Category: 音楽

チャイコフスキー国際コンクール

By , 2007年7月5日 10:04 PM

神尾真由子氏が、チャイコフスキー国際コンクールで優勝したようです。実は、これまでこのチャイコフスキー国際コンクールというのは、日本人が毎回のように入賞しているコンクールというのでもあります。

 【モスクワ=瀬口利一】モスクワで開かれていた第13回チャイコフスキー国際コンクールのバイオリン部門で29日、大阪府豊中市出身の神尾真由子さん(21)が優勝した。同コンクールはショパン国際ピアノ・コンクールなどと並ぶ若手音楽家の登竜門。

日本人が同部門で優勝したのは1990年の諏訪内晶子さん以来で2人目。98年の前々回は佐藤美枝子さんが女性声楽部門で、2002年の前回は上原彩子さんがピアノ部門で優勝しており、3大会連続で日本人の優勝者が出た。

神尾さんはこの日、本選に残った6人の最後に、チャイコフスキーとシベリウスのバイオリン協奏曲を演奏。会場から歓声と大きな拍手が送られ、聴衆に笑顔で応えた。優勝発表を受けた記者会見では、「本当にうれしい。逃げ出さずに弾けて良かった」と語った。

神尾さんは4歳でバイオリンを始めた。桐朋女子高校を経て、米ニューヨーク・ジュリアード音楽院プレ・カレッジで学んだ。04年のモンテカルロ・マスターズなど国内外の数々のコンクールで優勝経験があり、現在はスイス・チューリヒを拠点に活動している。(http://osaka.yomiuri.co.jp/news/20070630p102.htm)

一緒に室内楽をしていた後輩が、「チャイコン優勝した神尾真由子、4才位ん時から僕の先生んとこでブイブイいわしてた神童です。」とメールをくれました。是非演奏を聴いてみたいものです。チケットは取りにくくなるでしょうね。

と、喜び一色の中で、少し辛口の話。

最近の流れとして、コンクールの乱立により、「コンクール優勝」という肩書きが珍しくなくなっていること、減点方式に耐えられるような傷のない演奏が (たとえつまらない演奏でも) 好成績につながること・・・など、コンクールに対する評価の低下が著しいということがあります。ヨーロッパでは、チャイコフスキー国際コンクールなど、メジャーなコンクールでも、報道がほとんどされないとか。

私も、ある有名コンクール優勝者の演奏を聴くことがありましたが、その師であるザハール・ブロンの演奏の方が、何倍も音楽に説得力があり、器が全然違うのを感じたことがあります。現在では、ツィンマーマンやテツラフのように、コンクール以外の方法で、つまりリサイタルなどを成功させて有名になってくる演奏家の方に、名演奏家が多いように思います。そういった演奏家は、評価にコンクールを必要としないのでしょう。

個人的には、エリザベート王妃国際音楽コンクール初期の頃の入賞者の顔ぶれが凄いと思います。多くが巨匠と呼ばれるようになりました。

神尾真由子氏が、どのような演奏家になるのか今後にかかっています。頑張って欲しいものです。

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Magic Bow

By , 2007年6月24日 6:25 AM

Magic Bow」というビデオを見ました。

国内では手に入らなくて、アメリカのアマゾンから取り寄せて購入した音楽映画です。パガニーニというヴァイオリニストが主人公です。音源は若かりしメニューイン。英語版で字幕なしだったので、イマイチ内容が理解出来ず残念でしたが、E-D線の弦を切ってG線だけで演奏したりといった、主人公のパフォーマンスを見ているだけでも楽しめました。

ただ、例によって俳優の手の動きと音が全然一致していないのがストレスでした。この手の音楽映画は、俳優が演奏素人なので、音と動きが一致しません。だったら、演奏家に主役をやってもらえば良かったのにと思います。

例えば、Heifetzが出演した「彼らに音楽を」や「カーネギーホール」といった映画では、このようなストレスから解放されることが出来ます。

とはいえ、音楽は絶品です。

パガニーニの映画に関して言えば、他に「パガニーニ」というタイトルの映画もあります。こちらの演奏はサルバトーレ・アッカルド。技術的には傷が多いのですが、鬼気迫る演奏という表現がぴったり。悪魔の乗り移ったかのような雰囲気を作り出すのに成功しています。ただ、パガニーニの人生を描いているため、映画自体は官能シーンの連続で、他人と見ると気まずいのでご注意を。

