くも膜下出血と頭部CT

By , 2016年3月30日 7:49 PM

くも膜下出血の CTでの検出率は、機器の進歩とともに良くなってきているはずです。最近の CT機器での診断精度はどうなのか。Stroke誌に meta-analysisの結果が掲載されていました (2016年1月21日 published online)。

Sensitivity of Early Brain Computed Tomography to Exclude Aneurysmal Subarachnoid Hemorrhage: A Systematic Review and Meta-Analysis

A total of 882 titles were reviewed and 5 articles met inclusion criteria, including an estimated 8907 patients. Thirteen had a missed SAH (incidence 1.46 per 1000) on brain CTs within 6 hours. Overall sensitivity of the CT was 0.987 (95% confidence intervals, 0.971–0.994) and specificity was 0.999 (95% confidence intervals, 0.993–1.0). The pooled likelihood ratio of a negative CT was 0.010 (95% confidence intervals, 0.003–0.034).

神経学的異常所見のない患者の非外傷性くも膜下出血を 16列以上の CTで診断した場合、発症 6時間以内で感度 98.7% (95% CI, 0.971–0.994) 、特異度 99.9%とのこと。100%ではないけれど非常に診断精度は高い・・・、という予想通りの結果でした。

話は脱線しますが、頭部CTで異常がなくてもくも膜下出血が強く疑われる場合は髄液検査が必要となります。しかし、髄液を採取するときに血液が混入してしまうと判断に苦慮することになります。昔は 3-tube method (手技により血液が混入してしまったときは採取するスピッツが後になるほど髄液の赤色が薄くなるが、くも膜下出血であれば採取するスピッツが後になっても薄くならない) が推奨されていましたが、それを否定する論文が出て、最近では「キサントクロミーがなく髄液赤血球数 < 2000 x 106 /Lなら、動脈瘤によるクモ膜下出血を除外できる」という報告なんかもされているようです。

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医師への謝礼、公開義務化へ 厚労省、製薬企業に

By , 2016年3月30日 7:18 PM

製薬会社から医師に流れている謝礼の公開が義務化されるようです。製薬会社の広告塔のようになっている医師の存在がわかりやすくなるので、良いことだと思います。学会や科学雑誌の出版社は学術的な発表に際して、企業等との利益相反を開示するように定めていますが、現在のルールではきちんと開示されていないケースも散見されます。

医師への謝礼、公開義務化へ 厚労省、製薬企業に

相次ぐ論文不正を受け、臨床研究を規制する法案づくりを進めている厚生労働省は、製薬企業から研究機関や医師への資金提供の公開について、原稿料や講演の謝礼なども義務付ける方針を決めた。これまでは研究に直接関係がないとして除外していたが、方針を転換した。

29日にあった自民党の部会に厚労省が示した。公開の義務化は当初、研究開発費や奨学寄付金などに限り、講演謝礼などは業界の自主的なルールに委ねるとしていた。

厚労省によると、自社製品の研究を手がけている責任者らへの謝礼は「研究と無関係とは言えない」などの指摘もあり、対象に含めることにしたという。

資金提供の公開は毎年実施する。違反した場合は、指導や勧告をし、従わなければ企業名を公表するとしている。厚労省は法案を今国会に提出することを検討している。(武田耕太)

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Sham

By , 2016年3月30日 7:08 PM

アメリカでの不祥事。ノバルティス社が、心血管薬を売り込むために、講演会名目で医師たちを接待していた疑惑が浮上しました。講演会は見せかけのもので、のべ 80000回に上るそうです。米国がノバルティス社に情報開示を求めています。

「いつの時代だよ」、というようなニュース。ノバルティス社は、ディオバン事件に引き続いて、大きな痛手を被ることになりそうです。

U.S. Seeks Records of 80,000 Novartis ‘Sham’ Events for Doctors

The U.S. is asking Novartis AG to provide records of about 80,000 “sham” events in which the government says doctors were wined and dined so they would prescribe the company’s cardiovascular drugs to their patients.

The Swiss drugmaker and the Manhattan U.S. Attorney are engaged in a whistle-blower lawsuit that alleges Novartis provided illegal kickbacks to health-care providers through bogus educational programs at high-end restaurants and sports bars where the drugs were barely discussed.

