最近の医学論文 後編

By , 2016年11月23日 7:12 PM

前編】より

A genome-wide association study in multiple system atrophy (2016.11.1 published online)

多系統萎縮症 918名の GWAS解析の結果、疾患と関連した遺伝子座を見つけることはできませんでした。著者らも書いている通り、サンプルサイズが小さすぎたのではないかという気がします。ただし、FBXO47, ELOVL7, EDN1, MAPTは有意差はなかったものの、「怪しい」結果でした。

CoQ10 in progressive supranuclear palsy (2016.8.2 published online)

多系統萎縮症と CoQ10の関連を調べた研究は本邦からいくつかあるようですが (, ) 、著者らは進行性核上性麻痺に対して CoQ10を投与する RCTを行いました。しかし、CoQ10群は進行抑制効果 (12ヶ月後の PSPRSと UPDRSの変化) を示せませんでした。

Diagnostic criteria for Susac syndrome (2016.10.25 published online)

Susac症候群は、脳や内耳や網膜の動脈に自己免疫が介在する障害がおきる疾患で、脳症、局所神経症状、頭痛、聴覚障害、網膜動脈分枝閉塞症などがみられます。今回、診断基準が発表されました。

Susac症候群診断基準

Susac症候群診断基準

Efficacy and safety of rituximab therapy in neuromyelitis optica spectrum disorders (2016.11.1 published online)

リツキシマブは視神経脊髄炎関連疾患に対して有効であることはコンセンサスが得られていますが、今回 46の研究、438名の患者を統合したメタアナリシスが発表されました。リツキシマブは年間再発率を 0.79 (95%CI, -1.08~-0.49)、EDSSを 0.64 (95%CI, -1.18~-0.10) 減少しました。有害事象は 26%にみられ、注射関連 (10.3%)、感染症 (9.1%)、白血病 (4.6%), PRES (0.5%) であり、7名 (1.6%) が死亡しました。著者らは、リツキシマブを第一選択薬とする上で、安全性に警鐘を鳴らしています。

Rituximab for treating multiple sclerosis: Off-label but on target (2016.10.19 published online)

多発性硬化症に対するリツキシマブについての後ろ向きコホート研究。治療期間の平均再発率は、 0.044 (再発寛解型)、0.038 (二次性進行型)、0.015 (一次性進行型) でした。造影病変は 4.6%にみられました (ベースラインでは 26.2%)。進行性多巣性白質脳症を発症した患者はいませんでした。

New Draft MS Treatment Guidelines in US and Europe

ヨーロッパと米国で、それぞれ多発性硬化症のガイドラインが更新されるようです。その草案が公開されています。

Extra-autonomic manifestations in autoimmune autonomic ganglionopathy: a Japanese survey (2016.11.11 published online)

自己免疫性自律神経節障害 (AAG) は、84%で自律神経以外の症状が見られるという熊本大学からの報告。中枢神経病変 (精神症状), 感覚障害、内分泌疾患、自己免疫疾患 (シェーグレン症候群など)、腫瘍 (卵巣腫瘍など) などを合併しうるそうです。

Lessons in uncertainty and humility – clinical trials involving hypertension (2016.11.3 published online)

高血圧患者に対する降圧療法の臨床研究をまとめた総説です。それがどのようにガイドラインに影響を与えてきたかが図によくまとまっています。降圧目標はガイドラインによって少しずつ異なりますが、ある範囲内でおさまっているというのが、よくわかります。

Trials-influencing-blood-pressure-thresholds

Trials-influencing-blood-pressure-thresholds

Management of acute and recurrent gout: a clinical practice guideline from the American College of Physicians (2016.11.1 published online)

痛風発作の治療ガイドラインが米国内科学会から出ました。推奨文は次のとおりです。

Recommendation 1: ACP recommends that clinicians choose corticosteroids, nonsteroidal anti-inflammatory drugs (NSAIDs), or colchicine to treat patients with acute gout. (Grade: strong recommendation, high-quality evidence).

Recommendation 2: ACP recommends that clinicians use low-dose colchicine when using colchicine to treat acute gout. (Grade: strong recommendation, moderate-quality evidence).

Recommendation 3: ACP recommends against initiating long-term urate-lowering therapy in most patients after a first gout attack or in patients with infrequent attacks. (Grade: strong recommendation, moderate-quality evidence).

Recommendation 4: ACP recommends that clinicians discuss benefits, harms, costs, and individual preferences with patients before initiating urate-lowering therapy, including concomitant prophylaxis, in patients with recurrent gout attacks. (Grade: strong recommendation, moderate-quality evidence).

