Category: 医学と医療

第1回抄読会

By , 2007年3月8日 8:12 AM

有志で文献を持ち寄って、抄読会を開きました。いざ始めようと思ったところで、病棟急変。3人でベッドサイドに飛んでいき、主治医の手伝いをしました。その後仕切なおして、やっと開始。

私が選んだ論文は、「Ge S, et al. Where is the Blood-Brain Barrier…Really?. J Neurosci Res 79: 421-427, 2005」です。これはBlood-Brain Barrier (BBB: 血液脳関門) について記したMini-Reviewでした。「細動脈、毛細血管、細静脈はそれぞれ血管の形態も、transporterも違い、通す物質が違うことを考えると、BBBはどこにあると言えるのだろうか?」という趣旨でした。

末梢神経障害に興味を持つK先生は、「Hughes BW, et al. Molecular architecture of the neuromuscular junction. Muscle Nerve 33: 445-461, 2006」を紹介しました。Nuromuscular junction (NMJ) について、知らなかったことをたくさん教えて頂きました。例えば、ACh受容体のサブユニットの話、脱神経を起こした筋肉が未熟型 (小児期に発現しているγサブユニットを持つAChR) を再発現することが自発放電の病態原理であり、線維性収縮に相当するなどというのは、電気生理学とも結びついた話で、興味を持ちました。

電気生理専門の I先生は、「Salzman KL, et al. Giant tumefactive perivascular space. AJNR 26: 298-305, 2005」を紹介しました。ただただ、画像の迫力に圧倒されました。Perivascular spaceは Neurological deficitをほとんど伴わないことを考えると、発生の段階で何か原因があるのかもしれません。見つかるきっかけも頭痛などで、一般の外来受診の症状の内訳と変わりません。また、加齢によって大きさが変わらないとする報告もあるようです。

22時半くらいに抄読会が終わってから、楽しい酒を飲みに行きました。

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国循 ICU

By , 2007年3月2日 9:52 PM

奈良県の産科19病院転送不能事件で、最後に受け入れることが出来た病院は「国立循環器病センター (国循)」です。日本の循環器領域では最高峰として存在し、世界的に見てもトップレベルの実力を持つ病院です。

ここの循環器外科集中治療室 (ICU) を担当する医師5名が全員辞表を提出しました。彼らは、年間 1100人の超重症患者を 5名で管理していたそうです。文字通り不眠不休だったのでしょう。

今後は、執刀した外科チームがそれぞれ ICU管理をするそうですが、執刀した上に、更に重症管理などという激務に耐えられないかもしれません。彼らがやめたら、循環器外科医のいない病院となり、循環器内科も機能しなくなります。大新聞のトップを飾るような大ニュースだと思います。マスコミが取り上げないのが、不思議なことです。

(参考)
勤務医開業つれづれ日記-【速報】春の大嵐 大阪 国循センター ICU医師全員退職へ 執刀との分業困難
勤務医開業つれづれ日記-国循ICU …「庶務課長は『診療機能の低下はなく、患者への影響はない』と話している。 」…-
勤務医開業つれづれ日記-国循ICUショックから一夜 国循自体が循環不全とは…-

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大野病院事件の日

By , 2007年2月18日 12:36 AM

1年前に、誰がこのことを想像したでしょうか?

福島大野病院の産科医逮捕事件は、産科崩壊、ひいては医療崩壊を顕在化させる結果となりました。その後、奈良の産科搬送19病院拒否、堀病院内診問題など、個々の医師の犠牲でかろうじて成り立っているところに、更に追い打ちをかける問題が繰り返し報道されています。元々限界一杯であった現場では、それを教訓にした改善が行われるべくもなく、ただ崩壊の進行を早めただけです。このようなやり方では、医療が改善しない、むしろ滅びることに早く気づいた方が良いと思います。

「我々は福島事件で逮捕された産婦人科医師の無罪を信じ支援します」

Yosyan先生のブログから拡がった運動です。

(参考)
勤務医開業つれづれ日記
新小児科医のつぶやき
ある産婦人科医のひとりごと

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神経学はいかにして作られたか

By , 2007年2月12日 12:56 PM

医学書院の鼎談で、「神経学はいかにして作られたか 」が掲載されたことがあります。もう 10年以上も前の鼎談なのですが、これが凄く面白いです。

神経学はいかにして作られたか 「臨床神経学辞典」発刊を機に

前半の神経学の歴史は、好きな人にとってはたまらない話ですが、神経内科医以外に読んで欲しいのは、最後の「デジタル化できないもの」~「『曖昧さ』をサイエンスに取り込む」の部分です。EBM全盛期の医療という環境に置かれた我々が、意識しないといけないことが書いてあります。この記事は必読です。