In a filing Friday, the U.S. said it needs Novartis to provide information to support its allegation that the company defrauded federal health-care programs of hundreds of millions of dollars over a decade by inducing doctors to prescribe its medications through sham speaker events.

“The requested documents go to the core issues in this case: whether educational materials were provided at these events; which doctors actually attended the events; how much money was spent on meals and honoraria; and indeed, most fundamentally, whether the underlying documentation shows that a particular event actually took place,” the government said in its court filing.

‘Exploded’ Case

That filing came in response to a March 22 request by Novartis to the judge, seeking a hearing because the company says the U.S. has “exploded” the size of the case by demanding information about as many as 80,000 promotional events set up by its salespeople.

Representatives of Basel-based Novartis didn’t immediately respond to an e-mail sent Saturday seeking comment on the government’s filing.

Last year Novartis agreed to pay $390 million to settle a lawsuit in which the U.S. government claimed the Swiss company paid kickbacks to pharmacies to boost sales of some of its prescription drugs. The company neither admitted nor denied liability.

The case is U.S. v. Novartis Pharmaceutical Corp., 11-CV-0071, U.S. District Court, Southern District of New York (Manhattan).

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薬価引き下げ

By , 2016年3月30日 7:03 PM

医薬品の高騰化が問題となってきているので、財政上の都合から国は色々手を打ってきているようです。ある条件を満たした薬は値下げされるんですね。神経内科領域だと、脳梗塞の再発予防に用いられる「プラビックス (薬剤名:クロピドグレル) 」が対象となるようです。

今回の件については、新薬の開発費の高騰などから、製薬会社の側からも言い分はありそう。難しい問題です。

ブロックバスター新薬の薬価引き下げ、医療費削減の一方で対日投資に冷水も

C型肝炎の完治が見込める画期的な新薬が異例ともいえる大幅な薬価引き下げの対象となり、製薬業界が反発している。薬価引き下げは財政を圧迫する医療費削減につながる一方で、企業の収益にマイナスとなる。日本市場での新薬開発の魅力が薄れれば、投資の優先順位が後退する懸念があり、医療ビジネスを成長産業と位置付ける安倍晋三政権の戦略に逆風ともなりかねない。

C型肝炎治療薬、30%超の薬価切り下げ

焦点となっているのは、米ギリアド・サイエンシズが売り出したC型肝炎治療薬「ソバルディ」(昨年5月に日本発売)と配合薬「ハーボニー」(昨年9月発売)。副作用が少なく、経口で約3カ月で治療できる点に特徴がある。これまでC型肝炎の治療の主流はインターフェロンで副作用が強かった。

売上高1000億円を超える薬は「ブロックバスター」と呼ばれ、その実現に各社はしのぎを削る。IMSの医薬品市場統計によると「ソバルディ」の昨年の売上高(薬価ベース)は1117億円、「ハーボニー」は1176億円。発売から1年未満でブロックバスターとなったことからも需要の大きさは読み取れる。

しかし、この異例とも言える売上げが、大幅な薬価切り下げを招いた。

政府は今春の薬価改定から「特例拡大再算定」という制度を導入。「年間販売額1000億円超・1500億円以下、かつ予想販売額の1.5倍以上」の品目は最大25%、「年間販売額1500億円超、かつ予想販売額の1.3倍以上」の品目は最大50%の価格引き下げを行う。

血小板薬「プラビックス」(サノフィ)、抗がん剤「アバスチン」(中外製薬 <4519.T>)とともに「ソバルディ」、「ハーボニー」が「特例拡大再算定」の対象となり、この2品目は3割超の薬価切り下げとなった。

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名大病院救急

By , 2016年3月30日 6:59 PM

久々にこの手の医療崩壊系ニュースを見ました。

名大病院救急医9人が退職 体制半減、受け入れに影響も

 名古屋大病院(名古屋市昭和区)で救急搬送患者らに対応する救急科の医師二十一人のうち九人が、三月末で一斉に退職することが、病院関係者への取材で分かった。四月以降に退職する意向を示す医師もおり、医師がほぼ半減する異例の事態となる。職場環境への不満や救急医療の方針への反発が、退職の理由とみられる。他の診療科の協力で救急患者受け入れは継続するが、規模縮小は避けられない見通しだ。

