第 1回 Journal club

By , 2012年11月30日 8:17 AM

医局の後輩たちを集めて第 1回 Journal clubを行いました。後輩たちに英語を読むのに慣れてもらうのが目的で、医局主催の抄読会では読まないような論文を読むきっかけになればと思っています。資料は英語で書かれていれば、「Play Boy」以外何でも O.K. です。とにかくハードルは低く、低くです。この日の論文を極簡単に説明します。

さて、一人目の「ぶぶの助」先生は、シラミについての論文を読んできました。

Topical 0.5% ivermectin lotion for treatment of head lice.

治療抵抗性のアタマジラミに対して、疥癬治療薬 Ivermectin (商品名:ストロメクトール) を使用し、他の虫卵駆除剤と比較しました。この試験に参加したのは、生後 6ヶ月以上の患者でした。乾いた髪につけて、10分後に洗い流しました。シラミが検出されなかった割合は、Ivermectinとその他の虫卵駆除剤でそれぞれ、day 2 (94.9%, 31.3%), day 8 (85.2%, 20.8%), day 15 (73.8%, 17.6%) でした。副作用は、掻痒感、表皮剥離、紅斑でした。

ぶぶの助先生に何故この論文を選んだのか聞いたら、「もし女の子からシラミ貰っちゃったときにこの薬を使ったら、あそこの毛を剃らなくて済むかなと思って・・・」とのことでした。残念、この論文はアタマジラミ、女の子からプレゼントされるのはケジラミです。貰わなくて済むような日常を送りましょう。

二人目の先生は、脳卒中と非脳卒中をベッドサイドでどう見分けるかの論文です。

Distinguishing between stroke and mimic at the bedside: the brain attack study.

多変量解析の結果、脳卒中であることを最も示唆するのは NIHSS>10であることで、Odds比 7.23, 次に OCSP分類 (strokeを total anterior circulation, partial anterior circulation, posterior circulation, lacunar infarctionに分ける) が可能なことで、Odds比 5.09でした (Table 3) (※単変量解析の結果は Figure 1)。NIHSS>10だと 8割くらいの確率で脳卒中と言えます (Figure 2)。非脳卒中で多かったのは、てんかん、敗血症、代謝性などでした (Table 2)。

脳卒中を見慣れた専門医が迷うことは少ないと思いますが、わからなければとりあえず NIHSSをとってみるのは有用だということですね。この先生は、その日ベストプレゼンテーション賞を受賞し、景品の「ホワイトロリータ」を贈られたため、ニックネームが「ホワイトロリータ」になってしまいました (その先生はロリコンではありません)。

最後に、私が Jolt accentuationについて纏めました。髄膜炎の中には、見逃すと致死的なものが含まれます。診断のためには、腰椎レベルでの椎間から針を刺して脳脊髄液を取ってこないといけません。ところが、どんな患者さんにその検査をするには議論があるのです。例えば、風邪を引いて発熱し、頭痛がするだけで病院で脳脊髄液を取られたら、症状の軽い患者さんは「何故ここまでするのか?だったら受診しないで市販の風邪薬飲んでおくよ」と思うでしょう。さらに検査にかなり時間がかかるので、風邪の流行るシーズンには、数名しか診察できないことになってしまいます。

内原俊記先生は旭中央病院勤務時代に、このジレンマを解決する画期的な方法を見つけました。それは Jolt accentuationと呼ばれるものです。頭をイヤイヤと振ってみて、頭痛が悪くなるようなら髄膜炎の可能性が高くて脳脊髄液の検査が必要、悪くならなければ多分大丈夫・・・というものです。簡単で、感度が高いというので、あっという間に広まりました。ところが、2010年に海外から、まったく違った結論の論文が出てしまいました。Jolt accentuationは感度が低すぎて、陰性だからといって髄膜炎は否定できないというのです。ネットでも話題にしている方がいらっしゃいます。

Jolt Accentuationの追試まとめ

それぞれの患者背景、状況を把握しないと議論になりませんので、Excelで一覧表にしてみました  (※二次使用の際は、miguchi@miguchi.netまで御一報ください)。

 Jolt accentuation一覧表

こうして見ると、意識障害のない軽症そうな症例では rule outのために Jolt accentuationを行なって不要な髄液検査を省き、意識障害や神経学的異常所見があれば Jolt accentuationの有無にかかわらず髄液検査をすべき、というのが落とし所な気がします。

細菌性髄膜炎の自験例では、「自宅では頭が痛くて動かせなかった」患者さんが、来院時には Jolt accentuation陰性となっていたケースがあり、所見を取るタイミングなども関係してくるのかもしれません。


What’s dose it mean to be musical?

