レッドメテオ

By , 2013年4月30日 4:55 PM

久々の馬の話題です。数年前から一口馬主を楽しんでいます。

初めて一口馬主になったのは、レッドディーヴァ。期待されたのですが、デビュー前に故障で引退になってしまいました。私が一口馬主になった馬で、現在現役馬はレッドキングダムのみ。しかし、成績はふるいません。

 レッドキングダム成績

私に似て、仕事で手を抜く癖があるのかもしれません・・・というのは冗談です。

昨年は、アグネスタキオン x エリモピクシーという馬がいて、応募したのですが、抽選で落選してしまい、馬主になれませんでした。今年のNHKマイルC (G1) に出走するそうで、「あの時抽選に当たっていれば・・・」と悔しい気持ちでいっぱいです。

今年は、2頭の一口馬主になりました。モトメチャン11と、ディクシージャズ11です。前者は、レッドメテオという名前がつきました。レッドメテオは結構期待できそうで、今からデビューを楽しみにしてます。


IgG4-Related Neuropathy

By , 2013年4月29日 3:26 PM

2012年11月16日に、IgG4関連疾患について少し書きました。IgG4関連疾患は多岐にわたりますが、神経内科領域だと肥厚性硬膜炎、下垂体炎が知られたところです。

今回、2013年2月25日の Archives of  Neurology (Published online) に IgG4関連末梢神経障害の報告が掲載されました。

IgG4-Related NeuropathyA Case Report

Importance  The newly recognized entity IgG4-related disease (IgG4-RD) is characterized by an elevated IgG4 serum concentration and tissue infiltration by IgG4-positive plasma cells. We describe, for the first time, the clinical features and nerve biopsy findings of a patient with IgG4-RD who presented with neuropathy in the extremities.

Observations  A 55-year-old man had histopathologically defined IgG4-RD that manifested as sensory-motor neuropathy. The neuropathic features were multiple mononeuropathies with electrophysiological findings suggestive of axonal neuropathy. Marked thickening with abundant collagen fibers and infiltration of IgG4-positive plasma cells were observed in the epineurium of the biopsied sural nerve. A moderate degree of myelinated fiber loss without evidence of segmental demyelination was present, whereas necrotizing vasculitis was not found. Oral prednisolone therapy ameliorated the neuropathic symptoms.

Conclusions and Relevance  This case of IgG4-RD presented as sensory-motor neuropathy with pain and sclerosis of the skin in the extremities. The differential diagnosis of neuropathy should include IgG4-RD.

症例は 55歳男性です。下腿皮膚の潰瘍形成/色素沈着を伴った多発単神経炎を示しました。電気生理学的には軸索障害が示唆されました。神経学的所見は、一般的な末梢神経障害とほぼ同様ですが、興味深いことに強い自発痛がみられました。血清 IgG4は 259 mg/dlと高値を示しました。自己抗体は、抗核抗体が 160倍とやや上昇していた以外は陰性でした。PET/CT, 頭部MRIでは異常ありませんでした。

皮膚生検の結果では、著明な線維化と IgG4陽性細胞の浸潤がみられました。壊死性血管炎の所見はありませんでした。腓腹神経生検では、豊富な膠原線維を伴った著明な肥厚と IgG4陽性形質細胞の浸潤が腓腹神経上膜に見られました。

症状はプレドニゾロン 30 mg/dayの内服で回復しました。

今回は名古屋大学神経内科からの報告になりましたが、それとは別に「どうやら IgG4関連末梢神経障害らしい」という症例を耳にしています。診断されていないだけで意外と多いのかもしれません。多発単神経炎で血管炎などが否定的な症例、あるいは皮疹を伴った症例では積極的に疑った方が良いのかもしれません。

それにしても IgG4関連疾患は日本発の知見が多いです。


第二回電王戦

By , 2013年4月28日 5:26 PM

1週間前に第二回将棋電王戦が終わりました。人間側から見て、1勝 3敗 1引き分けでした。結果については以前予想した通りなので今更何もありませんが、各局非常に面白かったので、簡単に振り返ってみたいと思います。公式サイトでは、ニコニコ生動画をタイムシフトで見ることが出来て、臨場感が伝わってきます。

公式サイト:第二回電王戦

<第一戦:阿部光瑠対習甦> 棋譜

阿部光瑠四段が快勝しました。コンピューターソフトは数十手先までを探索し、その局面での評価関数の最も高い手を選択します。つまり具体的な手を読む能力に優れています。一方人間は、「この形で攻めるのは無理攻め」「この端歩は受けておいた方が後々生きる」といったように、経験的の裏付けのある判断に優れます。

阿部光瑠四段の作戦は、「定跡に似ているけれど、微妙に定跡と違う戦型」を選ぶことでした。角換わり腰掛銀という、部分的には詰みまで研究されている戦型を選び、通常後手からする角交換を先手からした上、玉側の端歩を一つ突き越しました。

先手から角交換した対局は数少ないので、コンピューターは定跡データーベースを使うことが出来ませんが、形的にはほぼ同じなので人間は定跡 をほぼ踏襲することができます。通常は受ける端歩をコンピューターソフトが受けなかったのは、この端歩が生きるのは終盤戦になってからなので、価値がわからなかったのでしょう。おかげで人間側は玉側 9筋の端歩を突き越すことが出来、この戦型ではかなりのプラスとなりました。結果的には阿部光瑠四段が綺麗に受けきったので端歩が生きる展開にはなりませんでしたが、もし受け損なった場合でも端から入玉していく手があり、保険がかかっていました。

さて、本譜では習甦の方から仕掛ける展開となり、これが無理仕掛けであることは対局が進むにつれて明らかになります。不利になった後、コンピューターソフトはより不利な局面になるのを先延ばしする「水平線効果」という癖を見せました。71手目~75手目がそれで、この交換は明らかに習甦が損ですが、悪い変化が訪れるのを先延ばしするために選んだ無駄な変化です。最後は阿部光瑠四段が華麗に習甦を仕留めました。

阿部光瑠四段は習甦を借りていて自宅で特訓して、こういう戦法が優秀と見つけたそうですが、毎回同じ変化に飛び込んでしまうのは、コンピューターソフトの弱点の一つかもしれませんね。つまり、研究されれば嵌められるということです。

<第二戦:ponanza対佐藤慎一> 棋譜

ponanzaの変則的な序盤で始まりました。コンピューターはプロ棋士同士の棋譜をデーターベースとして取り込み、定跡として利用しています。一方、プロ棋士は定跡を水面下で研究をしていて、詰みまで結論が出ている定跡もあります。詰みまで研究された形はプロ棋士同士が避けるので実戦に出ません。実戦にないから大丈夫と思って定跡に乗っかると、最後絶対に勝てない定跡に嵌ってしまう可能性があります。そのため定跡を外したのでしょう。

