【ベルリン=三好範英】ベルギー在住の世界的バイオリニスト、堀米ゆず子さん(54)が、所有するバイオリンの名器ガルネリをドイツ・フランクフルト国際空港税関で押収されていたことが分かった。
フランクフルト空港税関報道官などによると、堀米さんは、16日に乗り継ぎのため東京から同空港に到着した際、無申告の場合に通過する緑色の表示の出口から出ようとした。
その際、手荷物のケースに入れたバイオリンが検査の対象となり、輸入関税をこれまでに払ったことを示す証明書や、物品の由来を示す書類などを所持していなかったため、押収の対象となったという。
税関報道官は、「関税を確実に払ってもらうためと、脱税の可能性もあり証拠品としての押収」と説明している。
現在、審査中だが、堀米さんはバイオリンの評価額100万ユーロ(約1億円)の19%に当たる19万ユーロ(約1900万円)の関税の支払いを求められているという。ただ税関報道官は審査の結果、「仕事の道具」の扱いで無税となる可能性もあるとしている。
堀米さんは1980年、ブリュッセルのエリザベート王妃国際音楽コンクールで日本人として初めて優勝。世界有数のオーケストラと共演するなど、国際的に活躍している。
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東京からの電話取材に対し、堀米さんは「楽器は仕事の道具であり、演奏家にとって体の一部のようなもの。今まで何度もフランクフルト空港を利用しているが、何の問題もなかった。なぜ突然こんなことになるのか分からない」と話し、訴訟を起こすことも検討している。
(2012年8月22日07時10分 読売新聞)
弦楽器は、楽器によって癖がかなり違います。サイズや持った時の感触は違うし、よく鳴らすためのテクニックも違ってきます。本番はもちろんのこと、毎日その楽器で練習もしないといけませんので、演奏家は肌身離さず楽器を持ち歩くことになります。
こうした演奏家にとって、楽器が押収されることがあるというのは、信じられない大変なニュースですね。
慣習的にこういうことはありえないのですが、記事に「輸入関税をこれまでに払ったことを示す証明書や、物品の由来を示す書類などを所持していなかったため、」とあるので、空港職員が規則をそのまま適応してしまったようです。「規則に忠実で頑固」と揶揄されるドイツ人相手となると、交渉が難航することが想像されます。
クラシック音楽に理解ある政治家が動いてくれると良いのですが・・・。
追記 (2012.9.22 )
ヴァイオリンは変換されることになったそうです。良かった良かった。
読売新聞 9月22日(土)0時27分配信
ベルギー在住のバイオリニスト、堀米ゆず子さん(54)所有のバイオリンの名器ガルネリが、ドイツ・フランクフルト国際空港税関に押収されていた問題で、同税関が20日、楽器を無条件で返還すると堀米さんに通知してきたことが分かった。
21日に一時帰国した堀米さんが、日本の音楽関係者に伝えてきた。
堀米さんは、8月16日に東京から同空港に到着した際、手荷物のバイオリンについて、自身の所有物であることを示す書類などを所持していなかったため、楽器を押収された。同税関は、バイオリンの評価額の19%に当たる19万ユーロ(約1900万円)の関税の支払いを求めていた。審査の結果、堀米さん自身の所有物であることが証明されたため、無税扱いになったとみられる。関係者によると、堀米さんは「ほっとした様子でとても喜んでいた」という。
以前お伝えした新薬 Dabigatran (商品名:プラザキサ) は、年間 10億ドル規模の売上を誇る抗凝固薬ですが、アメリカで集団訴訟とのニュースです
By Bobby Allyn, The Tennessean
Updated 2d 13h ago
NASHVILLE, Tenn. — After taking the blood-thinning drug Pradaxa for three weeks,Charles Jackson experienced intestinal bleeding. His doctor told him to get off the drug, which he began taking after suffering a stroke last September.
Months later, Jackson, 75, a retired truck driver from the rural railroad community of Hohenwald, saw a television advertisement imploring patients who had complications with Pradaxa to dial 1-800-BAD-DRUG to learn more about joining a lawsuit against the drug company.