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よみがえる人生

By , 2007年2月10日 9:15 PM

「よみがえる人生 パーキンソン病新薬誕生物語(アラステア・ダウ著、難波陽光訳、講談社)」を読み終えました。

一般のジャーナリストが一般人向けに書いた本としては、ストレスなく読めます。パーキンソン病の治療薬であるデプレニルという薬剤について扱っています。デプレニルは現在セレギリンと呼ばれ、エフピーという商品名で、日本で売られています。私もパーキンソン病患者の治療によく使用します。開発秘話については知らなかったので、新鮮でした。

開発には紆余曲折があったといいます。まず、最初の転機は結核治療薬イソニアジドから、似たような結核治療薬としてイプロニアジドが開発されたことです。しかし、患者が次々と躁状態になりました。イプロニアジドはMAO(モノアミンオキシダーゼ)阻害作用があることがわかり、鬱病の治療薬としてMAO阻害薬は急速に注目を集めました。

キノイン社のエクゼリ博士はMAO阻害薬のパルギリンをベースに、メタンフェタミンを結合させた物質を作るように指示し、指示を受けたミラーは250種の物質を試し、250番目にE250という物質を開発しました。これがデプレニルです。

ヨゼフ・クノールはゼンメルヴァイス医科大学でゼンメルヴァイスから数えて4代目の薬理学科長らしいのですが、デプレニルを研究し、薬理効果を明らかにしました。デプレニルがMAO-Bに選択的に効果があることを示し、ねばり強く研究を続けた彼がいなければ、この薬が臨床応用されることもなかったかもしれません。クノールはユダヤ人で14歳の時にアウシュビッツに送られます。家族は皆殺されたそうです。クノールも4人でいたとき3人が射殺され、自分は「振り向かなかったから」助かったと述べています。

バークマイヤーは、過去ドイツの軍医でしたが、パーキンソン病治療の権威でした。彼が、デプレニルを臨床応用しました。クノールとバークマイヤーは、「アウシュビッツに送られたユダヤ人とナチスの軍人」という、自分たちの過去について囚われなく協力関係を結べたといいます。

レボドパを最初に投与した医師はバーボウですが、ほぼ同時期に、バークマイヤーらも静脈注射で投与したそうです。バークマイヤーらは「バークマイヤー効果」という言葉があるほど、パーキンソン病治療について名声があったそうです。

本書には、他にMAO-A阻害薬とMAO-B阻害薬の違い、チーズ作用(MAO-Aが肝臓に存在するので、チーズやワインに含まれるチラミンの代謝が抑制される)、デプレニルが認可されるまでの苦闘などについて扱っています。そのほか、動物実験で、デプレニルはラットの生存期間(寿命)を延長させたことも記載されています。面白いのは、デプレニルには性的活発度を上昇させる作用もあり、性的活発度と生存期間の間に著しい相関関係があったことです。何故でしょうか・・・。

一般的に、こうした本を読むと、理想的な薬にみえます。しかし、どんなに魅力的な薬であっても、絶対な薬はありません。実際に使う立場からすれば、この薬にしても、効かない、副作用が強くて使えないなどのケースは多々経験します。

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抗菌薬の考え方,使い方

By , 2007年2月4日 9:05 PM

「抗菌薬の考え方,使い方 Ver. 2 (岩田健太郎、宮入烈著、中外医学社)」を読み終えました。本の著者は、亀田総合病院の感染症科部長。読み始めたらあまりに面白く、一気に読み終えました。

一般的な感染症の他、結核、HIV、マラリア、旅行者の下痢など興味深い項も扱っています。

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医療崩壊についての講演ファイル

By , 2007年1月28日 3:02 PM

医療費、医療崩壊問題を一気に問題を社会的現象に広めた立役者の一人が、「医療崩壊」を執筆した小松医師です。

ある町医者の診療日記」では、その小松医師と本田医師の講演会で使用されたファイルがアップロードされていました。

ある町医者の診療日記-日本の医療が崩壊している-からダウンロード可能です。

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鳥インフルエンザ

By , 2007年1月27日 9:18 PM

 農林水産省は27日、岡山県高梁市の養鶏場で、26~27日に17羽の鶏が死に、高病原性鳥インフルエンザの疑いがあると発表した。同省と岡山県は、家畜伝染病予防法に基づき、この養鶏場に鶏の隔離を、発生場所から半径10キロ以内の養鶏場にも鶏や卵の移動自粛などをそれぞれ要請した。

同省によると、鶏が死んだのは、約1万2000羽の採卵鶏を飼育している養鶏場。現在、ウイルスの鑑定を進めている。

宮崎県の清武町と日向市の養鶏場では今月、強毒性の「H5N1型」の高病原性鳥インフルエンザが確認されている。
(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070127-00000313-yom-ent)

