BLOWIN’

By , 2012年7月16日 8:37 AM

川崎病の原因について、非常に面白い論文が、2011年11月に出ました。

Association of Kawasaki disease with tropospheric wind patterns

論文の Figure 4が凄いと思うのですが、日本での中央アジアからの北西の風、あるいはサンディエゴやハワイでの東西風 (pacific zonal wind) の強さと川崎病の発生率が綺麗に相関しているのです。風に乗って何らかの病原体が運ばれてきて、それに対する免疫応答で川崎病を発症するのではないかという推測が成り立ちます。

それに関連して、Nature 2012年4月5日号の News Featureに興味深い記事が掲載されました。

Infectious disease: Blowing in the wind

この記事の本題は病原体が何なのかの犯人探しです。

2011年3月上旬、汚染を防ぐための防護服を装着したスペインのエンジニアが、Barcelonaの Rondoのラボで作られたフィルターを乗せて飛行機で飛び立ちました。飛行機はリアルタイムの風データを用いて進路を取りました。飛行機が戻ってきた時にサンプルはドライアイスに梱包され、コロンビアにある Lipkinのラボに送られました。Lipkinはフィルターに引っかかった DNAを網羅的に解析しました (metagenomics)。

タイミング的にはある意味幸運でした。なぜなら、サンプル回収のため飛行機が飛んだルートは福島を横切っており、もし 1週間遅ければ福島の原発事故があり、風に放射能が紛れてしまっただろうからです。

コロンビアでの解析はゆっくりと進んでいます。高高度の大気中で採取された DNAは極めて微量だからです。まだ論文になっていないため Lipkinは詳細を語りませんが、既に Kawasaki病の原因候補がいくつか見つかってきており、今後は免疫学的検定が行われるのではないかと考えられています。候補 DNAへの抗体を作成し、川崎病患者の血清に加えて、もしコントロールより強く免疫応答が起これば、候補 DNAの信憑性が高くなります。次のステップは、患者からの血液サンプル中に、air filterから見つかったのと同じ DNAを探すことです。

このように川崎病の犯人探しはかなり容疑者が絞られてきているようです。もう少し捜査が進めば犯人が捕まるかもしれません。

記事の最後には、インフルエンザウイルスなど、他にもこのように風で運ばれてくる病原体があるのではないかという台湾の研究者のコメントを載せています。

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カンボジアの奇病

By , 2012年7月15日 10:34 AM

カンボジアの子どもを襲う謎の病気、3か月で60人死亡 WHO

2012年07月04日 16:42 発信地:プノンペン/カンボジア

【7月4日 AFP】世界保健機関(World Health OrganizationWHO)は3日、カンボジアの子供たちの間で広まっている原因不明の病気により、ここ3か月で60人が死亡したと発表した。

WHOの公衆衛生専門家、ニマ・アスガリ(Nima Asgari)医師によれば、最初の死亡例は4月に報告された。犠牲者は全て7歳以下の幼い子どもだという。

WHOは現在、カンボジア保健省と協力して病原と感染経路の特定に取り組んでいる。

アスガリ氏は、まだ調査が初期段階にあるため詳しい症状の特定は難しいとしつつ、「高熱や、重い胸部の症状に加え、一部の子どもは神経系に異常をきたしている兆候がある」と説明している。

現在までに報告された61例のうち、一命を取り留めた患者は1人しかいないという。発症した子どもたちは首都プノンペン(Phnom Penh)と北西部の観光都市シエムレアプ(Siem Reap)の病院に運び込まれている。

WHOが後にAFPに送ったコメントによれば、この病気が伝染病であると示す兆候はまだ確認されていない。(c)AFP

世界を震撼させたこのニュース、どうやらエンテロウイルス 71による手足口病であると結論付けられたようです。さらにステロイドの安易な使用が事態を悪化させていたとのこと。ステロイドは使い方によっては極めて効果的な薬剤です。副作用も必要以上に怖がる必要はありません。ただ、根拠のない使用は、慎むべきですね。以下は、某先生に教えていただいたニュースです。詳細が明らかになってきて、事態は収束に向かいそうです。

2012年07月13日更新 カンボジアで発生している原因不明の病気の調査結果について(更新3)

 2012年7月12日に公表されたWHOの情報によりますと、カンボジア保健省は、カンボジア国内の小児で発生した原因不明の病気について、調査の結果、大部分は重症の手足口病であったと結論づけました。

