最近の医学論文

By , 2016年8月18日 6:51 PM

例によって、最近の論文が中心の備忘録です。

Bortezomib Treatment for Patients With Anti-N-Methyl-d-Aspartate Receptor Encephalitis

抗NMDA受容体脳炎は、治療に難渋することが少なくないが、プロテアソーム阻害薬であるボルテゾミブ (商品名:ベルケード) が奏功した 2例の報告。

症例 1は 30歳代前半の黒人女性。卵巣奇形腫がみつかり手術、それに加えて血漿交換、リツキシマブ、シクロフォスファミド、ステロイド大量療法で改善なし。7ヶ月人工呼吸器管理となっていた。CD19陽性細胞は消失。血漿交換、ステロイド、免疫グロブリン大量療法を受けた後、わずかに改善した。ボルテゾミブ 1.3 mg/m2を 1, 4, 8, 11日目に皮下注射 (アシクロビル, cortimoxaoleを併用) したところ、忍容性は良好で有害事象もなかった。数カ月後、症状や抗体価は著明に改善し、軽度の高次脳機能障害のみ後遺症として残存した。

症例 2は、20歳代前半の白人女性。卵巣奇形腫はみつからなかった。血漿交換をうけて改善し、職業訓練に復帰することができた。しかし、20ヶ月後、再発。血漿交換及びリツキシマブは効果がなかった。CD19陽性細胞は消失。ステロイド、血漿交換、免疫グロブリン大量療法は効果がなかった。ボルテゾミブは症例 1と同じレジメンで使用したところ、忍容性は良好で、有害事象もなかった。後遺症として軽度の記憶障害などを残すのみで著明に改善し、再発もない。

以下個人的な感想。抗NMDA受容体脳炎について、2011年の Lancet Neurologyに書かれた総説の治療戦略はよくまとまっているけれど、これほど効果がありそうなら、将来的にはボルテゾミブも加わってくるかもしれない。その前に、きちんとした臨床試験が必要だけど。

A clinical approach to diagnosis of autoimmune encephalitis.

自己免疫性脳炎を起こす疾患と自己抗体や診断基準がまとまっていて読みやすい。ただ、figure 1の診断アルゴリズムは、各種自己抗体の結果がでるのに数週間かかることを考えると、臨床的には使えないかもしれない。自己抗体とそれに対応する疾患 (table 1) は使えそうなので備忘録として貼っておく。

自己抗体

自己抗体

International consensus guidance for management of myasthenia gravis

重症筋無力症の “international consensus guidance”。エキスパートの意見のためかガイドラインではなくてガイダンスという表現が使われている。「寛解」などいくつかの用語の定義が 示された後に、治療法が箇条書きで書かれている。重症筋無力症が heterogeneousであるためか、薬剤の投与量には言及されていないが、治療戦略を立てる上での基本となることが纏まっている。

Lack of KIR4.1 autoantibodies in Japanese patients with MS and NMO

多発性硬化症や視神経脊髄炎に対する KIR 4.1抗体について、日本からの報告。この抗体は、当初すごく注目されたけれど、再現性が示されていない。日本人を対象に ELISAと LIPS (luciferase immunoprecipitation system) で調べたけれど、やはり使えなさそうだという結論。

KIR4.1

KIR4.1

KIR4.1については、2016年春の講演で少し触れたので、その時のスライドを貼っておく。

多発性硬化症 スライド1

多発性硬化症 スライド1

多発性硬化症 スライド2

多発性硬化症 スライド2

多発性硬化症 スライド3

多発性硬化症 スライド3

Multicentre comparison of diagnostic assay: aquaporin-4 antibodies in neuromyelitis optica

視神経脊髄炎関連疾患における抗アクアポリン4抗体の assay法についての論文。診断精度の問題で、新ガイドラインでは cell-based assayを推奨しているけれど、specialist centerでは免疫組織化学法やフローサイトメトリーも同じくらいだという結果。Table 2に assay法の一覧と、figure 5に診断精度の図が纏まっている。

診断精度の図

診断精度の図

Progressive Brain Atrophy in Super-refractory Status Epilepticus

超難治性てんかん重積患者に伴う脳萎縮を調べるため、発症 2週間以内に撮った MRIと、それから 1週間以上あけて 6ヶ月以内に撮った MRIを比較した。方法として、5 mmスライスのFLAIR画像で脳室と脳の比 (ventricular brain ratio; VBR) を調べた。Inclusion criteriaを満たしたのは 19名であり、てんかん発作を抑制するために中央値 13日間の麻酔薬管理を必要とした。VBRの変化率の中央値は 23.3%、脳萎縮は麻酔薬の投与期間に相関していた。