Now Jackson is among hundreds of other patients around the country who are teaming against an anti-stroke drug whose sales eclipsed $1 billion last year. Joining the suit thrusts Jackson into the high-dollar stream of product liability lawsuits, a burgeoning world of mass claims in which specialty law firms cast a wide net for injured consumers who represent the pitfalls of marketing risky products. (続きは上記タイトルリンク先参照)
この薬剤には様々なメリットがある一方で、副作用の出血性合併症についても、色々耳にしています (・・・とはいえ、従来使用されてきたワルファリンにも出血性合併症はあります)。アメリカでは、この薬剤のメリットと副作用のバランスをどう取るのか、今後の展開に注目です。
Parkinson病についての研究がニュースになっていました。2年前にお伝えしたニュースの続報です。
毎日新聞 2012年08月22日 00時37分
神経難病「パーキンソン病」の発症を抑える仕組みを、田中啓二・東京都医学総合研究所長らのチームが解明し、21日の英科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」電子版に発表した。パーキンソン病の原因となる細胞内の小器官「ミトコンドリア」の異常を早期に見つけることが可能になり、病気の早期発見、治療に役立つという。
パーキンソン病のうち20〜30代で発症する「若年性パーキンソン病」は、二つの遺伝子が働かないことでミトコンドリアの異常が蓄積し、運動障害が起きる。
チームは、二つの遺伝子のうち「ピンク1」の働き方を調べた。その結果、ヒトの正常なピンク1遺伝子は、ミトコンドリアに異常が起きるとリン酸と結び付いて働き始め、異常ミトコンドリアが分解された。一方、若年性パーキンソン病患者のピンク1遺伝子は、リン酸と結び付かず機能しなかった。
チームの松田憲之主席研究員は「異常ミトコンドリアの増加や分解が進まないときに、リン酸と結びついたピンク1遺伝子を検出する方法を開発すれば、病気の早期発見につながる」と話す。【永山悦子】
論文リンクはこちら。
ここで論文にされた Parkin-PINK1系については、次々と新しいことがわかってきているので、今後の課題は Parkin, PINK1変異による遺伝性 Parkinson病で得られた知見を孤発性 Parkinson病にどこまで活かせるか、ですね。
「脳過敏症候群」といった聞き慣れない名前が世の中で広まっているそうです。「私、”脳過敏症候群” かもしれません」という患者さんが、上司の外来を受診したと聞きました。
日本頭痛学会は、看過できないとして、見解を発表しました。
「脳過敏症候群について」日本頭痛学会理事会の見解
最近、マスコミで「脳過敏症候群」が何回か取り上げられましたが、その際に、「頭痛」と関連してまちがった情報が視聴者に伝わり、また医療現場でも混乱が生じました。日本頭痛学会理事会も、この状況を放置できないと憂慮しています。
ことの発端は、清水俊彦医師が、「耳鳴り・頭鳴りは脳過敏症候群によることが多く、脳波をとれば診断がつき、抗けいれん薬を飲めば治る。片頭痛などの慢性頭痛を適切な処置なしに放置したことによって発症するので、日本頭痛学会のホーム・ページに掲載されている頭痛専門医を受診すると良い。」という趣旨をテレビで繰り返し主張したことにあります。
この説は多くの視聴者に期待を持たせたようです。しかし、「脳過敏症候群」なる説を信じている日本頭痛学会の専門医はほとんどいません。「現時点では科学的根拠のない、個人的な考え」とみなされています。清水医師が強調する脳波の所見は正常人に日常的に見られる脳波である、と多くの研究者が考えています。また、過去に片頭痛のあった人が頑固な耳鳴りを起こしやすい、という説にも根拠がありません。
