C9orf72

By , 2012年4月10日 8:14 AM

筋萎縮性側索硬化症 (ALS) における C9orf72遺伝子イントロン領域の GGGGCC 6塩基リピートについて以前紹介しましたが、Lancet Neurlogy 2012年4月号に興味深い論文が出ていました。

Frequency of the C9orf72 hexanucleotide repeat expansion in patients with amyotrophic lateral sclerosis and frontotemporal dementia: a cross-sectional study

C9orf72遺伝子変異にはかなり人種差があるようで、フィンランド人 (Finnish) では孤発性 ALSの 21.1%を占めますが、その他ヨーロッパや米国の白人では 7%, ヒスパニックでは 8%, 黒人では 4%程度に変異がみられるそうです。一方で、米国原住民、アジア人の孤発性 ALSにはこれらの変異は見つかりませんでした。家族性 ALSについては日本人で 1例遺伝子変異が同定された症例があるようです。

ハプロタイプ解析の結果から、どうやらこの遺伝子変異には約 1500年前 (おそらく 100世代前) に共通の祖先が存在することが明らかになりました。

この遺伝子変異の浸透率は、35歳以下ではほぼ 0%, 58歳では約 50%, 80歳ではほぼ 100%と年齢依存性があるようです。原因は不明ですが、論文中では「年齢依存性の遺伝子座のメチル化」「何らかの遺伝因子」を推測しています。

C90rf72遺伝子キャリアの臨床像としては、やや女性に多く、家族性で、球麻痺型が多いようです。

この論文の limitationとしては、いくつかの地域でサンプルサイズが小さいこと、今回調べた症例で染色体 9p21以外のハプロタイプも見つかる可能性があること、浸透率を過大評価した可能性があること、家族性と孤発性の判断が問診によること、などが挙げられます。

今回の論文で、日本人にはこの遺伝子異常が少ないと推測されます。日本人における孤発性 ALSの原因探しの道程は、まだ長そうです。また、研究が遺伝子解析先行なので、分子レベルでの疾患メカニズムの解明も待たれます。

ちなみに、同じく Lancet neurology 2012年4月号の “Comment” で、この論文を扱っていました。

C9orf72 repeat expansions in patients with ALS and FTD

注目を集めている分野であることは間違いないと思います。

(今回のブログ記事では、同じ遺伝子変異が原因となる前頭側頭型認知症 (Frontotemporal dementia; FTD) については触れませんでした。興味のある方は、論文本文を読んで頂ければと思います)

Post to Twitter


秋田

By , 2012年4月8日 3:14 PM

4月2~7日、秋田県の医師不足の病院で勤務してきました。総合病院の病棟内科医がゼロになってしまい、応援の医師が勤務するまでのつなぎとして、院長から頼まれて行ってきました。

いなくなった内科医の穴をどう埋めるか、診療態勢が定まらぬ中だったので、思わぬ暇が出来たりして、読書の時間がもてたのは収穫でした。読んだ本をいくつか紹介したいと思います。

ドクター夏井の外傷治療「裏」マニュアル―すぐに役立つHints&Tips

ここ 10年くらいで、外傷治療の常識が覆されています。外傷での消毒は意味がなく、組織を傷害するだけで却って有害であることが明らかになりました。秋田では内科外科問わず全科の患者さんの対応をしなければいけないので、こうした外科系の最新の知識も必須であると思い読みましたが、眼から鱗でした。

ドクター夏井の熱傷治療裏マニュアル―すぐに役立つHints&Tips

熱傷の治療も、外傷治療同様、近年大きく変わってきています。以前は消毒をして乾燥させて・・・でしたが、最近では全く逆であることが常識になりつつあります。熱傷創にはサイトカインや組織栄養因子が存在し、それを乾かすのは培養細胞の入った培地を乾燥させるのに等しいそうです。湿潤を保ち皮膚の再生を促すことが治療への最善で、さらに消毒は有害 (菌を殺す効果がほとんどなく、組織を傷害する結果に終わる) であるというのは、知らないと患者さんに不利益を与えることになりますね。学生時代に習ったことと常識が 180度変わってしまっているのを感じながら読みました。

帰してはいけない外来患者

救急をやっていると、「地雷」と呼ばれる症例にぶつかることがあります。例えば「喉が痛い」と来院した患者が心筋梗塞だった・・・など、通常の診断アルゴリズムでは予期できない疾患に遭遇するものです。もちろんほとんどの患者さんではこういうことがないのが、「地雷」たる所以で、全く意外なタイミングで、意外な疾患が隠れていたりします。それを見抜く目を養うのが本書の狙いです。第一章:外来で使える general rule、第二章:症候別 general rule、第三章:ケースブックとなっています。ケースブックではいくつかのケースで「これは見逃しそうだなぁ・・・」などと思いながら読みました。救急に従事する医師は一度眼を通しておいた方がよいかもしれません。

ダ・ヴィンチのカルテ―Snap Diagnosisを鍛える99症例

Snap Diagnosisとは、「知っていれば一目」の診断ですが、知らないと正しい診断に辿り着くまでひどい遠回りになります。臨床の場での実践的な知識が身に付きますので、読んでおいて損のない本です。

