COVID-19とGuillain-Barre症候群/Fisher症候群②

By , 2020年5月15日 8:55 AM

2020年5月2日に書いたCOVID-19とGuillain-Barre症候群/Fisher症候群の続きです。

COVID-19 presenting with ophthalmoparesis from cranial nerve palsy. (Neurology. 5.1 published online)

症例1: 36歳男性、先天性の斜視の既往がある。左眼瞼下垂、複視、両側下肢遠位の感覚障害が出現した。4日前に熱っぽさ、咳、筋痛があり、それらは改善していた。診察では、左散瞳、軽度の眼瞼下垂、内転および下転制限があり、部分的な左眼球運動麻痺の所見だった。外転制限は両側性で、両側外転神経麻痺に合致していた。下肢腱反射低下、感覚鈍麻、歩行失調がみられた。鼻スワブでSARS-CoV-2陽性だった。MRIでは左動眼神経に造影効果、T2強調像高信号、腫大がみられた。Miller Fisher症候群を疑われて免疫グロブリン大量投与 (2 g/kg 3日間) を投与され、またヒドロキシクロロキンが用いられた。症状は入院3日後の退院前に部分的に改善していた。抗ガングリオシド抗体は陰性だった。

症例2: 71歳女性、高血圧症の既往がある。2日前の起床時に疼痛を伴わない複視と、右眼の外転困難が出現した。視力、瞳孔、眼底には異常がなかった。彼女は数日続く咳と発熱があることを述べた。救急外来では、発熱と低酸素血症があった。髄液検査は正常だった。MRIでは視神経鞘とTenon嚢後部の造影効果がみられた。胸部画像では、両側に陰影があった。鼻スワブでのSAR-CoV-2 PCRが陽性だった。COVID-19肺炎はヒドロキシクロロキンで治療した。外転麻痺は入院6日後の退院までには大きな改善はなかった。退院2週間後の電話での聞き取りでは、徐々に良くなっているとのことだった。

症例1について著者らも考察している通り、Guillain-Barre症候群やFisher症候群の可能性はあるけれど、感染から発症まで数日しかないので、ウイルスの直接浸潤の可能性も残る所です。

Guillain-Barre syndrome during SARS-CoV-2 pandemic: a case report and review of recent literature. (J Peripher Nerv Syst. 2020.5.10 published online)

症例:54歳女性、特記すべき既往歴なし。2020年4月に急性、近位筋に目立つ、中等度の対称性麻痺 (MRC 下肢近位筋3/5、遠位筋4/5) で入院した。腱反射消失、四肢しびれ感やチクチク感も伴っていた。これらの症状は口腔咽頭のCOVID-19 RT-PCR陽性の3週間後から始まり、入院の時点で既に10日間進行していた。RT-PCRは濃厚接触者として行われたものだった。彼女は発熱や呼吸器、消化器症状はなかったが、Guillai-Barre症候群の症状が出る2周間前に、一過性の嗅覚、味覚障害を自覚していた。mEGOSは入院時3/9, 入院7日目に1/12だったため、予後が良好であることを示していた。新たに行った鼻咽頭のウイルス検査は陰性だった。髄液は細胞数正常、蛋白 140 g/lと蛋白細胞解離を認めた。入院時の神経伝導検査では、遠位潜時の著明な延長と、両総腓骨神経CMAPのtemporal dispersionを認めた。脛骨神経刺激で、両側に複合A波はあったがF波潜時は正常だった。その他の神経は正常だった。筋電図では、脱神経電位はなかった。AIDPと診断した。入院2日後に、四肢筋力低下の悪化があり、嚥下障害も訴えた。免疫グロブリン大量投与を受け、ほぼ完全に回復した。入院14日後に電気生理検査を再検したが、前回と著変はなかった。

典型的なGuillain-Barre症候群と思います。既報と比べて特記すべきことはありません。抗ガングリオシド抗体はどうだったのでしょうね。それほど頻度が高いわけではないでしょうが、Guillain-Barre症候群の報告は珍しくなくなてきた気がします。

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COVID-19と脳炎/脳症、髄膜炎②

By , 2020年5月15日 8:51 AM

2020年5月2日に書いたCOVID-19と脳炎/脳症、髄膜炎の続きです。

Neurological Complications of Coronavirus Disease (COVID-19): Encephalopathy. (Cureus. 2020.3.21 published online)