「脳過敏症候群」は清水医師により日本頭痛学会学術総会に報告され、議論されています。ただ、研究者の多くが清水医師の考えは科学的根拠に乏しいと指摘しているのが現状です。その点、一部のテレビ番組での「日本頭痛学会の会員の多くが認めている学説」とのコメントは正しくありません。日本頭痛学会が清水医師の治療法を「信憑性のあるもの」として是認しているかの誤解が、国民の皆様に伝わり、医療情報の混乱を招いたことは極めて遺憾です。
学問の進歩は日進月歩であり、頭痛関連の分野でも新たな研究成果と治療法の開発が強く望まれています。日本頭痛学会では、引き続き、頭痛について幅広く、また科学的な議論を会員全体で推進します。今後も正しい医学情報を社会に提供し、常に国民の皆様の健康増進に貢献する努力を続けてまいります。
私もこの疾患概念には否定的な意見を持っています。そのことは置くとして、一番の問題は、一部の医師が思いついた疾患概念を ”学問的なコンセンサスがないまま” マスコミに垂れ流し、マスコミもよく裏を取らないで報道したことにあります。医学は、「言ったもの勝ち」「声が大きい方が勝つ」というのではいけません。
似たようなことで、「新型うつ」も話題先行ですが、こちらの日本うつ病学会のサイトが参考になります。
Q4.新型うつ病が増えていると聞きます。新型うつ病とはどのようなものでしょうか? (PDF)
【追記 (2012.9.8)】
学会声明文が削除されてしまったようです。コンセンサスのないことがマスコミ越しに話題になって現場に混乱を与えているのは事実ですし、学会がきちんと発した声が、理由の記載なく削除になったのは残念なことです。
日本内科学会のサイトにアクセスすると、会員は「日本内科学会アーカイブ」で過去の内科学会誌を全てオンラインで読めることに気づきました。
記念すべき第一号第一頁は、腎臓病という論文です。
論説
腎臓病
第十回日本内科學會総會宿題報告
醫學博士 佐々木 隆興述
我ハ昨年五月下旬頃前會長ヨリノ御命令ニヨリ、本年ノ内科學會宿題腎盂炎ニ就ヲ御報告致スハ光栄ニ存ジマス
このような冒頭で始まります。1913年の文章なのですが、時代を感じますね。
第一号の二本目の論文は、周期性四肢麻痺についてです。1913年当時、国内での報告は 7-8例であったことがわかります。
定期性四肢麻痺ニ就テ
醫學士 北村 勝藏述
或ハ發作性麻痺トモ云フ Schachnowicz, Westphal等ガ獨立ノ疾患トシテ報告セシ以来西洋ニ於テハ可ナリ多クノ報告出テ日本ニ於テモ既に七八例報告セラル、然レドモ猶ホ未ダ稀有ナル疾患に属スルモノナレバ吾人ガ經驗セシ三例ヲ上グベシ
同じ号で腱反射についての記述がなされているのが、神経内科にとっては興味深いところです。
反射作用ノ臨牀的意義
第十回日本内科學會総會演説
金澤醫學専門学校 那谷 與一述
反射作用ガ疾病ノ診断ニ對シテ大ナル意味ヲ有スル事ハ論ヲ待タザル所ニシテ、殊ニ神經系統ノ疾病ノ診斷上甚ダ重要ナル價値アルヲ認ム。
この論文には、ヒステリーの話がよく出てきました。 Babinskiが「器質性片麻痺とヒステリー性片麻痺の鑑別診断」という論文を書いたのが 1900年ですから、時代的には非常に近いですね。
一方で、第一号には、びっくりするようなタイトルの論文があるのです。それは「血中ニ注入セラレタル墨汁ノ運命」という論文。本文を読むと、家兎を用いた動物実験の話でした。
1916年は梅毒に関する報告が多く、「「サルワルサン」及免疫血性注射試驗ヲ經タル海〓臟器内ノ黄疸出血性「スピロヘータ」ノ所見 附血清療法ヲ施セル黄疸出血性「スピロヘータ」病患者ノ解剖例ノ病原「スピロヘータ」ノ所見ニ就テ」という論文も書かれていました。
このように古い論文のタイトルをパラパラ眺めていると、歴史を肌で感じることができます。医学史好きの内科学会の会員の先生にはオススメです。
8月13~19日の 1週間、夏休みをいただきました。例によって、備忘録的な日記など。
8月13日 (月)
将棋の橋本八段(ハッシー)らと熱海の温泉「大観荘」へ。入り口には、横山大観や谷崎潤一郎の写真が飾ってありました。素晴らしい旅館で、部屋、及び温泉からは熱海の海が一望出来ました。宴会時の日本酒は「磯自慢」が用意してあり、みんなグビグビと飲んでいました。料理は、味は良かったですが、一般的な男性だと量的に物足りなさが残る感じでした。
部屋に戻ってから、持ち込んだ酒「日南娘」「日南娘黒麹」「佐藤(黒)」「北洋 雫の潤い 大吟醸」「残波」などを飲みながら、将棋を指しました (※持ち込みは別途 3000円かかります)。部屋に備え付けてあるマッサージ機が大人気で、将棋を指さずにマッサージばかり受けている人もいました。将棋に飽きて、みんながカードゲームを始めたところで、2日前の当直疲れが出て眠くなった私は、別室に移動して寝ました。