 名大病院は複数の外部識者を交えた調査委員会を設置し、こうした事態が生じた経緯を調べる。

 名大病院は、他の診療科の医師の応援を得るほか、当面は、医師の当直回数を増やすなどして、救急対応を継続する方針だ。ただ、救急搬送が複数重なった場合など、受け入れきれずに、他の医療機関に回さざるを得ないケースも想定される。長期的な態勢の再構築も不透明だ。

 退職する九人は、九州など出身地の医療機関に移ったり、名古屋市内や東京都の別の病院に移ったりする。

 退職する医師の一人は取材に対し、「明らかに理不尽と感じる方針を押しつけられ、他の診療科とあつれきが生まれる場面も何度もあった」と、職場環境が要因だったと明かした。

 一方、指導する立場の救急科の教授は「各医師の人生設計やキャリアアップが主な理由だ」と説明し、「どんな職場でも不満は生じる。現状をどう感じるかは各医師次第だが、全国的に救急医の数を増やさないと根本的な解決にはならない」と話す。

 名古屋市消防局によると、二〇一四年の救急搬送件数は約十万三千件。名大病院は同年、約四千二百台の救急車を受け入れている。〇九年度は千台余りだったが急増した。高度先進医療に対して、救急部門は遅れがちで、六年ほど前から、重度の患者を常時受け入れられる「救命救急センター」を目指し強化してきた。病院幹部は「この傾向に無理があったのかどうか。原因はどこにあるのか。客観的に検証するため外部識者を招いてきちんと調べ、適切な組織のあり方を探りたい」と話した。

今回の事態に関し、救命救急センターを備える名古屋市内の別の病院幹部は「市内には、救急搬送の受け入れ医療機関が充実しており、大きな影響は出ないだろう」と話した。

このニュースからわかるのは、「救急をたくさん受け入れるようになったこと (5年間で救急車 4倍!)」、「他科との軋轢が生じたこと」です。救急部で受けた患者が専門的な治療を要する場合、専門の科に紹介しなければいけません。専門の科にキャパシティーがない場合、救急部と専門の科で軋轢が生じることは良くあります。その辺の折り合いがうまくいっていなかったのでしょうか。

もう一つ、別のソース。

名大病院、救急科医師9人が月末に一斉退職 調査委設置

2016年3月30日11時34分

名古屋大学病院(名古屋市昭和区)の救急科の医師21人のうち、9人が3月末で一斉に退職することが病院への取材でわかった。病院は外部の有識者を加えた調査委員会を立ち上げ、退職の経緯を調べる。救急患者の受け入れは、他の診療科の医師の応援を受けるなどして、影響が出ないようにするとしている。

名大病院によると、他の病院から研修に来ていた医師が元の病院に戻ったり、出身地に帰ったりする医師らの退職が重なったという。ただ、「教授と意見が合わなかった」など職場環境への不満をあげる医師もいるため、4月上旬に調査委員会を設置する。

一方、救急科の松田直之教授は「医師が研修に出たり、地元に戻ったりすることが重なっただけ。一時的に人数が減るのは全国的な救急医不足が根本的な問題だ」と説明している。

同病院では、内科や外科などの医師が応援に入り、救急科を支える。救急科には4月に2人、5月にも1人の医師が加わる見通しで、病院は「救急車を断ることなどは考えていないので市民に影響はない」としている。

「教授と意見が合わなかった」という記載と、前述のニュースと併せて考えると、救急部が他科との軋轢で患者受入を制限しようとしたのに教授が許さなかったのでしょうかね。名大の知り合いからもそんな内容のことを聞きました。しかし、臨床以外の部分が関係しているという噂も・・・。

調査委員会の結論を待ちたいと思います。

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成田達輝 ヴァイオリン・リサイタル

By , 2016年3月27日 8:08 AM

成田達輝さんのリサイタルに行ってきました。

クラシック NOW ~いま、注目の演奏家たち~

成田達輝 ヴァイオリン・リサイタル

ピアノ 中野翔太

  1. G.タルティーニ:ヴァイオリン・ソナタ ト短調 ”悪魔のトリル”
  2. M.ラヴェル:ツィガーヌ
  3. L.v.ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第 9番イ長調 Op.47「クロイツェル