By , 2012年11月27日 6:41 AM

2012年2月23日の Neuron誌に、”What’s does it mean to be musical?” という論文が掲載されました。音楽能力についての科学的な検討です。

かなり難しい論文だったのですが、私に理解できた範囲で簡単に内容を紹介します。

What Does It Mean to Be Musical?

<The functional neuroanatomy of music>

研究初期には、言語は左半球、音楽は右半球と考えられていたが、もっと詳しくわかってきた。音程 (ピッチ) の処理は、ピアノの鍵盤のように音程順に大脳皮質に分布した tonopic mapによって説明される。異なった楽器の音 (音色) は、後Heschel回と上側頭溝の特定の領域で処理される。テンポやリズムの処理には小脳や基底核の階層的オシレーターが用いられるとされている。音の大きさは、脳幹から下丘、側頭葉への経路で処理される。音の位置の把握には、両耳間での音の到着時間の差、周波数及び時間スペクトラムの変化などが用いられる。

音楽における、より高次な音の認知には、特定の神経処理ネットワークが関わっている。音楽を聴くと、側坐核、腹側被蓋領域、扁桃体といった報酬経路が活性化し、ドパミン産生が調節される。音色やハーモニー、リズムの予測を必要とする課題では、前頭前野、特に Brodmann 44, 45, 47野、及び、辺縁系や小脳を含む皮質ネットワークの一部である前帯状回、後帯状回が賦活される。

音楽のトレーニングは、灰白質体積や皮質再現の変化に関与している。鍵盤奏者の小脳体積は、練習効果により増加している。

作曲に関与する経路は、文字を書く経路とは異なるようで、文字の失書を伴わない音楽失書の症例が報告されている。また、音楽失書と、音楽失読の解離も報告されている。

<Defining Musicality>

楽譜を読んだり音楽を記憶したり、演奏の様々な特性を聴き取ったり、楽器を弾いたり・・・といった各々のコンポーネントは、直感的には音楽能力と関係があるといえるだろう。これらには遺伝的影響が関与する可能性がある。それは単一の「音楽遺伝子」というより、むしろ複数の遺伝子が関与していそうだ。例えば、catechol-O-methyl transferase (COMT) の遺伝子多型は前頭前野のドパミンを調節し、それにより作業記憶に影響を与える。他の遺伝子多型も、間違いなく一連のリズムにおける目と手の協調運動や、聴覚的長期記憶に影響を与える。

ただ、音楽能力の研究で難しいのは、何を以て音楽能力があるとするかである。例えば、楽器が違ったり、やっている音楽が違うと単純に比較はできない。

ディスクジョッキーは曲の1秒くらいを聴いて、タイトル、作曲家、演奏家などを当てることができる。そして普通の人が気付かない音楽の結びつきを明らかにする (例えば、Foscariniの “Toccata in E” を逆再生して Led Zeppelinの “Gallows Pole” との結びつきを明らかにする)。これには曲のある要素を抽出する能力と共に詳細な音楽的記憶を必要とする。こうした結びつきを認識することは、どんな音楽家にも出来ないことである。

音楽の一番の目的は、人の感情を動かすことだと推測され、これもまた音楽能力の評価の対象である。音楽家の中にはこのことに長けている者もいて、その音楽家がある特性を欠いている時に特に明らかになる。例えば、Bob Dylanや Bruce Springsteenは美声とは言い難いけれども、多くの人たちに感動を与える。

また、独自性や新規性も大切である。全ての音楽家が備えている訳ではないが、これらを持っている音楽家は賞賛を集める。 Mozart, Louis Armstrong, Beatlesなどは、彼らが有する音楽能力は別として、それに相応しい。彼らは音楽に最大級の独創性をもたらす。

<Nonmusical Genetic Factor>

一般認知機能や身体的要素は音楽的成功に関与しているが、これにも遺伝的要素が関係してくるかもしれない。例えば、親のしつけと DRD4遺伝子 (新規探索傾向や、努力、ドパミン機能と関連) の関係は、研究の出発点になるのかもしれない。