Psychotic disorders induced by antiepileptic drugs in people with epilepsy

抗てんかん薬には、副作用として精神症状 (抗てんかん薬誘発の精神症状 antiepileptic drug induced psychotic disorder; AIPD) が出現するものがある。著者らは、どのような患者で精神症状をきたしやすいかを調べた。てんかんでも精神症状をきたすことがあるので、抗てんかん薬による精神症状と診断するためのアルゴリズムは figure 1、精神疾患の診断基準は table 1の通りとした。その結果、抗てんかん薬誘発の精神症状は、女性、側頭葉病変、レベチラセタムの使用で有意に多かった (特にレベチラセタムのオッズ比は 21.676!)。カルバマゼピンは内服により逆に精神症状が減少した。

抗てんかん薬と精神症状

抗てんかん薬と精神症状

レベチラセタムは初回から治療量で使える薬剤で、薬剤相互作用や皮疹などの副作用が少なく、使われる頻度が非常に増えているけれど、精神症状はてんかんを治療する医師は絶対知っておかないといけない副作用だと思う。

Randomized Trial of Thymectomy in Myasthenia Gravis.

対象は 18歳~65歳、MGFA分類 II-IV, 発症 5年以内で抗AChR抗体陽性の重症筋無力症患者。介入は胸腺切除術+プレドニゾンの隔日内服で、対照はプレドニゾンの隔日内服。主要アウトカムは、 3年後の QMGスコア (ブラインド化して評価) と 3年間に要したプレドニゾンの平均用量 (time-weighted)。

介入群 (胸腺切除+プレドニゾン) では、対照群 (プレドニゾン) と比べ、QMGスコアが低く (6.15 vs. 8.99, P<0.001)、プレドニゾンの平均投与量も少なかった (隔日 44 mg vs. 60 mg, P<0.001)。また、介入群の方が免疫抑制剤アザチオプリンを必要とした症例が少なく (17% vs. 48%, P<0.001)、増悪による入院も少なかった (9% vs. 37%, P<0.001)。治療による合併症に有意差はなかった。

主要アウトカム

主要アウトカム

抗AChR抗体陽性の重症筋無力症で胸腺切除術を行うのは一般的だが、実はこの論文が、初めて行われた RCTであることを知って驚いた。75年前、胸腺腫のない重症筋無力症に対して胸腺切除術の効果が報告された後、観察研究はいくつもあるが、 RCTは行われていなかったらしい。抗AChR抗体陽性の重症筋無力症に胸腺切除術が有効であるという RCTでのエビデンスを示した点で、歴史的な論文になると思う。なお、抗MuSK抗体陽性の重症筋無力症は別なので要注意。

Spt4 selectively regulates the expression of C9orf72 gene sense and antisense mutant transcripts

ALSと C9orf72の話は、これまで何度もブログで紹介した。転写延長因子 Spt4の阻害により、C9orf72のセンスとアンチセンスの伸長した転写産物や転写された 2量体ペプチド (DRP) を減少させ、動物モデルでは神経変性を抑えることができた。Spt4のヒトオルソログである SUPT4H1のノックアウトにより、患者細胞でやはりセンスとアンチセンス RNA凝集体の産生低下と DRPタンパク減少がみられた。

この論文の通りだとすると、SUPT4H1は C9orf72異常の ALSでは治療法開発のターゲットの一つはなるのかもしれない。それ以外の原因による ALSでどうなのかはわからないけれど (日本人では C9orf72の GGGGCC反復伸長による ALSは少ない)。

Enteroviral Postencephalitic Parkinsonism With Evidence of Impaired Presynaptic Dopaminergic Function

日本脳炎、セントルイス脳炎、西部ウマ脳炎、東部ウマ脳炎、ウエストナイル熱、EBウイルス、インフルエンザA型、そのほかコクサッキーBやエコーウイルスのようなエンテロウイルス後に起こることが報告されている。これらのウイルスは、脳皮質、視床、脳幹、脊髄を侵す一方で、黒質を好んで侵すことも報告さている。黒質病変による脳炎後パーキンソニズムは、これまで 1915~1928年に流行した嗜眠性脳炎 (von Economo脳炎) で報告されてきた。

今回、著者らはエンテロウイルスによりレボドパ反応性のある脳炎後パーキンソニズムをきたした症例の MRIや PETを評価し報告した。初回の頭部MRIでは、脳幹のびまん性の異常信号がみられたが、1年後に撮像した MRIでは、黒質の非対称性 (右優位) の破壊的変化がみられた。Fluorine F 18–labeled fluorodopa PETでは、線条体に持続性の取り込み低下がみられた。著者らによると、脳炎後パーキンソニズムでドパミン系のシナプス前機能の障害を証明した研究は、この論文が初めてである。

Time- and Region-Specific Season of Birth Effects in Multiple Sclerosis in the United Kingdom