64手目でのボンクラーズというソフトでの評価値は、+202点で先手 ponanza有利 (ソフトにもよるが、300点くらい差でやや有利、1000点差がつくと優勢)。ところが 77手目では -340点と後手佐藤慎一四段やや有利になってました。コンピューターソフトが最善手と信じた手を指し続けて人間が有利になっていくのは、コンピューターが最善手を指せていなかったということになるのでしょう。力戦型の中盤で、人間とコンピューターソフトの読み比べで、今回は人間が勝っていたということです。

116手目の時点では -378点と人間やや有利でしたが、以降終盤での受けを間違え、あっという間に負けになりました。ここで正しく指せるかどうかがトッププロと一般のプロの差だと思いますが、それまでの中盤の駆け引きは見応えのあるものでした。ご本人がブログで感想を書かれているので紹介しておきます。

申し訳ない (2013.3.31)

本当の悔しさ (2013.4.1)

<第三戦:船江恒平対ツツカナ> 棋譜

やや変則的な出だしから、互いの陣形はよく見かけるような形に収まってきた 23手目の時点、ボンクラーズというソフトでの評価は先手船江五段 -239点と後手ツツカナ有利の判断でした。とはいえ、ツツカナがつながるかどうか微妙な仕掛けを敢行し、船江五段がカウンターを合わせて 57手目の時点では船江五段 +149点と指しやすくなっていました。船江五段が果敢に決めに行ったのですが、74手目のツツカナ 5五香が絶妙手。逆転してツツカナ有利となりました。ソフト相手に攻めるのはリスクが高く、不十分な態勢から無理に攻めさせて受けきる方がやりやすいと思うのですが、案の定決めに行ったのが裏目に出ました。89手目の時点では -937点と後手ツツカナ優勢。ところが船江五段の必死の防戦で、96手目では +359点と逆に有利になりました。ここから仕切りなおして第二ラウンドと思っていたら、 107手目の 7二龍が緩手でした。疲労、切迫した残り時間の中でねじり合いましたが、結果はツツカナの勝利に終わりました。

第二戦、第三戦を見て驚いたのは、コンピューターソフトが疑問手を結構指していることでした。計算し尽くして最善手を選択しているようでも、プロ棋士相手にあっという間に優勢の評価をひっくり返されたりして、思ったほど完全な存在ではないのだなと思いました。

<第四戦:puella α対塚田泰明> 棋譜

この 5戦で最も感動した一局でした。塚田泰明九段は、順位戦 C級 1組所属。年齢とともに棋力の衰えがあり、かつての実力はありません。下馬評は puella αの圧倒的優位。

 塚田九段は序盤で不利になり、あっという間に攻め倒されて大劣勢。一目散に入玉を目指しました。ところがボロボロと駒を取られ、大駒は全て先手 puella αの手に。塚田九段のあまりの劣勢ぶりに「公開レイプ」という言葉が頭に浮かびました。puella αも入玉を望めば簡単に達成出来、相入玉になると点数勝負になります。その場合 24点ないと負けになりますが、大駒が 1枚 5点と大きいので、大駒を一枚も持っていない塚田九段には全く勝ち目がありません。

塚田九段の望みは一つだけでした。それは、「コンピューターソフトは入玉を目指さない」という、自宅のコンピューターソフトと戦って収集した事前情報。その場合、入玉した塚田九段の玉は絶対に詰まされない状態なので、一方的に攻撃を仕掛けて勝てる望みがあります。

しかし、puella αが入玉を目指し始めました。ここで塚田九段の心は折れかけたと思います。しかし電王戦は団体戦。投了すれば人間の負け越しが決定します。塚田九段は希望のない中、最善と思われる手順を指し続けました。

指しているうちに、puella αの入玉将棋の指し方が下手なことが明らかになってきました。しばしば点数を失う順を選ぶのです。塚田九段はついに大駒を二枚を取り戻し、更に点数を重ね、なんとか引き分け (持将棋) に持ち込むことに成功しました。

塚田九段が劣勢の状況で必死に努力して、一縷の希望も打ち砕かれながらも淡々と最善を尽くす姿は、見ていてとても感動を呼ぶものでした。木村一基八段の「負けと知りつつ、目を覆うような手を指して頑張ることは結構辛く、抵抗がある。でも、その気持ちをなくしてしまったら、きっと坂道を転げ落ちるかのように、転落していくんだろう」という言葉を思い出しました。

 <第五戦:三浦弘行対 gps将棋> 棋譜

三浦八段は A級 八段のトッププロ棋士ですが、対する gps将棋は東大のパソコン 687台のクラスタで、詰みチェック専門に 3台のマシンが用意されています。

実戦は三浦八段が得意とする矢倉脇システム。40手目 7五歩から gps将棋が先攻しました。gps将棋は取れる歩を取らず、8四銀から 7五銀と進出しました。一見無理攻めだろうと思ったのですが、gps将棋は攻め倒してしまいました (後で知りましたが、過去に類似の実戦譜があるそうです)。「この形で攻めるのは無理そう」と思われた形で攻め倒せてしまうと、定跡自体が変わってしまう可能性がありますね。私はトップクラスだと矢倉は先手有利と思っているので、後手でトッププロをあっさりと下す gps将棋の実力に唖然としました。第 1~4戦で見てきたコンピューターソフトと比べて頭一つ以上抜けていると思いました。

似たように、無理そうな局面から攻めをつなげてしまった将棋が 2013年 3月 24日にあり、この対局を見て、その将棋を思い出しました。それは渡辺明対郷田真隆の棋王戦です (棋譜)。角換わり腰掛銀で、後手は金銀四枚の鉄壁の守り。この形では先手から仕掛けるのは無理と見て、後手の郷田棋王は 9二香と手待ちをします。そこで渡辺明竜王は 4五歩から仕掛け、攻め倒してしまいました。

三浦弘行八段ですらこのように惨敗するのであれば、第三回電王戦はかなりプロ棋士が苦戦することは必死です。同じようなスタイルでは結果が目に見えているでしょう。興行的に成立させるには、何らかの工夫が必要だと思います。ブランド No.1の羽生三冠を登場させること、実力 No.1 の渡辺竜王を登場させること、森内名人を登場させることが思い浮かびますが、企画する人達に期待したいと思います。

(参考)

