

日本を代表する現代作曲家である伊福部昭氏が先日亡くなられました。私のヴァイオリンの先生がアルメニア音楽祭で伊福部作曲の協奏曲を演奏したことがあったため、私も親しみを持っていた作曲家でした。一般には、映画「ゴジラ」のテーマ曲の作曲家として有名です。

彼の「音楽入門」は、彼独自の史観の上になりたった名著です。先入観に支配されず、まず音楽を感じて欲しいという姿勢は、バーンスタインが「Young people’s concert」で語っていたことと一致しています。北海道大学(確か農学部)卒業で、音楽を専攻したことのない人が、ここまでの音楽観を持ち、作曲を行えたというのは、同じく音楽を専攻したことのない私としては、あやかりたいものです。

彼が活動を始めた時期は、西洋への憧れが音楽界を席巻しており、彼の作曲する日本古来の音楽からの楽想に基づく音楽は全く評価されなかったといいます。しかし、日本と西洋の音楽両方の要素を持った音楽は非常に新鮮なものです。ロシア人作曲家によって発掘されて、初めて評価を受けるようになり、以後の活動は周知の通りです。ヴァイリン協奏曲を聴き直してみて、改めて惜しい人を亡くしたものだと思います。

昨日は、バッハの無伴奏ヴァイリンのためのパルティータのレッスンを受けましたが、演奏の中に必然性を作ることの重要さを痛感しました。

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プリオン病

By , 2006年2月20日 9:41 PM

最近、4点セットだか5点セットだかが世間を賑わせています。しかし、我々神経内科医にとっては、断然狂牛病問題に興味があります。狂牛病で問題となるのはプリオンと呼ばれる異常蛋白です。プリオン病はクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)と呼ばれます。

私もプリオン病に関しては、ここ1年で2例の臨床経験がありますが、治療法がなく、本当にミゼラブルな疾患です。私が経験したのは、硬膜移植に伴うCJDと、古典的CJDですが、狂牛病はまだ治療経験がありません。古典的CJDについては、来院後1~2時間で診断がつきましたが、治療法無く、対症療法のみとなっています。

報道で見ていて気になるのは、政治的な駆け引きだけが問題となっていて、疾患の本質が全く報道されていないことです。

(参考)http://www.nanbyou.or.jp/pdf/cjd_manual.pdf

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遭難事故

By , 2006年2月19日 11:07 PM

先日、ニュースを賑わした遭難事故に私も巻き込まれたことがありました。それは、私がかなりハードな当直をしていた日のことでした。

救急隊から要請が入り、遭難者が4名いるとのこと。16時くらいに要請が入りましたが、まず駆けつけたのはマスコミ。その後、19時半くらいに救急隊が到着しました。男性3名と女性1名だったので、2部屋続いた救急室を仕切って、男性と女性に分けました。後は、より症状の重そうな人から順に診察していきました。マスコミ対策は警察が手際よくやってくれ、マスコミも度を越した取材は無かったように思います。最後に警察から、病状を教えて欲しいと聞かれたので、「プライバシーのことがあるので、患者様が話して良いという範囲でのみ話します」と伝えました。「患者が疲労している」「プライバシーの問題がある」と強調したため、結局代表者1名のみによる短いインタビューで取材は終了したみたいです。

ニュースでも報道され、翌日の新聞でも取り上げられていましたが、渦中にいる人間には、そういった情報は入らないものだなと思いました。内科当直は私一人だったため、責任者として対応しましたが、無事問題なく解決し、ほっとしています。

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神経内科

By , 2006年2月11日 5:30 PM

私が勤務するのは神経内科なる科ですが、世間的にはまだまだ認知度が低く、長嶋茂雄さんが脳梗塞で東京女子医大の神経内科に入院され、やっと知った人もいるのではないでしょうか。

神経内科が他の科と混同されやすいのは、精神科が敷居を低くするために「神経科」と名乗っていることや、精神状態が身体症状に強く関与する「心療内科」なる、名前の良く似た科があるためと思われます。

神経内科という科は、中枢及び末梢神経、またはそれらの支配する筋肉に関わる疾患を扱います。外来をやっていて多いのは、頭痛、認知症、パーキンソン病、頸椎症、糖尿病性末梢神経障害、眩暈などで、入院患者としては脳梗塞、脳出血(手術適応のないもの)、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症などを扱います。稀な疾患ですが、重症筋無力症、プリオン病なども時々来院します。神経内科疾患に対して知識を持っている医師が少なく、歳のせいにされている悲惨な症例があるのが現状です。

あくまで内科的なアプローチに主眼がおかれ、また患者の大多数が老人なので、神経内科疾患以外の合併も多く、内科疾患への幅広い知識も要求されます。老人を相手にするということは、介護や社会医療制度の問題も避けて通れません。一方で特殊な知識を要求される疾患が多いため、他の内科系医師からも良く相談を受けます。

時に「神経内科疾患は神経内科に診断はつけて貰えるけど、治らない」という誹りを受けることがありますが、多くを占める頭痛や脳梗塞はかなり治療成績が良いものと思います。ただ、比較的新しい学問で、脳という未知の領域を相手にするので、今後の研究の余地が多い領域です。

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