2016年2月26日(金) 午後 7時開演 リリア・音楽ホール

タルティーニの悪魔のトリルは、私が学生時代に卒業演奏でソロを弾いた曲です。でも、一流のプロが弾くと、こうも格好良い演奏になるんですね。カデンツァも迫力がありました。ラヴェルのツィガーヌは以前、成田さんのコンサートで聴いたことがあります。成田さんのフランス仕込のラヴェルは、何度聴いても良いです。

圧巻だったのがクロイツェル・ソナタ。表現が豊かで、迫力も十分でした。ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタは音楽的に非常に深く、若くして弾きこなすのは大変なのですが、完璧だったと思います。以前、スプリング・ソナタを聴いた時と比べて、とても円熟味が増していました。彼はパガニーニを始めとした超絶技巧の曲で評判が高いですが、ベートーヴェンもなかなかです。使用楽器のガルネリ・デル・ジェス (ガルネリデルジェス“ex-William Kroll”1738年製) を鳴らすコツもつかんできたようで、プラグラムノートには次のように書いてありました。

今日はいつも使っているガルネリで演奏しますが、ガルネリの素晴らしいところは、その音が自分の声帯のように、自分の”声”そのものになるという事です。最近になってそれを実感しています。

ピアニストは中野翔太さんではありませんが、成田さんがクロイツェル・ソナタを演奏している動画が Youtubeに上がっています。これを見て気に入った方は、是非演奏会に足を運び、生演奏も聴いてみてください。

・Tatsuki Narita & Yun-Yang Lee – Beethoven Violin Sonata No.9 “Kreutzer”

コンサートが終わってから、成田達輝さん、中野翔太さんらと、門前仲町の「無門」という焼き鳥屋で食事をしました。それから、西麻布の Bar musicaに行きました。ここは、ヴァイオリン、チェロ、ピアノが置いてあり、演奏を楽しめるようになっているのです。プロの演奏家も結構遊びに来る店のようです。年に楽器ケースを数回しか開けず技術の衰えの著しい私は、そこで泥酔してギコギコという音を朝 5時まで奏で、成田さんらを寝かさなかったのでした (^_^;)

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この失神、どう診るか

By , 2016年3月26日 1:32 PM

神経内科では、失神患者をしばしば診療します。「てんかん疑い」という病名で紹介されることが多いです (失神患者を診るたびに「TIA疑い」と紹介して来る医師もたまにいますが、「意識消失のみ」の TIAはないと言えるくらい稀です)。しかし、失神の原因は血管迷走神経性と起立性が併せて約 3割で、心原性が約 1割、てんかんは 5%程度といわれています。また、予後が最も悪いのは心原性です。てんかんは頻度がそれほど高くなく、初回発作では治療適応とならないことが多い (※ただし状況による) ことを考えると、失神は循環器科的な対応が最も求められるといえます。実際、失神のガイドラインは循環器学会などが主体となって出しています。失神患者が紹介されたとき、私は神経内科医であっても脳波検査より Holter心電図の方がオーダー件数が多いです。

ところが、失神を多数紹介される神経内科医は、心原性の失神についてトレーニングを受ける機会がないのが現状です。私もしっかりとしたトレーニングを受けないまま、なんとなく診療してきました。「失神患者の初期対応は循環器科が行う」としている施設もありますが、少数派だと思います。そうすると、治療が必要性が高い心原性の失神を見逃してしまうリスクがありますね。

最近非常に勉強になる本に出会いました。

この失神、どう診るか?

循環器科医の目線から、失神の原因、治療についてわかりやすく解説しています。私はこの本を読んで、失神診療における植え込み型ループ式心電図計 (implantable loop recorder: ILR) の有用性を初めて知りました。普段失神患者の診療をする機会の多い神経内科医は、必読の本だと思います。

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解体新書展

By , 2016年3月24日 10:53 PM

2016年3月20日秋田県での当直を終えて、そのまま東京に向かい、東京文庫ミュージアムで解体新書展を見てきました。

解体新書展

解体新書はマイブームです。それは、最近岩田誠先生のコラムを読んだからです。

・骨ケ原刑場跡と観臓記念碑

・杉田玄白の足跡

これらのコラムを読んで、いくつかの本を買って読みました。なかでも感銘を受けたのは小川鼎三が著された「解体新書 蘭学をおこした人々」です。小川鼎三先生は、ターフェルアナトミアの原著と杉田玄白らの「解体新書」の読み比べをしているんですね。例えば、下記のようなことは、読み比べをして初めてわかるものです。

