Category: 医学と医療

航空機での医師登録制度

By , 2016年6月1日 7:07 AM

以前、ルフトハンザの「Doctors on board」プログラムについて紹介しました。

医療関係者の方はいませんか?

これに追随する流れが広がっているようです。まず、JALが「JAL DOCTOR登録制度」を開始。しかし、登録には日本医師会発行の医師資格証が必要で、日本医師会の会員以外が資格証を用いるには、発行手数料 5000円、年間使用料 6000円が必要。日本医師会の会員以外で登録しようという物好きな医師はいないでしょう。アホな制度を作ったものです。私は青組 (ANAメンバー) で良かった・・・。

JAL DOCTOR登録制度とは?

当登録制度は、医師資格証をお持ちの医師の方に任意でのお願いになります。
JALグループ便機内で急病人や怪我人が発生し、医療援助が必要となった場合、登録いただいた医師の方へ客室乗務員が直接お声掛けをさせていただく、国内航空会社では初めての取り組みとなります。
ご登録時に医師情報が登録されますので、JALグループ便ご予約の際にお得意様番号を登録いただくことで、緊急医療が必要な事態が発生した場合、客室乗務員が医師の方に速やかに援助をお願いさせていただくことが可能となります。
※飲酒や体調不良など、対応が困難な場合は、その旨を客室乗務員へお伝えくだされば、ご辞退いただくことも可能です。

続いて、ANAも同様のサービスを開始することが発表されました。

医師登録制度「ANA Doctor on board」を開始します

~安心してご利用頂けるよう医療サポート体制を強化します~
ANAは2016年6月より、昨今の高齢社会や訪日需要をふまえ、より安心してご利用いただけるよう、医師登録制度「ANA Doctor on board」を開始し、国際線を中心に医療サポート体制を強化致します。

ANAはこれまでも機内で医療対応が必要となった場合の対応策として、医療物品の搭載や国際線において「MedLink(※)」と提携し、24時間地上と連携しサポートできる体制を提供してまいりました。「ANA Doctor on board」の実施により、機内にて傷病者などが発生した際、客室乗務員が「ドクターコール」(アナウンスによる医療関係者の呼び出し)をせず、登録いただいた医師に協力依頼ができ、迅速な救急医療処置につながります。7月より募集を開始し、9月より国際線にて運用開始する予定です。

機内搭載の医療物品についてもこれまでより詳細に開示し、傷病をお持ちのお客様、医療対応に協力頂く医師の方々にも事前に確認いただけるように致します。

また、「ANA Communication Board」を活用することで、音声を含む各国の言語(定例用語)にて、医療行為発生時の初期対応に活用が可能となります。(ANA NEWS第16-022号 「ANAコミュニケーション支援ボード)の導入)

ANAはこれからもより安心してご利用いただけるよう各種サービスを拡充してまいります。
以上
※MedLink:航空の乗務員と乗客に医療サービスを提供しているMedAir社と契約し、24時間365日、緊急時の電話による医療ケアやセキュリティ専門家によるアドバイスを世界中どこにいても受ける事ができます。
【ANA Doctor on boardについて】
※ANAマイレージクラブ会員を対象に、医師免許と顔写真付きの身分証明書を申込書とともに事務局に送付頂き、所定の審査・確認を実施の上、登録となります。
※登録された医師ご本人の体調等の都合もあるため、協力は任意と致します。登録された医師がいない場合には、これまで通りドクターコールを実施致します。
※機内で実施頂いた医療行為に起因して、医療行為を受けられたお客様に対する損害賠償責任が発生した場合、故意または重過失の場合を除き、弊社が主体となって対応させて頂きます。

コンセプトは良いのですが、登録するメリットが見えないし、「損害賠償責任が発生した場合、故意または重過失の場合を除き」の「重過失」の定義がはっきりしないので、しばらくは見合わせようと思います。飛行機の中という経験のないシチュエーションで、専門外の疾患に対して、100%過失を犯さない自信はないです。今登録するなら、ルフトハンザです。ヨーロッパに行くときは、共同運航便を使えば良いし。

(参考)

善きサマリア人の法とは?ここに来て甚だしいJALと日本医師会の浅はかさ

Post to Twitter


第57回日本神経学会学術大会

By , 2016年6月1日 5:45 AM

2016年5月18~21日に行われた神経学会総会に行ってきました。というか、あまりアカデミックなことには触れることなく・・・。とりあえず、どんなことがあったか振り返っておきます。

