Category: その他

津浪と人間

By , 2012年7月28日 1:56 PM

寺田寅彦の随筆が好きでよく読みます。最近、あっと思う随筆を見つけたので紹介したいと思います。

津浪と人間

昭和八年三月三日の早朝に、東北日本の太平洋岸に津浪が襲来して、沿岸の小都市村落を片端から薙なぎ倒し洗い流し、そうして多数の人命と多額の財物を奪い去った。明治二十九年六月十五日の同地方に起ったいわゆる「三陸大津浪」とほぼ同様な自然現象が、約満三十七年後の今日再び繰返されたのである。
同じような現象は、歴史に残っているだけでも、過去において何遍となく繰返されている。歴史に記録されていないものがおそらくそれ以上に多数にあったであろうと思われる。現在の地震学上から判断される限り、同じ事は未来においても何度となく繰返されるであろうということである。
こんなに度々繰返される自然現象ならば、当該地方の住民は、とうの昔に何かしら相当な対策を考えてこれに備え、災害を未然に防ぐことが出来ていてもよさそうに思われる。これは、この際誰しもそう思うことであろうが、それが実際はなかなかそうならないというのがこの人間界の人間的自然現象であるように見える。
学者の立場からは通例次のように云われるらしい。「この地方に数年あるいは数十年ごとに津浪の起るのは既定の事実である。それだのにこれに備うる事もせず、また強い地震の後には津浪の来る恐れがあるというくらいの見やすい道理もわきまえずに、うかうかしているというのはそもそも不用意千万なことである。」
しかしまた、罹災者の側に云わせれば、また次のような申し分がある。「それほど分かっている事なら、何故津浪の前に間に合うように警告を与えてくれないのか。正確な時日に予報出来ないまでも、もうそろそろ危ないと思ったら、もう少し前にそう云ってくれてもいいではないか、今まで黙っていて、災害のあった後に急にそんなことを云うのはひどい。」
すると、学者の方では「それはもう十年も二十年も前にとうに警告を与えてあるのに、それに注意しないからいけない」という。するとまた、罹災民は「二十年も前のことなどこのせち辛い世の中でとても覚えてはいられない」という。これはどちらの云い分にも道理がある。つまり、これが人間界の「現象」なのである。
災害直後時を移さず政府各方面の官吏、各新聞記者、各方面の学者が駆付けて詳細な調査をする。そうして周到な津浪災害予防案が考究され、発表され、その実行が奨励されるであろう。
さて、それから更に三十七年経ったとする。その時には、今度の津浪を調べた役人、学者、新聞記者は大抵もう故人となっているか、さもなくとも世間からは隠退している。そうして、今回の津浪の時に働き盛り分別盛りであった当該地方の人々も同様である。そうして災害当時まだ物心のつくか付かぬであった人達が、その今から三十七年後の地方の中堅人士となっているのである。三十七年と云えば大して長くも聞こえないが、日数にすれば一万三千五百五日である。その間に朝日夕日は一万三千五百五回ずつ平和な浜辺の平均水準線に近い波打際を照らすのである。津浪に懲りて、はじめは高い処だけに住居を移していても、五年たち、十年たち、十五年二十年とたつ間には、やはりいつともなく低い処を求めて人口は移って行くであろう。そうして運命の一万数千日の終りの日が忍びやかに近づくのである。(以下略:リンク先で全文読めます)

繰り返す津波被害について、本質を突いていると思いました。

ただ、現代は寺田寅彦の時代と比べ、映像を残せるなど情報技術は格段に進歩していますし、先日の震災を機に予測技術の開発も進んでいるようです。この不幸な繰り返しを何とか防いで、この文章を過去のものにしたいものです。

 

–関連記事 (寺田寅彦の別の随筆)–

物理学者の心

科学者と芸術家

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化学者の日誌

By , 2012年3月22日 7:48 AM

「化学者の日誌 (朝比奈貞一、奥野久輝、水島三一郎著、学生出版)」を読み終えました。これまで「医学への道」「物理学者の心」「病院の窓から」「人体の語るもの」「医学の小景」と紹介してきた科学随筆文庫の一冊です。

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ハカセといふ生物

By , 2012年3月12日 10:24 PM

「ハカセといふ生物」という漫画を読みました。バイオ系研究者を題材にした四コマ漫画なのですが、結構私のツボでした。私は漫画を買って読みましたが、ネットでも一部読むことが出来ます

ちなみに、私のお気に入りは第25話です。どーみてもゴルゴなんですが (笑)