蘭学事始にはその次に鼻がフルヘッヘンドしているという文にぶつかり、皆がたいへん苦労してフルヘッヘンドの意味をつかもうとしたことが載っている。良沢が長崎で入手してきた簡略な小冊子を参考にして、やっとその訳をウズタカシ(堆)ときめた。その着想を玄白が言いだして皆がそれに賛成した。「その時の嬉しさは、何にたとへんかたもなく、連城の玉をも得し心地せり」と玄白は述懐している。

むつかしい語を解いたときの愉快は大きかったであろう。ただ今日ターヘル・アナトミアの鼻のところをみても、フルヘッヘンドとかいう語 (verheffendeか) がない。「突出している」の意味では vooruitsteekendの語がそこでは用いられている。あるいは玄白の記憶ちがいかと思う。なにしろ蘭学事始を書いたときの元伯は八十三歳で、四十年あまり前の思い出を述べているのだからまちがいも起るだろう。

小川鼎三先生の著書では、解体新書の扉絵がどこに由来するか調べていたり、解体新書の翻訳に関わった人たちのその後について詳細に述べていたり、その研究の深さに驚かされます。

さて、今回の解体新書展、解体新書についての展示はそれほど多くありませんでしたが、古事記から解体新書前後までの日本の医学史を俯瞰することができ、とても勉強になりました。展示は 4月10日までですので、興味のある方はお早めにどうぞ。ちなみに、向かいの六義園は桜が咲き始めでした。今週末あたりは花見が楽しめるのではないでしょうか。

(追記)

2014年12月28日、「形影夜話」が入手できないかと書きましたが、入手することができました。「日本の名著22」に杉田玄白の書いた「蘭学事始」「後見草」「野叟独語」「犬解嘲笑」「形影夜話」「玉味噌」「耄耋独語」などが収載されています。

(参考)

津山洋学

医学用語の起り

医は忍術 (違

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ACP日本支部 年次総会 2016

By , 2016年3月23日 5:40 PM

ACP日本支部年次総会の申し込みが始まりました。私は 2013年から毎年参加していますが、非常に勉強になります。

ACP日本支部 年次総会 2016

もうすでに満席のセッションも出ているようです。申し込みはお早めに。ちなみに、私は下記のセッションに申し込みました。

<申込み種別>
医師

参加登録料: 6,000円 *お申込み済み(早期割引 / ACP会員)

<セッション等事前登録>
6月4日
10:00–11:30 1-1-1 第1会場 Shockのトリセツ♪(林 寛之)  (1,500円)*お申込み済み
11:45–12:30 1-1-2 第1会場 急性気道感染症診療の原則を再考する(山本 舜悟)  (1,500円)*お申込み済み
12:45–14:15 1-1-3 第1会場 身体診察(須藤 博)  (1,500円)*お申込み済み
19:00–20:30 レセプション  (6,000円)*お申込み済み
6月5日
9:30–11:00 2-2-1 第2会場 臨床研究はじめの2歩目、統計の基本シリーズ〜あなたの研究に必要な対象者は何人?〜(福原 俊一)  (1,500円)*お申込み済み
12:15–13:00 2-5-2LS 第5会場 (昼食付) ホスピタリストのための人工呼吸器セミナー in ACP Japan(則末 泰博)  (2,500円)*お申込み済み
13:15–14:45 2-2-3 第2会場 診断戦略カンファレンス(志水 太郎)  (1,500円)*お申込み済み

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ACP(米国内科学会)日本支部 年次総会2015 【2日目】

By , 2016年3月23日 5:39 PM

(ACP(米国内科学会)日本支部 年次総会2015 【1日目】からの続き)

朝は開始時間が遅かったので、のんびりと会場に向かいました。

9:30~11:00 第2会場  「論文執筆に活かせる FIRM2NESS」 (福原俊一、栗田宣明)

架空の症例から生まれた clinical questionを PICO/PECOの形にして、試験デザインを考えるワークショップでした。

日本の臨床研究がメジャージャーナルに載りにくいのは、試験デザインがきちんと組まれていないからで、本来なら半年~1年くらいかけて作り込んでいくもののようです。

12:00~13:00 第6会場  がんの予防・検診のエビデンスはどれだけあるでしょうか? (勝俣範之)