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日フィル 第591回定演

By , 2007年6月14日 11:17 PM

日本フィルハーモニー交響楽団
第591回東京定期演奏会

6月14日(木) 19時開演 東京オペラシティ
1.ジークフリート牧歌 (ワーグナー)
2.交響曲第39番 変ホ長調 (モーツァルト)
3.交響曲第6番 ヘ長調 (ベートーヴェン)
指揮:Martin Sieghart
日本フィルハーモニー交響楽団

ジークハルトはとてもオシャレな雰囲気を持っていて、洗練された指揮は (映像でしか見たことがないけれど) カルロス・クライバーを連想させました。

モーツァルトが素晴らしかったのですが、ベートーヴェンも、最高でした。聴きながら自分自身の存在が希薄になっていくような不思議な感じがして、途中から胸が張り裂けそうになりました。途中管楽器のチューニングが微妙に狂っていたのは少し気になったけれど、音楽的にはこの上ないものでした。

この指揮者の CDを色々買ってみたいと思います。

演奏会は、すべて対向配置で行われました。最近ブームです。

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耳の話

By , 2007年5月24日 6:59 AM

Paget病について調べていました。「Diagnosis of bone and joint diorders 3rd Edition (Resnick著)」の第4巻1924ページを読んでいて、面白い記述を見つけました。

Diagnosis of bone and joint diorders 3rd Edition (Chapter 54 – Paget’s Disease)

Neuromuscular complications are not infrequent. Neurologic deficits, such as muscle weakness, paralysis, and rectal and vesical incontinence, resulting from impingement on the spinal cord, can be apparent in patients with compression fractures of the vertebral bodies. Similar deficits may accompany platybasia owing involvement of the base of the skull. Compression of cranial nerves in their foramina is not common, although deafness may be apparent. In fact, some investigators suggest that Beethoven’s deafness resulted from Paget’s disease. Impingement on the auditory nerves usually is the result of pagetic involvement of the temporal bone and labyrinth, although structural abnormality of the ossicles of the middle ears also has been observed.

BeethovenがPaget病で難聴を来していたという可能性です。Beethovenの耳についてはさまざまな議論があります。

音楽に関する病跡学の本として有名な「音楽と病 病歴にみる大作曲家の姿 (ジョン・オシエー著, 菅野弘久訳, 法政大学出版局)」には、Beethovenの耳について詳しく記載されています。

ベートーヴェンの難聴の原因に最終判断を下すまで医学は至っていない。聴神経そのものが傷ついて起こる感音性難聴が原因なのか、耳小骨 (中耳を通して音を伝える三つの骨) が厚く固まる耳硬化症が原因なのか、医学界では意見が分かれている。耳と脳については、解剖所見にある程度詳しく記されているものの、驚いたことに耳小骨については何も触れられていない。解剖を担当したヨハネス・ワーグナーは、耳小骨と錐体の一部を後で調べるために取っておいたが、紛失してしまった。ベートーヴェンの遺体は、一八六三年と八八年に二度発掘されている。なくなった耳小骨は見つかっていない。その骨がない以上、ベートーヴェンの病気についてなされるさまざまな診断から、耳硬化症の可能性を除くことはできない。

更に、オシエーの本の「序」には、ワグナー教授がベートーヴェンの解剖を行いそのときの弟子がロキタンスキーだったこと、ロキタンスキーにとって最初の解剖がベートーヴェンだったことが記されています。その後、ロキタンスキーは解剖学で名前を残した名教授となりました。

オシエーの本に載っている、ベートーヴェンの耳疾患の鑑別診断は下記です。

伝記作家が推測するベートーヴェンの難聴の原因 (1816-1988)

発疹チフス/髄膜炎 ヴァイセンバッハ (1816)
外傷性感音性難聴 フォン・フリンメル (1880)
梅毒
(a)髄膜血管 ヤコブソン (1910)
(b)先天性 クロッツ-フォーリスト (1905)
(c)初期 マッケイブ (1958)
耳硬化症 ソルスビー (1930)
血管機能不全 スティーヴンズ、ヘメンウェイ (1970)
耳硬化症 スティーヴンズ、ヘメンウェイ (1970)
ぺージェット病 ナイケン (1971)
医原病 ギュート (1970)
自己免疫性感音性難聴 デービス (1988)
(耳硬化症が好まれる診断)

こうした記述からは、耳硬化症の説が強いようです。

「ミューズの病跡学Ⅰ 音楽家篇 (早川智著, 診断と治療社)」でも、「ベートーヴェンの聴力障害」という項で、Beethovenの耳疾患について扱っています。しかし結論は示されていません (ちなみに、著者の早川先生とは、年に一度くらい飲む機会があり、個人的にお世話になっております。最近は、「mozart effect」について議論しました)。