第25話:伝説の男

バイオ系研究者の方は読んでみると楽しいと思います。

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石巻災害医療の全記録

By , 2012年3月11日 7:52 AM

「石巻災害医療の全記録 (石井正著、講談社)」を読み終えました。著者は石巻赤十字病院で陣頭指揮を執った外科医です。

本書を読むと、石巻赤十字病院が修羅場のような被災地で如何に大きな存在であったかがわかります。しかし、これは周到な準備と、優れた指揮官、医療従事者や他業種の方々の尽力によるものでした。彼をサポートした災害医療の専門家達の力も大きかったようです。

もともと、震災が高確率で起こると予想されていた宮城県では、いくつもの対策がなされました。例えば、2006年5月に内陸部に移転した石巻赤十字病院は、免震構造であり、ヘリポートや被災者診療用の広いスペースを備えていました。石巻市では、2010年  1月 22日に石巻地域災害医療実務担当者ネットワーク協議会が立ち上がりました。さらに 2011年 2月 12日に著者の石井正先生が宮城県で 6人目となる「宮城県災害医療コーディネーター」に委託され、震災対策を次々と進めていました。こうした準備が、被災後に生きました。

本書には、震災に対する準備、発災直後の対応、トリアージタグ・疾患名・患者数の内訳など貴重なデータが満載です。また、「想定外」が多発したときにどのように対応していったかの詳細な記録が残されています。私は「自分だったらどうしていたか」をシュミレーションしながら読みましたが、考えさせられるところが多かったです。

本書は堅い話ばかりではなく、こんなイイ話もありました。著者には酒飲み友達のネットワークというものがあり、震災直後に NTTドコモショップ石巻店の店長が衛星携帯電話 2台、それらに優先的につながる携帯電話 10台を病院に持ってきてくれ、頼むとすぐに中継局を病院に作ってくれたそうです。積水ハウス仙台支店は被災後速やかにテントを病院の玄関前に設置してくれたとのことでした。

また、それ以外にも医療関係者以外の支援が大きかったことを感じさせるエピソードがありました。Googleの幹部クラスが病院を訪れてきて、何か出来ることはないかと言われ、結果として、避難所データの閲覧・検索ソフトを作ってくださったそうです。それも「Googleは社会貢献を旨としている会社です。支援活動で金を稼ごうなんて考えていません。金は別のところで稼げと社長にも言われていますし、それが社の理念でもありますから、ご心配なく」という言葉を残して、無料で。そして、Google社員のこの言葉に感銘を受けました。

どんな情報でも構いませんから、とにかく集めることができる情報はすべて集めてください。『これは必要ではないな』と思う情報でも構いませんし、『何が必要か』などと気にする必要もまったくありません。集まった情報を ”料理” するのはわれわれ専門家の仕事ですので、ありとあらゆる情報を集め、あとはおまかせください

石井正先生の母校の東北大学も石巻赤十字病院を支えました。石井先生は、東北大学病院の病院長から次のようなメールを受け取ったそうです。

 石巻日赤からの大学病院への入院受け取りについては、従来通り対策本部一括で受け取ります。これまで同様にどのような疾患の患者が何人いるかを連絡していただければ、各科に個別に交渉する必要はありません。割り振りはこちらで行います。日赤の負担をできるだけ少なくすることが、今、大学病院にできる最大の貢献であるとの認識で一致していますから、どうぞ遠慮なく困ったときは一報入れてください。

実際、東北大学は専門に関係なく多数の患者を受け入れ、肺炎患者を泌尿器科で診ることもあったそうです。

いくつもの感動的なエピソードに、読んでいて何度も涙ぐみました。医学的知識が全く無くて読める本ですので、医療関係者はもとより、それ以外の方にも是非読んで頂きたい一冊です。

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自衛隊かく闘えり

By , 2012年3月11日 7:47 AM

「東日本大震災秘録 自衛隊かく闘えり (井上和彦著、双葉社)」を読み終えました。自衛隊が震災後どのような活動をしてきたかが記してありました。初期の救出活動、それに引き続く復興への活動、原発事故対応、米軍との共同作戦・・・それぞれの現場で起こった感動的なエピソードが満載でした。