痛風治療

痛風治療

More on biotin treatment mimicking Graves’ disease (2016.10.27 published online)

ビオチンの投与は、streptavidin-biotin immunoassayで行われる種々のホルモン検査やビタミン B12などに検査値に影響を与えることがあるので、検査 72時間前には内服をやめるべきだという論文です。ネットで調べると、ビオチンは美容のためのサプリメントでも販売されているようですが、多くは 3~5 mgの製剤で、この研究で表になっているのは検査数時間前に 300 mg内服したものなので、治療で大量投与したのでなければあまり心配しなくても良いのかなと思いました。

Novel HSPB1 mutation causes both motor neuronopathy and distal myopathy (2016.10.31 published online)

Motor neuronopathyと遠位型ミオパチーを合併した家系の報告。非常に珍しい表現型ですね。遺伝子検査で、HSPB1 c.387C>G変異が検出されたそうです。なお、遠位型ミオパチーを起こす DES, CRYAB, MYOT, LBD3, TTN, VCP, FKRP, GNEなどの変異はなかったそうです。鑑別疾患が論文中に挙げられていないので、そのくらい稀なことなのかもしれませんが、どこかでこうした患者をみかけたら、この遺伝子変異が頭に浮かぶようにしておきたいと思いました。

Non-steroidal anti-inflammatory drugs and risk of heart failure in four European countries: nested case-control study (2016.9.28 published online)

NSAIDsが心不全に与える影響についての臨床研究です。14日以内の使用は半年以上前に使用した場合に比べ、心不全での入院を 19%増やすという結果でした。心不全リスクを増やした薬剤は、7種類の NSAIDs (diclofenac, ibuprofen, indomethacin, ketorolac, naproxen, nimesulide, piroxicam) と 2種類の COX2阻害薬 (etoricoxib, rofecovib) で、celecoxibでは増えませんでした。

NSAIDsは腎機能のマイナスの影響を与えるので、心不全を悪化させるというのは感覚的に理解できます。

Optic neuropathy associated with systemic sarcoidosis (2016.8.2 published online)

サルコイドーシスの視神経障害についての研究です。2つの臨床的サブタイプがあり、多くは視神経炎に似た亜急性視神経障害で、残りの 17%はそれよりゆっくり進む視神経障害です。31%は両側性です。眼球内の炎症が、36%に見られます。疼痛は 27%にしかありません。視神経周囲炎や視交叉浸潤が稀にみられます。MRIでは視神経病変が 75%にみられ、31%では炎症の周囲への波及がみられます。ステロイドは視神経障害には効果がありますが、腫瘤性病変にはそうではありません。視覚症状の再発は 25%でみられますが、予後不良因子ではありません。

Promotion of the Unfolding Protein Response in Orexin/Dynorphin Neurons in Sudden Infant Death Syndrome (SIDS): Elevated pPERK and ATF4 Expression (2016.10.29 published online)

乳幼児突然死症候群の原因として、2015年夏頃からオレキシンの異常が指摘されています。今回の研究では、pPERKの凝集がオレキシンの翻訳低下を含め、脳幹での様々な神経機能の低下を引き起こすのではないかと著者らは述べています。

Potential Signals of Serious Risks/New Safety Information Identified by the FDA Adverse Event Reporting System (FAERS) April – June 2016

2016年4~6月に FDAが安全性について監視リストに入れた薬剤の一覧です。神経内科医が日常診療で使う薬だと、抗うつ薬のたこつぼ型心筋症、インターフェロンβの 薬剤性ループス、DPP-4阻害薬の類天疱瘡、第1・2世代抗ヒスタミン薬のけいれん、スタチン (HMG-CoA reductase inhibitors) の間質性肺炎、ジメチルフマル酸徐放錠の薬剤性肝障害あたりでしょうか。

All scientific papers to be free by 2020 under EU proposals

EUは、2020年までに全ての科学論文に無料アクセスできるようになるべきだとしています。実現するかどうかはわからないですが、そうであれば嬉しいですね。

Levetiracetam vs. brivaracetam for adults with refractory focal seizures: A meta-analysis and indirect comparison (2016.5.16 published online)

レベチラセタムはブリバラセタムと比べて効果に有意差はないけれど、浮動性めまいが少し少ないかもしれないという meta-analysisです。ただし、非直接比較という limitationがあります。

Prevalence of Pulmonary Embolism among Patients Hospitalized for Syncope (2016.10.20 published online)

失神で入院になった患者のうち、17.3%に肺塞栓症がみつかったというコホート研究。

コレだけ聞くと凄いインパクトではありますが、失神は神経調節性などの原因が多く、通常は帰宅させますよね。注意すべき疾患の中で頻度が高いのが不整脈やてんかん、稀だけど怖いのが肺塞栓症、くも膜下出血、大動脈解離などだと思います。入院になったというのはよほどのことなので、その辺を割引いて解釈する必要がありそうです。

Remission of follicular lymphoma after treatment for hepatitis C virus infection (2016.10.27 published online)

C型肝炎を合併した濾胞性リンパ腫の患者に、sofosbuvirと ribabirinを用いた C型肝炎の治療をしたら、リンパ腫まで消えてしまったという凄い報告。”C型肝炎を対象とした B細胞リンパ腫” 患者を対象とした臨床試験が待たれます。

HCV Drug Warning (2016.11.15 published online)

FDAは、C型肝炎に使用される直接作用型抗ウイルス薬について、B型肝炎ウイルスの再活性化を起こすことがあることを添付文書に枠組みの警告文で記すことを求めまる見込みです。