まず、5月20日の学会のコングレスディナーと 5月21日のポスターセッションでの演奏依頼があったことを記しておく必要があります。演奏するのは、神経内科医、言語聴覚療法士、他科の医師数名の団体。

20日はレスピーギの「リュートのための古風な舞曲とアリア第3曲 (レスピーギ)」「日本の四季~夏 (早川正昭)」「アイネ・クライネ・ナハトムジーク第 3楽章 (モーツァルト)」、21日は「アイネ・クライネ・ナハトムジーク第1楽章 (モーツァルト)」「カノン (パッヘルベル)」「花は咲く」を演奏する予定でした。私は第1ヴァイオリンを演奏することになっていましたが、tuttiでしたので、後ろの方で小さな音で弾いていればよいかと思い、ほとんど練習していませんでした。ところが・・・。以下、日記風に。

5月15日(日):「20日の演奏で、ソリスト兼コンサートマスターが外来を閉め忘れて来られなくなった。代役を御願いします」との電話。俺氏青ざめる。カラオケボックスに篭もり 2時間ほど音取り。

5月16日 (月):当直で練習出来ず

5月17日 (火):19~21時まで雑誌の編集会議があり、その後 2時間ほどカラオケボックスで練習。

5月18日 (水):仕事を終えて、新幹線で神戸へ。23時30分頃ホテルサンルートソプラ神戸に到着。ホテルのルームキーが壊れており、最上階のツイン・ルーム (応接セット付き) を 3日間使って良いことになる。ちょっとラッキー。

5月19日 (木):Cochrane systematic reviewの締め切りが 5月20日だったので、午前中は学会場の喫茶店に篭もり作業。午後は岩田誠先生の「小脳症候学の確立」の講演のみ聴講。素晴らしい講演だった。ポスターを眺めてから三宮に戻り、飲み会を断ってカラオケボックスで 2時間楽器の練習。その後、ステーキランド神戸店で神戸牛+ワインを堪能してホテルへ。

5月20日 (金):午前中、学会の喫茶店で Cochrane systematic reviewの担当者に「間に合いません。締め切り延期してください」の泣きメール (爆)。午後、合奏のメンバーの一人 Kentaru先生と合流して、ポスターを眺めてから二人でグリル金プラにて私的ランチョンセミナーへ。食事をしてから一緒にカラオケボックスで練習。現実逃避をして、バッハの「二台のヴァイオリンのための協奏曲」などを合わせて遊ぶ。その後、ラ・スイート神戸オーシャンズガーデンのコングレスディナーで演奏。奇跡的に上手くいって、多くの拍手をいただく。ディナーの後、三宮で二件ハシゴ酒。

5月21日(土):二日酔いで学会場へ。本来のコンサートマスターが到着したため、tuttiの一員として気楽に演奏。ポスターを眺めてから、三宮駅前へ。Kentaru先生とBeer Cafe De Bruggeに入り、何気なくルースというビールを頼んでからふとメニューを見て、5980円という表記を見つけビックリする。店を出て、新神戸駅で大量の酒を買い込み、新幹線で飲み会開始。二人で音楽談義をして盛り上がる。学会で勉強したことの情報交換など。東京で解散。

ということで、学会ではあまり勉強はしませんでしたが、久々に音楽漬けの数日間を送ることができました。

そして後日、この演奏を聴いた方から、別の学会での演奏依頼が舞い込んできたのでした(^^)

Post to Twitter


これだけは知っておいて欲しい筋疾患

By , 2016年5月28日 6:15 PM

2016年5月13日、郡山ビューホテルで行われた第9回福島末梢神経研究会に参加しました。西野一三先生の「これだけは知っておいて欲しい筋疾患」という講演が面白かったので備忘録としてメモしておきます。

①Sporadic late-onset nemaline myopathy (SLOMN):ネマリンミオパチー

・成人発症で、亜急性・進行性である。運動ニューロン疾患に似た経過をたどる。治療できる場合があるので、見逃してはならない。

・SLOMN with MGUSは予後不良で、5/7例が呼吸不全で死亡 (予後 1-5年)。

・SLOMN without MGUSは 5/5例生存→治療として、高用量メルファラン+自家幹細胞移植 7/8例で生存、改善している。 

・SLOMN with MGUSは治療として、高用量メルファラン+自家幹細胞移植 7/8例で生存、改善している。(記事末尾の追記およびコメント欄参照)