また、自衛隊の災害時の初動対処について書いてあったのがとても参考になりました。当該の部分を引用します。

 現在、自衛隊は震度 5以上の地震が発生した場合、速やかに航空機などで情報収集することになっている。

たとえば、陸上自衛隊は、全国 157の駐屯地などを基盤として、出動命令の受領後 1時間を基準に出動できる即応体制を取っている。また海上自衛隊では、各地方総監部で初動対応艦 1隻指定しているほか、各航空基地では哨戒機および救難期機を待機させている。もちろん航空自衛隊も、救難機や輸送機を常に待機させるなど、発災と同時に即応できる万全の態勢をとっているのだ。

また、首都直下型震災の場合は、全国の部隊を迅速に首都に集中させるようになっている。

具体的には、陸上自衛隊は最大約 11万人、海上自衛隊は艦艇最大約 60隻と航空機最大約 50機、そして航空自衛隊は輸送機最大約 30機と救難機最大 25機、加えて偵察機最大 15機が集中投入されることになっているのだ。

残念だったのは、感動的なエピソードの羅列ばかりとなっていて、災害時の救助活動のノウハウがほとんど記載されていなかった点です。また、感動的なエピソードの後に「だから自衛隊は素晴らしい」というニュアンスの宣伝がくっついていたのが、押しつけがましくてやや興醒めでした。そんな宣伝つけなくても、自衛隊が如何に被災地で活躍していたかは、みんな知っているというのに・・・。

 

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ブラック・ジャック創作秘話

By , 2011年12月24日 11:12 AM

ブラック・ジャック創作秘話」という漫画を読みました。

手塚治虫氏の漫画に賭ける執念が伝わってきました。作品が生み出された裏に色々なエピソードがあり、もう一度ブラック・ジャックを読み直したくなりました。

ブラック・ジャックを読んだことのある方にはオススメです。ブラック・ジャックを読んだことのない方は、まずブラック・ジャックを読んでみてください。

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経営学

By , 2011年10月10日 7:41 AM

先日紹介した「クロネコヤマトの DNA」という記事を読んでこの本「経営学(小倉昌男著、日経BP社)」を知り、早速読み終えました。

じり貧であったヤマト運輸を引き継いだ小倉昌男氏が「クロネコヤマトの宅急便」というサービスを開始し、日本最大手の企業に成長させるまでの話を扱っています。

経営を教える学校は多くあれど、「考えること」の大切さを思い知らされました。

クロネコヤマトの配送車の話も面白かったです。色々な工夫がされています。運転席から車の来ない左側のドアに移動して降りられたり、運転席から直接荷物室に入れたり、中で立って作業できる高さになっていたり・・・。多くの自動車メーカーが開発に協力的でなかった中、取引のなかったトヨタ自動車が手を挙げたのだそうです。この本を読んだ後、クロネコヤマトの配送車をマジマジと見てしまいました。

「クロネコの DNA」という記事を読んでこの会社に興味を持った方、是非読んでみてください。

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マンガでわかる有機化学

By , 2011年2月13日 3:18 PM

「マンガでわかる有機化学 (齋藤勝裕著、SoftBank Creative)」を読み終えました。左側のページが講義、右側のページがマンガになっている本です。Amazonで高評価を得ていたので購入しました。

私の出身高校は、ほとんどの学生が就職する高校だったので、学校側の配慮からか理科は 1科目しか習うことができませんでした。私は物理選択だったため、理科 2科目求められる医学部を受験するため、化学は独学で勉強しました。

有機化学は最初は全く意味不明だったのですが、段々わかると楽しくなってきて、化学の中では好きな分野になりました。でも、今回 15年ぶりくらいにこの分野の本を読むと、あまりの知識の抜けっぷりに笑ってしまいました。「エーテルって何だっけ」「カルボニル?カルボキシル?」ってな感じで、「アルコールの一級は一級酒のことですか?という有様。

でも、本書を読んでいく毎に、だんだん色々思い出してきて楽しかったです。高校で一度勉強したけれど、ほとんど記憶が残っていない・・・という方にお薦めの本だと思います。

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さらば脳ブーム

By , 2010年12月13日 7:28 PM

「さらば脳ブーム (川島隆太著、新潮新書)」を読み終えました。際どい話が一杯で面白かったです。川島氏は脳トレの開発者です。ブームには反動があるのが付きもので、彼は一時週刊誌などでかなり叩かれたことがあります。今回の話にはその反論と反省の内容も織り込まれています。面白かった部分を簡単に紹介します。

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宇宙は何でできているのか

By , 2010年12月9日 6:38 AM

「宇宙は何でできているのか 素粒子物理学で解く宇宙の謎 (村山斉著、幻冬舎)」を読み終えました。

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