最後に、オシエーの本から、ベートーヴェンの解剖報告書のうち、耳と脳に関する記述を紹介しましょう。

 外耳は大きく、正常である。舟状窩、とくに耳殻はたいへん深く、通常の1.5倍はある。さまざまな突起や湾曲部が目立つ。外耳道は輝きのある鱗屑で覆われて、鼓膜の辺りが見えない。耳管はかなり拡張しているが、粘膜が膨れているため、骨の部分でやや収縮している。開口部の前と扁桃腺に向かう部分に窪んだ瘢痕が見られる。乳様突起の中心細胞は大きくて無傷だが、充血した粘膜で覆われている。錐体全体にも同じような充血が見られる。かなり太い血管が、とくに蝸牛部分を横断しているためで、螺旋状の粘膜部分が少し赤くなっている。
顔面神経は異常なほど太い。逆に聴神経は細く、鞘がない。それに沿った動脈は拡張して羽軸ほどの太さになり、軟骨化している。左のさらに細い聴神経は、三本の灰色の糸からなり、右の聴神経は、より太く白い糸からなっている。これらは他のどの部分よりも堅く、充血している第四脳室から生じている。脳回には水が溜まり、異常に白い。通常より太く、また多いように思われる。頭蓋冠は全体に厚く、半インチほどある。

解剖の際の情景が浮かんでくるようです。ボンでデスマスクを見た時のことを思い出しました。

ちなみに、Beethovenの死因は、アルコール性肝硬変という説が最も有力です。

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By , 2007年5月20日 7:25 AM

昨日、部活の新入生がヴァイオリンを買いに行くのに、ついて行きました。初心者だとなかなか選ぶのに苦心するからです。お店は、MAGICOといい、千駄ヶ谷にありました。

初心者用の楽器を買った後、店員と話をしているうちに、店に展示しているヴァイオリンを試奏させて頂けることになりました。

楽器は、Pressenda Giovanni Francesco作の銘器で、お値段約3800万円。高音が脳に響くような、経験したことのない音がしました。恍惚状態になってしまい、余り詳しいことは覚えていません。その次に1100万円の楽器を弾かせて頂きましたが、こちらはオーソドックスな鳴り。

その日は一日、ボーっとしていました。プレッセンダ・・・。欲しいなぁ・・・。一生手に入らないだろうけど・・・。

その後、新入生達と飲みに行き、飲んだ後部室で一緒に練習して、更に飲みに行きました。久々の音楽三昧、酒三昧でした。

プレッセンダ・・・。

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日フィル 第590回定演

By , 2007年5月10日 11:54 PM

日本フィルハーモニー交響楽団
第590回東京定期演奏会

5月10日(木) 19時開演 東京オペラシティ
1.歌劇≪魔笛≫より序曲(モーツァルト)
2.交響曲第36番≪リンツ≫(モーツァルト)
3.ピアノ協奏曲第2番(ベートーヴェン)
4.幻想曲≪フランチェスカ・ダ・リミニ≫(チャイコフスキー)
指揮:Alexander Dmitriev、ピアノ:Eric Heidsieck
日本フィルハーモニー交響楽団

モーツァルトの演奏は非常にドライでした。フレーズ終わりの音の処理に余韻がなく、余り好みではありませんでした。

ピアノ協奏曲第2番は、素晴らしい演奏でした。ハイドシェックは、第1,3楽章では、余り拍感がなく、気にかかりましたが、緩徐楽章ではこの上ない美しさで、演奏会で涙がこみ上げてきたのは生まれて初めてです。ドミトリエフのドライな演奏が、かえってハイドシェックのソロを引き立たせました。アンコールは、バースデーソングとその変奏。

チャイコフスキーではドミトリエフの凄味を感じました。途中のクラリネットソロで泣かせ、更に最後の盛り上がりは圧巻でした。

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モーツァルト:ヴァイオリンソナタ

By , 2007年5月6日 10:57 PM

モーツァルトのヴァイオリンソナタは、聴きやすい曲が多く癒されます。モーツァルト、ベートーヴェンはボロが出やすいので、専門家にとっては、良く試験の課題曲になるそうです。