<Amusia>

失音楽は様々な原因による様々な集まりを含む概念である。歌が識別出来ないとか、うまく歌えないというのもあるし、また脳損傷あるいは先天的な原因でリズム、ピッチ、音色に関する能力がそれぞれ特異的に欠落した人々もいる。色々と研究が盛んな分野だ。

<Quantifying Musicality and the Future of Music Phenotyping>

最もよく使われる音楽テストは Seashoreの音楽能力テストである。しかし、個性や情動、創造性を評価できるものではない。実際にプロの演奏家が、Seashoreテストの 6項目中 3項目で一般人と差がなかったりする。Seashoreテストに代わるような、新しい評価法が必要とされる。

<Targeting Genes>

ダンスについての遺伝学的研究から、 AVPR1a (Vasopressin) という遺伝子が浮かび上がった。これは、かつて親和的、社会的、求愛的行動、学習、記憶、興味、疼痛感受性などを調節するとされていた遺伝子である。加えて、ダンサーと非ダンサーでセロトニン輸送体 SLC6A4に有意に違いがあるということもわかっている。SLC6A4は、霊的体験に関与することがかつて報告されている。SLC6A4は脳での Vasopressinの放出を促進することから、これらの遺伝子には相互作用がありそうだ。

Vasopressin遺伝子は、音楽能力にも関与しているようだ。AVPR1aは聴き手としての振る舞いや音声構成能力に関係しているとされている。AVPR1aと SLC6A4のプロモーター部分の遺伝子多型と音楽的記憶にはかなりの遺伝的相互関係がある。共感を含む哺乳類の社会的行動に関与し、AVPRa1との関連が知られている oxytocin (OTXR) をコードする遺伝子のさらなる研究も望まれるところだ。

また、AVPR1aは、不安や抑うつと関係していて、音楽的創造性と不安や抑うつの関係はよく知られている。

性格の多様性と遺伝的多型の関係については、盛んに研究が行われており、これらの研究から、音楽的才能と関係した遺伝子が今後見つかるだろう。

音楽遺伝子については、この論文で初めて知りました。音楽好きとしては興味深いです。今後の発展に期待しています。


メトロポリタン美術館展とドビュッシー展

By , 2012年11月23日 6:41 AM

11月22日、午後に外勤で行っているクリニックが休みだったので、東京都美術館に行ってきました。8月17日に「マウリッツハイス美術館展」で訪れて以来、3ヶ月ぶりです。上野公園は紅葉が綺麗でした。

この美術館では、現在「メトロポリタン美術館展」をやっています。メトリポリタン美術館は、9月下旬に渡米したときに訪れたのですが、何しろ広すぎてゆっくり見られなかったので、東京で時間のあるときにゆっくり見られて良かったです。

美術館といえば、10月14日に、ブリヂストン美術館のドビュッシー展に行ってきました。ドビュッシー展の最終日だったので滅茶苦茶混んでいてゆっくり見られなかったけれど、ドビュッシーと親交のあった画家たちの絵が展示されていて、楽しかったです。常設展でも、モネの睡蓮とか、見たいと思っていた作品がいくつかありました。

これまで、海外旅行したときしかあまり美術館には行かなかったけれど、国内の美術館も海外に劣らず充実しているので、今後時間を見つけて遊びに行ってみたいと思います。ただ、ヨーロッパの美術館と比べて、東京は混むから落ち着いて見られないんですよねぇ・・・。

(参考)

ドビュッシー、音楽と美術


IDカード

By , 2012年11月21日 6:57 AM

 国内留学から大学に戻って丁度 3週間になりました。大学で後輩から「migunosuke先生が国内留学したのに刺激を受けて、○○で勉強することにしました」という声を複数聞いて、非常に嬉しく思いました。2年見ない間にみんなすっかり成長していて、このまま若い医局員たちで医局を盛り上げていきたいところです。

 後輩たちに勉強したいオーラが充満しているので、私と後輩達のみでの抄読会を提案したところ、快諾をいただきました。医局の抄読会は、神経内科領域のみの新着論文という縛りがありますが、私が主催する抄読会では、その縛りを取ろうと思います。色々な科の領域の論文でも良いし、古い歴史的な原著論文を読むのも楽しいと思います。後輩たちには「Play Boy以外だったら何でも良いよ」と伝えてあります。みんなどんな論文を読んでくるか楽しみです。面白い論文があったら、ここで紹介出来ると良いなと思います。