症例は74歳男性、心房細動、心原性脳塞栓症、パーキンソン病、慢性閉塞性肺疾患 (COPD)、蜂窩織炎の既往がある。患者は、発熱、咳で救急外来を受診したが、COPDの増悪を疑われて帰宅した。しかし、24時間以内に、頭痛、精神症状、発熱、咳といった症状の増悪で再診した。患者はオランダから米国について7日後であったが、精査のため入院した。胸部画像検査ではすりガラス陰影がみられた。精神症状が数日間続くため、神経内科に紹介された。指示理解は不良だったが、四肢は動かし、刺激への反応もあった。頭部CTは陳旧性の病変のみで、急性期病変はなかった。左側頭葉に陳旧性梗塞による脳軟化があった (論文本文では左、図の説明では右と記載。図のCT写真に左右を示すマークはない)。脳波は全体的に徐波で左側頭葉に鋭波を伴う局所的な徐波を認めた。脳軟化に伴う潜在的なseizureの可能性と、右側頭葉 (論文本文では右、図の説明では左側頭葉) のてんかん波があることから、抗てんかん薬が開始された。髄液細胞数増多はなく、蛋白は68だった。症状が進行し、COVID-19の検査は陽性だった (どこから検体を採取したかは記載なし)。呼吸不全を発症し、挿管された。予後は不良と考えられる。

左右を取り違えたような記載が数カ所あり、またどこから採取した検体でCOVID-19を調べたのかも記載がありません。彼らが根拠とする脳波所見も、既存の陳旧性脳梗塞巣による遅発性てんかんの可能性が残り、脳症と断定はできないと思います。読んでモヤモヤする論文でした。

Transient cortical blindness in COVID-19 pneumonia; a PRES-like syndrome: Case report. (J Neurol Sci. 2020.4.8 published online)

38歳男性、5日間続く発熱で入院。胸部CTですりガラス陰影があり、鼻咽頭スワブでのSARS-CoV-2 RT-PCR陽性だった。入院し、ヒドロキシクロロキン、アジスロマイシン、オセルタミビルで治療した。呼吸機能が悪化し、ICUに入室した。ICU入室5日目、急性錯乱状態となった。血圧高値も数時間続いた。同時に、患者は両眼の視力低下を訴えた。神経学的には、アパシーがあり、指示理解が不良だった。瞳孔は両側2 mmで対光反射は正常だった。両眼視力は高度低下し、手動弁や光覚弁レベルだった。頭部MRIでは左優位の両側後頭葉、前頭葉皮質下白質、及び脳梁膨大部にT2強調像/FLAIR/拡散強調像高信号を認め、PRES (posterior reversible leucoencephalopathy) が示唆された。ヒドロキシクロロキンを中止し、デキサメサゾン 24 mg/dayを開始した。ステロイド2回目の投与で、患者は指示に従えるようになり、視力も完全に回復した。ステロイドは漸減中止した。2週間後に行われた頭部MRIでは病変は完全に改善した。

COVID-19に合併したPRESの報告。論文の考察ではPRESとなった原因は不明で片付けていますが、全身性の炎症、ヒドロキシクロロキンによる薬剤性といった可能性が気になるところです。SARS-CoV-2に合併した中枢神経障害では、ウイルスによる直接浸潤、自己免疫学的機序以外にもこうした病態も考えないといけないのですね。

Lessons of the month 1: A case of rhombencephalitis as a rare complication of acute COVID-19 infection. (Clin Med (Lond). 2020.5.5 published online)

症例:40歳男性。高血圧症と閉塞隅角緑内障の既往がある。発熱や進行性の呼吸苦が10日間あり、3日間の咳、喀痰、下痢があった。受診時、神経学的異常所見はなかった。胸部画像検査では右下肺にconsolidationがあった。上気道 (鼻/咽頭) のスワブを用いたPCRでSARS-CoV-2が検出された。患者は入院3日目に歩行障害を訴えた。その後24時間で、複視、動揺視、四肢失調、右上肢感覚障害、吃逆、飲食時の流涎が出現した。神経学的には、軽度の両側顔面麻痺、両側への舌運動障害、右への舌偏倚、全方向で上向き眼振、右優位の上肢 (軽度) と下肢 (中等度) の失調がみられた。緊急MRIで、脳幹~頸髄に異常がみられ、脳幹脳炎/脊髄炎と診断した。髄液検査では細胞数増多や蛋白上昇はなかった。髄液採取量が少なかったので、SARS-CoV-2 PCRは行えなかった。抗MOG抗体と抗アクアポリン4抗体は結果未着である。この患者は急性発症の肝障害も合併していた。しかし、神経症状も肝障害も徐々に改善し、11日後に退院した。ガバペンチンで多少吃逆は改善したが、眼振と動揺視、失調は残存した。