WHOと関係機関(カンボジアのパスツール研究所、米国の疾病予防管理センター等)は、2012年4月以降、カンタ・ボパ小児病院(Kantha Bopha Children’s hospital)から、入院した小児の疾患と死亡が異常に増えているとの報告を受け、調査を行っていました。

その調査では、カンタ・ボパ小児病院や他の病院の記録、検査、地域の初動対応チームによる家族調査、国のサーベイランスシステムのデータ評価が行われました。

調査結果

 調査によって、合計78人の患者が特定されました。そのうち、カンタ・ボパ小児病院から報告があった患者は62人で、残りは他の病院から報告があった患者でした。症例定義を満たした61人の患者を中心に調査が行われ、そのうち54人が死亡しました。

適切な検体採取をする前に死亡した患者もおり、すべての患者の検体を検査することはできませんでした。合計31人の患者の検体が採取され、カンボジアのパスツール研究所で、いくつかの病原体の検査が行われました。その結果、大部分の検体で、手足口病を起こすエンテロウイルス71(EV71)が陽性となりました。また、インフルエンザ菌b型や豚連鎖球菌など、他の病原体が陽性になった検体も少数ありました。

調査の結果、患者のほとんどは3歳未満で、慢性疾患や栄養失調の患者が数人いました。患者は14州で発生しており、多くはステロイドを投与されていました。ステロイドの使用によって、EV71の患者の状態が悪化したことがわかりました。

対応

 この事例に対応して、政府はWHOの支援を受けながら、EV71による重症の手足口病患者の主な症状であった神経症状と呼吸器症状のサーベイランスを強化しました。保健センターは、軽症の手足口病患者を報告するよう指示されました。サーベイランスが強化されたので、今後、数か月間は、この病気の重症例が新たに発見されることが予想されます。

また、保健省は関係機関の支援を受けて、軽症及び重症の手足口病患者を管理するためのガイドラインや研修コースの作成に取り組んでいます。さらに、保健省は、手足口病の予防、患者の発見、治療についての注意喚起を行っています。

手足口病とは

 手足口病は、小児でよくみられる感染症です。カンボジアでの発生は新しいことではなく、世界中でみられます。ほぼすべての患者は、治療しなくても、7日から10日で回復し、合併症が起こることはまれです。

手足口病は、家畜に発生する口蹄疫とは別の病気です。手足口病はペットや他の動物から感染することはなく、また、動物に感染することもありません。

手足口病はエンテロウイルスによって起こる病気です。主に、コクサッキーウイルスによって起こり、軽症で自然に治ります。また、EV71によって起こることもあり、この場合には重症な合併症がみられることもあり、死亡することもあります。

手足口病の初期症状

 手足口病は、通常、発熱、食欲低下、だるさ、のどの痛みで発症します。赤い斑点の発疹が1日から2日で広がり、手のひらや手、足のうらに水ぶくれができます。発疹は、お尻や陰部にできることもあります。

重症の手足口病の症状

 少ないですが、手足口病が小児で重症になることがあります。重症の場合には、息切れ、眠気、手足に力が入らない、けいれんなどの症状がみられます。小児でこのような症状がみられた場合には、すぐに医療機関を受診することがすすめられます。

手足口病の治療

 手足口病には、特別な治療法はありません。患者には、十分な水分補給が必要です。発熱や皮膚のただれによる痛みを抑えるための治療が行われます。

手足口病の予防

 一般的な衛生習慣を守ることで予防できます。特に、水ぶくれやただれた部分に触った後、調理の前、食事の前、小児に食事や母乳を与える前、トイレの後、小児のからだを洗った後に、石けんと水でよく手を洗うことが重要です。

★感染症情報手足口病

渡航する方は十分注意してください。

 海外滞在中や帰国後に、気がかりな症状が出た場合には、すぐに医療機関を受診し、渡航した地域や滞在中の行動などについて医師に詳しく伝えてください。また、帰国の際に熱や心配な症状がある方は検疫所の担当者にご相談ください。

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歌を忘れてカナリヤが

By , 2012年7月10日 6:59 AM

歌を忘れてカナリヤが (原口隆一・麗子著、文芸社)」を読み終えました。

著者の原口隆一氏は武蔵野音大の教員であり、声楽家としても活動を続けていました。ところが、 1993年 9月 24日に脳梗塞を発症しました。後遺症として失語症が強く残り、著者は地道にリハビリを続けました。実際の彼のノートの一部が印刷されているのですが、「お父さん=男→父→パパ」と書いてあります。さらにルビまで振ってあるのです。このレベルの単語が失われてからのリハビリだったので、大変な努力が必要だったのではないかと思います。