生まれた月と多発性硬化症の発症に相関があるというイギリスでの研究。日照との関連が推測されている。

誕生月と多発性硬化症

誕生月と多発性硬化症

多発性硬化症の再発の季節性については、これまで色々と指摘されている (以前講演で使ったスライドを下に示す)。生まれた月まで関連が・・・というのが、もし本当ならばびっくり。

多発性硬化症と緯度

多発性硬化症と緯度

Stroke outcomes with use of antithrombotics within 24 hours after recanalization treatment

今回著者らは、再灌流療法後の抗血栓療法を 24時間以内に行う早期開始 (early intiation) と 24時間以降に行う通常管理 (standard management) を前向き組み入れ試験で比較した。抗血栓療法をどのように行うかは脳卒中治療医に任せたが、多くの症例で初回投与時には loading dose (アスピリン 300 mg) が用いられた (抗血小板薬 2種類併用や抗凝固薬の使用もあり)。

患者の内訳は、経静脈治療 34%, 経動脈治療 (血管内治療) 32%, 経静脈+経動脈治療 34%であった。早期開始群では全出血は少なかったが、症候性出血や機能予後 (mRS) は早期開始と通常管理で差はなかった。再灌流 12時間以内の超早期開始では、出血性変化のオッズ比の増加はなかった。再灌流の方法による臨床的アウトカムに差はなかった。

再灌流と抗血栓療法

再灌流と抗血栓療法

現在、血栓溶解療法を行った後、基本的には 24時間は抗血栓療法を行わないのが一般的で、日本のガイドラインにもそのように記されている。一方で、抗血小板薬を内服をしている患者に血栓溶解療法をした方が、内服していなかった患者に比べて出血リスクは高くなるが、機能予後は良かったという報告もある。今回の研究は、再灌流療法後に抗血栓療法を始めるタイミングについて、一石を投じるかもしれない。ただ、発症から治療開始までの時間や心房細動の有無など大事な項目でベースラインの群間に差があるのが気になるところ。

Predictive value of ABCD2 and ABCD3-I scores in TIA and minor stroke in the stroke unit setting.

一過性脳虚血 (TIA) 後の脳卒中リスクを予測ツールとして、ABCD2 scoreなどは現在広く受け入れられており、一般の外来や救急外来では評価は確立している (scoreについての日本語解説はこちらを参照)。今回、脳卒中ケアユニット (stroke care unit; SCU) に入院した発症 24時間以内の TIAや minor stroke (NIHSS 4点未満) 患者を対象に前向きコホート研究で ABCD2や ABCD3-Iを評価した。ABCD2 scoreの感度・特異度は、過去のメタアナリシスと似た結果だった。個々のスコアをみると、年齢 (A)、血圧 (B)、糖尿病 (D) は早期あるいは 3ヶ月後の脳卒中と相関しなかった。一方で、臨床症状 (C)、症状持続時間 (D)、同側の頸動脈狭窄 (D)、拡散強調像高信号域 (D) は SCU settingにおいて重要であった。

ABCD3-Iと個々のコンポーネント

ABCD3-Iと個々のコンポーネント

Human neural stem cells in patients with chronic ischaemic stroke (PISCES): a phase 1, first-in-man study.

不死化した神経幹細胞 CTX03を用いて、オープンラベルで安全性と忍容性を調べた第 1相試験。CTX03は、中大脳動脈閉塞モデルのラットでは、用量依存的な運動感覚機能の改善が確認されている。

対象は NIHSS 6点以上、mRS 2-4点、脳梗塞発症から 6~60ヶ月経った 60歳以上の男性。頭蓋骨に穴を開け、脳梗塞と同側の被殻に投与した。臨床データと頭部画像を 2年間追跡した。主要評価項目は安全性 (合併症と神経学的変化) とした。

13名の男性 (平均 69歳、 60-82歳) が組み入れられ、 CTX-DPの投与を受けた。治療前の NIHSSの中央値は 7点 (6-8点) であり、脳卒中からの平均経過期間の平均は 29ヶ月 (SD 14) だった。3名の男性が皮質下梗塞のみで、 7名は右大脳半球の梗塞だった。免疫学的あるいは投与細胞による有害事象はなかった。その他、手技や併存疾患による有害事象があった。刺入部位付近の FLAIR高信号が 5名で認められた。2年後の NIHSSの改善は 0-5点 (中央値 2点) だった。

以下、個人的感想。慢性期脳梗塞に対する幹細胞治療は、2016年6月2日 Stroke誌に骨髄由来培養幹細胞 SB623の第 1/2相試験が発表されたばかりで、競争が過熱している。SB623も CTX03も baselineの NIHSSが 一桁後半で、改善効果は 2点程度という点は、単純比較はできないけれど効果は似ている印象を受ける。注意しなければいけないのは、両試験とも評価者がブラインド化されていない点である。オープンラベル試験で評価項目が NIHSSのようにソフトエンドポイントだと、結果に臨床試験担当者や被験者の意図が混入しやすい。また、いずれの製剤も頭蓋骨に穴を開けて培養細胞を注入しなければならず、それなりに侵襲はある。