MRI

髄液でのSARS-CoV-2 PCRが出来ていないのが残念で結果が気になります。コロナウイルスは脳幹にも到達しやすいと考えられるので、ウイルスによる炎症でも不思議はないですが、自己免疫学的機序という可能性も残ります。論文の考察に山梨大学のCOVID-19髄膜炎に言及されていましたが、論文著者は「武漢からの報告」と記していて、誤解がありそうでした。

SARS-CoV-2 can induce brain and spine demyelinating lesions. (Acta Neurochir (Wien). 2020.5.4 published online)

54歳女性、前交通動脈瘤の外科的治療歴がある。自宅で意識障害を発症した。病院到着時、GCS12 (E3M6V3) で、局所神経脱落症状はなかった。頭部CTで異常なく、SARS-CoV-2のRT-PCRが陽性だった (※採取部位の記載はないが、後に髄液で調べているので、おそらく今回は鼻咽頭スワブ)。数時間で臨床的に悪化し、挿管された。脳波では右前頭側頭葉から始まり、対側大脳半球に広がる2つのseizureが観察された。ラコサミド、レベチラセタム、フェニトインで治療した。頭部MRIでは、脳室周囲白質に拡散強調像の異常や造影効果を伴わないT2強調像異常信号を認めた。同様の病変が、延髄移行部と頸髄背側にみられた。多発性硬化症精査のための検査では異常なかった。髄液SARS-CoV-2は陰性だった。デキサメサゾン 20 mg/dayを10日間、10 mg/dayを10日間投与し、肺病変は急速に改善した。7日目に気管切開し、15日後に呼吸器の離脱が行われた。

MRI

多発性硬化症を除外したとしていますが具体的にどこまでやって除外したのか、視神経脊髄炎関連疾患の抗体は測定しているのかなどの記載がないのが気になります。あと、本文では頭部MRIについてT2強調像と拡散強調像、造影検査についての記載のみなのに、掲載された図にはFLAIRしか載っていないので、本文に記載されたモダリティーの画像も見たかったです。ステロイド治療で画像や神経所見がどう改善したかも知りたいです。

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COVID-19と脳卒中②

By , 2020年5月15日 8:50 AM

2020年5月2日に書いたCOVID-19と脳卒中の続きです。

COVID-19 presenting as stroke. (Brain Behav Immun. 2020.4.28 published online)

カルテを用いて脳卒中を呈したCOVID-19を調べた。

症例1: 73歳男性、高血圧症、高脂血症、頸動脈狭窄の既往がある。発熱、呼吸困難、精神症状で救急外来を受診した。COVID-19PCRが陽性だった。精神症状に対して、繰り返し頭部CTが撮像されたが、左後頭頭頂葉の皮髄境界が不鮮明であり、急性期梗塞の所見だった。繰り返しCTを撮像し、左中大脳動脈にhyperdense signあり。心房細動は見つかっていない。機能予後的に血栓溶解療法の適応なくアスピリンを投与した。緩和目的となり、最終的に抜管した。

症例2: 83歳女性、反復する尿路感染症、高血圧症、高脂血症、2型糖尿病、末梢神経障害の病歴がある発熱、顔面麻痺、構音障害、摂食障害で救急外来を受診。診察では、著明な左顔面麻痺と構音障害を認めた。NIHSS 2点だった。頭部CTでは明らかな急性期病変なく、CT血管撮影では右中大脳動脈に軽度の狭窄を認めるのみだった。COVID-19 PCRが陽性だった。入院3日目に左半側無視、左片麻痺を伴う左顔面麻痺の悪化がみられ、NIHSS 16点となった。頭部CTでは、右前頭葉に梗塞巣が見られたが、状態が悪く血栓溶解療法は行われなかった。呼吸不全が急激に悪化し、すぐに治療を終了することを決めた。

症例3: 80歳女性、高血圧症の既往がある。精神症状と左片麻痺で受診した。NIHSSは36点だった。CTでは右中大脳動脈領域の梗塞があり、CT血管撮影では右内頚動脈起始部の狭窄と、偶発的に両側肺すりガラス陰影がみられた。COVID-19 PCRが陽性だった。採血では、D-dimer 13966 ng/mlと上昇し、LDH 712 U/l, CRP 16.24と上昇がみられた。入院3日目に緩和目的に抜管した。