・狭高口蓋は先天性ミオパチーを示唆する。Nemaline myopathyが鑑別となる。ミオパチーを疑ったら、口腔内の上側をきちんと評価すること。

・四肢筋力が保たれるにも関わらず、呼吸筋麻痺が目立つミオパチーとして、nemaline myopathy, Pompe病がある。歩けているのに呼吸不全をきたし、患者自身が自分でアンビューを押す事例もあるらしい。

②Inclusion body myositis (IBM): 封入体筋炎

・深指屈筋が侵されやすい (前腕の筋萎縮が目立つ) +大腿四頭筋萎縮が目立つ

・深指屈筋が侵されると、ペットボトルの蓋が開けにくい。深指屈筋の筋力低下のみだと、握力計は役に立たないことがある。

・疫学としては、米国、オーストラリアに多い。タイ、インド、イスラエルにはほとんど存在せず、報告があったとしても全部外国人。食生活が影響?

・IBM患者では HCV感染症が多く、28.8%というデータがある。非IBM患者だと 3.4%とされている。米国の IBM患者は HIVの合併が多いと言われている。

・筋病理は、autophagyを反映して rimmed vacuoleがみられる。Endomysiumにリンパ球がみられ、炎症を示している。壊死・再生がないのにリンパ球がみられるというのが特徴。

・高齢者にしか起こらない筋疾患として、眼咽頭筋型筋ジストロフィー (OPMD), IBMがある。

③Immune mediated necrotizing myopathy (iNM): 免疫介在性壊死性ミオパチー

・筋病理としては、筋の壊死・再生がみられるが、リンパ球浸潤はほとんどない。

・様々な自己抗体が見られる。SRP>HMGCR>ARS>M2>others (抗SS-A抗体など)。SRP, HMGCR, ARS, M2については routineにチェックすべき。

・SRPは signal recognition particleで、ERに入る分泌型の蛋白質についているシグナルを認識している。ELISA法だと抗原認識部位により抗体を検出できないことがあるので注意。

・抗HMGCR抗体は最初スタチン内服患者での myopathyで検出された。しかし、その後スタチンを内服していない患者でも報告されている。

④Limb-girdle muscular dystrophy (LGMD) 2B:肢帯型筋ジストロフィー2B

・筋病理は、壊死・再生線維がみられ、血管周囲にリンパ球がみられる。perimysiumにもリンパ球がみられるが、これは反応性であり、診断的意義はない。

⑤Polymiositis (PM):多発筋炎

・皮膚科やリウマチ膠原病科では多発性筋炎と呼ぶが、神経内科では多発筋炎が正しい。

・筋病理では、endomysiumにリンパ球 (cytotoxic T cell) 浸潤 (=筋を攻撃している) がないと、多発筋炎とは診断できない。

・2012年に国立精神神経センターに送られてきた 732例の検体の臨床診断は、多発筋炎 35%, 皮膚筋炎 18%, 封入体筋炎 17%, その他 30%だった。ところが病理診断を行うと、実際には壊死性ミオパチー 44%, 多発筋炎 6%, 皮膚筋炎14%, 封入体筋炎 22%, その他 14%だった。いかに壊死性ミオパチーが多いか、いかに多発筋炎が稀かということ。実は多発筋炎はとてもめずらしいのだ。

・1975年の Bohan-Peter基準 (Polymyositis and dermatomyositis (part 1, part 2)) は非常に緩い基準だったので、これを用いて多発筋炎と診断される患者は多かった。しかし、2015年の ENMC分類 (筋炎患者を皮膚筋炎、多発筋炎、封入体筋炎、壊死性ミオパチー、抗synthetase症候群、非特異的筋炎に分類) を厳格に適用すると、多発筋炎患者は極めて少なくなる。

⑥Anti-Aminoacyl-tRNA Synthetase (ARS) antibodies: 抗ARS症候群

・myositis (筋炎), interstitial pneumonia (間質性肺炎), Mechanic’s hand (機械工の手: カサカサ) が重要

・筋病理では perifascicular necrotizing myopathyである。

・Jo-1, PL-7, PL12, EJ, OJ, KS, YRS, Zoなどたくさんの抗体が見つかってきている。Jo-1, PL-7, PL-12, EJ, OJは抗ARS抗体としてスクリーニングすべきである。抗ARS抗体の一つ Jo-1のみでスクリーニングをかけると、7割を見逃すことになる (抗Jo-1抗体は、抗ARS症候群の中で 30%くらいにしか検出されない)。

⑦皮膚筋炎

・MDA5, TIF-1γ, Mi-2, NXP2, SAEなどさまざまな抗体が見つかってきている。

(2016.7.16追記)