プロ棋士が解説「第2回将棋電王戦」初戦で人間が勝てた理由

泥にまみれた塚田九段が譲れなかったもの -『将棋電王戦』第四局 “棋士の意地”すら超えた、勝負への壮絶な執念

コンピュータは”生きた定跡”を創り出したか? – 鉄壁の包囲網を突破したGPS将棋の超攻撃的センス「将棋電王戦」第五局


祖父・小金井良精の記

By , 2013年4月24日 7:40 AM

祖父・小金井良精の記(星新一著、河出文庫)」の上巻を読み終えました。星新一の本を紹介するのは、「人民は弱し 官吏は強し」以来ですね。

小金井良精は明治~大正時代を代表する解剖学者で、初期の頃の東大医学部長も務めていました。星新一にとって、母方の祖父にあたります。祖父に対する愛情の漂う本です。

本書の前半は小金井家の先祖たちについて述べられています。それを読むとまず江戸時代の養子の多さに驚きます。星新一が「家とはなんであるか。濃い血液でつながらず、家風だけが伝えられていく」と述べている通りです。以前紹介した宇田川家でも養子が家を継ぐ事例がいくつかあったのを思い出しました。池波正太郎氏は、こうして家の中に血の繋がらない人間がたくさんいることが、江戸時代に礼儀作法がうるさかったことの原因の一つだったのではないかと考えていたようです。

小金井家は長岡藩の出自、それも家老の次男が養子に来たこともあるほどの家柄でした (山本家からの養子小金井良和は、後に本家に戻されて山本勘右衛門と改名して家老になった)。小金井良精の父、小金井儀兵衛良達は小林虎三郎の妹と結婚したのですが、小林虎三郎は「米百俵」の逸話で知られています。司馬遼太郎の「」でも、小林虎三郎は有能な人物として描かれていますね。ちなみに司馬遼太郎の「峠」は私が高校生時代最も好きな小説で、この手の話を語ると長くなるのでやめておきます。

江戸幕府は外国事情を調べるため洋学所を作っており、それが後に蕃書調所、洋学調所、開成所と名前を変え、明治時代には大学南校となりました。良精は上京して大学南校に入学しましたが、突然退学となりました。原因は不明ですが、著者は「良精は朝敵の藩ということで、からかわれ、それに反発して、なにかことを起こしたのかもしれない」と推測しています。結局、良精は大学東校に入ることにしました。東京大学医学部の前身です。当時の校長が長谷川泰で、長岡の人だったのが入学を後押ししたようです。校則では、満15歳以上でないと入れなかったのですが、良精は当時 13歳 11ヶ月。サバを読みました。しかし首席で卒業しました。成績優秀につき、ドイツ留学を果たします。

その後彼がどういう人生を歩んだかは、実際に本書を読んで頂くのが良いと思いますが、備忘録代わりにいくつか印象に残った部分を書いておきます。

・良精は「よしきよ」と読む。ローマ字表記でも、本人はそう書いている。しかし、星新一は「りょうせい」と発音していた。家庭内で本人を呼ぶ時は「おじいさん」であった。

・良精がドイツ留学する直前に血尿が出現した。泌尿器系の症状は、その後生涯つきまとうことになった。良精は留学前に小松八千代と婚約し、帰国後結婚したが、八千代は妊娠に伴った疾患で死亡した。小松家の親戚に当たる原桂仙は、北里柴三郎の留学についても色々運動をしていた。

・良精はドイツではワルダイエルに師事することになった。ワルダイエルは神経説を提唱し、ニューロンという語を生み出した学者である。さらにフレミングが発見した物質に対して染色体と名づけたことでも有名である。また、エールリッヒの師でもある。良精はまず鳩の眼球を用いて解剖学の手ほどきを受け、本格的な研究に進んだ。暇な時はオペラ「タンホイザー」や「カルメン」などを鑑賞にも出かけたりしていたらしい。

・良精はドイツ時代、ウィルヒョウと良く面会し、家庭に招かれもした。

・良精は帰国後帝国大学教授に任命された。明治 17年の東京地図では、東大構内のほとんどが空地で、数えるほどの建物しかなかったことがわかる。

・東大精神科初代教授は榊俶。良精とはドイツ以来の親友だった。41歳で死去し、遺言で解剖された。医学部の教授が死後体を解剖に提供し、剖検を受けるという慣習は、榊俶から始まったようである。

・良精は森鴎外の妹の喜美子と結婚した。彼らが東片町で住んでいた家は、後に長岡半太郎が住むことになった。

・良精はアイヌの研究をしていた。そして日本人のルーツはアイヌ民族と南方から来た民族との混合であるとの説を唱えていた。良精はアイヌのことをアイノと記載していたが、アイヌの人達の発音が「アイヌ」と「アイノ」の中間のように感じていたため。

・ウィルヒョウはアイヌ人の人骨を入手し、頭骨の後下方の穴を削って大きくした人工的な跡があることを 1873年のベルリン人類学会誌に報告した。良精が入手したアイヌ人の骨も同様であった。何故このようなものがみられるのかは不明であったが、釧路でその謎が解決した。アイヌ人の人夫が頭骨から脳髄を掻き出して食べるところを見かけたからであった。どうやら、梅毒の治療薬として人の脳を食べていたらしい (明治時代の出来事)。

・良精は、ドイツから森鴎外を慕って来日した女性と森鴎外の交渉役を務めた。ちなみに森鴎外の処女作は「舞姫」で、日本人留学生とドイツ人女性との恋物語である。

・良精は 34歳の頃、囲碁に熱中していた。36歳の頃、東大医学部長となり、雑務が増え囲碁どころではなくなった。衆議院の予算委員会に呼ばれて解剖体の数についての質問に答えることもあった。

・良精は 35歳のとき明治生命で保険に入ろうとしたが断られた。

・41歳のとき、医師の権利をまもる目的で医師会法案が提出されたが、良精は玉石混交の医師の会に法的地位を与えることに反対した。そのための文章を森鴎外に書いてもらった。その法案は衆議院を通過したが、貴族院で否決された。

・43歳のとき、パリでの万国医事会議に委員として参列することになった。それに際して、医学部の建築費を受け取り、医学部改築のための視察をヨーロッパ各地、アメリカに行った。この時野口英世にも会っている。

・原桂仙が亡くなった時、遺児の世話を北里柴三郎とともに行うよう遺言で頼まれた。

・明治 27年、香港でペストが流行した。そこで良精は臨床と病理部門から青山胤通、細菌学の部門から北里柴三郎を派遣することを決めた。北里柴三郎は患者や死者から一種の細菌を検出し、培養及び動物実験を行なってペスト菌と認定した。そしてランセット誌に発表した。青山胤通は感染し、死の一歩手前まで行った。

・北里柴三郎は留学から帰国した頃、伝染病研究所の設立を説いて回った。事態は進展しなかったが、福沢諭吉が土地建物の援助を申し出て、実業家の森村市左衛門が設備と危惧の資金を出したことがきっかけとなり、国家補助が決まった。北里柴三郎が所長で、その下に志賀潔 (赤痢菌を発見)、秦佐八郎が付き、野口英世も一時勤めた。ドイツのコッホ研究所、フランスのパスツール研究所とともに世界三大研究所と呼ばれたが、大隈重信内閣が東大医学部付属にせしめたことから、北里柴三郎と弟子たちは辞表を提出した。北里柴三郎は北里研究所を設立。また慶応義塾大学に医学部をもうける計画が出ると、北里は主催者に推された。