8月14日 (火)
一部の方たちは、早朝 5時の日の出の時刻に温泉に入ったらしいですが、私は朝食を摂ってから、温泉へ。温泉から出て支度を終えると、送迎バスで熱海駅に向かいました。
ところが、駅につくと、大雨の影響で新幹線が運休。ハッシーは「せっかく発売日の朝 5時に並んで乗車券を取ったのに・・・」と落ち込んでいました。駅前の喫茶店でコーヒーを飲んでいるうちに、新幹線が動き始めたとの報を入手し、「こだま」で大阪に向かいました。
大阪には夕方到着し、リーガロイヤルに荷物を預けて関西将棋会館へ。その後、「銀のて」に焼肉を食べに行きました。「銀のて」はハッシー推奨の焼肉屋で、大塚愛の歌「和牛塩タン680円」の舞台になったらしいです。塩焼きも、タレ焼きも、滅茶苦茶旨かったです。「指し過ぎ」との声をチラホラ聞きながら、キタにある饂飩屋「香川」に行きました。ハッシーおすすめのカレーうどんは、別腹にしっかりと収まりました。飲み会の後の締めには最高ですね。
8月15日 (水)
新幹線で帰京。みんな爆睡するかと思いきや、ビールを飲んだり、割と元気でした。
8月16日 (木)
午前中はさいたまで外来をしました。午後は往診のクリニックが休みだったので、ラボにふらりと顔を出して、細胞培養などをしていました。
8月17日 (金)
暇だったので、久々に大学の医局に顔を出しました。午後は上野の東京都美術館を訪れ、絵を鑑賞する綺麗な女性たちマウリッツハイス美術館展で来日したフェルメールの絵「真珠の耳飾りの少女」などを鑑賞しました。ものすごく混んでいたので、機会があればオランダを訪れた時にゆっくりと鑑賞したいと思いました。
絵を見てから、新幹線に乗って郡山へ。福島県で働く医師たちの近況を聞きながら飲みました。福島県立医大はだいぶ平静を取り戻しているみたいでした。雅山流、裏雅山流、愛宕の松、伯楽星といった日本酒がいつの間にか空き、”シャンデリアの君”の家に御邪魔して、さらに「獺祭」「人気一」を飲みました。私が持参した「千両男山 復興弐号 フェニックス」も少し口をつけました。震災復興支援のためファンドに出資した菱屋酒造の酒ということで、感慨ひとしおでした。
8月18日 (土)
午前 7時過ぎに家を出て、秋田の当直に向かいました。あまりに時間があったので、山形経由を選択。山形新幹線で新庄まで行って、奥羽本線で一路北へ。横手駅で途中下車して、食い道楽、ゆうとハシゴして横手やきそばを食べました。駅前に温泉「ゆうゆうプラザ」があったので、そこでのんびり。疲れを癒してから当直に入りました。
8月19日 (日)
当直を終えて東京へ。そのままラボに直行し、翌日以降の実験の仕込みなどをしました。長かった夏休みが終わりました。
尊敬する岩田誠先生による「描画の神経科学」という講演を聴きに行って来ました。
- 日時:
- 2012年07月06日(金曜) 18:00
- 会場:
- 日仏会館ホール – 渋谷区恵比寿3丁目
生物の進化史上、自然発生的に絵を描くことを始めたのは、われわれHomo sapiensのみです。既にある程度の話し言葉の能力を持っていたと考えられ、我々に最も近い存在であったとされる旧人(Homo neanderthalensis)でさえ、絵を描くことはしなかったようです。その意味で,ヒトはHomo pictorと呼んでも良い存在であると言えます。それでは、ヒトは何故絵を描くのでしょうか。また、どうしてヒトだけが絵を描く能力を持っているのでしょうか。それらの諸問題を、認知考古学、動物行動学、神経心理学、発達神経心理学などの多方面からのアプローチで探ってみましょう。また、様々な病気が、画家の描く作品に与える影響についても、考えてみたいと思います。
ネット上に講演の内容をまとめた pdfを見つけました。非常に面白い内容ですので、興味のある方は読んでみてください。
余談です。上記リンクの pdfでも触れられていますが、Rhoda Kellog氏が膨大な数の小児の絵を体系化して、どのように発達していくか纏めているらしいです。子供ができたら Kellog氏が纏めた発達の表と、自分の子供の描く絵を比べてみたいと思っています。問題は、私に画才がないのが遺伝するかもしれないのと、そもそも相手がいないので子供が出来るアテがないことですね (^^;
南相馬市医師会長の先生のサイトを最近知りました。
原町中央婦人科医院
サイトの右側に震災以降の状況が、不定期に綴られています。
2012年7月12日に、かなり深刻な文章が掲載されました。
停滞する復興