なんと、演者の先生から修正を頂きました。コメント欄から転載します。

神経センターの西野です。ウェブを検索していて偶然ブログを見つけ拝見させて頂きました。講演をまとめて頂き大変光栄です。

一点だけ、先生の記録を修正させて下さい。メルファランで治療可能なのは、SLOMN with MGUSです。この疾患は生命予後不良なのに、見つけてちゃんと治療すれば救命でき、筋力も改善するという点がミソです。without MGUSの方は、治療法はないものの生命予後良好はです。

どうぞよろしくお願いいたします。

(参考)

多発筋炎と皮膚筋炎

Post to Twitter


とろみ

By , 2016年5月24日 7:21 AM

神経疾患で嚥下障害を呈することは珍しくなく、栄養管理をどうするのかというのは常に問題になります。水で誤嚥が起こることが多いので、ぎりぎり経口摂取可能な程度の嚥下障害がある方は、トロミをつけて食事をしていただくことがしばしばあります。慣習的なもので、そのエビデンスについて、私は深く考えたことがありませんでした。この問題について、下記のブログを読んでとても勉強になったので紹介しておきます。

LESS IS MORE: トロミ剤の不適切使用 The horrible taste of nectar and honey-Inappropriate use of thickened liquids in dementia A teachable moment

Post to Twitter


最近の医学ネタ

By , 2016年5月20日 8:40 AM

論文の reviseの締め切りとか、雑誌の編集会議用の資料作りとか、色々重なって、ブログを更新する時間が全く取れませんでした。最近出た論文や医学系ニュースも概要のみチラッとチェックしているだけですが、後々見返すことがありそうなので、備忘録として簡単にメモしておきます。

Low-Dose versus Standard-Dose Intravenous Alteplase in Acute Ischemic Stroke

“Approximately two thirds of the patients were Asian, and 43% were recruited from China. ” とアジア人を多く含む試験で、アルテプラーゼ 0.6 mgは 0.9 mgに死亡や障害で非劣性を示せず。rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法 適正治療指針 第二版 にも「アルテプラーゼの至適用量に関するデータは国内外ともに未だ乏しく、このような用量の差が人種 差に基づくものか否かも含めて今後の更なる検討が必要である」とか書いていますし、今後は、アジア人のみを対象として至適用量を探す研究が出てくるんですかね。今のところ、clinicaltrials.govでそれっぽいのはないけれど。

Ticagrelor versus Aspirin in Acute Stroke or Transient Ischemic Attack

発症 24時間以内の急性虚血性脳卒中が対象。13199人をランダム化比較された。1:1割り付けで、薬物の用量は下記。
Patients received either ticagrelor (a loading dose of 180 mg given as two 90-mg tablets on day 1, followed by 90 mg twice daily given orally together with loading and daily doses of aspirin placebo) or aspirin (a loading dose of 300 mg given as three 100-mg tablets on day 1, followed by 100 mg daily given orally together with a loading dose and twice-daily doses of ticagrelor placebo).

Ticagrelorはアスピリンに脳卒中、心筋梗塞、死亡の複合エンドポイントで優位性を示せず。
In conclusion, in our trial involving patients with acute ischemic stroke or transient ischemic attack, ticagrelor was not found to be superior to aspirin in reducing the risk of the composite end point of stroke, myocardial infarction, or death.

二次エンドポイントである虚血性脳卒中もギリギリだめ。
The main secondary end point, ischemic stroke, occurred in 385 patients (5.8%) in the ticagrelor group and 441 patients (6.7%) in the aspirin group (hazard ratio, 0.87; 95% CI, 0.76 to 1.00; nominal P=0.046)

あと、Ticagrelorは呼吸苦での内服中断が 1.4%あり。
Dyspnea and bleeding events were the most frequent factors accounting for the difference, with rates of discontinuation due to dyspnea in the ticagrelor and aspirin groups of 1.4% and 0.3%, respectively, and rates of discontinuation due to any bleeding of 1.3% and 0.6%.