「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン」2014年度版を教材として用いて、胃癌の検診を行うべきかどうか議論した。問題点として、①推奨グレードの決め方が曖昧で、なぜその推奨グレードになったのか説明されていない、②推奨を判断するための一次文献が非常に貧弱で、質の高い研究がない。査読のない雑誌であったり、研究対象数が非常に少なかったり。→ガイドラインがさまざまな問題を抱えており、このガイドラインを用いて胃癌の検診を行うべきかどうか判断することは難しい。胃癌はアジア人に多いので、そういう地域から質の高い研究が出てくることが望まれる。

続いて勝俣範之先生の講演。①検診乳癌の 31%が過剰診断という論文がある。乳癌検診により、早期癌は増えたが、進行癌は減らなかった (→見つける必要のない癌を見つけているだけでは?)。メタ解析では、2000人の検診を受けると 1人の乳癌死亡を減らし 200名に偽陽性、10人に過剰診断・治療することになる結果だった。②GRADEシステムについて、③一般に、癌検診は 50%以上の人間が受けないと死亡率は下がらない。啓蒙だけしても受診率は上がらない。日本は 10~20%, 欧米は 70~80%のものが多い。癌検診の受診率向上のためには、受診者へのリマインダー (督促状) やスモールメディア (メディアパンフレットやニュースレターなど) が効果的で、マスメディアを用いて受診率が向上するかどうかは「証拠不十分」という扱いになっている (CDC “The Community Guide” 2011)。④タバコは癌の最大の原因である。喫煙者では 60%程度寄与。非喫煙者の場合、食生活 10~30%, 肥満 10%となっている。日本人でも、タバコは最多、その次は感染 (HCV, HBV, HPV, EBV, HTLV-1) となっている。⑤一時期、健康食品として βカロチンがブームになったが、過剰摂取で逆に癌が増えることが明らかになった。⑥HPVワクチンについて。2011年のメタ・アナリシスの問題は、有効性について「浸潤がんでのデータではない」「子宮頸癌の死亡率減少まで示していない」「コスト分析がない」、安全性についての問題点は「RCTに登録・同意されたボランティアのみを対象としている」「サンプルサイズが少ない」「日本人でのデータはない」。米国 CDCによる市販後調査では、他のワクチンの有害事象率と比べて有害事象は多くないとしているが、過小評価の可能性がある。第10回厚生科学審議会・ワクチン分科会副反応検討部会の資料の結論は、「ワクチンとの因果関係は否定できない」「国民に適切な情報提供ができるまでの間、定期接種を積極的に勧奨すべきではない」、問題点は「過剰評価の可能性」「詳細な解析結果が明らかにされていない」。⑦まとめ:国内の診療ガイドラインの質を評価できるようにしましょう。USPSTF Recommendationを参照しましょう。

ガイドラインを金科玉条のようにしている人をたまに見かけますが、ガイドラインの質を評価するというのは、重要なことなんだなぁ・・・と痛感しました。

13:15~14:45 第3会場  Medical Eponyms for Clinician (清田雅智)

・人名を医学用語につけることについての議論 Medical eponyms: taxonomies, natural history, and the evidence.

・Ramsay-Hunt症候群: James Ramsay Hunt (1874-1937) は何故一人の人間なのに Ramsay-Huntと書くのか→Huntは父が亡くなり苦学した。母のことを想い、Ramsayという母の名前を入れたのではないか。現在では、Hunt症候群と呼ぶ人もいる。

・Ramsay-Hunt症候群は鼓索神経、アブミ骨筋神経、大錐体神経領域を侵す。Ramsay-Huntの報告は J Nerve Ment Dis 1907;34:73-96で、56の文献と 4の自験例をまとめている。

・Sir Henry Head (1861-1940):Dermatomeは herpes zosterの患者から導き出された。Head H, Campell W. Brain 1900;23(3):353-523

・Geniculate Ganglion (膝神経節) の VZVには 3つのグループがある。これは Zosterの前著に書いてある。1. Herpes Zoster auricularis, 2. Herpes Zoster in any of the zoster zone of cephalic extremity with facial palsy, 3. Heroes Zoster of the cephalic extremity with facial palsy and auditory symptoms