 また、外来、病棟では、診断や治療に頭を悩ませつつ、久しぶりに臨床にどっぷり浸かるのを楽しんでいます。

 ただ問題なこともあります。それは、私の IDカードがまだ出来ないこと。医局秘書さんに聞くと、申請はしているらしいのですが、あまりに遅すぎます。私に IDカードを渡すことを危惧する上層部の意向があるのではないかと心配してしまいます。まず実際問題困るのは、IDカードがないと移動できない空間が多いことです。夜間一旦外に出てしまうと入れないし、日中でもスタッフ専用ルームへの出入りができません。病院職員が IDカードをかざして通るのを待って、ささっと一緒に入っているのですが、防犯カメラに映る姿があまりに不自然です。病院で何か事件があったら、真っ先に疑われるのは私です。また、IDカードがないと図書館に入れないので、調べ物ができません。大学事務員にとっては些細な問題ですが、私にとっては結構大きな問題なので、是非ご配慮頂きたいところです。


レッスンの友社

By , 2012年11月20日 6:46 AM

レッスンの友社が廃業になるらしいです。

私はレッスンの友社が発行する「ストリング」という雑誌が好きで、2002年から定期購読しています。また、バックナンバーを取り寄せ、1997年以降に発刊されたものは全て本棚に並んでいます。

2012年11月号には、廃刊の雰囲気は全くないのですが、このまま廃刊になってしまうのでしょうか?興味のある連載がたくさん継続される中、もし廃刊になってしまったら、とても残念です。

ピアノ教本の草分け「レッスンの友社」が廃業へ

2012.11.19 14:44

 信用調査会社の東京商工リサーチによると、ピアノ練習教本の草分けである「レッスンの友社」が今月に入り、事業を停止した。廃業の方向で、弁護士との協議に入っているという。

レッスンの友社(東京都杉並区)は昭和47年11月の設立、資本金1000万円。社長は河村純一氏で、従業員は12人。

ピアノ練習教本「レッスンの友」と弦楽専門誌「ストリング」を月刊で発売。11月号までは発行を続けていた。

ピーク時には会社の年商は3億円あった。しかし楽器の演奏者減少にともない、売上高も年々減少し、昨年は1億円ほどの売上げで赤字経営となっていた。すでに従業員には事業継続断念を伝え、弁護士との相談に入っているという。


IgG4関連疾患

By , 2012年11月16日 7:36 AM

11月13日に、第14回ニューロトピックス21 「IgG4関連疾患」という講演を聴きに行きました (神経内科領域だと、肥厚性硬膜炎が IgG4関連疾患として有名です)。梅原教授の話に、滅茶苦茶感動しました。内科学会誌に総説が載ると言われていたので、メモは取らなかったのですが、取っておけばよかったと後で後悔。覚えている範囲で紹介します。

第14回ニューロトピックス21

「温故知新~『IgG4関連疾患』 ―21世紀に日本で発見された新たな疾患概念―」

金沢医科大学血液免疫内科学 梅原久範教授

まずは掴みの二つのギャグ。梅原教授は、慶應義塾大学医学部を卒業し、地元の京都大学病院で研修をしました。京都大学病院に初出勤の日、「慶応ボーイが来る」ということで、ナースが数十人病棟に列を作っていたそうです。ところが、梅原教授の顔を見るや、「なーんだ」とみんな解散したのだとか。また、金沢医科大学に教授として赴任してしばらくして、大雪が降った時のこと。朝降った雪で、車が埋まり、みんなどうするのかと思って見ていたら、「マイ・スコップ」で器用に道を作って車の除雪をしていました。ところが、車の除雪をしていた人が、車を間違えたことに気付き、わざわざ雪を元に戻している姿を見て、「大変なところに来てしまったなぁ」と思ったそうです。