やはり、脳卒中の急性期治療でアスピリンに勝てる薬剤は無いんですね。

Popular Pain Drug Linked to Birth Defects

神経障害性疼痛の治療で用いられるプレガバリン (商品名:リリカ) で先天性異常のリスクが高まる可能性があり、妊婦さんは注意を。

Olanzapine: Drug Safety Communication – FDA Warns About Rare But Serious Skin Reactions

抗精神病薬のオランザピンで DRESS (Drug Reaction with Eosinophilia and Systemic Symptoms) の報告。1996年以降 23件の報告が FDAに寄せられているが、報告されていないものもあるため、実際にどの程度生じるかは不明。

Mucocutaneous Findings and Course in an Adult With Zika Virus Infection

ジカウイルスでは皮膚粘膜の所見に注意。講演で忽那先生がおっしゃっていた通り

Migraine photophobia originating in cone-driven retinal pathways

片頭痛患者は光過敏を示すが、緑色よりも白色や青色、黄色、赤色で悪化する。円錐由来の網膜経路が関与しているらしい。

Metformin for chemoprevention of metachronous colorectal adenoma or polyps in post-polypectomy patients without diabetes: a multicentre double-blind, placebo-controlled, randomised phase 3 trial

ポリペクトミーの既往のある非糖尿病患者へのメトホルミン投与で、異時性大腸腺腫やポリープが減るらしい。

メトホルミンの癌に対する効果の研究は最近色々と行われています。

Intensive vs Standard Blood Pressure Control and Cardiovascular Disease Outcomes in Adults Aged ≥75 Years

Systolic Blood Pressure Intervention Trial (SPRINT) で高齢者のサブグループを調べた研究。糖尿病のない 75歳以上の高齢者において、収縮期血圧 140 mmHg未満よりも 120 mmHg未満で管理した方が、主要な心血管イベント、総死亡は減るようだ。

高齢者の降圧については凄く議論のある分野で、ガイドラインは下げ過ぎない方向に向かっていて、この研究だけでプラクティスを変えるようなことにはならなさそう。今回は時間がなくてアブストラクトしか見てないので、時間ができたら先行研究と比較吟味したいところ。

ここが知りたい!高齢者診療のエビデンス [第1回]認知症治療薬,どう使う?
✓ 認知症治療薬は,効果が限定的であることも,改善効果を示すこともあり,各薬剤の特徴を知って適切に使用したい。
✓ 認知症治療薬は少量から開始し,有害事象にも注意しながら12週間を目安に効果を判定する。
✓ 服薬中の錐体外路症状,興奮,不穏は,薬剤の有害事象である場合もある。
✓ 薬剤の有害事象かどうかの判断は,薬剤を中止してその症状が軽快するか否かで見極める。

ここが知りたい!高齢者診療のエビデンス [第2回]スタチン,いつやめる?
✓ 1次予防でのスタチンの適応は,リスク計算や年齢だけでは判断できない。
✓ 1次予防目的でスタチンを始める場合,効果発現には2年程度かかる可能性がある。
✓ 虚弱高齢者へのスタチンの継続は,目的をきちんと話し合う。
✓ 終末期のスタチンの中止は,患者にとって害にはならず,QOLの改善につながる可能性もあることから,中止も考慮したい。

Effects of aspirin on risk and severity of early recurrent stroke after transient ischaemic attack and ischaemic stroke: time-course analysis of randomised trials

TIAもしくは虚血性脳卒中でアスピリンとプラセボと比較して、二次予防効果を検討。過去の 12の臨床試験のデータを使用。アスピリンは 6週間の虚血性脳卒中再発リスクを 60%低下し、重症ないし致死性虚血性脳卒中を 70%低下させた。特に TIAや minor stroke患者で効果が大きかった。これは重症脳卒中の低減効果によるものだった。これらの効果は投与量や患者の特性、TIA/虚血性脳卒中の原因に独立してみられた。

Post to Twitter


更年期障害

By , 2016年5月5日 9:18 AM

とあるクリニックで外来をしていたら、患者さんから更年期障害について相談を受けました。突然発汗してしまい、困っているのだそうです。婦人科へのアクセスの悪い地域だったので、何か自分でできることはないか、少し調べてみると、オープンアクセスとなっている NEJMの総説がとてもよくまとまっていました。

Management of Menopausal Symptoms

・周閉経期 (menopausal transition) は 40歳代後半から始まり、約 4年間続く。閉経年齢の中央値は 51歳であり、喫煙者では約 2年間早くなる。周閉経期の初期は、エストロゲンは通常正常からやや高値で、FSHは上昇し始めるが概ね正常範囲内である。周閉経期が進むにつれて、ホルモンレベルは変化するが、エストロゲンは著明に低下し、FSHは上昇する。閉経すると排卵は起きなくなる。卵巣は、エストラジオールやプロゲステロンを産生しなくなるが、テストステロンの産生は続く。