しかし、彼は歌手としての復帰を目指し、2000年にその夢を叶えました。その努力の奇跡が本に描かれています。

私は神経内科医として脳梗塞の患者さんを多く見ていますが、患者さんの思いというものが伝わってきて、非常に感動しました。

同じように脳梗塞の後遺症で苦しんでいる方、リハビリ関係の方、脳卒中診療に関わる方などに読んで欲しいと思いました。また、音楽家が内面を綴った文章ですので、音楽関係の方にも興味を持っていただけるのではないかと思います。

 

「唄を忘れたカナリヤ」(西條八十「砂金」より)

唄を忘れた金糸雀(かなりや)は
後の山に棄てましよか
いえいえ それはなりませぬ

唄を忘れた金糸雀は
背戸の小藪に埋(い)けましょか
いえいえ それはなりませぬ

唄を忘れた金糸雀は
柳の鞭でぶちましよか
いえいえ それはかわいそう

唄を忘れた金糸雀は
象牙(ぞうげ)の船に銀の櫂(かい)
月夜の海に浮べれば
忘れた唄をおもいだす

(参考)

第35回日本神経心理学会総会

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スロヴァキア・フィルハーモニー

By , 2012年7月8日 4:30 PM

妹から招待券をもらい、コンサートを聴きに行って来ました。

スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団 2012年日本公演

2012年 6月 28日 「Cプログラム」

スメタナ:歌劇「売られた花嫁」序曲

ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調 Op. 104

ドヴォルザーク:交響曲第 8番 ト長調「自然交響曲」 Op. 88

指揮:レオシュ・スワロフスキー

チェロ:ガブリエル・リプキン

6月19日~7月2日にかけてスロヴァキア・フィルのツアーが行われ、6月27, 28日がサントリーホールでの公演でした。頂いたチケットは 6月28日のもの。6月27日は指揮が三ツ橋敬子だったらしいのですが、行った方から「言いたいことを全部詰め込みすぎるから、逆に聴きにくかった」との感想を聞きました。

さて当日、一曲目、パート間に少し隙間があるように感じました。ただ、我々が座っていた席が、前から 2列目の右側ということで、聴いた場所が悪かったせいかもしれません。

二曲目は初めて聴くリプキンの演奏。テクニックが素晴らしかったです。ただ、オーケストラの迫力と比べて、響き、音量に少し乏しい気がしました。ガット弦を使用しているためか、我々の席の位置の問題だったのかはよくわかりませんでしたが。

三曲目の「ドヴォ8」は、思い出の曲です。今から 20年以上前の話ですが、ゴールドブレンド・コンサートで、石丸寛氏が津山市民オーケストラを指揮した時、私と妹がヴァイオリン、父がクラリネットで参加したからです。

スロヴァキア・フィルの「ドヴォ8」は、いわゆる「東欧の音」そのものした。そして、コンサートマスター (Jarolim RUZICKA) のソロパートも素敵でした。第 3, 4楽章で弦楽器と管楽器のテンポが噛み合わない瞬間が少しあったけれど、一曲を通して大満足でした。スワロフスキー、素晴らしい指揮者ですね。

アンコールはスラブ舞曲第 15番と第 1番。

 

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古代アンデスの謎

By , 2012年6月26日 8:27 AM

「古代アンデスの謎 二〇〇〇年前の脳外科手術 (片山容一著、廣済堂出版)」を読み終えました。丁度 20年前、1992年に書かれた本です。

著者は日大の脳神経外科教授ですが、 UCLAの名誉教授も務めています。そして定位脳手術の世界的権威です。医学生時代にボリビア・アンデス一帯を登山し、博物館で穴を開けられた数々の頭蓋骨を見たのが著者とアンデスの頭蓋骨の出会いでした。以後、著者はこの穴の謎の探求を続けることになります。

どうやらこの穴は、生きている時に開けられたらしいのです。この穴が脳外科手術によって開けられたことに初めて言及したのは、かの有名なブローカでした。というのも、穴の周囲の骨が増殖し、穴が滑らかになっているのが確認されているからです。これは穴を開けてから、その人物が長く生きたことを意味します。

ブローカ以後、有名な脳外科医がこの問題に取り組みます。世界で最初に脊髄腫瘍の手術をしたホースレイはてんかんの治療だと考え、ルカ・シャンピオニエールは減圧開頭術ではないかと推測しました。その後も、バランス、シェリントン、ウォーカーなど、錚々たる学者、脳外科医がこの問題に言及しました。