最近、クラシカというクラシック専門チャンネルで、アンネ・ゾフィー・ムターがモーツァルトのヴァイオリンソナタを演奏しています。

私は、ムターはあまり好きではありません。ベートーヴェンの演奏について、行儀が悪いと思うし、音楽が非常に人工的すぎると思うからです (もう少し、自然、この世界の美しさを表現した方が良いと思う)。

ただ、今回のモーツァルトはとても楽しめます。何といっても、遊び心がいっぱいです。型にはまらないところが面白くって良いです。

これまで、私が好きなモーツァルトの録音は、F. P. Zimmermann/Alexander Lonquichのスタンダードな録音や、ヴァイオリニストのボウイングは少し衰えているけれども Szymon Goldberg/Radu Lupuの優しい演奏、古楽器の Hiro Kurosaki/Rinda Nicholsonなどでした。Heifezの甘い音も好きですが、全曲録音ではありませんね。そうそう、定番の Grumiauz/Haskilも忘れてはいけません。

今回のムターの演奏は、Salvatore Accardo/Bruno Caninoの録音のように、所謂「面白い演奏」として、わくわくしながら聴ける演奏としてお薦め出来ると思います。好みは分かれると思いますが。

ベートーヴェンのヴァイオリン曲のお薦め演奏家は難しいですね。

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ストラディヴァリ クレモナの伝統

By , 2007年4月29日 5:32 PM

「ストラディヴァリ クレモナの伝統 (CGVD-1007)」というDVDを見ました。というか、見ながら学会のための英文抄録を書いていたのです。

英語の文章を書いているのに、インタビューで流れているのはイタリア語、字幕 (及び吹き替え) は日本語。頭がぐちゃぐちゃになりそうでした。

内容は、全然知らないバイオリン製作の世界の話。ストラディヴァリが初めて持った工房などが紹介されていました。非常に興味深かったです。ただ、DVDで流れる演奏がもう少し上手だったら良かったのだけどな~。

ストラディヴァリを買ってくれるパトロン募集中です (^^;)

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in the Fiddler’s House

By , 2007年4月26日 7:06 AM

「in the Fiddler’s House」というDVDを見ました。というか、流しながら学会準備。

このDVDは、Itzhak Perlmanがロマ音楽(ジプシー音楽)を演奏しているという意味で、非常に興味深いものでした。

情緒豊かな演奏をする人にかかると、ジャンルを超えて良い音楽が出来上がると実感させられました。

私の叔父が読売交響楽団に所属していたとき、「凄い演奏家が来るから聴きに来てごらん」と言われ、母親が聴きに行き、感動して私にヴァイオリンを始めさせた際の演奏家が、パールマンです。

初めて生で演奏を聴きに行ったのが、医学生の時。当時、音程に悩まされていた私は、(不調で?)音程を外しまくりながらも、心地よい演奏をするパールマンの姿に、「演奏は、音程だけに気をつけていれば良いのではなく、音程が外れていても感動させる演奏は存在する」と知ったのでした。もちろん音程は大事だけど。

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伊福部昭のCD

By , 2007年4月23日 7:45 AM

現代曲が嫌いな方にもお薦めの現代曲があります。

「伊福部昭 室内楽作品集 MTWD 99009」

どの曲も非常に聴きやすいです。伊福部昭の曲は、どの曲も彼オリジナルの音型が繰り返され、「あ、伊福部だ」とすぐに気付きます。

彼は北大出身で、作曲は独学だったそうです。西洋ブームの中、全く評価されませんでしたが、日本古来の音楽と西洋の音楽の融合を測り、チェレプニンに高く評価され地位を確立しました。クラシックが行き着くところまで行き着いてしまい、やることがなくなり民族音楽との融合(例:ロシア=チャイコフスキー、チェコ=ドヴォルザーク、北欧=シベリウス、ハンガリー・ルーマニア=バルトーク、スペイン=ラロなど)が盛んとなりましたが、そういった中で彼の存在は日本が誇るべきものです。「音楽入門」という本もお薦めです。

一般の方には、ゴジラのテーマ曲の作曲者という方がわかりやすいでしょうか。

 Wikipediaで調べると、彼の人柄が記されていました。

「芸術はその民族の特殊性を通過して共通の人間性に到達しなくてはならない」を信条とし、「大楽必易 大礼必簡」(「すぐれた音楽は平易なもので、すぐれた礼節は簡略なものである」という意の司馬遷の言葉)を座右の銘としていた。

一曲目のヴァイオリン・ソナタは木野雅之氏の演奏です。木野さんはミルシテインの弟子で、現在は日本フィルハーモニーのコンサートマスターです。

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