・閉経期の女性は様々な症状を訴えるが、年齢や交絡因子で調整すると、血管運動症状 (vasomotor symptoms, ホットフラッシュや夜間の発汗) と膣症状 (vaginal symptoms)、睡眠障害のみである。記憶障害や倦怠感は、ホットフラッシュや睡眠障害によるものかもしれない。

・ホットフラッシュは、顔面や頸部、胸部を中心とした突然のほてりである。持続時間にばらつきはあるが、平均 4分程度である。しばしばおびただしい発汗と、それに引き続く寒気がある。ホットフラッシュは、周閉経期の後期に多く、約 65%の女性にみられる。中国人や日本人は白人よりも少ない。

・ほとんどの女性でホットフラッシュは一過性である。30~50%の女性では、数ヶ月以内に改善し、85~90%の女性では、4~5年で解決する。しかし、10~15%の女性では、なぜか閉経後も長年続く。ホットフラッシュのある女性とない女性では、内因性エストロゲンレベルに差はない。FSHの高値のみがほてりと関係していたという研究がある。

・膣症状 (乾燥、違和感、そう痒感、性交時痛) は、閉経後初期の約 30%、後期の 47%の女性にみられる。ホットフラッシュとは異なり、持続するか、年齢とともに悪化する。

・40歳代後半から 50歳代半ばの典型的な血管運動症状であれば、ほかに疑われるような原因がないかぎり、検査は不要である。注意深く問診し、アルコール摂取、カルチノイド、ダンピング症候群、甲状腺機能亢進症、麻薬離脱、褐色細胞腫、薬物 (硝酸薬、ナイアシン、GnRHアゴニスト、抗エストロゲン薬) などの除外を行う。FSHや LHは周閉経期の間、閉経前の正常範囲内に収まるが、ホルモン測定をルーチンに行うべきではない。

・複数の無作為研究で、エストロゲンはホットフラッシュの頻度や重症度を改善した。一般的に頻度は 80~95%減少する。どのような投与法でも有効である。効果は用量依存であるが、少量のエストロゲンでもしばしば有効である。効果は通常量のエストロゲン (経口エストロゲン 1 mg/dayないしその相当量) を開始して 4週間以内に見られる。エストロゲンあるいはプロゲスチンとの併用療法で脳卒中は 40%増える。直接比較はされていないが、エストロゲン+プロゲスチンの併用療法で、冠動脈疾患、肺塞栓症、乳癌はより増加するようだ。エストロゲンは、冠動脈疾患や乳癌、子宮がん、静脈血栓症の既往があったりハイリスクである患者、あるいは活動性肝疾患の患者では避けるべきである。経口薬より貼り薬の方が、静脈血栓症のリスクは低下するかもしれないが、はっきりとはわかっていない。

・エストロゲン+プロゲステロンの方が、エストロゲン単剤より有害事象が増えるかもしれない。しかし、エストロゲンを単剤で投与すると、有意に子宮過形成や子宮癌が増加する。プロゲスチンの少量投与は、子宮内膜を保護する。プロゲスチン単剤では副作用がしばしばみられる。

・SSRIや SNRIも効果があるが、薬剤や臨床試験での被験者の層によりホットフラッシュへの治療成績は異なる。パロキセチンで中等度の効果がある。乳癌サバイバーで治療効果が高い。抗エストロゲン薬の使用やうつの合併頻度が高いことなどが、治療効果が高いことの理由として推測されている。

・ガバペンチンも、わずかにであるが、乳癌の治療歴有無に関わらずホットフラッシュに効果がある。しかし副作用が出やすい。

・αアドレナリン作動薬であるクロニジンは、ホットフラッシュに対して効果がないか、あってもわずかである。

・膣症状にはエストロゲンがとても効果的であり、推奨される用量、投与頻度を守る限りは、プロゲスチンの追加は不要である。

その他、知人の医師から、産婦人科医によるわかりやすい解説も教えて頂きました。

「更年期障害」の診方

あと、BMJの総説も読みやすかったです。

Hormone replacement therapy.