著者は現代の脳外科医の眼から見て、当時の手術がどのように行われていたかを推測します。そして、最終的に、この穴が急性硬膜外血腫の手術痕だったのではないかという結論に達しました。しかし、当時は CTのなかった時代です。診断技術に乏しく、危険な手術に踏み切るかどうかアンデスの医師たちは悩んだことでしょう。この悩みを著者は現代の医師たちに重ねあわせています。

迷いの内容は違うが、手術をしたほうがいいのかどうかわからないのは、古代アンデスの外科医とまったく同じである。そして決断の核心には、まったく医学的治療や科学的な因果関係などといったことばで語られるような確信はないのである。これも古代アンデスの外科医とまったく同じである。

こういうとき、なにか無条件に従わなければならない原則が決まっていたとしたら、医師の仕事は大変やりやすいものになる。原則に従うということで、自分は正しいことをしているのだと思い込むことができるからである。

古代アンデスの頭蓋骨の謎から、時代を超えて現代まで通じる考察ができるのが、著者の見識の高さではないかと思います。そして、あとがきでは現代の医療問題について触れられていました。このあとがきが、医療崩壊が叫ばれるより前に書かれていたことに驚きました。

こういう意味では、彼らの置かれた立場は想像を絶するほど難しいものであったに違いない。そんな彼らが少しでも気を楽にする方法は、彼らも持っていたと思われる体系と原則に沿い、頭蓋穿孔について社会が自然に形作ってきた合意と要請に従って、仕事を進めることであっただろう。

医療技術というものは、よほどはっきりした根拠がない限り、それぞれの医師の確信のみにもとづいて行われるわけではない。一部の例外を除いて、全体的には社会的な合意と要請に従うように行われる傾向がある。

医療の問題を語るとき、誰かが作り出した常套句がよく使われる。薬漬け、検査漬け、などはすぐ頭に浮かぶものである。こういった常套句はわかりやすいだけに、容易に使われることが多く、しかもそれですべてがわかったつもりになってしまう。だから問題の本質を考える上では、かえって妨げになっていることが多いようである。

医療費の高騰は、現代の社会の持つ大きな問題のひとつである。その原因探しは行政の大切な役目になっている。この問題を語るときに必ず出てくる、薬漬け、検査漬け、といった常套句の与える印象どおり、医師たちが自分の利益のために不必要な検査や投薬を行なっているのなら、医師を責めれば問題は解決するだろう。しかしそれだけでは到底解決できないことは、もうだんだんと誰の目にもはっきりしてきている。

医師に対する不信というのも常套句のひとつである。しかしこれはなにも今に始まったものではない。医師に対する不信という問題は、古今東西の著作をあたってみればいくらでもみつけることができる。多少の知識のある人なら誰でも知っていることだろう。そこには、もっと本質的な問題がもともとあるのである。医師に信頼回復を叫ぶだけでは、問題は絶対に解決しないようにわたしには思える。そろそろ医療技術というものの本質的な性質を、社会との関係から考えてみることのできる時期にきているのではないだろうか。

この解説まで読むと、単に頭蓋骨の穴の謎を解くだけではなく、古代アンデス、現代に共通する、医療問題の普遍性を見ぬくことが、本書のもう一つの目的であることに気付かされます。

最後に、現代の実際の手術風景の描写から、著者を指導した教授の含蓄ある言葉を記しておきます。著者たちは、こういうことを思いながら手術を進めているのですね。

傷んでいる脳ほどほんの少しでも大切にしなければいけないのだ。このひとには、この傷んでいる脳しかないのだから。

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Tomoとの再会

By , 2012年6月24日 8:40 PM

大学時代の同期、ともの家に遊びに行って来ました。

ともとは、医師国家試験の勉強の時、お互いの家で毎日 10時間くらい一緒に勉強した間柄です。お互いに、一人だと遊んでしまうため、一緒に勉強していたのです。ちなみに、ともは受験勉強中に器用にもまりっぺを見つけ、卒後結婚しました。

お互い医師になってからは、彼が外科医になり、私が神経内科医になったということで、会う機会がめっきり少なくなり、2005年2008年に会ったきりでした。

6月23日に外来を終えた彼の車であきる野の自宅にお邪魔しました。猫の「きなこ」と「あずき」がよく懐いてくれて、一緒に遊びました。猫じゃらしよりも実は指揮棒の方が猫は関心を示すというのが発見でした。夕食は、ホルモン焼きの「ふく」でとりました。バイトが新人でアタフタしてましたが、美味しかったです。