さて、肝心の IgG4関連疾患について。話は「ミクリッツ」から始まります (ミクリッツは、過去にこのブログでも登場しました , )。ミクリッツは「唾液腺が腫脹する疾患」を「ミクリッツ病」として報告しました。ところが、癌などでも唾液腺が腫脹することがあるので、原因がはっきりしているものをミクリッツ症候群、特発性のものをミクリッツ病とすることで、一応のコンセンサスが得られました。その後、眼科医シェーグレンが眼と唾液腺に異常を来たす疾患を報告し、「シェーグレン症候群」として纏めたのですが、欧米では「ミクリッツ病はシェーグレン症候群の一部」という理解が進み、「ミクリッツ病」という概念が姿を消していってしまったのです。(この辺りの歴史をわかりやすく記したサイトが存在します)

ところが、日本の医師たちは、「ミクリッツ病」と「シェーグレン症候群」が別々の病気だと理解していました。そして、ミクリッツ病で得られた唾液腺に抗 IgG抗体を当てると IgGの集簇が確認され、さらに IgGのサブクラスを調べるため抗 IgG4抗体で免疫染色してみると、綺麗に染まりました。その軽鎖に対して、抗κ染色、抗λ染色をしてみると、monoclonarityはなく、悪性リンパ腫などの原因による IgG4陽性細胞の腫瘍性増殖ではないことが確認できました。IgG4は血中でも高値を示しました。一方で、シェーグレン症候群ではこのような現象は見られませんでした。

面白いことに、他の様々な臓器の病変で IgG4で染色されることが報告されてきました。例えば、自己免疫性膵炎、硬化性胆管炎、尿細管間質性腎炎・・・などです。それでこれらの疾患をまとめようではないかという話が出てきたのです。

(参考) Wikipedia-IgG4関連疾患

主に以下の疾患の重複概念として提唱されている

  • ミクリッツ病(Mikulicz disease)
  • 自己免疫性膵炎(AIP)
  • IgG4関連硬化性胆管炎
  • IgG4関連腎症
  • IgG4関連肺病変
  • 後腹膜線維症の一部
  • Kuttner腫瘍
  • 下垂体炎の一部(IgG4関連下垂体炎)
  • リーデル甲状腺炎
  • 慢性前立腺炎の一部(IgG4関連前立腺炎)

梅原先生は、病理学や消化器、眼科、腎臓内科など幅広い分野からメンバーを集め、最後、班会議の申請期限ギリギリに岡崎先生に電話しました。午後 11時くらいの話でした。ところが何度電話しても電話中でした。何度目か、やっとつながって「おい、何を長電話をしているんだよ?」と言ったら、「お前こそ何を長電話しているんだ?」と返されました。ふたりとも班会議を作ろうとしていて、お互いに同時に電話して相手を誘おうとしたので繋がらなかったらしいのです。結局、梅原班と岡崎班を作って、どちらかが落ちたら合流しようという話にまとまり、両方申請が通りました。

会議が出来て、まずやらなければならなかったことは、名称の統一でした。それまでは、研究者毎にさまざまな名称で報告されていたのです。結局、”IgG4-related systemic disease” と “IgG4-related disease”が最後に残り、多数決で “IgG4-related disease (IgG4関連疾患)” に決定しました。

ところが、マサチューセッツ総合病院 (MGH) で IgG4関連疾患のシンポジウムが開かれた時、プログラムが “IgG4-related systemic disease” になっていたのです。そして、日本からの “IgG4-related disease” に関する演題名も、全て “IgG4-related systemic disease” に書き換えられていました。梅原教授は猛抗議し、メールで「もし “IgG4-related systemic disease” という語にするのだったら、日本人の演者は全員ボイコットする」ことを伝えました。結局相手は折れて、「そこまで名前には拘っていないんだ」と返してきて、”IgG4-related disease” の名前を用いることが決まりました。国際的にも、日本発のこの名前を用いることとなり、大きな意義のある出来事でした。

さて、次は診断基準です。研究班がこだわったのは、「専門家でなくても診断できる」ことでした。そのため、3項目しかない簡単な基準が出来上がりました。

IgG4関連疾患診断基準

1. 臓器病変

2. 血清IgG4>135 mg/dl

3. 組織学的にIgG4陽性細胞の浸潤がみられる

この 3つを満たせば確定診断になります。IgG4は商業ベースで測れます。3番目に 病理基準を入れたのには理由があります。実はアトピー性皮膚炎や類天疱瘡などでも IgG4はある程度増えることが知られています。これらを混ぜてしまうと、疾患概念が曖昧になってしまうのです。ということで、他の疾患が混ざりにくいように少しハードルを上げたという意味合いがあります。