・良精が肺炎になったとき、病院長三浦謹之助が診察し、絆創膏を脇腹にたくさん貼った。しかし同日午後青山胤通が午後診察し、はったばかりの絆創膏をびりびりとみんな剥がしてしまった。

・島峰徹は石原久教授との対立で東大を辞め、東京高等歯科医学校 (後の東京医科歯科大学) を創立した。

青空文庫に良精の作品リストというのがありますが、作業中のようです。気長に待つとします。

青空文庫 小金井良精


C9orf72とアルツハイマー病、そしてグアムALS

By , 2013年4月21日 11:17 PM

2013年 4月 15 日の Archives of Neurology誌 (Published online) に、臨床的にアルツハイマー病と診断された患者におけるC9orf72 6塩基反復伸長についての論文が掲載されました。

C9orf72 Hexanucleotide Repeat Expansions in Clinical Alzheimer Disease

家族性アルツハイマー病は amyloid precursor protein (APP), presenilin2 (PSEN2) 遺伝子の変異が原因となりうるが、一方で前頭側頭型認知症 (Frontotemporal dementia; FTD) の原因遺伝子 microtubule-associated protein tau (MAPT), granulin (GRN) の変異もまた臨床的アルツハイマー病患者で検出されることがあるため、アルツハイマー病と健忘型 FTD (amnesic FTD) の表現型はオーバーラップしているのではないかと言われている。

近年注目されている FTDおよび ALSの原因遺伝子 C9orf72を臨床的アルツハイマー病患者で調べた研究は過去に 2報存在する。最初の報告は C9orf72の 6塩基反復伸長が家族性アルツハイマー病 342例中 3例、孤発性アルツハイマー病 711例中 6例に見られたとするものである。うち 2例の剖検報告ではアルツハイマー病というより FTD病理だった。次の報告では、臨床的にアルツハイマー病とされた患者 568例中、C9orf72 6塩基反復伸長のある患者はいなかった。

今回著者らは、872家系の家族性アルツハイマー病患者と、888例の正常コントロールを調べた。その結果、家族性アルツハイマー病患者群の 5例 (0.57%, いずれも白人)、正常コントロール群の 1例で 6塩基反復の伸長 (30リピート以上) を認めた。家族性アルツハイマー病の患者 5例はいずれも APP, PSEN1, PSEN2, GRN, MAPTにおいて、よく見られるような変異はなかった。5家系のうち 3家系では C9orf72反復は 1000リピート以上だったが、2例では 30~100リピートであり、後者ではどの程度の関連があるかは不明である。

家系 1の患者はこの家系における変異の創始者で、 C9orf72の 6塩基反復は 1200-1300リピートだった。73歳でアルツハイマー病と診断された。12年後に死亡し、剖検がなされた。病理学的には neurofibrillary tangleや plaqueが、新皮質、海馬、扁桃体、マイネルト基底核に豊富にみられた (>40 plaques/100 x field)。またレヴィー小体が散在していた。レヴィー小体を伴った黒質緻密部の神経細胞も見られた。残念なことに、検体は (tau, ubiquitin, TDP-43, p62など) の追加検査には使用不能だった ( 家系 2~5の患者は簡単な臨床症状の記載のみで病理の記載なし)。

正常範囲内の反復であれば、反復回数が多くなるからアルツハイマー病のリスクになるということはなかった。

また、著者らが PSEN1 A79V変異の有無を調べた所、872家系のうち 4例 (0.46%) で変異を認めた。今回のコホート研究では、C9orf72の 6塩基の著明な反復伸長 (3/872) は、PSEN A79V (4/872) に次ぐアルツハイマー病のリスクと言える。興味深いことに、アルツハイマー病に関連した変異 (APP, PSEN1, PSEN2) は 1.82%に見られたのに対し、FTDに関連した変異 (MAPT, GRN, C9orf72) は1.94%に見られた。アルツハイマー病において、FTD関連遺伝子変異はアルツハイマー病遺伝子変異と同じくらい一般的に見られるものだった。

どうやら、C9orf72の 6塩基反復伸長の表現型は、筋萎縮性側索硬化症 (ALS)、前頭側頭葉変性症 (FTLD), FTLD-ALS, 臨床的アルツハイマー病と多彩であるらしい。

C9orf72がアルツハイマー病にも関係しているとなると、この遺伝子が何者なのか、ますます訳がわからなくなってきました。また、遺伝子変異と病理所見との整合性をどうつけるのかも悩ましいです。続報を待ちたいと思います。

さて、上記以外にも、C9orf72に関する興味深い論文が同じ日の Archives of Neurology誌に掲載されていました。

C9orf72 Hexanucleotide Repeat Expansion and Guam Amyotrophic Lateral Sclerosis–Parkinsonism-Dementia Complex

日本の紀井半島や、グアムのチャモロ族では、筋萎縮性側索硬化症とパーキンソン認知症複合 (amyotrophic lateral screlosis and parkinsonism-dementia complex; ALS-PDC) が高い頻度で見られることが知られている。C9orf72の 6塩基反復伸長が ALSのみならずパーキンソニズムを起こすことが報告されていることや、紀伊半島 ALSの約 20%で C9orf72の 6塩基反復伸長が見られることが報告されていることから、著者らはグアムのチャモロ族で C9orf72の 6塩基反復伸長がみられるかどうか調べた。対象は 24例の ALSと 22例の PDC患者で、1例を除いて全てチャモロ族だった。チャモロ族で C9orf72の 6塩基反復伸長がみられた患者はいなかった。1例のみ C9orf72 6塩基反復伸長がみられたが、アメリカで生まれた白人であり、チャモロ族とは無関係であった。また、Parkinson病の原因遺伝子である LRRK2変異を伴った患者はいなかった。

グアム ALS, ALS-PDCは日本人の平野先生が精力的に研究していた疾患です。今回の論文を読むと、紀伊半島とグアムの ALS-PDCは、遺伝学的なバックグラウンドが異なるのかもしれないのですね。C9orf72以外の遺伝子がどうなっているか、今後注目です。

話はがらりと変わりますが、アメリカのインディアンやアラスカの先住民では、白人より ALSの発症率が低そうだというのが 2013年 4月号の Archives of Neurology誌 (Published onlineは 2月 25日) に載っていました。こうした疫学的な調査結果も、将来は遺伝子で説明される時代がくるのでしょうか。