これらの総説を読んだ結論としては、下記になります。

・診断は比較的容易で、通常はホルモン検査も不要。

・ホットフラッシュは一過性のことがほとんどで、治療の副作用を考えると、軽度であればそのまま経過観察でよい。

・ホットフラッシュの治療を行う場合、エストロゲンが良く効くが、禁忌がないことを確認する必要がある。また、子宮癌や乳癌等のリスクには留意する必要がある。子宮がある女性患者にエストロゲン療法を行うときは、子宮内膜癌のリスクを減らすため、プロゲスチンを併用するべき (←BMJ論文の表現)。ホルモン療法を行う場合、ダラダラと長期間続けない。ホルモン療法が行えない場合、SSRIは治療オプションになり、特に乳癌の既往がある場合に有効である。

ということで、ホルモン療法を行うならば、子宮内膜癌や乳癌のスクリーニングが可能な専門家に御願いしておいたほうが良さそうですね。自分で治療することはないと思いますが、半分近くの女性は、ホットフラッシュが数ヶ月で改善するとか、調べてみて色々と勉強になりました。

Post to Twitter


極論で語る感染症内科

By , 2016年5月3日 10:05 AM

極論で語る感染症内科 (岩田健太郎著, 丸善出版)」を読み終えました。

「極論」とは言っても、第一版から青木本を読んで育ってきた我々世代にとっては、感染症診療の原則そのものが書いてあるなぁ・・・という印象でした。最終章の HIV/AIDSは少しマニアックな感じがしましたけれども。

神経内科医としては、髄膜炎の章は是非読んでおくべきでしょう。細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014ではカルバペネムが推奨されるシチュエーションが多いですが、私は基本的に、岩田健太郎先生が書いているのと同じように、第三世代セフェム+バンコマイシン±アンピシリンで治療しています。カルバペネムの温存と、肺炎球菌のカルバペネムへの耐性化が進んでいることが理由です。本書には、JANISのデータで、5%弱の肺炎球菌がカルバペネム耐性であること、髄液検体だと 10%以上は感性でないことなどが書かれており、そこまで耐性化が進んでいるのかと思いました。あと、細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014では、MICの縦読みがされていることを私は気にしているのですが、そのことへの言及はありませんでした。実際、どうなんでしょうね。感染症の専門家の意見が聞きたいです。

Post to Twitter


気管支喘息バイブル

By , 2016年5月3日 9:42 AM

気管支喘息バイブル (倉原優著、日本医事新報社)」を読み終えました。

研修医時代は、天気の変わり目の当直といえば喘息発作が列をなしていて、ひたすら気管支拡張薬の吸入やステロイドの点滴を使っていた印象が強く残っていますが、近年ではそういう患者を見かけることもめっきり減りました。おそらく、吸入薬の進歩によるものでしょう。

吸入薬の進歩はめざましく、近年では様々な製剤が出ています。私はせいぜい ICS/LABAとしてアドエアくらいしか使ってこなかったのですが、ICSおよび ICS/LABAの使い分け、ステップアップやステップダウンの方法など、とても勉強になりました。

また、気管支喘息と ACOS (気管支喘息+COPD)、咳喘息、アトピー喘息の鑑別法もとても丁寧に書いてありました。気道過敏性と気道感受性の違いも、本書で初めて知りました。

クリニックなどで一般外来をしていると、「夜になると咳が止まらない」等の主訴でいらっしゃる喘息患者はたまにいらっしゃいます。そういう時に、本書はとても役立ちます。

Post to Twitter


側頭動脈炎とVZV

By , 2016年4月29日 6:15 AM

2015年11月の JAMA Neurologyに、側頭動脈炎と水痘・帯状疱疹ウイルス (VZV) の関連を示した論文が掲載されました。

Analysis of Varicella-Zoster Virus in Temporal Arteries Biopsy Positive and Negative for Giant Cell Arteritis

「側頭動脈炎で、巨細胞性動脈炎の病理所見が得られなかった症例の 64%, 巨細胞性動脈炎の病理所見が得られた症例の 73%で VZV抗原が病理学的に証明された。正常の側頭動脈で VZV抗原が陽性だったのは 22%だった」という報告です。側頭動脈炎において、VZVが関連している可能性が強く示唆されました。著者らは、抗ウイルス療法をステロイドに追加すると有効かもしれないと推測しています。

もともと、VZVは血管障害を起こすことが知られているウイルスで、私も VZV感染に合併した脳梗塞症例の経験があります。昨年、JAMA Neurologyのこの論文を読んだ時は衝撃を受けましたが、言われてみれば納得できる話です。

最近これに関連した報告を知人に教えてもらったのですが、肉芽腫性動脈炎患者の大動脈で、11例中 11例に VZV抗原が検出されたそうです (非肉芽腫性動脈炎患者では 18例中 5例)。

Varicella Zoster Virus Infection in Granulomatous Arteritis of the Aorta


(2016.5.5追記)