平成24年7月12日
原町中央産婦人科医院院長
高 橋 亨 平
東日本大震災及び原発事故後、1年4カ月になるが、除染も、復興らしき事
も、何も進展はしていない。前に進むべき法律が微妙に邪魔して、役人の権限、
解釈を複雑化し、前に進めない仕組になっている。予算が決まっても、縛りが
強く、何も出来ない地方自治体、結局、国に再度、まる投げ、待ってましたと
ばかりに、国と自治体は自信を持って、原発を作る企業側に又、 まる投げす
る。こんな事を繰り返しながら、いつの間にか、大きな予算が動き、検証しな
いまま消えていっている。地域住民は全く、相手にはされていないし、相変わ
らず、仕事もない。
現地での閉塞感は如何許と思っていたら、さらに深刻な文章が、8月12日に掲載されました。
私の体の現状と医師募集のお願い
平成24年8月12日
医療法人誠愛会
原町中央産婦人科医院
理事長 高橋 亨平
外なる敵と戦っている間にも、癌という内部の敵は決して手加減はしてくれ
なかった。そして又、抗がん剤の副作用に耐えられなく、もう治療はやめよう
と思い、やめてしまった人もたくさんいると聴いた。確かにその理由も分かっ
た。自分でも、何のためにこんな苦しみに耐える必要があるのかと、ふと思う
時がある。しかし、この地域に生まれてくる子供達は、賢く生きるならば絶対
に安全であり、危険だと大騒ぎしている馬鹿者どもから守ってやらなければな
らない。そんな事を思いながら、もう少しと思い、原発巣付近の痛み、出血、
の緩和のため、7月25日から、毎日放射線治療を開始、通院している。午前
9時から12時まで自医院の外来診療、その後、直ちに車に乗り1時間20分
かけて、福島医科大学放射線治療科へ、そこでリニアック照射を受け、直ちに
帰り、3時から再び自医院の外来診療を6時まで、しかし、遅れる事が多かっ
たので、最近は3時から4時に変更した。そんな私の我侭に対しても、患者さ
ん達は何も言わずに、ちゃんと待っていてくれた。それでも、多い日は100
人以上、少ない日でも70人は下らない。(略)
癌との闘いながら、頑張ってきたが、あまくは無いなと感じることが多くなっ
てきた。何時まで生かられるか分からない・・神の思し召すままに・・と覚悟
は決めていても、苦しみが増すたびに、もし、後継者がいてくれればと願って
やみません。私の最後のお願い、どうか宜しくお願い致します。
胸が張り裂けそうになる文章です。言葉がありません。
(追記)
8月17日夜、このことが CBニュースで報道されたようです。また、8月21日、読売新聞でも報道されたという情報を知りました。
医療介護CBニュース 8月17日(金)20時34分配信
東京電力福島第1原子力発電所の事故が起きた直後から、がんと闘いながら浜通り地域の産婦人科医療を支えてきた開業医が、後継者を募集している。現在では、午前と午後の診療をこなしながら、自身も放射線治療を受けているといい、「もし後継者がいてくれればと願ってやみません」と、全国のドクターに呼び掛けている。
後継者を募集しているのは、南相馬市で「原町中央産婦人科医院」を運営する医療法人誠愛会の高橋亨平理事長。
原発から近い県浜通り地域では事故の後、一時はお産のための場所がなくなったが、高橋氏はすぐに現場に戻り、診療を再開。地域の産婦人科医療を支えてきた。ところが昨年6月、高橋氏に大腸がんが見つかり、現在では、がん治療のため遠方の大学病院に通いながら診療を続けている。多い日には100人以上の患者を診療するという。
東日本大震災の発生から1年を機に、キャリアブレインが3月に行った取材では、診療に追われる合間に地域の現状を語ってくれた。
現在では、地域の複数の医療機関がお産の受け入れを再開しているが、高橋氏は今月12日付のブログの中で、「私の役割は終わったと思ったが、どうしてもという患者さんは断れない。もういいかなと、ふと頭をよぎる誘惑に、頑張っている20名の職員の笑顔がよぎる」と綴り、「全国のドクターにお願いがしたい。こんな診療所ですが、勤務していただける勇気あるドクターを募集します」と呼び掛けている。
専門の診療科は問わず、「広く学ぼうとする意思と実践があれば充分」としている。【兼松昭夫】
「トーク 認知症 (小阪憲司、田邉敬貴、医学書院)」を読み終えました。シリーズ「神経心理学コレクション」の一冊です。小阪憲司先生は、Lewy小体病の提唱者としても有名ですね。序文に本書のコンセプトが書かれています。
単なる臨床の症例集、あるいは神経病理の教科書でもなく、臨床をじっくり見た上で剖検脳を調べるという、Charcot以来の神経精神医学の基本に立ち返り、加えて近年の画像診断法の粋をも取り入れた、類を見ない試みである。