ともの家に戻ってから、私が持参したワイン、「Chateau Chasse-Spleen」と「Chambolle-musginy premier cru」を空けました。後者のワインは、妹の夫 methyl先生から頂いたものです。両方共素晴らしい味でした。

6月24日は、秋川渓谷に出かけ、温泉につかりました。それから、「花がき」で蕎麦を食べながら日本酒を飲みました。蕎麦は、茹で具合のムラが大きかったのですが、天ぷらは美味しかったです。それからともに送ってもらって帰りました。

数年ぶりの再会で色々話し合い、良い時間を過ごせました。今度は練馬に招待しようと思います。

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医療債務

By , 2012年6月21日 9:56 PM

いつも愛読している李啓充先生の「続・アメリカ医療の光と影」。ここ2回、「医療債務の陥穽」という内容でした。非常にショッキングな内容だったので、紹介しておきます。

医療債務の陥穽(1)
医療債務の陥穽(2)

アメリカは訴訟社会ということもあり、訴訟費用を医療費に上乗せしてきたことが、医療費高騰の一因なのかもしれません。Twitterでつぶやくと、かなり反響の大きい記事でした。

 

もう一つ、全く関係ない話ですが考えさせられた記事。T大の大学院まで出たエリートの悲劇の話です。

無題

人間の能力って同心円ではないので、ある分野に突出した才能を持っていても、ある分野では気付けないことが普通にあるのかもしれません。私は優秀には程遠いですが、自戒を込めて。

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Google日本語入力

By , 2012年6月19日 8:23 AM

「IMEがアホやから論文が書けへん」ということで、2004年頃から文章入力は ATOK16を使っていました。ATOK医療辞書も併せてインストールし、快適な環境でしたが、OSや Microsoft Officeが新しくなるにつれて、徐々に動きが悪くなってきました。

最近ノートパソコンを買い換えたのをきっかけに、ATOKも新しいバージョンを買ってインストールしようかなと思っていたら、知り合いから Google日本語入力の存在を教えてもらいました。

Google日本語入力

インストールは上記サイトからワンクリックで終了。これがサクサク動く上に非常に賢くてびっくりしました。難解な医療用語もほぼ一発変換です。ATOK (& ATOK医療辞書) を買う必要がなくなってしまいました。もし、デフォルトの Microsoft IME使っている方がいる方がいたら、是非乗り換えをおすすめします。

ここからは余談ですが、JustSystemのサイトで、「ATOK原子力辞書」というのを見つけました。原子力って、専用辞書が発売されるほど大きな分野なのですね。そこで、ATOK原子力辞書の収録用語例として紹介されている単語を Google日本語入力で変換させてみたら、かなりの割合で一発変換されました。医療以外のジャンルでも、テクニカルタームを結構カバーしているようです。

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片頭痛と遺伝子

By , 2012年6月18日 8:24 AM

2012年6月10日の Nature Geneticsに興味深い論文が出ました。前兆のない片頭痛患者の遺伝子解析 (ゲノムワイド関連解析, Genome-wide association analysis; GWAS) の結果です。

Genome-wide association analysis identifies susceptibility loci for migraine without aura

これまで、片頭痛についてはいくつかの研究が行われ、下記のSNPが指摘されていました (※SNP:ある生物種集団のゲノム塩基配列中に一塩基が変異した多様性が見られ、その変異が集団内で1%以上の頻度で見られる時、これを一塩基多型(いちえんき・たけい、SNP : Single Nucleotide Polymorphism)と呼ぶ。)。

<International Headache Genetics Consorium with migraine aura study(IHGC)>

・MTDH

<Women’s Genome Health Study of migraine (WGHS)>

・PRDM16

・LRP1

・TRPM8

 

今回の論文では、ドイツとオランダで 前兆のない片頭痛患者 2326人 (population-matched control 4580人) の遺伝子を解析し、以下の 2つの  SNPが新たに同定されました。

<clinic-based German and Dutch individuals with migraine without aura>

・MEF2D (myocyte enhancer factor 2D, locus 1q22)

脳に高度に発現している転写因子で、神経の分化を制御している。MEF2Dの神経活動依存的活性化は、興奮性シナプスの数を制限する。片頭痛の脳では興奮性が増しているので、MEF2Dの制御不良は、前兆のない片頭痛患者の興奮性神経伝達に関与しているのかもしれない。