2013年から 2016年までの 31ヶ月で、そのような症例は 24名報告され、2名死亡し、1名は肝移植を余儀なくされました。

Statin use for the primary prevention of cardiovascular disease in adults: US Preventive Services Task Force Recommendation Statement (2016.11.15 published online)

USPSTFが、スタチンを心血管疾患の一次予防に用いるためのガイドラインを発表しました。危険因子、10年間の心血管疾患発症リスク 10%を判断材料にするようです。なお、10年間の心血管疾患の発症リスクは、ツール (http://tools.acc.org/ASCVD-Risk-Estimator/) を用いて判断します。

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statin-for-primary-prevenation

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Community acquired pneumonia incidence before and after proton pump inhibitor prescription: population based study (2016.11.15 published online)

プロトンポンプ阻害薬 (PPI) が、慢性/急性腎臓病、急性間質性腎炎、低マグネシウム血症、クロストリジウム腸炎、市中肺炎、骨折のリスクを高めるという報告が、近年相次いでいます。このブログでも 2016年2月20日に紹介しました。PPIによる市中肺炎の増加は薬剤のせいではなく、交絡因子によるものだったという研究結果が、British medical journalより報告されました。著者らは、PPI内服群の方が、併存疾患や逆流性食道炎の重症度などの点で、もともと肺炎を発症しやすい集団だったので、肺炎が増えているようにみえたのだろうと考察しています。

CHCHD10 mutations and motor neuron disease: the distribution in Finnish patients (2016.11.3 published online)

種々の神経疾患やミトコンドリア病のコホート研究に参加した患者を対象として、CHCHD10変異を調べたフィンランドの研究です。

筋萎縮性側索硬化症、ミトコンドリア病 (筋症)、前頭側頭葉変性症、Charcot-Marie-Tooth病2型 (CMT2)、脊髄性筋萎縮症 Jokela型 (SMA Jokela type; SMAJ, 有痛性筋痙攣、線維束性収縮、腱反射低下~消失、CK上昇、手の振戦が特徴) などで CHCHD10変異がみつかりました。CHCHD10変異の中で特に疾患の原因になっている可能性が高いと考えられたのが、c.176C>T (p.S59L) と c.172G>C (p.G58R) 変異でおこるミトコンドリア病と、c197G>T (p.G66V) 変異でおこる SMAJ (過去には CMT2の報告もあり) でした。

CHCHD10は論文の表現では “part of mitochondrial mitochondrial contact site and cristae organizing system (MICOS) complex” となっており、ミトコンドリアに関連した複合体を構成する蛋白質の一つのようですが、変異部位によってミトコンドリア病になったり、SMAの特殊なタイプになったりするのが興味深いと思いました。

Treatment dilemmas in Guillain-Barre syndrome (2016.11.11 published online)

Guillain-Barre症候群におけるジレンマとして、いつ治療すればよいのか、血漿交換と IVIgのどちらを用いるべきか、追加治療は必要あるのか・・・などが挙げられ、それに対するエビデンスの纏めと推奨が記された総説です。Table 5が纏まっています。

summary-of-treatment-dilemmas

Summary-of-treatment-dilemmas in GBS and recommendations

【再発又は難治性の慢性リンパ性白血病対象】「イムブルビカカプセル」(イブルチニブ)薬価収載について

形質細胞疾患に合併する末梢神経障害として、POEMS症候群、原発性マクログロブリン血症 (Waldenstrom macroglobulinemia), 多発性骨髄腫、軽鎖アミロイドーシスが知られています。そのなかでも、原発性マクログロブリン血症は、約 90%の症例に MYD88 L265P変異があることが 2012年に報告されるなど、研究の進歩が著しいです。2015年に New England Journal of Medicineに掲載された報告では、MYD88に結合する BTK (Bruton’s Tyrosine Kinase) の阻害薬である Ibrutinibを用いると、MYD88 L265P変異のある症例ではほぼ 100%治療効果がありました。同年 Blood誌に掲載された総説では、原発性マクログロブリンへの第一選択薬として Ibrutinibを推しています (とはいって、2015年の New England Journal of Medicine論文の著者がその総説を書いているのですが・・・)。Ibrutinibは国内において、慢性リンパ性白血病を対象に薬価収載された (2016年5月) らしく、原発性マクログロブリン血症も早く保険適用になると良いなぁと思いました。

Thymoma associated with autoimmune diseases: 85 cases and literature review (2015.9.25)

胸腺腫に合併した自己免疫疾患のケースシリーズです。胸腺腫がある症例の 55%に自己免疫疾患が合併しており、重症筋無力症が多かったものの、橋本病、Isaacs症候群、Morvan症候群、赤芽球癆、全身性エリテマトーデス、扁平苔癬、再生不良性貧血、自己免疫性溶血性貧血、Good症候群、天疱瘡、自己免疫性肝炎、Graves病、辺縁系脳炎、炎症性筋疾患も少数例ながらありました。

胸腺腫と自己免疫疾患といえば、昔読んだ “The Spectrum of Diseases Associated With ThymomaCoincidence or Syndrome?” という論文がとても印象に残っています。


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