3分間 神経診察法 ―最も簡単で効率のよい考え方・進め方

3分間で読了しました。学生の知識の整理に丁度良いですが、臨床の場ではあまり実践的ではないかもしれません。

手軽にとれる神経所見―カラーイラスト図解

薄い本ですが、かなり実践的な本です。研修医、救急医、プライマリ・ケア医などにオススメ出来ると思いました。

秋田では、上記の本を読んだほか、論文もいくつか読みました。機会があれば紹介したいと思います。

今回は早めに秋田入りしたので、4月1日に乗馬クラブに行くことが出来ました。乗馬クラブの名前は「エクセラ」です。非常に親切にして頂いたので、また行きたいと思いました。今回は巻乗り、半巻乗り、脚の使い方、尻鞭、馬装具の外し方・・・などを学びました。

Post to Twitter


椿忠雄

By , 2012年3月28日 8:32 AM

新潟大学初代神経内科教授、椿忠雄先生について Brain medicalに書かれた文章をネット上で読むことが出来ます。日本の神経学の成り立ち、慢性水銀中毒、SMON, 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の話題が中心です。東京都立神経病院の林秀明先生が書かれた文章です。

日本の脳研究者たち 椿忠雄 (pdf)

Post to Twitter


医師が患者になるとき

By , 2012年3月27日 6:26 AM

週間医学会新聞で毎回楽しみにしている李啓充先生の文章。今回は、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) についてでした。

続 アメリカ医療の光と影  第218回 医師が患者になるとき 李 啓充 

この疾患を克服することは神経内科医の悲願ですが、この疾患に冒されながら啓蒙活動を続けたオルニー先生の話です。神経内科医は是非一読を

Post to Twitter


1年

By , 2012年3月26日 11:39 PM

被災地にボランティアに行ってから丁度一年。情報がない中、やっと行く手段を見つけて使命感に燃えていたのを思い出します。いつか時間をみつけて、また本吉を訪れてみたいです。

Post to Twitter


共著者

By , 2012年3月25日 1:49 PM

Twitterで、共著者 3000人以上と紹介されていた論文。

凄い人数です。ファイルを読み込むのが重いこと重いこと。共著者の名前が重複していないかのチェックとか、大変だったでしょうね。

Charged-particle multiplicities in pp interactions at View the MathML sourcemeasured with the ATLAS detector at the LHC

 

Post to Twitter


論文撤回

By , 2012年3月24日 12:35 PM

論文撤回の原因には、データの捏造・使い回し、二重投稿、倫理委員会など正しい手続きを踏まずに研究を行った場合などがあります。それがここ最近急増しているというニュースが、Nature blogに出ていました。

The new gatekeepers: reducing research misconduct

科学研究の分野では、優れた研究者でも職や研究費を得るのが大変と聞くので、こうしたものを巡る熾烈な争いが背景にあるのかもしれません。このニュースを知り、興味本位ですが、撤回論文にはどういう国籍、所属研究機関、地位の著者が多いのか、どういうジャンルの論文に撤回が多いのか、知りたいと思いました。

ちなみに、日本でもこの手の論文撤回がたまに話題になります。こうした話題を集めたブログもあるようです。

論文捏造

Post to Twitter


インクジェットプリンター

By , 2012年3月23日 8:23 AM

培養細胞に外来遺伝子を発現させる遺伝子導入には、試薬を用いる方法、高電圧パルスを用いる方法などがあります。

先日、Facebookで面白い方法があるのを教えてもらいました。インクジェットプリンターで遺伝子導入できることが下記に示す論文の Abstractに引用してあり、更に g-actinなんかも導入できるみたいです。プリンターで細胞膜に小さな孔を開けて導入するため、遺伝子以外にも約 10 nm以下の小蛋白質や分子が導入できるのだとか。

Creating Transient Cell Membrane Pores Using a Standard Inkjet Printer

方法としては、細胞懸濁液にg-actin (in PBS) を加えて作った “Bioink” をカートリッジにセットし、スライドに噴射するらしいです。論文には実際の作業の動画、作製したスライドの顕微鏡写真などが掲載されているので、興味のある方は是非一読を。

※Facebookでは、「”HP Deskjet 500 printer” という古いプリンターが良く現役で働いていたな」、ということも話題になりました。

Post to Twitter


化学者の日誌

By , 2012年3月22日 7:48 AM

「化学者の日誌 (朝比奈貞一、奥野久輝、水島三一郎著、学生出版)」を読み終えました。これまで「医学への道」「物理学者の心」「病院の窓から」「人体の語るもの」「医学の小景」と紹介してきた科学随筆文庫の一冊です。

Continue reading '化学者の日誌'»

Post to Twitter


ブラックジャック

By , 2012年3月18日 7:02 PM

週間少年チャンピオン編集部がブラック・ジャックの原案を募集しているという噂を知りました。

ブラック・ジャック原案使用  感動の医療体験談募集!

 ブラックジャックの原案になるような医療体験ってどういうのなんでしょうか。やっぱりメスを投げたり、金持ちから金を巻き上げたり・・・ってのはお約束ですね。

 個人的には、この原案にどんな医療関係者が応募してくるのか興味があります。応募者が実名でマンガに登場するらしいですから、発売されたら是非読んでみなければ。

Post to Twitter


Panorama Theme by Themocracy