・TGFBR2 (transforming growth factor β receptor 2, locus 3p24)

細胞の増殖や分化の制御、及び細胞外マトリックスの産生に関与するセリン・スレオニンキナーゼである。TGFBR2の p.Arg460His変異は、家族性大動脈解離の原因としても知られている。

 

そして、完全には再現性 (replication) が確認できなかったものの、次の2つの遺伝子に疑いが残り、さらなる研究が必要とされました。

<clinic-based German and Dutch individuals with migraine without aura>

・PHACTR1 (phosphatase and actin regulator 1, locus 6p24)

PHACTR/scapininファミリーの一つで、シナプスの活動性や形態を制御している。PHACTR1は内皮細胞機能にも関与しており、その一塩基多型は若年性心筋梗塞に感受性があるとされる。

・ASTN2 (astrotactin2, locus 9p33)

脳皮質の層状構造の発達に重要な、神経細胞の遊走に関与している。

 

また、過去に報告されていた 遺伝子のうち 2つは、今回の研究でも有意な所見が得られました。

<clinic-based German and Dutch individuals with migraine without aura>

・TRPM8 (transient receptor potential melastatin 8, locus 2q37)

寒冷およびメントールで活性化されるイオンチャネルで、感覚神経に発現している。皮膚のアロディニア(異痛症)に関与しているとされるが、これは片頭痛患者の多くで見られる。

・LRP1 (low-density lipoprotein receptor-related protein 1, locus 12q13)

神経や血管を含む多くの組織で発現している細胞表面の受容体で、細胞外環境のセンサーとして働く。血管平滑筋の増殖に関与したり、シナプスでの伝達を調整する。

 

今回報告された遺伝子は、どれも機能を見ると、片頭痛に関係しているというのが頷けます。そして、著者らの考察で興味深かったのは次の点です

「過去の研究と併せると、TRPM8は様々なタイプ(前兆の有無など)の片頭痛に関係がありそうである。一方で、MTDHは前兆のある片頭痛患者を集めた IHGC研究では片頭痛との関連が疑われたが、今回前兆のない片頭痛患者を集めた研究では、片頭痛との関連が証明できなかったので、頭痛よりむしろ前兆に関係しているのではないか?」

 

片頭痛は患者数が多いので、こうした大規模な遺伝学的研究はやりやすいのでないかと思います。こうした遺伝子の側からの研究により、原因遺伝子/蛋白質が同定され、より効果的な治療法の開発が進むことを期待します。

 

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ルーマニア国際音楽コンクール

By , 2012年6月17日 10:05 AM

古い話になってしまいましたが・・・。1月24日にルーマニア国際音楽コンクール入賞者披露演奏会を聴きに行って来ました。

2012年1月24日 会場18:00 開演 18:30

サントリーホールブルーローズ

1. ピアノ部門奨励賞:高橋健一郎

2. 管楽器部門第1位 (サックス):荒木絵美

3. 声楽部門第1位・ルーマニア大使館賞:善国亜由子

4. アンサンブル部門第1位・日本ルーマニア音楽協会理事会賞・オーディエンス賞 箏三重奏:内藤美和・本間貴志・マクイーン時田深山

5. 打楽器部門第1位(マリンバ):渡邉弥生

6. 管楽器部門第1位・本濱寿明

7. 弦楽器部門第一位(ヴァイオリン)・コンチェルトデビュー賞・最優秀賞:石神真由子

このコンクール、ルーマニアの方々の演奏を聴けるかと思ったら、過去の入賞者はほぼ全員日本人、日本で行われるという、正真正銘の日本のコンクールだったんですね。コンサートの終わりにルーマニア大使が挨拶したりという演出はありましたが・・・。

演奏はというと、普段聴けない楽器の演奏が非常に新鮮でした。特に、箏やマリンバが素晴らしかったですね。一方で、確かに上手いのだけどソリストとして食べていくにはちょっと難しいかなと思う方もいました。

最後にヴァイオリンということで、石上真由子さんの演奏 (無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番:イザイ) について。彼女は京都府立医大の学生で、私が注目していたヴァイオリニストの一人です。でも、今回の演奏は、メタメタでした。妹が聴いた最近の別の演奏会でも、出来が悪かったらしいです。上杉春雄先生のように、医業と音楽を両立させた稀有な例はありますが、彼女のような「未完の大器」的な荒削りなスタイルでは、難しいのではないかと感じました。

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