エキスパートがどのような点に着目して診療をしているかがわかり、それが画像、病理所見とどのようにリンクしているのか非常に勉強になりました。アルツハイマー病や前頭側頭型認知症など比較的 commonな疾患が大部分でしたが、diffuse neurofibrillary tangle with calcification (DNTC) や limbic neurofibrillary tangle dementia (LNTD) といったマイナーな疾患は、本書で初めて詳しく知りました。近年、画像検査でわかることがどんどん多くなり、それとともに「わかった気になって」剖検を行わずに済ませることが多くなっていますが、剖検してみないとわからないことも多いというのが印象的でした。そして、剖検所見を活かすには、生前の詳細な観察が必要なのですね。
もう一冊、神経心理学コレクションから「痴呆の症候学 (田邉敬貴、医学書院)」も読み終えましたが、こちらは初学者向け。よく纏まっていると思いました。
大学病院の職を辞して南相馬市立総合病院での勤務を始めた神経内科医小鷹先生の近況が、医療ガバナンス学会に寄稿されていました。考えさせられた言葉、心を動かされる言葉が多くありました。一部引用しますが、是非リンク先を読んでいただきたいと思います。
離職する看護師の夫は末期癌であった。そして、多発性硬化症の患者の母親は、震災後に自ら命を絶っていた。現状を目の当たりして、私は考えを是正せざるを得なかった。「何かを始めたい」と意気込んでは来たものの、”医療復興”というのは、システムを創造したり、パラダイムを変換したりすることではなかった。
むしろ丁寧に修繕するとか、再度緻密化するとか、改めて体系化するとか、有機的に規模を拡大するとか、人を集めてそれらを繋ぐとか、そういうことが医療の復興であった。
そういうことを考えると、世の中というものも「偶然その場に遭遇し、意外にも手を差し伸べることになり、行きがかり上そうなった」という行為の集まりで成 り立って欲しいと願う。「たまたまそこに出くわしてしまったが故に、巻き込まれて、なんだか知らないけどいろいろやってしまった」という、言ってみれば、 そういう合理的でないものに人は動かされるし、意味付けは後からなされるものである。
“意味”とは、ある価値に則った合理性のことだが、意味があることの方が正しくて、そうした価値観でしか物事が動かない世の中よりも、偶然居合わせてしまった状況で、意味を度外視して行動できる世の中の方が、ずっと暮らしやすいような気がする。(略)
医師の私が言うのも気が引けるが、人助けや人命救助なんてものに、さしたる意味など考えない方がいいのかもしれない。意味を超えた行為だから、人はどんな現場でも、それを実行することができるし、理由など考えずに仕事に没頭できるのである。
離職する看護師の夫は末期癌であった。そして、多発性硬化症の患者の母親は、震災後に自ら命を絶っていた。
私の想像を遙かに凌駕する凄まじい、あまりにも壮絶な現実があった。苦悩を表に出さない態度の一方で、自暴自棄や抑うつ状態を理解して余りある圧倒的惨劇が、この地には横たわっていた。
私は想いを修正せざるを得なかった。不運に直面する人たちを前に、他人任せで悠長なことを言っていられるのか。この地で起こり得る心身の衰弱に対して、どう反応していけばいいのか。
勝手な言い方をすれば、福島に限らず社会というものは、そもそも劣悪である。しかし、どれほど劣悪であれ、私たちはその中で生き延びていかなくてはなら ず、その中で社会を再生・構築していくしかない。できることなら誠実に、前向きに、着実に。重要な真実や意義は、むしろそこにある。
私たちの医療には解答がない。だから、正解を学ぶことはできないし、規範を教える術もない。
ここで学ぶことは、もちろん、医療技術を向上させるとか、医学的知識を増幅させるとか、そういうことを目指すことに異論はないが、それよりも”自分は何が できないか”を理解し、自分にできないことは、誰にどのように支援されればそれが達成できるのか。「そういう人に支持されなければ、有効に自分の学びが活 かされることはない」ということを体感することなのである。
一手先、二手先を見据えて「自分にできないこと」と、「自分にできること」とを、きちんとリンケージすることなのである。
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