岡山県高梁市とは、私の実家の近くですね。先日、宮崎の鳥インフルエンザに関連して、私の元で研修していた宮崎大学出身の医師が、「発生地は大学の前の養鶏場で、おまけに僕の家の裏でした」と、メールをくれました。鳥インフルエンザがこんな身近な所で検出されるようになってきているとは・・・。

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新年会

By , 2007年1月20日 3:00 PM

先日、医局の新年会に参加しました。t-PA治療明けでヘロヘロでしたが、徹夜明けのハイテンションで参加。

まずは教授のご挨拶。「今年は猪年ですが、海外では豚年というのです。元々日本には豚がいなかったので、代わりに猪というようになったのです。だから中国では豚年ですよね(中国人留学生が頷く)。豚は元々用心深い動物。ですから、猪突猛進ではなく、注意深く前進していきましょう。」名挨拶に一同感嘆。更に教授から「ドン・ペリ」2本が差し入れられました。「ドン・ペリ」はすぐになくなってしまい、とても私までは回って来ませんでした。残念。

立食パーティーの途中で、教授と会話する機会がありました。私が「音楽家外来を将来やりたいと思っているのです。」と話しかけると、教授は「例えば?」と仰るので、「振戦の治療でアルマールなどのβブロッカーを使ったりとか、緊張型頭痛とか・・・。うちの妹はテノーミンを処方されたみたいだけど、循環器のDrは使い慣れているからテノーミンとかアーチストとか出す人が多いですよね。」というと、教授がβブロッカーについて色々教えてくださいました。

「あなたの妹はテノーミンが効いたの?あまり効かないと思うけどなぁ。βブロッカーで一番振戦に効くのは、インデラルだよ。カルビスケンはあまり効かない。これはどういうことかというと、β2作用が大切ということ。色々試してみたんだけど、β1選択性が高い薬が効かないからわかったことなんだけどね。」

どのような話題に対しても、勉強になる答えが返ってくるのが凄いところ。その後の話題は、N響と共演するときだけジストニアが出る演奏家の話。千住真理子が演奏に自信をなくして引退しようかと思ったとき、聴衆から「あなたのおかげで自殺を思いとどまりました」と言われ、聴衆から救われた話。

何故か漫画の話題へ。教授は「最近の漫画にしても、アニメにしても、簡単に人が死にすぎる。昔の狂言などでは、人が死ぬにしても、葛藤があり、さんざん悩んで引っ張った挙げ句、そうするしかないことが観客に伝わってから殺人を犯す。最近のは、いきなりドバッとか葛藤がない。」と苦言を呈しておられました。また、「ヒーロー物というのもあるが、悪人(手下)といっても、それぞれ家庭がありそれぞれの人生がある。やむを得ずにそうして働いているのかもしれない。それを一方的な視点で倒していくことを教えるのはどうか?」「ブラックジャックは胸がすくような話が多いが、あれは手塚治虫が漫画界での地位が危うくなっていたころの作品で、失敗するわけにいかなかったから、わかりやすい作品を書いたんだ」など・・・。

考え方を含めて、教わることの多い会でした。

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血栓溶解療法

By , 2007年1月20日 9:58 AM

先日、当院神経内科で初めてのt-PA療法を行いました。この治療法はいくつかのテレビ番組や新聞で紹介されているので、知っている人もいるでしょう。

私が当直中、救急隊から連絡があり、発症から1時間で搬送出来るとのこと。禁忌で該当するものはなく、結局、発症2時間半で投与することが出来ました。元々、完全な左片麻痺だったのが、投与直後左足が挙上出来るようになりました (上肢はflaccidのままでしたが・・・)。

体制が整っていなかったことや、初めて使う薬剤なので戸惑った点もありましたが、使用して良かったと思えるような症例でした。

ただ、大変だったのは、午前1時からの投与だった点。投与中 1時間は 15分毎、投与 1-7時間後は 30分毎、投与 24時間後までは 60分毎の診察 (10分くらいかかる評価法を毎回) が必要だからです。夜通し診察を繰り返しました。

この薬で忘れてはいけないのは、ハイリスク・ハイリターンの薬剤だということです。大野病院産科医逮捕事件で、医師の多くが無過失を主張する事件で、片岡検事は「一か八かではやってもらっては困る」とマスコミに対して発言したようですが、この治療は一か八かの治療です。一か八かを受け入れた方のみ、使用することが出来ます。投与開始のリミットは発症 3時間。考える時間はほとんどありません。決めるのは、医師と家族の短時間の話し合いです(患者に意識があれば確認しますが)。

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