症例4: 88歳女性、高血圧症、慢性腎臓病、高脂血症の既往がある。15分続く右上肢の筋力低下としびれ感、喚語困難があり救急外来を受診した。受診時には神経学的に正常で、CTでも急性期変化はなかった。一過性脳虚血発作の診断で入院したが、呼吸苦や咳が出現し、COVID-19 PCRを施行したら陽性だった。D-dimerは880 ng/mlから3442 ng/mlまで上昇した。MRIでは左側頭葉内側に梗塞巣があり、MRAでは右M1に軽度狭窄を認めた。不整脈は見つからなかった。アスピリン、スタチンで治療され、イベントモニターを付けて、リハビリに退院した。

脳卒中でCOVID-19を発症した報告です。採血データが揃っているのは患者3, 4だけですが、LDH, D-dimer, フェリチン、CRPがいずれも高値でした。これらの意義については、論文ではあまり考察されていませんが今後検討されるべきだと思います。また、呼吸器症状が出現する前に脳卒中を発症した症例 (症例4) でD-dimerが上昇しており、感染初期からD-dimer上昇する症例は注意が必要かもしれません。

本筋とは全く関係ありませんが、「症例1: The family eventually decided to pursue comfort measures and terminally extubated the patient. 症例2: Soon after, the family decided to withdraw care. 症例3: her family chose for terminal extubation with comfort measures.」という感じで、引き際の速さがさすがアメリカと感じました。あと、ニューヨークからの報告なのに、「Electrocardiogram (EKG) was within normal limits.」と書いてあって、心電図はECGではなく、ドイツ語での略EKG (Elektrokardiogramm) なんですね。

Characteristics of ischaemic stroke associated with COVID-19. (J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2020.4.30 published online)

英国Queen Squareでの連続6症例 (2020年4月1~16日) の脳卒中の特徴。

症例1: 64歳男性、COVID-19発症10日目に呼吸不全となりICU入室。15日目に左上肢の麻痺と協調運動障害。MRIで左椎骨動脈閉塞と左後下小脳動脈領域の出血性梗塞。D-dimer >80000 ug/Lだった。19日目に両側肺塞栓症を発症し低分子ヘパリンで治療開始。。22日目に両側協調運動障害と右同名半盲が出現し、MRIでは後大脳動脈領域に広範な梗塞巣を認めた。

症例2: 53歳女性、心房細動の既往がありワルファリン内服中。COVID-19発症24日目に、錯乱、協調運動障害、傾眠があり、CTで左小脳と右頭頂後頭葉に梗塞巣がみられた。D-dimer 7750 ug/lであり、脳卒中発症時にINR 3.6だった。脳室ドレナージ、低分子ヘパリン投与したが、肺炎で死亡。

症例3: 85歳男性、COVID-19発症10日後に構音障害と右片麻痺を発症。心房細動、高血圧症、虚血性心疾患の既往あり。CTでは左後大脳動脈閉塞と梗塞を認めた。D-dimer 16100 ug/lだった。心房細動に対してアピキサバンで治療された。

症例4: 61歳男性、高血圧症、脳卒中の既往があり、肥満。構音障害と左片麻痺で発症。MRIで右線条体梗塞がみられた。D-dimer 27190 ug/lだった。入院2日後に呼吸器症状が出現し、SARS-CoV-2感染がRT-PCRで確認された。またCT肺血管撮影で血栓がみられた。低分子ヘパリンで治療された。

症例5: 83歳男性、高血圧症、糖尿病、虚血性心疾患の既往があり、大量喫煙、飲酒の生活歴がある。COVID-19発症15日後に、構音障害、左片麻痺が出現した。CT血管撮影では、右中大脳動脈M2近位部に、血栓性閉塞を認めた。翌日、梗塞は右島にもみられた。D-dimer 19450 ug/lだった。血栓溶解療法が行われた。

症例6: 70歳代男性、COVID-19発症8日目に失語、右半身麻痺が出現。MRIで脳底動脈閉塞、両側P2狭窄、多発脳梗塞 (右視床、左橋、右後頭葉、右小脳半球) を認めた。血栓溶解療法を受けた後、D-dimerは1080 ug/lだった。

・脳卒中の発症メカニズムはよくわかっていないが、COVID-19による脳卒中には特徴があるかもしれない。今回の症例は全例大血管の梗塞だった。3例は複数の血管領域であり、2例は抗凝固療法を行っていたにも関わらず発症した。2例は静脈血栓症も併発していた。5例はD-dimer > 7000 ug/lと高値 (既報の中央値は 900 ug/l) で、1例は血栓溶解療法後にもかかわらず1080 ug/lであった。6例中5例はCOVID-19発症8-24日後で、1例はCOVID-19の症状が出る前だった。