(追記)
アルツハイマー病の治療薬開発が何故難しいのか、ワイリー・ヘルスサイエンスカフェに岩田淳先生のわかりやすい解説があります。併せてどうぞ。

アルツハイマー病の病態修飾治療 課題と希望

  1. ADを自然発症するマウスは存在しないため,モデルマウスは遺伝子導入マウスであり,アミロイドカスケード仮説に沿って作成されている.そして現在開発されている多くの病態修飾薬はアミロイドβ(Aβ)に対するものである.今までの様々な知見からAβの蓄積がAD発症に密接に関与している事は恐らく確かであるが,それでも臨床試験が行われてきた薬剤が正しい標的へと向いているかどうかは常に検証すべきである.
  2. ADの診断は従来NINCDS-ADRDA基準で行われてきた.この基準ではレビー小体型認知症,前頭側頭葉萎縮症などのAD以外の認知症の混入が避けられないため、分子標的薬の効果が元々ない症例が存在していた可能性がある.
  3. 例え標的が正しくても,その効果の評価方法に問題がある可能性がある.AD治療薬の有効性を示すために必要な事は『認知機能の改善』であるが,いかに優秀なサイコメトリーのバッテリーでも体調や検者によるばらつきが多いため,統計学的有意差を持った有効性を見いだすために必要な被験者数は膨大となる.
  4. ADの自然経過を追うことでAβ蓄積は認知症発症の15年近く以前より生じている事が判明してきた.現在臨床試験が行われてきたAβ標的薬は認知症を発症してしまった段階では既に遅きに失している可能性がある.これは,心筋梗塞を発症してICUに入室した患者に対して禁煙を勧めたり,スタチンを投与したりすることと同等であろう.

名画の医学

By , 2013年4月17日 8:28 AM

数年前、滋賀医科大学麻酔科の横田敏勝先生のサイトについてお伝えしました。残念ながらそのサイトは現在閉じられています。サイトに書かれた内容を出版するなどという事情であれば良いのですが、そうでないとしたらもったいない話です。サーバーの問題なのであれば私が管理してもよいので、是非復活させて欲しいものです。

さて、横田先生が「名画の医学 (横田敏勝著、南江堂)」という本を出版されているのを最近知りました。早速読んでみました。

【主要目次】
第1部 病草紙を診る
1 白内障の男
2 歯の揺らぐ男
3 風病の男
4 肥満の女
5 霍乱の女
6 痔瘻の男
7 二形の男
8 陰虱をうつされた男
9 鍼医

第2部 泰西名画を診る
1 モナリザ
2 キメラ
3 ラス・メニーナス
4 アキレス
5 ヴィーナスの脂肪
6 思春期
7 病める少女
8 ポンパドゥール夫人
9 湯あみのバテシバ
10 鎖に繋がれたプロメテウス
11 メドゥサ
12 エビ足の少年
13 皇帝カール5世
14 愛の国
15 病める子
16 ヴィーナスの誕生
17 ペスト

各章、題材となる絵の写真があり、その後著者による考察が記載されています。

モナリザの章を例に挙げると、モナリザ妊娠説があるそうです。モナリザの輪郭が 24歳にしては母親じみていること、頸が太いこと (Gestational transient hyperthyroidismを疑わせる)、胸や手がふっくらとしていること、妊婦がよくする座り方をしていることなどです。断定出来るほど強い根拠ではないのですが、章の結びが洒落ていて「『女性を診たら・・・』の定石に従ったまでのことだ」としています。臨床現場では、見逃しを防ぐため「女性を診たら妊娠と思え、老人を診たら癌だと思え」という格言があるのです。

また、「愛の園」という章では、ルーベンスの「愛の園」という絵を扱っています。絵の中で踊っている初老の男性はルーベンス自身で、彼の持病である関節リウマチに侵された両手が描きこまれています。この絵の他にも彼の手が描かれたものがあり、辿ると彼の病歴がわかるようになっています。これらの絵は、関節リウマチの存在を示唆した歴史上初の作品とされているそうです。この絵はマドリードのプラド美術館にあるようなので、機会があれば是非一度見に行ってみたいです。

その他に、オスロ美術館にあるムンクの「病める子」は、結核に侵されて死期の迫った自身の姉と悲嘆にくれる叔母の姿を、「先立つ娘とその母親という、普遍的な人間の悲しみのテーマ」として描いたそうです。こういうことを知っていれば、2010年にオスロ美術館に行った時、もっと楽しめたのにと思いました。

絵画に興味がある方は本書を読んでみると面白いと思いますが、少しだけ残念なことがあります。一つは、1999年の時点で最先端の医学情報が書かれていて、最先端というのは年々古くなっていくことです。もう一つは、絵画に関した疾患を挙げたあと、絵画に関係ない疾患の解説が結構マニアックに続くことです。この点さえ気にならなければ、絵画の楽しみ方がまた一つ増えるに違いありません。

最後になりますが、姉妹図書として「名画と痛み (横田敏勝著、南江堂)」というのがあります。こちらも「名画と医学」と同様のスタイルになっていますが、扱う絵画が疼痛に関連したものに限定されています。併せてお薦めです。

(追記)

横田先生のサイト、アーカイブがあるとの情報を頂きました。

http://web.archive.org/web/20110207151436/http://www.shiga-med.ac.jp/~hqphysi1/yokota/yokota.html


偽学術誌

By , 2013年4月15日 8:00 AM

急増する「偽学術誌」

しかし新たな出版物を立ち上げるのが容易となった今日、「偽学術誌」なるものが雨後の筍のように出現しているという。これらの偽学術誌は掲載にあたり数十万円、またカンファレンスに参加するのに更に数十万円積む必要がある場合もあるそうだ。厄介なことにこの偽学術誌は著名な学術誌に名前をよく似せていることが多い。

そういえば、最近いくつかの科学雑誌の editorから、論文投稿を勧誘するメールが届くようになりました。

こうしたブログ記事を読むと、届くダイレクトメールが「偽学術雑誌」からである可能性も、どこか頭の片隅に置いておいた方がよさそうです。


Daclizumab HYP

By , 2013年4月14日 8:08 AM

多発性硬化症治療薬 daclizumab high-yield processの臨床試験 (SELECT試験) の結果が、2013年 4月 4日の Lancet誌に掲載されました。

Daclizumab high-yield process in relapsing-remitting multiple sclerosis (SELECT): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial

Gold RGiovannoni GSelmaj KHavrdova EMontalban XRadue EWStefoski DRobinson RRiester KRana JElkins JO’Neill Gfor the SELECT study investigators.

Lancet. 2013 Apr 3. pii: S0140-6736(12)62190-4. doi: 10.1016/S0140-6736(12)62190-4.