最近、こんな報告も出たようです。知り合いがリツイートしていて知りました。

Post to Twitter


骨粗鬆症治療薬ビスホスホネートの適切な使い方

By , 2016年4月23日 8:19 AM

医学界新聞に「骨粗鬆症治療薬ビスホスホネートの適切な使い方」という良記事を見つけました。

骨粗鬆症治療薬ビスホスホネートの適切な使い方

■FAQ1 BPによる治療で,本当に骨折は予防できるのでしょうか。
■FAQ2 BPの投与によってかえって増える骨折があるそうですが,どのように対処したらよいのでしょうか。
■FAQ3 BPの長期投与には弊害もあるため,5年間継続したら休薬すべきとの意見もありますが,どうしたらよいでしょうか?

この記事で特に素晴らしかったのは下記の部分です。

ただ,BPによる骨折予防効果を得るには,正しく治療されることが必要とされています。「正しく」というのは,少なくとも1年以上継続して,治療期間内の処方率が80%以上で,内服方法が遵守され,かつビタミンDやカルシウムが充足していれば,ということを意味します。そのため,骨粗鬆症治療を行う場合には,薬剤の選択のみならず,正しく治療を続けるための工夫が大変に重要なポイントです。

ビタミンDやカルシウムが充足していることが前提条件なんですね。

ここで、日本のステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドラインに脱線します。この問題は、いつか書こうと思っていたので。

ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン:2014年改訂版

読んでみると、とても突っ込みどころの多いガイドラインです。例えば下記の部分です。

・ガイドライン作成者の利益相反が開示されていない

→いまどき、利益相反の開示されていないガイドラインなんてありえません。このガイドラインは、製薬会社が宣伝に使っています (実際、私のところに、このガイドラインを持ってビスホスホネート製剤の宣伝に来た MRがいます)。「製薬会社にいくらもらってこの宣材 (=ガイドライン) 作ったんだ」と言われても、利益相反が開示されていなければ反論できないでしょう (ない、なら、ないって書けよっていう話です)。

・骨折の予測因子について

→「骨折を予測する因子」をコホート研究で作成し、スコアをつけています。そのコホート研究は、スコア作成に男性 117名、女性 786名のデータを用い、男性 1名、女性 143名のデータを用いて検証しています。検証に用いたデータが男性 1名って・・・。さらに、基礎疾患のほとんどが RA, SLE+PM/DM+血管炎です。他の疾患に外挿できるデータなのでしょうか?

・いきなりビスホスホネート

→欧米のほとんどのステロイド性骨粗鬆症ガイドラインでは、ビタミンD, カルシウムを内服した上でリスクの高い患者にのみビスホスホネートを使用することになっています。骨を作るための材料を入れずに、骨を作るように命令するような薬 (ビスホスホネート) を内服したところで「空打ち」になるからです (この表現は知り合いのリウマチ科医に習いました)。そもそも、このガイドラインでも引用しているような、ビスホスホネートの有効性を示した臨床研究では、「血清ビタミンDの低い患者を除外」し、「ビタミンDおよびカルシウムを内服している」上での追加効果をみているのです (例えばこの研究)。それを、このガイドラインではビタミンDやカルシウム内服なしでビスホスホネートをいきなり始めるように推奨しており、どう考えても変です。

私は、ステロイド内服患者にはまずビタミンD製剤を優先して内服してもらっています。カルシウム製剤との併用でなくビタミンD製剤を優先しているのは、併用で高カルシウム血症の副作用が出やすくなるのを危惧するのと、下記の理由からです。

①カルシウムのサプリメント (単剤) で心血管イベントが増える報告がある。

Effect of calcium supplements on risk of myocardial infarction and cardiovascular events: meta-analysis

②カルシウムを単独で内服しても骨折リスクは減らないとする報告がある (ステロイドを内服していない患者ですが) 。

Calcium intake and risk of fracture: systematic review

③種々の免疫疾患で、ビタミンD低下が病状の悪化と関連するという報告がある。下記は多発性硬化症。

多発性硬化症と緯度の話

④ビタミンDは USPSTFが高齢者の転倒予防として推奨している薬剤である。

ACP(米国内科学会)日本支部 年次総会2015 【1日目】

ビタミンD製剤を内服した上で、リスクの高い患者さんにはビスホスホネートなどを内服して頂いています。

(参考) 過去のブログ記事

ステロイドと骨粗鬆症

Glucocorticoid-Induced Bone Disease

Post to Twitter


Panorama Theme by Themocracy