・COVID-19が抗リン脂質抗体の産生を促進し、それが虚血性脳卒中のメカニズムではないかという議論があるが、感染後の抗リン脂質抗体産生は通常一過性であり、血栓とは関連しない。6例中5例でループスアンチコアグラントが陽性で、1例は抗カルジオリピン抗体IgMが中等度、抗β2グリコプロテイン1のIgM/IgGが軽度陽性だった。抗リン脂質抗体はCOVID-19関連脳卒中のスクリーニングに合理的かもしれないが、病的意義はわかっていない。全例で、フェリチンとLDHが上昇していた。

・COVID-19でなぜ脳卒中を発症するかはわからないが、今回の知見からは、全身の高度の過凝固状態の中で起こっていることから、低分子ヘパリンによる抗凝固療法を直ちに行うことが支持される。初期からの抗凝固療法は、血栓塞栓症を減らすメリットがあるが、脳出血を増やすリスクもあり、臨床試験が必要である。

COVID-19による凝固異常とそれによる脳梗塞 (や肺梗塞) は以前から議論されているところです。この論文では、抗リン脂質抗体が全例測定されておりほとんどでループスアンチコアグラントが陽性だったことが興味深いです。抗凝固療法を要するCOVID-19のスクリーニングに、D-dimerや抗リン脂質抗体などのバイオマーカーを用いる選択肢は考慮されてもよいかと感じました (ただし、その裏付けとなる臨床研究は必要です)。

Status of SARS-CoV-2 in cerebrospinal fluid of patients with COVID-19 and stroke. (J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2020.4.30 published online)

COVID-19と同時に神経症状を呈した2例

症例1: 31歳男性、既往歴なし。COVID-19の症状が1週間続いた。突然頭痛と意識障害を発症し他院受診。CTでクモ膜下出血の所見が確認された。意識状態は改善し、著者らの施設に入院。挿管、脳室ドレナージ、脳動脈瘤の治療をすることとなった。インフルエンザ様症状があったので、鼻スワブでCOVID-19検体が提出された。手術後2日目、COVID-19は陽性で戻ってきた。SARS-CoV-2関連脳炎の可能性も考え、脳室ドレナージから髄液検体を提出したが、RT-PCRは2回とも陰性だった。一方で鼻スワブは入院中複数回陽性だった。

症例2: 62歳女性、急性発症の失語と右片麻痺で、CT血管撮影で左中大脳動脈閉塞があり、機械的血栓除去が行われた。2020年3月下旬にリハビリ退院したが、10日後に精神症状とCTでのmidline shiftを伴う脳出血、閉塞性水頭症で戻ってきて、血腫除去術が行われた。意識障害のため抜管はされなかった。明らかな症状はなかったが、気管切開前の評価のため鼻スワブでCOVID-19を評価したところ陽性だった。脳室ドレナージから採取した髄液での評価は2回とも陰性だった。

COVID-19に感染しているからといって、髄膜炎や脳炎を起こしていなければ、髄液にSARS-CoV-2はいないのかもしれません。

前回紹介した論文と、今回紹介した論文を合わせると、次のことが言えそうです。

  • 頸動脈や中大脳動脈、椎骨脳底動脈など、太い血管の梗塞が多い
  • 肺塞栓症など静脈血栓症を合併することも多い
  • 高齢者に多いようだが、若年性脳卒中も問題となっている
  • 脳卒中は重症のCOVID-19に多い傾向がある
  • COVID-19の発熱や呼吸器症状が出る前に発症すること (脳卒中が初発症状) もあれば、COVID-19発症から8-24日くらいして発症することもある。
  • D-dimer高値のことが多く、過凝固を背景に発症している。
  • COVID-19に合併した脳卒中患者では抗リン脂質抗体が陽性のことも多い。その中でもループスアンチコアグラントが陽性になりやすい。ただし、病的意義はよくわかっていない (抗リン脂質抗体陽性は感染による一過性に出現したもので、血栓には関係ないという意見もあるが、私は一般的な感染での陽性としては頻度が高すぎるのではないかという感想を持つ。このウイルス特有の何か?)。
  • 他にCOVID-19関連脳卒中では、LDHやフェリチン高値が多い
  • 低分子ヘパリンで治療していて発症することもある。もっと早期から使用していれば・・・?どのように抗凝固療法を行えばよいかは、まだ未知の部分が多い。

これを踏まえると、D-dimerや抗リン脂質抗体 (特にループスアンチコアグラント)、LDHなどのバイオマーカーをチェックして、これらが異常の症例では抗凝固療法 (ヘパリンなど) を開始しておくというのが治療戦略になるかもしれません。ただ私の個人的な印象で、裏付けとなる研究が必要です。

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