Abstract

BACKGROUND:

Daclizumab, a humanised monoclonal antibody, modulates interleukin-2 signalling by blocking the α subunit (CD25) of the interleukin-2 receptor. We assessed whether daclizumab high-yield process (HYP) would be effective when given as monotherapy for a 1 year treatment period in patients with relapsing-remitting multiple sclerosis.

METHODS:

We did a randomised, double-blind, placebo-controlled trial at 76 centres in the Czech Republic, Germany, Hungary, India, Poland, Russia, Ukraine, Turkey, and the UK between Feb 15, 2008, and May 14, 2010. Patients aged 18-55 years with relapsing-remitting multiple sclerosis were randomly assigned (1:1:1), via a central interactive voice response system, to subcutaneous injections of daclizumab HYP 150 mg or 300 mg, or placebo, every 4 weeks for 52 weeks. Patients and study personnel were masked to treatment assignment, except for the site pharmacist who prepared the study drug for injection, but had no interaction with the patient. The primary endpoint was annualised relapse rate. Analysis was by intention to treat. The trial is registered with ClinicalTrials.gov, number NCT00390221.

FINDINGS:

204 patients were assigned to receive placebo, 208 to daclizumab HYP 150 mg, and 209 to daclizumab HYP 300 mg, of whom 188 (92%), 192 (92%), and 197 (94%), respectively, completed follow-up to week 52. The annualised relapse rate was lower for patients given daclizumabHYP 150 mg (0·21, 95% CI 0·16-0·29; 54% reduction, 95% CI 33-68%; p<0·0001) or 300 mg (0·23, 0·17-0·31, 50% reduction, 28-65%; p=0·00015) than for those given placebo (0·46, 0·37-0·57). More patients were relapse free in the daclizumab HYP 150 mg (81%) and 300 mg (80%) groups than in the placebo group (64%; p<0·0001 in the 150 mg group and p=0·0003 in the 300 mg group). 12 (6%) patients in the placebo group, 15 (7%) of those in the daclizumab 150 mg group, and 19 (9%) in the 300 mg group had serious adverse events excluding multiple sclerosis relapse. One patient given daclizumab HYP 150 mg who was recovering from a serious rash died because of local complication of a psoas abscess.

INTERPRETATION:

Subcutaneous daclizumab HYP administered every 4 weeks led to clinically important effects on multiple sclerosis disease activity during 1 year of treatment. Our findings support the potential for daclizumab HYP to offer an additional treatment option for relapsing-remitting disease.

FUNDING:

Biogen Idec and AbbVie Biotherapeutics Inc.

Daclizumabはインターロイキン 2 (interleukin-2; IL-2) 受容体の αサブユニット (CD25) に対するモノクローナル抗体です。多発性硬化症の病巣では、IL-2が IL-2受容体に結合することで介在される T細胞の活性化と増殖が大きな役割を果たしています。CD25の阻害は、高親和性 IL-2受容体の IL-2シグナルを抑制することで、免疫調節性 CD56 bright ナチュラルキラー細胞の増殖、T細胞活性化の抑制、リンパ組織誘導細胞の減少などを引き起こすと言われています。

Daclizumabの臨床試験は過去にいくつか行われています。それなりの成績は収めているようです。ただ、投与方法が少しずつ変わってきています。

Humanized anti-CD25 (daclizumab) inhibits disease activity in multiple sclerosis patients failing to respond to interferon beta.

Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Jun 8;101(23):8705-8.

再発寛解型ないし二次進行型を対象とした第 2相オープンラベル試験。Base lineとして IFN-β治療を行い、その後 daclizumab静脈内注射を追加した (1 mg/kg/dose 2週間毎 2回, その後 4週間毎 7回)。daclizumab追加により MRI新規造影病巣は 78%減少し、総造影病巣も 70%減少した。重篤な副作用はなかった。

Treatment of multiple sclerosis with an anti-interleukin-2 receptor monoclonal antibody.

Ann Neurol. 2004 Dec;56(6):864-7.

対象は再発寛解型ないし二次進行型。1 mg/kgの静脈内注射を 2週間毎に 2回、その後 4週間毎に行った。投与量は 0.8~1.9 mg/kgの範囲で臨床反応により調整した。19例中 16例はすぐに daclizumab単剤とし、2例は daclizumab単剤にするまで 6ヶ月間インターフェロンβを継続し、1例は毎月ステロイド治療を受けた。daclizumab治療により EDSSは平均 1.5改善した。年間の再発も 1.23から 0.23回に減少した。MRIでの活動性も著明に改善した。いくつか副作用はみられたが、忍容性は良好だった。

Daclizumab in active relapsing multiple sclerosis (CHOICE study): a phase 2, randomised, double-blind, placebo-controlled, add-on trial with interferon beta.

Lancet Neurol. 2010 Apr;9(4):381-90. doi: 10.1016/S1474-4422(10)70033-8.

再発寛解型ないし二次進行型を対象にした多施設共同無作為化二重盲検試験。インターフェロンβに加えて、プラセボ、daclizumab 2 mg/kg 2週間毎 (高用量), daclizumab 1 mg/kg 4週間毎 (低用量) を 24ヶ月皮下注射した。主要エンドポイントは MRIでの新規ないし造影される病巣数とした。結果は、インターフェロンβ+プラセボ群で 4.75, インターフェロンβ+高用量 daclizumab群 1.32, インターフェロンβ+低用量 daclizumab 3.58だった。副作用は各群同等だった。インターフェロンβ+低用量 daclizumab群はインターフェロンβ+プラセボ群と有意差がなかったが、元々 インターフェロンβ+低用量 daclizumab群には活動性の高い患者が多く、それを除けばインターフェロンβ+低用量 daclizumabにも若干の治療効果はあったと考えられる。

背景をお伝えしたところで、今回の SELECT試験を簡単に紹介します。

用いられた daclizumab high-yield process (HYP) はdaclizumabとアミノ酸配列は同じですが、糖鎖が異なり、細胞毒性が軽減されるようになっています。本試験は再発寛解型の多発性硬化症患者を対象とした多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検試験です。被験者に daclizumab HYP 150 mg (低用量), daclizumab 300 mg (高用量), ないしプラセボを単独療法としてそれぞれ 4週間毎皮下注射し、1年後に評価しました。主要エンドポイントは年間再発率低下です。

年間の再発率はそれぞれ daclizumab低用量群 0.21, daclizumab 高用量群 0.23, プラセボ 0.46でした。再発のない患者の割合は、daclizumab低用量群で 81%, daclizumab高用量群で 80%, プラセボで 64%でした。プラセボ群にはなかったものの、daclizumab投与群の 1~3%に重篤な感染症が見られました。そして、daclizumabを投与されていて重篤な皮疹から回復した一人の患者が、腸腰筋膿瘍のため死亡しました。剖検では、腸間膜動脈に隣接した膿瘍が、局所の血栓症と急性虚血性腸炎を引き起こしていたことがわかりました。