一方で、本邦では静脈投与可能な製剤の治験が行われている。以前、2009年に本望先生の講演を聴いた時は効果としては期待できそうな印象を持ったが、ようやく形になってきているようだ。この治療のネックは患者本人から骨髄を採取しなければならない点だろう。こちらは、SB623や CTX03と異なり、急性期~亜急性期の脳梗塞が対象のようだ。

私は脳梗塞に対する幹細胞治療については全然詳しくないけれど、いくつかある方法のなかでネックとなってくるのは、(1) どのような細胞を用いるか (その都度患者由来の細胞から培養して作製するより、既成品の方が便利)、(2) どのような投与経路とするか (経静脈投与が望ましい)、(3) 薬価、なのではないかと思う。

NICE recommends ticagrelor with aspirin for three years post-MI

イギリスでは心筋梗塞治療のファーストラインとして、アスピリンに加えて ticagrelor 90 mg 1日 2回を 12ヶ月追加し、その後アスピリンを継続する施設が多い。NICEの新しいガイダンスの草稿では、12ヶ月以内に心筋梗塞の既往がある患者や心筋梗塞や脳卒中をさらに起こすリスクの高い状態が続く患者に対して、アスピリンに加えて ticagrelor 60 mg 1日 2回を 3年間続けることを推奨している。Ticagrelor 90 mgと 60 mgの間に中断が起きないようにすべきである。3年以上のアスピリンとの併用は、効果や安全性についてのデータが不十分であり推奨しない。

ちなみに、ACCとAHAも 2016年に共同で、冠動脈疾患後の抗血小板薬 2剤併用についてのガイドラインを出しており、JACCCirculationに掲載されている。

Recommendations for the Management of Strokelike Episodes in Patients With Mitochondrial Encephalomyopathy, Lactic Acidosis, and Strokelike Episodes

ミトコンドリア脳筋症の一つである MELASの脳卒中様症状についての総説。Arginineや citrullineによる治療などについて解説している。いずれも RCTは行われていないが、著者らは次のような治療を推奨している (文献的根拠に乏しく、expert opinionという印象)。

<Short-term Therapy>

脳卒中様発作に対しては、arginine hydrochlorideを loading doseで静脈内投与すべきである。Arginineの至適用量は不明だが、0.5 g/kgを症状発症 3時間以内に急速投与することが推奨される。脳卒中様発作が見られた時、画像診断が有用だが、そのために arginineの投与が遅れるべきではない。脳循環を保つため生理食塩水を急速投与すべきで、血糖値が正常なら代謝を正常化させるために可能な限り早くブドウ糖を含む輸液を投与すべきである。精神症状がある場合は、非痙攣性てんかん重積ではないか、脳波を評価すべきである。なぜなら、MELASでは精神症状の原因としてしばしばみられるからだ。

<Ongoing Therapy>

Arginineを急速投与した後、0.5 g/kgの 24時間持続投与を 3-5日間続ける。Arginineの維持量をどの程度続ければよいかの臨床的エビデンスはないが、ミトコンドリアの専門家の多くは少なくとも 3日間は続けることを推奨している。臨床症状が 3日以上続くようなら、卒中が進行しているか画像評価し、5日間 arginine治療を続けることを検討すべきである。嚥下の安全性が確認され、経口摂取ができそうなら、静脈内投与と同量 (1-to-1 dose) の L-arginine内服に移行するかもしれない。

<Prophylaxis>

MELASの患者が最初の卒中を経験したら、脳卒中様発作を減少させるため、予防的に arginineを投与すべきである。経口で投与量 0.15~0.30 g/kg/day 分3が推奨される。

Climate influence on Vibrio and associated human diseases during the past half-century in the coastal North Atlantic

温暖化に伴い、北大西洋や北海でビブリオが増えている。報道では生牡蠣を介した感染が懸念されている。日本の生牡蠣はどうなんだろう・・・。

Takayasu’s Arteritis

知り合いの医師らの報告が、New England Journal of Medicineの IMAGES IN CLINICAL MEDICINEに掲載された。凄い!

Gastric Anisakiasis

日本からの報告が、同じく New England Journal of Medicineの IMAGES IN CLINICAL MEDICINEに掲載されたようだ。アニサキスの症例報告といえば、2013年7月18日に紹介した論文が面白かった。この論文も、figureに著者の胃にいるアニサキスの写真が載っていて有名 (論文内容の日本語紹介はこちら)。


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