・Ramsay-Hunt症候群の 60例中 19例に auditory symptomがある=VIIIもやられている。Hunt 1915;38:418-46

・耳の裏の Zoster→ここも geniculate zoneである

・1909年 Zosterの痛みに顔面神経の中間神経を切断すると疼痛が改善する→感覚枝の存在。耳には、X (ABVN), C2-3 (GAN), V3 (ATN) の感覚神経が分布する。

JNNPの総説によると、皮疹が顔面麻痺に遅れて出現することがある。2.9%では IX, Xの症状がみられる。

・Tolosa-Hunt症候群は Tolosa E (J Neurol Neurosurg Psychiatry 1954;17:300-2) と Hunt WE (Neurology 1961;11:56-62) がそれぞれ報告したものである。

・Tolosaの原著は、cartoid siophon部の肉芽腫性血管炎で、V1領域の疼痛、III (時に IV, V, VI) の進行性麻痺であった→intercranial GCA説あり

・Huntの原著は、Retroobital pain+ophthalmoplagiaであり、ophthalmoplegic migraineだった可能性がある。

・Sir Jonathan Hutchinson (1828-1913) は Pagetの弟子だった。

・Hutchinson’s nailは subungual melanomaのサイン (BMJ 1886;1:491)

・Hutchinson’s signは V1→眼神経→鼻毛様体神経領域の VZVでみられる。診断制度としては RR 3.35~4.02という Arch Clin Exp Ophthalmol 2003;241:187-91

・Herpes Zoster Ophthalmicusについて Arch Ophthalmol 1983;101:42-5

・播種性VZV→隔離が必要。隣接しない 2領域以上 or 3領域以上

・John Benjamin Murphy (1857-1916):Surgical Clinics of North Americaという雑誌の前身は Murphyが作った。

・Five diagnosis method of Jon B Murphy (Surgical clinics of J.B. Murphy 1912;1:459-66)

(1) First percussion of kidney:CVA tenderness→腎疾患

(2) Hanner-stroke percussion:中指を立てて第9肋骨レベルに置いてその手をたたく→急性胆嚢炎

(3) Deep-grip palpation:患者を剤にして背後に回り、術者の右手の指先を曲げて右季肋部の下から “deep grip palpitation” という手技で深呼吸→急性胆嚢炎 (後の Murphy徴候)

(4) Pian Percussion:第4指から第2指まで順番にデリケートに打診→腹水

(5) Comparative bimanual examination:両側の iliac fossaeを同時に触診し、障害のある部位に抵抗を感じる→急性虫垂炎

Does this patient have acute cholecystitis? JAMA→Murphy Sn 65%, Sp 87%, LR+2.8, LR- 0.5 そんなに診断制度は高くない。現在はエコーのプローベで圧迫して確認する sonographic murphy signがお勧め。① Sn 63%, Sp 93.6%, LR+ 2.7, LR- 0.13, ②Sn 86.3%, Sp 35%

・Ismar Isidor Boas (1858~1938):痛みの部位と疾患との対応

・Guan A, Keddie N. Lancet 1972;2:239-241:痛みの最強点について

・Collin’s sign:自分で背中を押して痛みを誘発→胆石

・Capps. Arch Intern Med 1911;8:717-33:金属のスタイレットで胸腔内を刺激してどこが痛くなるか。横隔膜の腱中心を刺激すると肩が痛くなる→放散痛?

・Clinical sign’s of pain:腹腔内を wireで刺激して痛みを感じる部位を調べる Arch Intern Med 1922;30(6):778-89

Hospitalist 「気楽に学ぼう身体所見(第4回)胆嚢」 オススメ!

・Medical Eponysmは深く学べば役立つに違いない

・Medical Eponysmを調べるのに、Whonameditというサイトがお勧め。

・(質疑応答) 咽頭の神経分布について:咽頭の神経分布には Xが関係している→心筋梗塞で痛むことも! The radiology of referred otalgia.

人の名前が語源になった医学用語についての講演。清田先生とは、ACP日本支部総会の時に、毎年一緒にお酒を飲んで医学史ネタで盛り上がるのですが、この講演には圧倒されました。

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