これまでお伝えしてきたように、多発性硬化症の治療薬は次々と臨床試験の結果が明らかになっています。何種類もの薬剤がここ数年間で認可されてくることになると思うので、今後は使い分けが問題になります。daclizumab HYPは、月 1回の皮下注射で済むので投与は楽でそれなりに効果もありそうですが、時に重篤な感染症がネックになってくるかもしれません。

(参考)

多発性硬化症の新薬

Tocilizumab

タイサブリ

タイサブリに関する教訓的症例

Alemtuzumab

BG-12承認


クリスマスBMJ

By , 2013年4月10日 7:53 AM

British Medical Journal (BMJ) は、超一流医学雑誌ですが、毎年クリスマス特集号でネタ系論文を掲載しています。一例として下記に紹介します。

BMJクリスマス号

医師の中で一番ハンサムなのは外科医

減塩を推奨する政府・医療機関は、減塩ができていない

最近、2011年のクリスマス BMJにベートーヴェンの難聴と作曲スタイルの論文が掲載されていることを知り、読んでみました。

Beethoven’s deafness and his three styles

論文を読んだ後、AFPニュースで詳細に紹介されているのを見つけました。

難聴が生み出したベートーベンの名曲たち、オランダ研究

2011年12月22日 18:37
【12月22日 AFP】ドイツの作曲家ベートーベン(Ludwig van Beethoven)が生み出した名曲の数々に、聴力の衰えが深く反映されているというオランダの研究チームによる論文が、20日の英医学誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(British Medical JournalBMJ)」に掲載された。

ベートーベンが楽器や人の話し声の高音が聞こえづらいと最初に訴えたのは1801年、30歳のときだった。1812年には、ほとんど叫ぶように話さないとベートーベンには聞き取れなくなり、1818年には筆談でのコミュニケーションを始めている。1827年に死去したが、晩年には聴力はほぼ完全に失われていたとみられる。

ライデン(Leiden)にあるオランダ・メタボロミクスセンター(Netherlands Metabolomics Centr)のエドアルド・サセンティ(Edoardo Saccenti)氏ら3人の研究者は、ベートーベンの作曲活動を初期(1798~1800年)から後期(1824~26年)まで4つの年代に区切り、それぞれの時期に作曲された弦楽四重奏曲を分析した。

研究チームが着目したのは、各曲の第1楽章で第1バイオリンのパートが奏でる「G6」より高い音の数だ。「G6」は、周波数では1568ヘルツに相当する。

難聴の進行とともに、G6音よりも高音域の音符の使用は減っていた。そしてこれを補うかのように、中音域や低音域の音が増えていた。これらの音域は、実際に曲が演奏されたときにベートーベンが聞き取りやすかった音域帯だ。

ところが、ベートーベンが完全に聴力を失った晩年に作られた曲では、高音域が復活している。これは、内耳(骨伝道)でしか音を聞けなくなったベートーベンが作曲の際、演奏された音に頼ることをやめ、かつての作曲経験や自身の内側にある音楽世界に回帰していったためだと、研究は推測している。(c)AFP

【参考】サセンティ氏らによる実演付きの研究結果説明の動画(ユーチューブ)(英語)

論文の内容はこの通りです。少し補足すると、ベートーヴェンのカルテットは通常 3つの時期 (前期、中期、後期) に分けられますが、この論文では 4つに分けています。すなわち前期 1798-1800年 (作品 18), 中期1 1805-1806年 (作品 59), 中期2 1810-1811年 (作品 74, 95), 後期 1824-1826年です。中期の作品 59と、作品 74, 95はスタイルが異なり、作曲時期も違うため、分けたようです。 

論文にある Figure 2を見ると、著者らの主張が一目瞭然です。

Fig 2

Fig 2

(追記) 昔、ベートーヴェンの耳疾についてブログに書いたことがありますので、興味のある方は御覧ください。

耳の話

さらに、ロマン・ロランが書いた本に、ベートーヴェンが伝音性難聴であったことを示唆する記述がありました。併せてどうぞ。

ベートーヴェンの生涯


TDP-43とFUS/TLS

By , 2013年4月8日 8:08 AM

2013年 3月 25日のブログで、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の原因蛋白質 hnRNPA2B1と hnRNPA1についてお伝えしました。これらは RNA代謝に関係した蛋白質です。

同じように ALSの原因かつ RNA代謝に関係した蛋白質で、ここ数年で知見が研究が急速に進歩している TDP-43, FUS/TLSについての総説が Muscle & Nerve誌 3月号に掲載されていたので読んでみました。非常によくまとまった論文だったので、紹介します。

ちなみに著者 ASHOK VERMAの肩書きは MD, DM, MBAです。MDはDoctor of Medicineで、MBAは Master of Business Administrationなのは良いとして、DMという称号は初めて見ました。よくわからない肩書きなのですが、Wikipediaで “Doctor of Medicine” のインドの項に、”The DM and MCh degrees are super-specialties and are very high ranked/prestigious” と書いてあります。専門医では “DM in xxx” と名乗ることができるようなので、同じ “Doctor of Medicine” ではあっても、他国で言う MDとはおそらく違う扱いなのだと思われます。もう一人の著者 RUP TANDANは MD, FRCPです。FRCPは Fellow of Royal College of Physiciansの略らしいです。

RNA quality control and protein aggregates in amyotrophic lateral sclerosis: a review.

・15年前には、SOD1 (Cu-Zn superoxide dismutase 1) が ALSの原因遺伝子であり、その変異が家族性 ALSの 20%を占めることしかわかっていなかった。しかし、SOD1変異の同定は、ALSの分子生物学的研究が行われる草分けとなる出来事であった (1993, Nature)。

・ALS病因研究の大きな転換点は、2006年の TDP-43 (43-kDa transactive response DNA-binding protein) の同定による (Science, 2006, Biochem Biophys Res Commun, 2006)。2008年には、TDP-43変異を伴った ALS症例が報告された(Science, 2008) 。2009年には、RNA/DNA結合蛋白質である FUS/TLSの変異が ALSの原因として同定された (Science, 2009)。 TDP-43および FUS/TLS変異の表現形は、特徴的な病理所見を伴った古典型 ALSであ る。ALS研究の過程でその他、survival motor neuron (Cell, 1995), senataxin (Am J Hum Genet, 2004 ), angiogenin (Nat Genet, 2006 ), optineurin (Nature, 2010), TAF15 (Nat Rev Neurol 2011, Proc Natl Acad Sci U S A, 2011 ) など、いくつかの RNA結合蛋白質の変異が明らかになっている。