ただ、自己免疫性膵炎のように、組織を取りにくい場所に病変があると、組織診断ができませんので、その場合は “IgG4-related disease” という名前ではなく、”IgG4-related 組織別病名” と名付けることにしました。例えば、”IgG4 related pancreatitis” といった感じです。この疾患では一つの臓器に限らず病変をつくることがありますが、その場合には PET検査が病変の検出に有用であるようです。

この診断基準には裏話があります。”Modern Rheumatology” という雑誌に掲載されたのですが、本来なら受理されてから掲載まで 1年くらい待たされる筈でした。しかし、早く発表しなければいけないということで、Editorと掛けあって、12ヶ月飛び越して 2012年 1月に掲載してもらったとのことでした。雑誌社もフットワークが軽いですね。好感の持てるエピソードです。

ところで、この疾患の発症メカニズムはよくわかっていません。しかし、いくつかの知見を講演で聴くことが出来ました。IgG4が他の IgGサブクラスと決定的に違うのは、二量体を形成するのに S-S結合を欠くことです。そのため、二量体がバラけて単量体になりやすいことが知られています。そしてその単量体が他の単量体とヘテロ二量体を形成すると、より多くの抗原に反応しやすくなるのではないかと推測されます。また、IgG4関連疾患では、Th2 shiftが起きていることが、サイトカインの解析からわかっています。その結果として、自然免疫の異常もきたすそうです。現在では、患者血清と健常者の血清をそれぞれラベリングして 2次元電気泳動し、患者血清のみが形成するタンパク質のバンドを MS解析したり、治療の前後で発現パターンの変わる遺伝子を探したり、様々な研究がされているようです。

治療は、ステロイド、免疫抑制剤、リツキシマブが効くとされています。梅原先生らは、まずステロイドを 0.6 mg/kgで開始し、漸減する方法を推奨しています。自己免疫性膵炎で行われていた治療を応用して、この投与量に決めたそうです。この疾患は、ステロイドへの反応が良好です。従って、もしきちんと診断されればステロイドの内服だけで良くなるのに、疾患を知らないがために腫瘍として手術されてしまう症例が出てきます。こうした事態を避けるために、疾患の啓蒙活動が必要なのだと思います。

推定患者数は、約 20000人と言われています。金沢大学、金沢医科大学で診断された患者数と、石川県の人口から人数を推定したそうですが、自己免疫性膵炎から推定した数字とそれほど大きな開きはないようです。

(参考)

呼吸器内科医 -IgG4関連疾患-

日本発の新たな疾患概念  IgG4関連疾患の潮流


LRRK2

By , 2012年11月15日 6:38 AM

先日紹介した “FIRST AUTHOR’S” というブログに、パーキンソン病の原因遺伝子 LRRK2 (ラーク2) についての Nature論文が紹介されていました。

パーキンソン病の原因遺伝子LRRK2の変異によりひき起こされるヒトの神経幹細胞における進行性の変性

それが原因なのか結果なのかはわかりませんが、Parkinson病研究で、核膜の変形というのは聞いたことがありませんでした。興味深いですね。LRRK2異常では、Parkin-PINK1系と違ってミトコンドリア異常が見られなかったという事実は、Parkinson病が単一の原因ではなく、複数の原因によることを示唆しているのかもしれません。孤発性 Parkinson病だとどうなのか、今後の研究に注目したいと思います。

また、これまでの Parkinson病研究は HeLaなどの一般的な培養細胞での論文が多かったと思いますが、この論文のように「iPS細胞から神経系に分化させた細胞を用いる手法」は、今後増えていくでしょう。


自分の脳を食べる方法

By , 2012年11月14日 12:54 AM

DDN Japanより、「自分の脳を食べる方法」というびっくりするタイトルの記事。

 自分の脳を食べる方法

「脳を取り出したら死んじゃうじゃん!」と思うのですが、どうやら MRI画像を3次元構築して、3Dプリンターで型を作ってチョコレートを流し込んだようです。チョコレート以外にも色々応用が効きそうです。3D-CTを使えば、身体の他の臓器でもできそうですね。でも、嫌~な気分になるので、食べ物でやるのはどうかと思います。

DDN Japanの記事で、他に記憶に残っているのは、この音楽シリーズ。

楽器市場驚愕 医療技術で「ストラディバリウス (時価数億円)」が複製に成功と放射線学会が発表

「美とは」の実験 5億円の楽器で世界有数の演奏者が…路上で弾いてみた


医療コメンテーター

By , 2012年11月13日 6:04 AM

iPS捏造論文でお馴染みの森口氏への独占インタビューを見つけました。

彼の「医療コメンテーターを目指す」発言に、怖いもの見たさで、「ちょっと見てみたい」と思いました。捏造とはいえ、論文を科学雑誌に英語で書けるくらいの知識はあって、口も達者だから、案外ハマったりして・・・。

iPS騒動男に独占インタビュー 森口尚史、吠える!東大批判と『ロンリー・チャップリン』大熱唱

もっとも、どう追及しても森口氏への処分が覆る見込みはないだろうが……。無職となった彼は、これからどうするつもりなのか。

「医療コメンテーターになろうかと思うてます。それに芸能事務所からの誘いもある。せやなー、手始めに『サンデー・ジャポン』(TBS系)に出るのとか、ええんちゃいます?」

落ち込んでいるかと思いきや、パワフルな〝元研究者〟。いくらでも再生可能なハートの持ち主、と言ったら冗談が過ぎるだろうか。


NHK杯

By , 2012年11月12日 7:40 AM

NHK杯はテレビで見られる数少ない棋戦ということで、一般の方も目にすることがあるのではないかと思います。日曜日の午前 10時頃から、NHK教育で放映されています。私が子供の頃は、父親とよく見たものでした。

最近では、対局前に棋士のインタビューを流す企画が組まれるようになりました。

そこで、一発仕出かしたのが佐藤紳哉六段です。とても面白い方で、突然カツラを外すなどの持ちネタが有名です。一時期、ブログを書いていたことがあるのですが、「彼女は、嫉妬心がとても強く、私を独占したがるのです。ですから、このブログのことを、よく思っていません。不特定多数の人に発信して愛想をふりまいてるのが、気に入らないようなのです」という謎の言葉を残してやめてしまいました。Twitterでは、架空の妹キャラで遊んだりしているようです。ニコ生では女装も披露しました。アカン警察などバラエティ番組出演複数。

という佐藤紳哉六段が仕出かしたインタビューがコレ。

・(将棋) 佐藤紳哉のヅラインタビュー

かなり騒ぎになり、佐藤紳哉六段は将棋界のお偉いさんに怒られたとか怒られなかったとか・・・。

先日、橋本崇載八段ことハッシーと二人で飲んでいたら、「俺、明日 NHK杯の収録なんだよね~」と。私が「え?インタビューとか何かやるんですか?」と聞いたら、「うん、何かはすると思う。まぁ、放送覧てくださいよ」と。そして、放送されたのがこちら。

・【将棋】(NHK杯) 橋本八段「羽生さん?強いよね」

佐藤紳哉六段の完コピでした。2チャンネルなどではかなり盛り上がったようです。

将棋の内容は、この棋戦で無双の強さを誇る羽生さんに優勢にまでなったものの、惜しくも逆転負け。

  第62回NHK杯2回戦第12局 ▲橋本崇載八段対△羽生善治NHK杯 Part1

その後、たまたまニコ生で羽生さんがこのインタビューについて触れたそうです。

羽生三冠、ハッシー事件を語る

ええ。後で知りました。というかですね、実際は、撮影している時に控え室にいるですけど、控え室にいて、音声は聞こえなくて、映像だけ見えるんですね。で、映像だけ見てて、何かやったんだろうな、というのは雰囲気で分かったんです。でも、何をしたのかは放送されるまで知らなかったです。(略)

内容は知らなかったので、特に動揺はなかったです。ただまぁ、あれも凄い反響があったみたいで。でも、皆あのコメントを始めたらどうなるんだろうという危惧はありましたけど。

昔の将棋界は、一癖ある人物が多く、それが劇画調に語られて多くのファンを魅了していました。近年サラリーマンっぽい棋士が増えてきたと言われるけれど、色々な意味でキャラの立った棋士は存在していて、そうした棋士には魅力を感じます。「将棋はあまり知らないけれど、棋士は好き」という人が複数私の周りにいて、こうしたパフォーマンスも将棋界にとっては大事なのではないかなと思いました。


Panorama Theme by Themocracy