・最近、C9orf72のイントロン領域 6塩基リピートが、家族性 ALSの一般的な遺伝型であることが明らかになった。これは似たようにイントロン領域で 3塩基リピートを起こす Friedreich失調症や筋強直性ジストロフィーを思い起こさせるが、これらはすべて RNAスプライシング、mRNA翻訳、mRNA安定性制御の変化が疾患プロセスに関与している。さらに、プロテアソームやオートファジーによる凝集蛋白の排除に関連した遺伝子、UBQLN2 (Nature, 2011) や SQSTM1 (Arch Neuro, 2011) も家族性 ALSに関係していることがわかった。さらに酵母モデルおよび in vitroレベルでは、TDP-43, FUS/TLS, TAF15のプリオン様 “prinoid” ドメインが、これらの蛋白質の自己凝集や疾患プロセスの神経内伝播の中核をなすのではないかと言われている。

・TDP-43は 414アミノ酸で、RNA recognition motif (RRM) 1, RRM2, C-terminal glycine-rich regionを有する。ALSに関連した変異はすべて常染色体優性遺伝で、glycine-rich regionに存在する。TDP-43変異 ALS患者の脳や脊髄の剖検では、孤発性 ALSに似た TDP-43細胞質内封入体が見られた。正常脳では TDP-43は主に核内に存在しているが、ALS患者では神経細胞の細胞質、変形神経突起、グリア細胞の細胞質を中心に局在するようになる。

・FUS/TLSは 526アミノ酸で、グルタミン、グリシン、セリン、チロシンが豊富な QGSY region, RRM, arginine-rich region, アルギニン及びグリシンが豊富な RG region, C-terminal zinc finger motifを有する。TDP-43同様、変異部位は glycine-rich regionであり、常染色体優性遺伝である。正常では TDP-43同様、主として核に存在しているが、FUS/TLS変異を持つ ALS患者では神経細胞やグリア細胞に FUS/TLS細胞質封入体を形成する。この封入体は TDP-43と反応しないので、FUS/TLSによる神経変性プロセスは TDP-43の局在異常とは独立に存在するのではないかと推測されている。

・TDP-43は、HIV-1の TAR DNAに結合する転写抑制因子として同定されたので、そのような名前が付いた。したがって RNAの転写に関与している。FUS/TLSも間接的にではあるが、転写開始に影響する因子を介して、転写に関与している。

・TDP-43はスプライシングの制御に重要な hnRNPA2と相互作用する。FUS/TLSの RNAスプライシングにおける役割はわかっていないが、in vitroにおいて 、pre-RNAの 5’スプライス部位に結合する転写スプライシング複合体に関与することがわかっている。

・TDP-43と FUS/TLSは核と細胞質をシャトルしている。細胞質では、TDP-43と FUS/TLSは RNA-transporting granule内に見られる。

・TDP-43と FUS/TLSは micro-RNA (miRNA) processingに関与している。miRNAは pre-miRNAから 2段階のプロセッシングを受ける。最初のステップは、核内における pre-miRNAの RNAse “Drosa” による切断である。次のステップは、細胞質内での RNAse “Dicer” による miRNAの切断である。切断された miRNAは、最終的に約 21塩基の 2本鎖 RNAとして RISC (RNA-induced silencing complex) に組み込まれる。TDP-43や FUS/TLSは Drosaおよび Dicer複合体に関与している。(※ Droshaが一般的な呼称と思われ、引用文献でも Droshaとなっているが、、本論文中では Drosaで統一されている)

・TDP-43と FUS/TLSは RNA processingに関与しているとする知見はあるが、神経細胞での特異的な RNAターゲットは完全には同定されていない。TDP-43に結合する RNAを免疫沈降法で調べた実験は、実験手技によって結果が異なる。

・マウスやヒトで TDP-43により、スプライシングやプロセッシングレベルに 影響を受ける RNAターゲットには、神経の発達や機能に関連した蛋白質をコードしたものがある。後者には NMDA受容体、イオンチャネル型グルタミン受容体、neurexions-1 ,3など、シナプス活動に関与した蛋白質が関係している。TDP-43はさらに ataxinに結合し、発現やスプライシングを制御する (ataxin-2の中等度伸長は孤発性 ALSのリスクとされる)。また、TDP-43の mRNAのターゲットには、HDAC6 (histone deacetylase 6) や ニューロフィラメントの NF-L subunitがあるが、いずれも ALS患者において減少していることが報告されている。

・FUS/TLSの RNA結合パートナーとして、最初に報告されたのが、樹状突起のアクチン安定化を司るアクチン安定化蛋白 Nd1-Lである。TDP-43同様、HDAC6も FUS/TLSのターゲット mRNAであるため、FUS/TLSと TDP-43は同じ系で働いているのかもしれない。

・変異 SOD-1, TDP-43, FUS/TLSはプリオン様メカニズムで伝播するシード凝集を起こしうる。TDP-43, FUS/TLSにはグルタミン/アスパラギンの豊富な Q/N rich domainがあり、”yeast prion (酵母プリオン)” と呼ばれるホモログを含む。TDP-43の疾患変異のほとんどは Q/N rich domainに集中している。

・SOD-1, TDP-43, FUS/TLSは試験管内では直ちに凝集するが、正常細胞内では起こらない。おそらくシャペロンの働きによるのだろう。”yeast prion domain” は、 intrinsic unfolded stateと、aggregated folded stateの 2つの状態がある。どのようにして凝集体の蓄積が始まるのかはわかっていないが、SOD-1, TDP-43, FUS/TLS変異による ALSではこれらの蛋白質の自己凝集性が増していること、高齢発症の孤発性 ALSでは保護システムが弱くなっていること、未知の環境的ないし遺伝的要因がトリガーとなるのかもしれない。培養細胞の実験では、いくつかの “hit” が組み合わされることが必要なのではないかと推測されている。

・ALSの発症機序が、TDP-43, FUS/TLSが核から失われる (loss of function) ことなのか、細胞質凝集体をつくる (toxic gain of function) ことなのか、その両者なのかはよくわかっていない。

・多くの動物モデルでは TDP-43を knock downしても、ヒト野生型 TDP-43を過剰発現しても、表現型として悪影響が出る。変異型 TDP-43ではそれがより顕著となる。しかし。それが神経系に限局するかどうかはわかっていない。

・ヒトALSでは、TDP-43の copy numberや脳での TDP-43 mRNAレベルは変化がないことが示唆されている。

・ゼブラフィッシュモデルでは、ヒト野生型ないし変異 FUS/TLSの過剰発現で表現型は正常であった。ラットモデルでは中枢神経細胞の脱落がみられ、正常型より変異 FUS/TLSで顕著であったが、single transgenic lineのため、別のメカニズムによる影響を受けている可能性も否定はできない。


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